幼馴染み(♀)がプレイするMMORPGはどうしてか異世界に影響を与えている

坂森大我

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第二章 悪夢の果てに

本気の撃ち合い

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【着信 九重夏美】

 着信通知が脳裏に鳴り響いた。予期せぬ着信に気を取られ、あろうことか諒太はスキルの発動をし損なう。結果として諒太は無数のエアバレットを全てその身に受けてしまった。
 意識こそ保てたものの、やはりBランク魔法である。軽度とはいえないダメージがあった。

「くっそ……痛ぇ……」
 被弾したのは十数発。ドワーフの奇面と王者の盾がなければ無事ではなかったかもしれない。
「流石は勇者を名乗るだけはありますね。まさか今の攻撃をスキルも使用せずに耐えられるだなんて……。正直に驚きました」
 とりあえず夏美のコールは無視することにした。少しばかり集中して戦わなければ、ロークアットは圧倒できそうにない。

『リョウ様、盾スキルをお持ちとのことで全力で撃ちましたが、スキルなしで受け止めるなんてどういうことです!?』
 打ち合わせと異なる行動を咎められてしまう。けれど、諒太だって好きで食らったわけではない。残念な幼馴染みのコールに気が散ってしまっただけだ。

『演出だよ。俺の盾は特別製だし、魔法耐性をかなり上げているからな……』
『しかし、今後はお願いしますよ!? わたくしに本気を出せというのであれば……』
 問題ないと返事をする。今も激しく脳裏に響くコールを無視しながら。

「大精霊よ我が要求に応えたまえ……。世界に満ちし風の力を与えん……」
 ロークアットが詠唱を始めた。無詠唱でないということはBランク以上。それは間違いなくAランク魔法である。
「一陣の風は刃となり、やがて全てを切り刻まん……」
 ここは金剛の盾を発動する。Aランク魔法一発であれば問題はないと思うけれど、もうダメージを受けるのはこりごりであった。

 兵たちがざわつき始めている。恐らくはロークアットが持つ最上位呪文であるからだ。エルフ族としてもAランク魔法は最強の呪文に違いない。

「エターナルブレス!!」
 金色に光る風塵が現れていた。加えて先ほどと変わらず無数のエアバレットまでロークアットは並列詠唱している。
「マジか!?」
 一撃必殺のコンボを繰り出すとか、ロークアットは本気なのだろう。
 大軍を率いているだけはある。彼女だけでアクラスフィア兵を全滅させられるかもしれない。

「殺す気満々じゃねぇのかっ!?」
 全力で防御に専念する。これを耐えねば先はない。諒太が望む和平などあり得なかった。
「耐えろォォッ! 金剛の盾!」
 身体を切り裂くような無数の烈風が諒太を襲う。まるで竜巻が直撃したかのような衝撃だ。しかし、全てを受け止めている。金剛の盾を使用していたけれど、Aランク魔法一発に加えてBランク魔法を十発以上も浴びたのだ。やはり無傷でとはならなかった。

「やべぇ……」
 気付けば息切れをしている。感覚的にかなり削られたと思う。先ほどのダメージに加えて今回のAランク魔法。謎の指輪による効果は彼女の魔法威力を大幅に強化しているはずだ。
 本気を出せと言ったのは諒太であるけれど、まさか息切れするほど削られてしまうなんて完全に想定外である。

 視界が回復したあと、まだ両足で立つ諒太に兵たちは困惑していた。あれ程の攻撃を一身に浴びた彼が生存しているなんて誰も思わなかったに違いない。

『ロークアット、ちゃんと防御しろよ? 俺も攻撃する……』
『承知しました……』
 ゲーマーとしての血が騒ぐ。一方的に攻め立てられるだけだなんて諒太には無理だ。謎の指輪による効果は絶大であると分かったし、反撃に転じたとしてロークアットであれば問題はないだろうと。

 無詠唱にて魔法を唱える。火、水、風と三種類の初級魔法をロークアットの二倍は生み出していた。
「いけぇぇっ!!」
 初級魔法ではあったが、スイッチの入った諒太は手加減無用で撃っている。彼女がリッチの上級魔法を堪えられると分かっていたけれど、それでも容赦ないほどの数を撃ち放っていた。

 粉塵が消え去るまでしばらくの時間を要している。だが、それは次第に晴れ、盾を構えるロークアットの姿が徐々に浮かび上がっていた。
「こんなものですか? リョウ……」
 強気に返していたけれど、ダメージは少なくなかったはず。けれど、ロークアットはシナリオ通り諒太に対して敵対したままだ。

『ロークアット、大丈夫か?』
 直ぐさま念話を送る。もしも駄目だと返されたのなら方針を変更しなければならない。
『大丈夫です。同じ程度であればあと三回は防げるかと……』
 心強い返答だった。だとしたら諒太は次の攻撃を一層派手なものとし、傍観者たちに実力を示さねばならない。次の一撃でロークアットを屈服させられるようにと。

「流石だな! ならば次の攻撃を受けるがいい!」
 諒太はB級魔法であるファイアーストームとエアブラストを多重詠唱する。もちろん無詠唱であり、中級魔法が並列詠唱される様子は見るものに畏怖の念を与えたことだろう。

 空中に生み出される炎と風。無数に生み出されたそれは全てが激しく渦を巻き、放たれるときを待っていた。
 威力は間違いないだろうが、ロークアットの攻撃と比べると派手さがない。どうせならAランク魔法も覚えておくべきだった。視覚的な威圧感があれば、この攻撃はどよめきを誘っただろうに。

「とくと見るがいい! いくぞ!!」
 ファイアーストームとエアブラストの連続攻撃が容赦なくロークアットへと着弾する。
 刹那にロークアットの絶叫が周囲に木霊した。流石にやり過ぎた感がある。あと三回は耐えられるとの話を鵜呑みにするべきではなかったのかもしれない。

 視界が回復したそこには大盾を構えるロークアットの姿。肩で息をしていたけれど、彼女はまだ健在である。
『ロークアット、これで兵は納得したんじゃないか?』
 既にロークアットは大ダメージを受けている。よって兵は皆が諒太の強さを理解したはず。これ以上に彼女を痛めつけるのは流石に可哀相だと思った。

『ダメです。勇者であると認めさせるには神に匹敵する力を誇示しなければなりません。計画通りに最大級の魔法を撃ち込んでください』
 ところが、ロークアット本人から拒否されてしまう。どうあってもSランク魔法を使用しなければならないと彼女は言う。

 諒太は決断を迫られていた。確かにロークアットが話す通りではある。ちまちまとやり合ったとしてロークアットが傷つくだけ。それならばSランク魔法の一撃で終わらせた方がずっといい。

『詠唱の間に回復しておけ。必ずや兵たちに認めさせてやる。神をも超える力を見せてやるよ。ロークアット、どうか持ち堪えてくれ……』
『了解しました。元より覚悟の上。絶対に耐えて見せます。わたくしにはお父様の形見がありますから……』

 ロークアットの返答に諒太は頷いていた。いちご大福の指輪だけでなく、彼女の胸に手渡した精霊石が揺れているのを見たからだ。ネックレスとした精霊石を身につけているのなら、躊躇う必要はもうないのだと。

 元よりロークアットは何を言っても聞かないだろう。彼女は信念を簡単に曲げる人ではない。信じる道をひたすら真っ直ぐに歩む人だ。
『頼むぞ、ロークアット……』
『任せてください。必ずや生き残ります……』
 ロークアットの決意を聞いた諒太は静かに目を瞑る。

 無茶を言い始めたのは他の誰でもなく自分自身。ならばロークアットの覚悟に首を振るなんてできない。和平は諒太の一存であって、本来なら彼女が苦痛を覚える必要はなかったのだ。

「やるじゃないか、スバウメシア聖王国の姫君……。しかし、俺はまだ如何ほども力を出していない」
 勇者ロープレを続ける。次が本当の最後だ。せめて標的をロークアットからずらしてディバインパニッシャーを撃ち込む。注ぎ込む魔力を最小限に抑え、必ずや彼女を生かす。諒太は絶対にロークアットを殺したりしない。

「天に満ちし闇は神の怒り。茫漠たる雷雲を呼び寄せるものなり。天と地を引き裂く神の刃と化す」
 見せしめには最適だろう。ディバインパニッシャーならば締めくくりに相応しい。神の裁きである雷であれば、全ての兵が諒太を勇者と認めるはず。暗雲を呼び寄せ天地を切り裂く稲妻を撃ち放ったならば、神に匹敵する力があると認めざるを得ないだろう。

「赫々たる天刃よ大地を貫け。存在の全てを天へと還す光。万物を霧消せし灼熱を纏う」
 誰も言葉を発しない。それはそのはず一人として知らないのだ。諒太が詠唱するSランク魔法なるものを。このスクロールはまだ過去にすら存在していないのだから。

「神の裁きは虚空を生み出す。神雷よ降り注げ……」
 内心は恐ろしかった。魔物であればまだしも、諒太はロークアットに最大級の魔法を撃ち放とうとしているのだ。

 誰かを救い出すために、誰かを犠牲にするなど諒太は望んでいなかった……。
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