94 / 226
第二章 悪夢の果てに
共闘
しおりを挟む
「リョウちん君、お昼ぶり! その鎧ってナツに貸してもらったんだ?」
「お前はゲームだとチャットと変わらないのな? このゲームはかなりリアルだけど……」
「ゲームはリアルと違うからね! てかリョウちん君、つよっ!」
やはりステータスを確認されてしまう。恐らくレベルだけでなくステータスも見られてしまったはずだ。
「えっ? 勇者……?」
恐れていた展開となる。勇者は他のサーバーにも現れているが、各サーバーに一人だけだ。それぞれが有名人であり、諒太はその中に名を連ねていない。
「イロハ、俺は少々悪いプレイヤーなんだ。内密にしてくれ……」
「はぁぁ、マジっすか? リョウちん君、見た目と違って大胆だね? まあそのステなら納得だけどさ。でも幸運値を削って合計値を下げても、やっぱ目立つよ? もう少し落とした方がいいんじゃない?」
「不幸は元からだ……。それにステは操作していない」
失礼なやつだと思う。ステ盛りした分を幸運値で調整してるみたいに諒太は言われてしまった。
「まあいいや、それでどこよ? ミミズ亜種は……」
「窓から外を見てみろ。というかイロハは盾を使えないか? 正直に殴り殺すのはリスクが高い。最後にある猛突進は前衛職殺しだからな……」
彩葉にグレートサンドワーム亜種の攻略法を伝えていく。
夏美とは違って彼女は物わかりが良い。後半は前衛から離れるという約束をして諒太は参戦を許可している。
「リョウちん君は倒したことあるんだ。てかナツの盾はミミズ君の素材?」
「これはリョウちんに借りたの! すっごい強いよこれ。おかげで金剛の盾を習得できたよ!」
「いいなぁ……。リョウちん君、私には貢いでくれんのかい?」
チラリと諒太を見る彩葉。既にミノタウロスの石ころはないし、諒太はドロップ運が最低値である。廃人プレイヤーであるイロハが喜ぶものなんて諒太は持っていない。
「あ、石ころ……」
そういえばまだ石ころがあった。エンシェントドラゴンから剥ぎ取った石ころ。未鑑定アイテムだが、彩葉なら使い道を知っているかもしれない。
「おお、ミノタウロスの石ころとはリョウちん君は気前が良い! ……ってコレはミノころと違うね? ちょっと鑑定してみっか!」
言って彩葉は【石ころ???】を鑑定し始めた。脳筋戦士であるはずなのに、鑑定スキルを持っているなんて意外である。
「すげぇな……。鑑定眼持ちかよ?」
「イロハちゃんは罠を外したりもできるの。隠しステの器用さが高いみたい!」
謎の石ころがどういったものかは不明だ。しかし、エンシェントドラゴンから剥ぎ取ったのだから低レアではないと思う。
「ねぇナツ、エンシェントドラゴンって剥ぎ取りできたっけ……?」
なぜかイロハは眉根を寄せながら夏美の方を向く。鑑定の結果から石ころがエンシェントドラゴンからの剥ぎ取り素材であると分かったはずなのに。
「あたしはなかったけど……」
眉根を寄せる展開である。剥ぎ取り可能な魔物である場合は誰であっても剥ぎ取りできるものと諒太は考えていたのだが。
「いや、普通にできたぞ? 裂けたところから取り出したんだ。それでその石ころは何だったんだ?」
「それは竜魂というアイテムみたい。ほらスライムの粘魂とかあるじゃん? 恐らく抽選に当選したから、剥ぎ取りできたんだろうね」
あるじゃんといわれても諒太は粘魂なんて知らない。定番のアイテムだとしても、この他に魂がつくアイテムなど剥ぎ取ったことはなかった。
「まあ合成アイテムだよ。粘魂だとスライム系に強くなったり耐性ができたり。だからこれは竜種に影響を与えるのだろうね」
「おお、じゃあルイナーに有効じゃん! あれも一応は竜種でしょ?」
ひょっとすると諒太はゲームクリアに有効なアイテムを手に入れてしまったのかもしれない。ノリで渡してしまったのは流石に失敗だったような気がしてしまう。
「これは受け取れないや。って君は出張だったね? 始めから私は持ち帰れないし、これは返しとくよ。竜種自体があんまりいないけど、今後は色々と出てくるんじゃないかな。きっとこれはあとで価値が上がるやつ!」
そういえば諒太は出張データとしてプレイしている体で彩葉の前にいるのだ。実際のところは出張データをダウンロードしていないし、そもそもダウンロードできるのかも分からない。
「何も渡せずに悪いな。鑑定までしてもらって……」
「いいのいいの! リョウちん君、メインイベントはこれからだよ! とっておきの魔物を引いてくれてあんがとね!」
言って彩葉が指さす。彼女は謝礼よりも窓の外に見える巨大な黒ミミズと早く戯れたいようだ。
「じゃあ、そろそろ再開する? リョウちん、早くパーティー承認して!」
「ナツ、もう一度確認だが、金剛の盾は使用タイミングによって効果が異なるんだぞ? 真っ白になる瞬間に攻撃を受けなければ効果は薄いと考えろ。輝きが黄色に近ければタイミングが早い。逆に輝きが赤ければタイミングが遅いということ。効果時間は変わらないけれど、初撃の防御タイミングによって防御率が変わってしまう。スキルの効果を最大限に活かせないんだ」
「もう分かったって! ちゃんと見て発動するから!」
どうにも信用ならないが、タイミングは全ての動作で重要な要素である。剣撃や魔法攻撃にもカウンター判定があるのだ。適切に行動すれば通常以上の効果が得られることは夏美も知っていることだろう。
「じゃあ、俺はここにある盾を借りるぞ?」
「いいけど、大した盾じゃないよ? 盾は集めたことないし」
ないよりはマシだろうと乱雑に置かれた盾を手にした。確かに防御力は低いし、何の効果もない。かといって騎士団支給の盾よりは防御力があった。金剛の盾を習得したのだし、諒太は危機に備えておくべきだ。
「絶対に倒そう! 皆の衆、突撃ぃぃ!」
夏美の号令で三人は倉庫を飛び出す。待ち構えるグレートサンドワーム亜種に向かって走り出している。
「でっか! 先制いただき!」
聖騎士イロハが先手を取った。彼女の装備は素早さと器用さを生かす細剣であるのだが、片手で扱えるはずなのに盾は装備していない。夏美同様、盾のマイナス効果を嫌っているようだ。
「あたしも行くよ!」
続いて夏美の攻撃。ソニックスラッシュを華麗に繰り出している。残るは諒太となるのだが、Sランク魔法は使えないし、Bランク魔法を撃つしかない。
「ファイヤーストーム!」
一応は撃てるだけを放つ。しかし、Aランクスキルを繰り出した二人と比べれば派手さがなく、どうしても見劣りしてしまう。
「リョウちん君はAランク魔法を持ってないの?」
「持ってねぇんだよ。どこで取れんだ?」
「基本的にイベントかドロップだね。頑張りたまえ!」
どちらも期待できない方法であった。セイクリッド世界にイベントなど存在しないし、ドロップは諒太が最も不得手とすることだ。夏美やロークアットを連れ出して、おこぼれに預かるくらいしか手がない。
「めちゃ硬いな! 黒ミミズ君!」
突進を警戒しつつ前衛の二人はグレートサンドワーム亜種をタコ殴りにしている。しかし、まるで手応えがない。Sランク魔法を封印したこの度の戦いは純粋な力比べとなっていた。
かれこれ一時間は戦っていただろう。だが、今もまだ砂塵と突進を繰り出すだけであり、中盤以降となる石つぶてすら使ってこない。
「何なのこれ!?」
流石に彩葉も疲れたらしい。ディバインパニッシャーを二回必要としたグレートサンドワーム亜種。底知れぬ体力が設定されている模様だ。また実装前であったからか、グレートサンドワーム亜種には雷耐性が設定されていない。今思えばディバインパニッシャーは一撃でかなりのダメージを叩きだしていたのだろう。
「お前らSランク剣技とか使えよ! メテオバスターとか超強力なんだろ!?」
「あるけど撃てないよ! めっちゃ体力を消耗するから! 使用後の硬直も長いし!」
基本的に魔道士である諒太。延々と続く持久戦の意味をようやく理解した。Aランク剣技しか繰り出さないのはそういう理由だ。魔法が魔力を消費するのに対し、剣技は体力を消費する。加えて威力に比例した長い硬直時間があるらしい。
廃人プレイヤーである二人は始めから適切なプレイをしていたのだ。無理矢理にSランク剣技を繰り出して、死に戻るといった下手な真似はしない。
「石つぶてきたよ! 確実にダメージを与えてる!」
夏美が彩葉を鼓舞する。とはいえまだ折り返しだ。あと一時間も殴り続けるとか苦行でしかない。
それでも三人は攻撃を続けた。今のところ範囲攻撃以外は問題ない。夏美が最前線に陣取っているため、彩葉への攻撃は範囲攻撃のみ。加えて彩葉はモーションを見切った上で上手く回避していた。
「エアブラスト!!」
何度魔法を撃ち、何回ポーションを飲んだことだろう。終わりの見えぬ戦いに諒太も割と疲れていた。
石つぶてを使い出してから三十分あまり。そろそろ彩葉には戦線離脱してもらわねばならない。
「おいイロハ、もう後ろへ行け!」
「ええ!? もうちょっといいじゃん!?」
廃人プレイヤーらしい返答に諒太は呆れている。かといって彩葉の本番は明日だ。こんなところで死に戻りさせるわけにはならなかった。
「ダメだ! タゲられたら終わりだぞ!? それに……」
彩葉を説得しようとしたその瞬間、グレートサンドワーム亜種が咆吼する。突如として猛烈な砂塵を巻き上げ始めた。
「マズい!!」
それは記憶にあるパターンであった。ディバインパニッシャーで葬ったかと思えば確かにグレートサンドワーム亜種は咆吼していた。また強烈な砂塵を巻き上げていたのも覚えている。
三人はダメージを与えすぎていた。グレートサンドワーム亜種が最後の大技【猛突進】を使うまでに体力を削りすぎていたのだ。
即座に猛突進が始まる。気が触れたかのように激しく頭部を振りながら、グレートサンドワーム亜種は巨体をうねらせ突っ込んできた。
「ふんぬぅぅ!」
最前線にいた夏美は金剛の盾により何とか耐えている。しかし、イロハは盾もなければ防御スキルも持っていない。
完全に失態であった。本番を前にして聖騎士イロハが失われるなどあってはならぬこと。
かといって勇者である夏美でさえ一撃で削り取られる攻撃を、聖騎士のイロハが持ち堪えられるはずもなかった……。
「お前はゲームだとチャットと変わらないのな? このゲームはかなりリアルだけど……」
「ゲームはリアルと違うからね! てかリョウちん君、つよっ!」
やはりステータスを確認されてしまう。恐らくレベルだけでなくステータスも見られてしまったはずだ。
「えっ? 勇者……?」
恐れていた展開となる。勇者は他のサーバーにも現れているが、各サーバーに一人だけだ。それぞれが有名人であり、諒太はその中に名を連ねていない。
「イロハ、俺は少々悪いプレイヤーなんだ。内密にしてくれ……」
「はぁぁ、マジっすか? リョウちん君、見た目と違って大胆だね? まあそのステなら納得だけどさ。でも幸運値を削って合計値を下げても、やっぱ目立つよ? もう少し落とした方がいいんじゃない?」
「不幸は元からだ……。それにステは操作していない」
失礼なやつだと思う。ステ盛りした分を幸運値で調整してるみたいに諒太は言われてしまった。
「まあいいや、それでどこよ? ミミズ亜種は……」
「窓から外を見てみろ。というかイロハは盾を使えないか? 正直に殴り殺すのはリスクが高い。最後にある猛突進は前衛職殺しだからな……」
彩葉にグレートサンドワーム亜種の攻略法を伝えていく。
夏美とは違って彼女は物わかりが良い。後半は前衛から離れるという約束をして諒太は参戦を許可している。
「リョウちん君は倒したことあるんだ。てかナツの盾はミミズ君の素材?」
「これはリョウちんに借りたの! すっごい強いよこれ。おかげで金剛の盾を習得できたよ!」
「いいなぁ……。リョウちん君、私には貢いでくれんのかい?」
チラリと諒太を見る彩葉。既にミノタウロスの石ころはないし、諒太はドロップ運が最低値である。廃人プレイヤーであるイロハが喜ぶものなんて諒太は持っていない。
「あ、石ころ……」
そういえばまだ石ころがあった。エンシェントドラゴンから剥ぎ取った石ころ。未鑑定アイテムだが、彩葉なら使い道を知っているかもしれない。
「おお、ミノタウロスの石ころとはリョウちん君は気前が良い! ……ってコレはミノころと違うね? ちょっと鑑定してみっか!」
言って彩葉は【石ころ???】を鑑定し始めた。脳筋戦士であるはずなのに、鑑定スキルを持っているなんて意外である。
「すげぇな……。鑑定眼持ちかよ?」
「イロハちゃんは罠を外したりもできるの。隠しステの器用さが高いみたい!」
謎の石ころがどういったものかは不明だ。しかし、エンシェントドラゴンから剥ぎ取ったのだから低レアではないと思う。
「ねぇナツ、エンシェントドラゴンって剥ぎ取りできたっけ……?」
なぜかイロハは眉根を寄せながら夏美の方を向く。鑑定の結果から石ころがエンシェントドラゴンからの剥ぎ取り素材であると分かったはずなのに。
「あたしはなかったけど……」
眉根を寄せる展開である。剥ぎ取り可能な魔物である場合は誰であっても剥ぎ取りできるものと諒太は考えていたのだが。
「いや、普通にできたぞ? 裂けたところから取り出したんだ。それでその石ころは何だったんだ?」
「それは竜魂というアイテムみたい。ほらスライムの粘魂とかあるじゃん? 恐らく抽選に当選したから、剥ぎ取りできたんだろうね」
あるじゃんといわれても諒太は粘魂なんて知らない。定番のアイテムだとしても、この他に魂がつくアイテムなど剥ぎ取ったことはなかった。
「まあ合成アイテムだよ。粘魂だとスライム系に強くなったり耐性ができたり。だからこれは竜種に影響を与えるのだろうね」
「おお、じゃあルイナーに有効じゃん! あれも一応は竜種でしょ?」
ひょっとすると諒太はゲームクリアに有効なアイテムを手に入れてしまったのかもしれない。ノリで渡してしまったのは流石に失敗だったような気がしてしまう。
「これは受け取れないや。って君は出張だったね? 始めから私は持ち帰れないし、これは返しとくよ。竜種自体があんまりいないけど、今後は色々と出てくるんじゃないかな。きっとこれはあとで価値が上がるやつ!」
そういえば諒太は出張データとしてプレイしている体で彩葉の前にいるのだ。実際のところは出張データをダウンロードしていないし、そもそもダウンロードできるのかも分からない。
「何も渡せずに悪いな。鑑定までしてもらって……」
「いいのいいの! リョウちん君、メインイベントはこれからだよ! とっておきの魔物を引いてくれてあんがとね!」
言って彩葉が指さす。彼女は謝礼よりも窓の外に見える巨大な黒ミミズと早く戯れたいようだ。
「じゃあ、そろそろ再開する? リョウちん、早くパーティー承認して!」
「ナツ、もう一度確認だが、金剛の盾は使用タイミングによって効果が異なるんだぞ? 真っ白になる瞬間に攻撃を受けなければ効果は薄いと考えろ。輝きが黄色に近ければタイミングが早い。逆に輝きが赤ければタイミングが遅いということ。効果時間は変わらないけれど、初撃の防御タイミングによって防御率が変わってしまう。スキルの効果を最大限に活かせないんだ」
「もう分かったって! ちゃんと見て発動するから!」
どうにも信用ならないが、タイミングは全ての動作で重要な要素である。剣撃や魔法攻撃にもカウンター判定があるのだ。適切に行動すれば通常以上の効果が得られることは夏美も知っていることだろう。
「じゃあ、俺はここにある盾を借りるぞ?」
「いいけど、大した盾じゃないよ? 盾は集めたことないし」
ないよりはマシだろうと乱雑に置かれた盾を手にした。確かに防御力は低いし、何の効果もない。かといって騎士団支給の盾よりは防御力があった。金剛の盾を習得したのだし、諒太は危機に備えておくべきだ。
「絶対に倒そう! 皆の衆、突撃ぃぃ!」
夏美の号令で三人は倉庫を飛び出す。待ち構えるグレートサンドワーム亜種に向かって走り出している。
「でっか! 先制いただき!」
聖騎士イロハが先手を取った。彼女の装備は素早さと器用さを生かす細剣であるのだが、片手で扱えるはずなのに盾は装備していない。夏美同様、盾のマイナス効果を嫌っているようだ。
「あたしも行くよ!」
続いて夏美の攻撃。ソニックスラッシュを華麗に繰り出している。残るは諒太となるのだが、Sランク魔法は使えないし、Bランク魔法を撃つしかない。
「ファイヤーストーム!」
一応は撃てるだけを放つ。しかし、Aランクスキルを繰り出した二人と比べれば派手さがなく、どうしても見劣りしてしまう。
「リョウちん君はAランク魔法を持ってないの?」
「持ってねぇんだよ。どこで取れんだ?」
「基本的にイベントかドロップだね。頑張りたまえ!」
どちらも期待できない方法であった。セイクリッド世界にイベントなど存在しないし、ドロップは諒太が最も不得手とすることだ。夏美やロークアットを連れ出して、おこぼれに預かるくらいしか手がない。
「めちゃ硬いな! 黒ミミズ君!」
突進を警戒しつつ前衛の二人はグレートサンドワーム亜種をタコ殴りにしている。しかし、まるで手応えがない。Sランク魔法を封印したこの度の戦いは純粋な力比べとなっていた。
かれこれ一時間は戦っていただろう。だが、今もまだ砂塵と突進を繰り出すだけであり、中盤以降となる石つぶてすら使ってこない。
「何なのこれ!?」
流石に彩葉も疲れたらしい。ディバインパニッシャーを二回必要としたグレートサンドワーム亜種。底知れぬ体力が設定されている模様だ。また実装前であったからか、グレートサンドワーム亜種には雷耐性が設定されていない。今思えばディバインパニッシャーは一撃でかなりのダメージを叩きだしていたのだろう。
「お前らSランク剣技とか使えよ! メテオバスターとか超強力なんだろ!?」
「あるけど撃てないよ! めっちゃ体力を消耗するから! 使用後の硬直も長いし!」
基本的に魔道士である諒太。延々と続く持久戦の意味をようやく理解した。Aランク剣技しか繰り出さないのはそういう理由だ。魔法が魔力を消費するのに対し、剣技は体力を消費する。加えて威力に比例した長い硬直時間があるらしい。
廃人プレイヤーである二人は始めから適切なプレイをしていたのだ。無理矢理にSランク剣技を繰り出して、死に戻るといった下手な真似はしない。
「石つぶてきたよ! 確実にダメージを与えてる!」
夏美が彩葉を鼓舞する。とはいえまだ折り返しだ。あと一時間も殴り続けるとか苦行でしかない。
それでも三人は攻撃を続けた。今のところ範囲攻撃以外は問題ない。夏美が最前線に陣取っているため、彩葉への攻撃は範囲攻撃のみ。加えて彩葉はモーションを見切った上で上手く回避していた。
「エアブラスト!!」
何度魔法を撃ち、何回ポーションを飲んだことだろう。終わりの見えぬ戦いに諒太も割と疲れていた。
石つぶてを使い出してから三十分あまり。そろそろ彩葉には戦線離脱してもらわねばならない。
「おいイロハ、もう後ろへ行け!」
「ええ!? もうちょっといいじゃん!?」
廃人プレイヤーらしい返答に諒太は呆れている。かといって彩葉の本番は明日だ。こんなところで死に戻りさせるわけにはならなかった。
「ダメだ! タゲられたら終わりだぞ!? それに……」
彩葉を説得しようとしたその瞬間、グレートサンドワーム亜種が咆吼する。突如として猛烈な砂塵を巻き上げ始めた。
「マズい!!」
それは記憶にあるパターンであった。ディバインパニッシャーで葬ったかと思えば確かにグレートサンドワーム亜種は咆吼していた。また強烈な砂塵を巻き上げていたのも覚えている。
三人はダメージを与えすぎていた。グレートサンドワーム亜種が最後の大技【猛突進】を使うまでに体力を削りすぎていたのだ。
即座に猛突進が始まる。気が触れたかのように激しく頭部を振りながら、グレートサンドワーム亜種は巨体をうねらせ突っ込んできた。
「ふんぬぅぅ!」
最前線にいた夏美は金剛の盾により何とか耐えている。しかし、イロハは盾もなければ防御スキルも持っていない。
完全に失態であった。本番を前にして聖騎士イロハが失われるなどあってはならぬこと。
かといって勇者である夏美でさえ一撃で削り取られる攻撃を、聖騎士のイロハが持ち堪えられるはずもなかった……。
0
あなたにおすすめの小説
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~
カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。
気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。
だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう――
――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる