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第二章 悪夢の果てに
過去と未来
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夏美が部屋を出て行くのを確認し、諒太はようやく話を切り出す。
「実はお伺いしたいことがあるのです。過去に勇者ナツがスバウメシア聖王国を拠点として戦っていた事実はありますか?」
突拍子もない質問にセシリィ女王は眉を顰める。
どうやら話の真意を掴みかねているようだ。かといって諒太は聞いておかねばならない。実際の歴史がどういった感じであったのかを。
「それはない。ナツ様はずっとアクラスフィア王国の所属だ。もしかして彼女はスバウメシア聖王国に移籍してくれるつもりなのか?」
セシリィ女王は諒太の質問を深読みし、そのように返した。
抱える問題はまさにそれなのだ。夏美の移籍先を諒太は考えている。
心に引っかかるのは今朝方見た夢。どうしてか夢の夏美はアルカナをやめてしまおうかと考えていた。βテストから一年近くも続けているゲームを途中で投げ出すだなんて夏美に限ってあり得ない。あるとするれば、それだけ彼女が思い悩んでいるということだ。
全てが憶測であるけれど、夢が現実になるとしたら原因は阿藤に違いない。ゲーム内だけでなく、現実でも告白したことがゲームを続けられなくなった理由であろう。
できれば夏美にはゲームを楽しんでもらいたい。だからこそ移籍先を探している。たとえ世界が改変されるとしても、諒太は夏美が楽しめる環境を探さねばならなかった。
なぜなら勇者ナツによってルイナーは封印されたという歴史が残っている。封印よりも前に夏美がプレイをやめるだなんて、それこそセイクリッド史は根底からひっくり返ってしまうはずだ。
「まあそうなるかもしれません。ただ少しだけ確認させてください……」
歴史への影響を考慮すれば聞いておくべきだ。酷い未来が予想されるのであれば移籍は容認できない。セシリィ女王の返答によって諒太は決断しようと思う。
「三百年前のこと……。もし仮に勇者ナツがスバウメシア聖王国に移籍したならば、女王陛下は侵略戦争を始めたでしょうか?」
答えがイエスならば許可できない。だが、否定されたのであれば有力な移籍先となるだろう。その場合は夏美にスバウメシア聖王国への移籍を勧めることになる。
少し考えるようなセシリィ女王。質問内容に疑問を感じながらも、彼女は返答を終えた。
「一般的に強者を手札とできたのなら、当然のこと欲が出るだろうな……」
残念ながら諒太が期待した返答ではなかった。諒太が聞きたいのは一般論じゃない。
「貴方の意見を聞いているのです。三百年前に最強の手札があったとして、貴方はガナンデル皇国に攻め入ったでしょうか?」
どうしても本心を聞き出したい。彼女がどう考えるのか。勇者を手に入れたスバウメシア聖王国がどう動いていくのかを。
「リョウ、たらればの話は興味がないのだが、お前はそれを聞きたいのか?」
「俺は貴方の真意が知りたい。決して嘘を言って欲しくない。貴方ならどうしたのかを教えてください……」
セシリィ女王は目を瞑った。この三百年を振り返っているのか、或いは適切な回答を考えているのか。しばらく目を閉じたまま彼女はピクリとも動かない。
「リョウ、私は千年を生きている。過去には幾度となく戦争を経験した。攻め入られることもあれば進攻したこともある。だから私は約束できない。スバウメシア聖王国のためだけに判断してきたのだ。その結果は立場的正義でしかなく、ドワーフや人族にとっては害悪でしかなかっただろうな……」
とても誠実な回答だと思った。正直に否定されるものとばかり考えていたのだ。絶対に攻め入らないと。神に誓うだとか大袈裟な話を……。
「じゃあ質問を変えます。この三百年に亘って人族は攻め込んできたでしょうか?」
「いや、一度もない。ルイナーが現れてから、エルフと人族は不戦協定を結んでいる。一応は三国間の全てで同じような協定があるのだが、ドワーフ共は隙あらば我らの領土を狙ってくる……」
スバウメシアとアクラスフィアが友好関係にあるのは間違いない。またガナンデルに関しても諒太の認識通りである。
「といういことはスバウメシア聖王国的に他国へ攻め込んだのは三百年以上も遡るということでしょうか?」
「まあそうなる。だが、それは結果論だ。戦争なんてものは社会情勢だけでなく、些細な事象であろうと火種となって起こり得るもの。過去と未来が同じであるとは言い切れない」
諒太はようやく理解していた。彼女たちは国の未来を背負っている。全ての国に事情があり、戦争は起きたのだと。
「どうも俺は少し考えが甘かったようです。真摯に答えて頂きありがとうございました。お陰様で考えが纏まったように思います」
「嘘偽りない話だ。その上でナツ様がスバウメシアを選んでくれたら嬉しい。しかし、長くアクラスフィアに貢献された方だ。無理強いはしない」
諒太はセシリィ女王と夏美を信じることにした。スバウメシアへの移籍を夏美に勧めようと思う。あとの判断は夏美に一任するとして……。
夏美であれば無益な戦いには参加しないだろうと思うけれど、彼女には世界の半分を手に入れようとした前科がある。成長した今であればと諒太は期待するしかない。またセシリィ女王に関しても同様だ。力を得た彼女が妙な野心を持たぬようにと望むしかできなかった。
『リョウ様、大変です! お連れの方が城下に向かわれてしまいました!』
セシリィ女王に感謝の意を伝えようというところで、ロークアットから念話が届いた。
情けないことに非常に残念な幼馴染みに関する話である。夏美は少しばかりも我慢できずに一人で城下へと行ってしまったらしい。
「セシリィ女王、悪いのですが会談はここまでです。どうやらナツが一人で城下へ行ってしまったようなのです。俺は彼女を探しに行きます……」
「いや結構。相変わらず破天荒なお人のようだ。彼女の性格は私も理解しているので気にしなくてもいい。何か問題を起こす前に彼女と合流してくれ……」
夏美は本当に信頼されていない。割と敬意を払っているようなセシリィ女王でさえも、夏美がやらかすと考えているようだ。
すみませんと謝罪をしてから諒太は部屋を飛び出した。ロークアットには問題ないと話をし、諒太は聖都エクシアーノへと走って行く……。
「実はお伺いしたいことがあるのです。過去に勇者ナツがスバウメシア聖王国を拠点として戦っていた事実はありますか?」
突拍子もない質問にセシリィ女王は眉を顰める。
どうやら話の真意を掴みかねているようだ。かといって諒太は聞いておかねばならない。実際の歴史がどういった感じであったのかを。
「それはない。ナツ様はずっとアクラスフィア王国の所属だ。もしかして彼女はスバウメシア聖王国に移籍してくれるつもりなのか?」
セシリィ女王は諒太の質問を深読みし、そのように返した。
抱える問題はまさにそれなのだ。夏美の移籍先を諒太は考えている。
心に引っかかるのは今朝方見た夢。どうしてか夢の夏美はアルカナをやめてしまおうかと考えていた。βテストから一年近くも続けているゲームを途中で投げ出すだなんて夏美に限ってあり得ない。あるとするれば、それだけ彼女が思い悩んでいるということだ。
全てが憶測であるけれど、夢が現実になるとしたら原因は阿藤に違いない。ゲーム内だけでなく、現実でも告白したことがゲームを続けられなくなった理由であろう。
できれば夏美にはゲームを楽しんでもらいたい。だからこそ移籍先を探している。たとえ世界が改変されるとしても、諒太は夏美が楽しめる環境を探さねばならなかった。
なぜなら勇者ナツによってルイナーは封印されたという歴史が残っている。封印よりも前に夏美がプレイをやめるだなんて、それこそセイクリッド史は根底からひっくり返ってしまうはずだ。
「まあそうなるかもしれません。ただ少しだけ確認させてください……」
歴史への影響を考慮すれば聞いておくべきだ。酷い未来が予想されるのであれば移籍は容認できない。セシリィ女王の返答によって諒太は決断しようと思う。
「三百年前のこと……。もし仮に勇者ナツがスバウメシア聖王国に移籍したならば、女王陛下は侵略戦争を始めたでしょうか?」
答えがイエスならば許可できない。だが、否定されたのであれば有力な移籍先となるだろう。その場合は夏美にスバウメシア聖王国への移籍を勧めることになる。
少し考えるようなセシリィ女王。質問内容に疑問を感じながらも、彼女は返答を終えた。
「一般的に強者を手札とできたのなら、当然のこと欲が出るだろうな……」
残念ながら諒太が期待した返答ではなかった。諒太が聞きたいのは一般論じゃない。
「貴方の意見を聞いているのです。三百年前に最強の手札があったとして、貴方はガナンデル皇国に攻め入ったでしょうか?」
どうしても本心を聞き出したい。彼女がどう考えるのか。勇者を手に入れたスバウメシア聖王国がどう動いていくのかを。
「リョウ、たらればの話は興味がないのだが、お前はそれを聞きたいのか?」
「俺は貴方の真意が知りたい。決して嘘を言って欲しくない。貴方ならどうしたのかを教えてください……」
セシリィ女王は目を瞑った。この三百年を振り返っているのか、或いは適切な回答を考えているのか。しばらく目を閉じたまま彼女はピクリとも動かない。
「リョウ、私は千年を生きている。過去には幾度となく戦争を経験した。攻め入られることもあれば進攻したこともある。だから私は約束できない。スバウメシア聖王国のためだけに判断してきたのだ。その結果は立場的正義でしかなく、ドワーフや人族にとっては害悪でしかなかっただろうな……」
とても誠実な回答だと思った。正直に否定されるものとばかり考えていたのだ。絶対に攻め入らないと。神に誓うだとか大袈裟な話を……。
「じゃあ質問を変えます。この三百年に亘って人族は攻め込んできたでしょうか?」
「いや、一度もない。ルイナーが現れてから、エルフと人族は不戦協定を結んでいる。一応は三国間の全てで同じような協定があるのだが、ドワーフ共は隙あらば我らの領土を狙ってくる……」
スバウメシアとアクラスフィアが友好関係にあるのは間違いない。またガナンデルに関しても諒太の認識通りである。
「といういことはスバウメシア聖王国的に他国へ攻め込んだのは三百年以上も遡るということでしょうか?」
「まあそうなる。だが、それは結果論だ。戦争なんてものは社会情勢だけでなく、些細な事象であろうと火種となって起こり得るもの。過去と未来が同じであるとは言い切れない」
諒太はようやく理解していた。彼女たちは国の未来を背負っている。全ての国に事情があり、戦争は起きたのだと。
「どうも俺は少し考えが甘かったようです。真摯に答えて頂きありがとうございました。お陰様で考えが纏まったように思います」
「嘘偽りない話だ。その上でナツ様がスバウメシアを選んでくれたら嬉しい。しかし、長くアクラスフィアに貢献された方だ。無理強いはしない」
諒太はセシリィ女王と夏美を信じることにした。スバウメシアへの移籍を夏美に勧めようと思う。あとの判断は夏美に一任するとして……。
夏美であれば無益な戦いには参加しないだろうと思うけれど、彼女には世界の半分を手に入れようとした前科がある。成長した今であればと諒太は期待するしかない。またセシリィ女王に関しても同様だ。力を得た彼女が妙な野心を持たぬようにと望むしかできなかった。
『リョウ様、大変です! お連れの方が城下に向かわれてしまいました!』
セシリィ女王に感謝の意を伝えようというところで、ロークアットから念話が届いた。
情けないことに非常に残念な幼馴染みに関する話である。夏美は少しばかりも我慢できずに一人で城下へと行ってしまったらしい。
「セシリィ女王、悪いのですが会談はここまでです。どうやらナツが一人で城下へ行ってしまったようなのです。俺は彼女を探しに行きます……」
「いや結構。相変わらず破天荒なお人のようだ。彼女の性格は私も理解しているので気にしなくてもいい。何か問題を起こす前に彼女と合流してくれ……」
夏美は本当に信頼されていない。割と敬意を払っているようなセシリィ女王でさえも、夏美がやらかすと考えているようだ。
すみませんと謝罪をしてから諒太は部屋を飛び出した。ロークアットには問題ないと話をし、諒太は聖都エクシアーノへと走って行く……。
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◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
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