幼馴染み(♀)がプレイするMMORPGはどうしてか異世界に影響を与えている

坂森大我

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第一章 導かれし者

死闘の末に……

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 覚悟を決めた諒太。躊躇いなくボス部屋の大扉を閉じる。
 すると何もない空間に邪気が凝縮されていく。夏美の家で見たままのシーン。割と興奮したのはここだけの話である。

「リョウ様!?」
「落ち着け。最初は火球と水弾しか撃ってこない。俺のウィンドカッターを防ぎきったのだから、それくらいは余裕があるはず。自信を持て。不動王の娘だろ?」
 ロークアットは力強く頷いた。不安げな目はなくなり、凛々しく口元を結んでいる。

 彼女が持ち堪えているうちに諒太は絶対的なダメージを与えておかねばならない。指輪を外したことによるステータスの低下が気になるけれど、元より戦うしかなかった。
 序盤は想定通りに進む。ロークアットは難なくリッチの攻撃を食い止めていた。少しもリッチの攻撃が漏れてこないのには驚くしかない。父より受け継いだスキル金剛の盾。謎の指輪によりその性能も倍化しているのかもしれない。

 ロークアットが防いでくれているうちにソニックスラッシュを連続で繰り出す。かといって手応えはない。攻撃を当てたとしてもリッチは微動だにしないのだ。

 美人エルフの壁役は眼福である。屈強な男が眼前にいるよりずっと良い。けれど、それは通常時の話。無茶をする場面において小柄な彼女には不安しか覚えなかった。
 ソニックスラッシュを使っては後退の繰り返し。かなりダメージを与えているはずだが、まだリッチは平然としている。しかし、次第に強攻撃を使うようになっていた。

「ロークアット、ポーションはいるか!?」
「まだ大丈夫です!」
 両手で大盾を構えるロークアットは自分でポーションを補給できない。熟練の壁役であれば攻撃の隙に飲むこともできるのだが、彼女にはそういった経験が不足している。
「クソッ!」
 防ぎきれない魔法が流れてくるようになっていた。諒太は攻撃のたびにダメージを受けている。息切れしているのはHPが少なくなっている証拠だった。
 ポーションを補給し少しばかり回復。手を休めることなく諒太はソニックスラッシュを放ち続ける。

 どれくらい経過しただろう。何度ソニックスラッシュで斬り付けただろう。夏美のプレイ時とは異なり、リッチはまさに不死王であった。

「滅茶苦茶つえぇ……」
 今思うと夏美とのレベル差は十以上あり、スキルの熟練度も確実に低い。しかも装備は彼女が使わなくなったものだ。それはつまりレベルも装備も夏美以下であり、諒太は夏美のようにダメージを与えられていない。

 そもそも謎の指輪による倍化効果を期待していたのだ。全パラメーターが二倍であれば倒せるはずと。しかし、謎の指輪を外した諒太は想像以上に弱かった。
 ゲームのように無理だったと投げ出せない。この世界での死は恐らく本当の死である。加えて諒太には守るべき人までいた。最後の最後になったとしても絶対に諦められない。

「ソニックスラッシュ!!」
 攻撃を仕掛け、素早く後退した直後のこと。リッチは何やら今までと異なるモーションをして詠唱を始めた。詠唱が進むにつれ禍々しく黒い渦がリッチに吸い込まれていく。

「あっ……」
 刹那に思い出した。このモーションは強大な雷撃魔法だと。リッチ最大の攻撃魔法であり、騎士団長コロンが稲妻に飲み込まれていった原因であることを。

「ロークアット! 後方に逃げろっっ!!」
 瞬時に叫ぶも彼女には届いていない。ロークアットは大盾を構えたままだ。

 諒太は素早くポーションを飲み、剣を握り直す。この呪文を繰り出すリッチの体力は残り僅かだ。だとすれば諒太は呪文が発動するよりも先にリッチを倒すだけ。自分の体力を信じて特攻するしかない。

「やるしかねぇぇっ!」
 諒太が駆け出したその瞬間、視界におびただしい数の稲妻が落ちた。諒太がスキルを使うよりも早く、リッチの呪文が発動してしまったらしい。

「ロークアットォォオオオッ!!!」

 彼女のスキル【金剛の盾】により、諒太が受けるダメージはしれていた。しかし、雷撃の中心にいるロークアットはその限りでない。
 霞む視界の向こうに仁王立ちする彼女が見える。それはまるで立ったまま息絶えた騎士団長コロンのようであった……。

「ソニックスラッシュッ!!」
 周囲には雷が残っていたけれど、諒太はリッチへ斬り掛かる。だが、まだ足りない。ならばと諒太は連続で攻撃するだけだ。リッチが死に絶えるまで斬り続けるしかない。

「早く消滅しろォォッ!」
 身体を反転させ再びスキルを使用。何度でも繰り返してやろうと思う。いち早くリッチを倒し、ロークアットの元へと彼は向かわねばならない。

「ソニックスラァァッシュ!」
 その一撃には手応えがあった。これまでとは明確に異なる。固い何かを切り裂いたかのような感覚が手に残っていた……。

 次の瞬間、リッチの身体が霧に包まれていく。
 諒太はただ息を呑む。これはボス級の魔物が息絶える演出に他ならないのだと。ようやく不死王リッチを倒したはずと……。

 脳裏に響くレベルアップの告知音を無視し、諒太は透かさずロークアットを振り返る。まだ彼女は盾を構えたままだ。微動だにせず大地に立っていた。

「おい……? ロークアット……?」

 動かなくなった彼女に騎士団長コロンの姿が重なってしまう。呼び声にも反応しない彼女。即座に諒太はロークアットの元へと駆け寄っていた。

 大盾に頭を収めるようにロークアットは下を向いたままだ。
「おい、ロークアット!?」
 嫌な予感がしてならなかったが、諒太は彼女に呼びかけた。彼女が反応してくれることを期待しつつ。こんな今もコロンが往生した瞬間の映像が脳裏に流れている……。

「……っぁ……」

 一瞬のあと、諒太の予感を否定する声が聞こえる。
 ロークアットはまだ生きていた。コロンとは異なり、あの雷撃を彼女は耐えて見せたのだ。今も大盾を構えるその姿には敬服するしかない。盾役を全うする彼女はまさに不動王の娘であった……。

 直ぐさまポーションを彼女に飲ませる。恐らくはもう動けなかったはずで、スキルすら使用できない状態に違いない。仮にもう一撃魔法を受けていたとしたら、ロークアットは助からなかったことだろう。

「リョウ様……勝てたのですね……?」
「ああ、お陰様で。君は勇敢で立派な盾だったよ……」
 安心したのか、その場にへたり込むロークアット。しばらく休んでいても構わなかったというのに、彼女はゆっくりと腕を上げて何かを指さしている。

 一方で諒太はわけも分からず、彼女が指さす方を向く。確かにリッチは討伐したはずで、ダンジョンを出ない限りはリポップしないはずなのにと。

「あっ……?」
 そこには宝箱があった。倒すことに必死だった諒太は完全に目的を忘れていたのだ。
 間違っても魔石ではない。宝箱の出現は何らかのドロップが確定しているのだから。

「お伝えしたはず……。わたくしは強運なのですよ……」
 本当に本当なのだろうかと諒太の心がざわついている。喜び勇んで開けてみると装備品だったなんてオチまで考えてしまうほどに。何しろ謎の指輪を外した諒太の幸運値は再び一桁に戻っているのだ。
 恐る恐る開いてみると、諒太の不安を余所に中には小瓶が入っていた。

「不死王の霊薬……」
 それは間違いなく諒太が求めたものだ。アーシェを救う唯一の可能性であり、どのような傷も癒す万能薬に他ならない。だが一本だけのよう。予想できる現実はロークアットが引き当てただけで、諒太はこのドロップに関与していない。生まれつき幸運といったロークアットを差し置いて、諒太の幸運値が機能するはずもなかった。

「ロークアット、しばらく休んでいてもいいぞ?」
「いいえ、目的を遂げたのですから帰りましょう。母が心配するかもしれませんし」
 言ってロークアットが立ち上がった。ポーションを飲んだとはいえ、かなり疲れていただろうに。

 二人してボス部屋をあとにし、待たせていたワイバーンに飛び乗った。
 グルリと魔道塔の回りを飛ぶ。上空から見る限りは平穏そのものだ。リッチが存在するせいで、この美しい海域が魔物被害に遭っているだなんて考えたくもない。

「ロークアット、しばらく魔道塔の回りを飛んでくれ」
 諒太は思いつきを試してみようと思う。もしも魔道塔を粉砕できたならと。

「奈落に燻る不浄なる炎よ……幾重にも重なり烈火となれ……」
 せめてもの恩返しだ。MPは満タンであるし、諒太は魔道塔を破壊するのみ。しばらくの間だけでも、この海域を魔の手から救い出そうと思う。

「インフェルノォォッ!」
 巨大な火柱が一瞬にして塔を飲み込む。以前よりも確実に威力を増した感じ。島全体を焼き尽くすかのように獄炎は轟々と燃えさかった。

 諒太が所有する最大ランクであるインフェルノにより魔道塔は無惨にも崩壊する。木っ端微塵となり、島には少しの瓦礫が残っただけだ。

「リョウ……様?」
「これはお礼だ。しばらくは海路も安全になると思う」
 きっとロークアットの疑問は諒太の返答と異なっていただろう。しかし、これでいい。インフェルノのスクロールはセイクリッド世界に一つしか存在しないのだ。幾ら説明しようとも、彼女を納得させることなどできないのだから。

 リバレーションにて戻ることも考えたが、諒太は帰路もワイバーンに乗ったままだ。ロークアットが心配であるし、美人エルフにしがみつくチャンスだって滅多にないことである。問題ごとが解決したのだから、至福ともいえる時間を満喫しようと思う。回復ポーションを飲みながら、諒太はバカンスにも似た束の間の休息を楽しむのだった。

 魔物にエンカウントすることもなく、二人は無事にエクシアーノへと帰還している。ワイバーンを下りるや、直ぐさま諒太はロークアットに頭を下げた。

「ありがとう、ロークアット。君のおかげで助かったよ」
「いえ、問題ありません。それよりこの指輪を……」
 別れを察知したのか、彼女は謎の指輪を外した。諒太にはまだそれが必要だろうと。

「それは受け取れない。いちご大福閣下が君を守ったんだ。俺が持つべきものじゃないよ」
 諒太の話にロークアットは笑みを浮かべて指輪を眺めている。急ぐ用事もなくなったのだし、いちご大福の娘である彼女こそが装備者に相応しい。

「リョウ様、またお会いできますよね?」
「ああ、もちろん。俺は目的を果たしてくるよ……」
 言って諒太はリバレーションを発動。ロークアットの目の前であったけれど気にしない。彼女は諒太が勇者であると知っているし、思慮深い彼女なら言いふらしたりはしないだろう。

 少しばかり後ろ髪を引かれながら、諒太はアーシェが待つアクラスフィア王国へと帰っていくのだった……。

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