幼馴染み(♀)がプレイするMMORPGはどうしてか異世界に影響を与えている

坂森大我

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第一章 導かれし者

スバウメシア聖王国

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 イビルワーカーたちを一掃したあと夏美はログアウトしていた。だが、夕飯を食べてお風呂に入るや再びアルカナの世界に舞い戻っている。ただし、友人の彩葉と一緒ではなく、彼女は一人でスバウメシア聖王国へと来ていた。

 それはイベントの個人報酬を受け取るためであり、勇者選定イベントとは異なるものであった。かといってプレイヤー全員で消化するものではなく、定められた期間内であれば、どのようなタイミングでも構わない。個々にセシリィ女王と謁見するだけで報酬イベントは消化できる。

「勇者ナツ、其方の功績は素晴らしいものであった。よって私は褒美を与えようと思う。剣士である其方ならば、きっと満足してもらえるだろう」
 言ってセシリィ女王が夏美に与えたのは白銀に輝く鎧であった。
 イベント貢献度一位。それは夏美が勇者に選ばれた理由であり、立場に相応しい褒美を下賜される理由だった。彼女が勇者に選定されたことで、ネットでは大義値や勇猛値といった隠しステータスが勇者選定の重要な要因ではないかとの推論が出始めている。

「ありがとう! それでその子が生まれた女の子なの?」
 相手は女王だというのに夏美は普段通りだ。へりくだるどころか友人と会話するような感じである。

「うむ。名はロークアットだ。夫ではなく私が名付けた。良い名前であろう?」
「うん、とっても! へぇ、銀色の髪なんだぁ。ロークアットちゃん、可愛いね!」
 数日前に結婚したばかりだというのに、もう子供が生まれている。この展開の早さには小首を傾げるプレイヤーが多かったけれど、夏美は何も気にしていないようだ。

「フハハ、其方は本当に自然体だな。良かったらロークアットの教育係にならないか? もしその気があるのならスバウメシア聖王国は歓迎するぞ?」
 意外な話になった。さりとて上位プレイヤーであれば恐らく全員が同じように勧誘されているはず。なぜなら全てのプレイヤーがアクラスフィア王国から始まるという設定上、移籍はあまり活発に行われていなかったからだ。

「んんー、まあそのうちに! 今はアクラスフィア王国を出られないよ。友達がたくさんいるし」
「それなら仕方ないな。我らとしても無理矢理に引き抜くつもりはない。アクラスフィア王国とは友好的関係を続けていくつもりなのだ」
 テンプレ通りなのかセシリィ女王は必要以上に勧誘をしなかった。あっさりと諦め、微笑みを返している。

「それで大福さん、回収イベント中はずっとここにいるの?」
 女王との会話を終え、夏美は女王の傍らに立つプレイヤーへと話しかけた。
 夏美が声をかけたのはベータテストからのフレンドである【いちご大福】というプレイヤー。彼こそがセシリィ女王の好感度をマックスまで上げ、求婚させてしまった廃プレイヤーであった。

「ナッちゃんが来るかと思ってな? まあ偶々だよ。俺はイベントの中心人物だし、お礼も兼ねてできるだけいるようにはしてるんだけど」
「うへぇ、それじゃレベリングできないじゃん?」
 雑談を続ける夏美。戦闘こそがゲームである彼女にとって、生産職や要職に就くプレイヤーの楽しみ方は理解できない模様だ。

「王配となったからなぁ。内政イベントも始まるらしいし、もう最前線で戦うような無茶はしにくいかと思う。まあナッちゃんたちが困っているなら声をかけて欲しい。そのときには微力ながら助勢させてもらうよ」
 いちご大福は乾いた声で笑っている。元は戦闘系トッププレイヤーの一人であった彼であるが、要職を得た現在ではプレイスタイルを変えたらしい。

「奥さんと子供がいるんだもん。仕方ないよね。あたしもいつだって駆けつけるよ。もしガナンデルが攻め込んできたら、あたしはスバウメシアのために戦うから!」
「相変わらずだなぁ。ナッちゃんは勇者になったけど特に縛りはないの?」
 いちご大福が聞いた。役職がプレイに制限を加えることなどないと分かっていただろうに問わずにはいられない。何の変化もないのかと。

「縛りっていうか、やたらと襲われるの! まあでも全て返り討ちよ! おかげで街中でもレベリングできちゃう!」
「アハハ、街中でも襲われるんだ? 俺は城を出ると自動的にNPCの衛兵がついてくるからなぁ。野党の類いには出くわしてないよ」
「大福さんは王様みたいなもんだし! あたしはどこまでも戦うつもり。勇者として世界を救ってみせるから!」
 かつてはいちご大福も勇者を目指し、戦いに明け暮れていた。だからこそ夏美の話は寂しくも感じ、羨ましいとも思えている。

「それじゃあ、大福さん! 女王とロークアットちゃんを大切にね?」
「ありがとう。ナッちゃんが世界を救うと信じている。野党なんかに負けるな……」
 手を振って去って行く夏美をいちご大福は無言で眺めていた。ゲームの主題から少しもブレることなく突き進む夏美の姿。魅力的な話に直ぐさま飛びついた自分とはまるで違うと思う。

 もしも運命のアルカナがクリアとなるのなら、それは夏美の手によってであることを彼は願っていた。常に全力であり、いつだってゲームを楽しんでいる。ずっと見てきた彼には夏美以上に相応しい存在がいるとは思えなかった。
 彼女が世界を救う場面には必ず駆けつけよう。いちご大福は去って行く夏美の背中に人知れず決意を固めていた。
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