幼馴染み(♀)がプレイするMMORPGはどうしてか異世界に影響を与えている

坂森大我

文字の大きさ
27 / 226
第一章 導かれし者

予期せぬ女王との出会い

しおりを挟む
 洞窟の由来について聞いたあとは会話が弾み、二人は気付けばサンテクトへと到着していた。仮眠をして何か食べたいと話すと、ロークアットは彼女たちが泊まる宿へと連れて行ってくれる。

 世界樹亭という宿は王族が寝泊まりしている割に豪華さの欠片もない。ロークアットが話していたように気遣い無用というわけなのだろう。

「少し早いですけど、一緒に朝食を取りましょう」
「本当ですか!?」
 前世でどんな徳を積んだのかは分からなかったけれど、諒太は高貴且つ絶世の美女と朝食を共にできるらしい。これには無礼も考えず二つ返事で同意していた。

 既に食堂はオープンしており、諒太は個室へと通される。一応は宿も配慮しているみたいだ。早速と配膳された料理に諒太は無作法にもかぶりつく。

「美味い! 晩飯もほとんど食べていなかったんですよ!」
「ずっとオツの洞窟に?」
「強くなるために来ましたから。アクラスフィア王国のダンジョンでは物足りなくて……」
 諒太の返答にロークアットは目を丸くしている。やはり人族がオツの洞窟で戦うのが珍しいのだろうか。

「リョウ様はお強いのですね? ちなみにレベルはおいくつなのでしょう?」
「レベルは71です。俺はもっと強くならなきゃいけない」
 何度も頷くロークアット。彼女も諒太の決意を分かってくれた感じである。

「どうして強くなりたいのでしょう? もう十分お強いかと思うのですけど……」
 ロークアットのレベルを盗み見たのは黙っておくべきだ。彼女より弱いという返答なんてロークアットは望んでいないはずである。

「俺は不死王リッチを倒したい……」

 少しばかり返答を誤ったかもしれない。間違ってもそれは願望ではなく、諒太に課せられた罰であり担うべき責任でもあったからだ。
 対するロークアットは小首を傾げている。どうも彼の話が信じられなかったようだ。

「リッチは過去にナツ様によって討伐されたはずでは?」
「そうでしょうか? あの海域には魔物被害が多発していると聞いておりますけど? 強大な魔力に惹かれて魔物が集まっているとしか考えられません」
 間違いなくリッチは復活しているだろう。
 ゲーム世界の夏美が幾ら倒そうとも、魔道塔を離れた瞬間にリッチはリポップする。改変されたセイクリッド世界において、アルカナの設定は世界の理となっているはずだ。

「なら魔道塔はどうなっています? 破壊されていますか?」
 諒太は質問を変えた。夏美がプレイする世界では馬鹿なプレイヤーによって、魔道塔のボス部屋が破壊されたらしい。けれど、夏美が直接影響を与えていない事象はセイクリッド世界に反映されていないはず。

「魔道塔は当時のまま……。かつてナツ様が踏破されました頃と何も変わっていないはずです……」
 やはり諒太の予想は正しかった。影響を与えるプレイヤーは夏美と彼女のフレンドまでだろう。

「リッチは何度倒しても復活します。何しろ不死王なのですから……。また俺はリッチがドロップする不死王の霊薬を求めています。一週間以内にそれを持ち帰らなくてはなりません」
 不死王の霊薬についてはロークアットも聞き覚えがあるようだ。諒太が誰かを救おうとしているのは容易に察せられたはずである。

「アクラスフィア王国で何か問題でもあったのでしょうか?」
「別に要人が死の淵にあるわけではありません。個人的に助けたい人……。ああいや、違う。俺には絶対に救わねばならない人がいるだけです……」
 溜め息混じりに諒太が答えた。
 対するロークアットは小さく頷くと、席を立って諒太を手招きをする。まだ朝食の途中であったというのに、どうしてか諒太は彼女の寝室へと招かれていた。

 思いもよらぬ展開だ。ロークアットのフラグを無意識に立てていたのかもしれない。セイクリッド世界において、なぜか諒太は謎のモテ力を発揮している。アーシェに関する件もそうだし、お姫様の寝室へと案内されるなんて絶対に普通ではないと思う。

「母の寝室です……」
「ですよねぇ!」
 ガクリと肩を落とす諒太。割と緊張していたというのに、現実は期待と異なっている。
 そもそも出会って間もない諒太に好意を寄せるはずがないのだ。しかも諒太は彼女からしたら異人種でもあるのだし。

「セシリィ女王陛下の? 俺が入室しても構わないのですか?」
「問題ありません。今の話を女王にしてください。不死王はスバウメシアが抱える問題でもありますから……」
 言ってロークアットはノックをしてから扉を開く。応答を待たなかったのは彼女が愛娘であるからだろう。

「お母様、起きてください。急用なのです!」
 ノックをしたはずが、セシリィ女王は眠ったままだ。千百歳と聞いていたけれど、彼女はロークアットに勝るとも劣らない美貌を保っている。

「んなぁ? ローアァ……?」
「はい、わたくしです! 実は会って欲しい人がいるのです」
「誰なのよぉ……? 朝っぱらから彼氏の紹介……?」
 セシリィ女王は完全に寝ぼけ眼だ。ロークアットが指さした方を向くも、トロンとした目で諒太を眺めているだけ。
 ところが、彼女は急に目を剥いてベッドから飛び降りる。

「大福!? 貴方、蘇ったのね!?」

 なぜか諒太はいちご大福と間違えられていた。夏美からそんな話は聞いていない。もしも諒太といちご大福が似ているのなら、真っ先にその話をしているはずだ。

「お母様、違います。彼は黒髪に黒い瞳ですけれど、お父様ではありません!」
 ロークアットの指摘により、ようやくセシリィ女王も夢と現実を区別できたらしい。コホンと小さく咳払いをしてから諒太に謝罪する。

「人族の方、すまない。とても懐かしい夢を見ていたのでな。最愛なる夫が帰ってきたのかと勘違いしてしまった……」
 どうやらセシリィ女王は今もまだいちご大福を愛しているようだ。三百年近くが経過しているはずなのに、今もまだ夢に見るなんて何とも愛が深いと思う。

「俺はリョウといいます。不死王リッチについて話を聞いてもらえますか?」
 先ほど話したリッチのこと。諒太は女王に全て伝えた。間違いなくリッチは存在するのだと。塔が破壊されていないのであればリッチは復活しているはずと。

「なるほどな。それは合点がいく話だ。あの海域では魔物被害があとを絶たない。全ては不死王が復活しているからか……」
「俺はリッチを倒したい。リッチが持つ不死王の霊薬を求めているからです。だけど、レベルもスキルも足りません。だから強くなろうと考えています」
 加勢してくれとはいえなかった。諒太は自分の目標を伝えただけだ。今以上に誰かを巻き込みたくはない。

「それでリョウはオツの洞窟で戦っているわけか……」
「お母様、どうかリョウ様に協力してもらえませんか?」
 ロークアットが協力を願い出てくれる。それは願ってもない話だが、諒太としては無理に頼むつもりもない。

「ローア……。全く血は争えんな?」
「お母様の娘ですもの……」
 理解不能な遣り取りがあったあと、女王は大きく溜め息をついた。この様子ならロークアットの要求は敢えなく却下となるだろう。

「リョウといったな。ローアの頼みであれば協力させてもらおう。今は亡き夫の遺品。いちご大福のアイテムを貸してやる……」
 ところが、予想とは異なり、セシリィ女王は諒太にアイテムを貸与してくれるという。それも彼女の夫であったいちご大福の遺品を。

「もうそろそろエクシアーノへ戻ろうかと考えておったのだ。ついてくるがいい」
「お母様、もう帰ってしまうのですか!?」
 諒太への助力を願ったロークアットであったが、彼女はまだサンテクトに残りたいらしい。かといってセシリィ女王はそれを良しとせず、大きく首を振って聖都エクシアーノへ戻ると告げてしまう。

「ローア、さっさと帰り支度を始めろ。休暇は終わりだ!」
 寝起きの頃とはまるで違う。セシリィ女王はロークアットを急かした。着替えがあるだろうからと、諒太は部屋を出て待つことにする。

 女性の身支度であるから、それなりに待たされると考えていた。しかし、僅か五分足らずで部屋の扉は開かれている。

「リョウ、待たせたな。行くぞ」
 既に女王は立派なドレスに着替えられていた。ロークアットもまたドレス姿である。
 声をかけただけでセシリィ女王はツカツカと先を行く。唖然とするも諒太は彼女について行くしかなかった。

 再び大聖堂へと。司教もまた睡眠中であったようだが、女王陛下の命令には逆らえない。身なりこそ整えていたけれど、彼の髪はまだ寝起きのままである。

 即座に転移の祝詞が唱えられ、諒太たちは瞬く間に聖都エクシアーノへと転送されていく。まさか自分の足でエクシアーノに立つとは少しも考えていなかったというのに。
 諒太の世界が一段と拡がっていく……。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

処理中です...