幼馴染み(♀)がプレイするMMORPGはどうしてか異世界に影響を与えている

坂森大我

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第三章 希望を抱いて

訪れる危機

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 夏美は一人でドラゴンゾンビを請け負っている。既に魔力が切れた彩葉は逃げ回るだけだ。厳密にはあと一発は撃てたけれど、魔力切れの兆候が出ることを恐れて温存していた。

「逆鱗って、もうちと楽なとこにしてくんないかな!?」
 懐に潜り込んでは突き上げている。せっかく彩葉が発見した弱点だ。危険が伴ったけれど、それを狙わぬ理由はない。

 かれこれ二時間が経過している。流石に夏美も疲れ始めていた。明らかな攻撃変化はまだ見られない。よって討伐には倍以上の時間がかかると予想された。
 ドラゴンゾンビは突進の他に噛みつき攻撃を繰り出す。初期の中攻撃がそれであり、今のところは前足による払いのけや、押しつぶし、あとは尻尾による範囲攻撃を稀に使ってくるだけだ。
 従って彩葉は距離を取れば安心だと考えていた。突進をタゲられたときにだけ、全力で回避すればいいのだと。

 しかし、パターン化した夏美の攻撃が喉元に突き刺さった直後のこと。例によって一瞬怯んだドラゴンゾンビだが、次の瞬間には視認できる何かを口から吐き出していた。
 またそれは吐き出すというより、撃ったと形容すべきもの。目にも留まらぬ速さで彩葉に向かって撃ち出されてしまう。
「キャアアアアァッッ!」
 それは初めての遠距離攻撃であった。ミサイルのように吐き出されたそれは、あろうことか彩葉に直撃。恐らくは体力を半分にまで削った証しなのだが、二人が歓喜に沸くことはなかった。

「イロハちゃん!?」
 堪らず夏美が駆け寄ると、彩葉はステータス異常を起こしていたのだ。

【イロハ】*猛毒*
【聖王国聖王騎士団員・Lv74】

 絶句する夏美。猛毒は解毒薬では回復できない。司教クラスの浄化魔法でなければ解除は不可能である。当然のこと二人は神職ではないし、回復手段は不死王の霊薬か、若しくは薬師が生産する霊薬のみ。ただし、その霊薬は超レア素材が必要であり、素材を用意する手間を考えれば、不死王の霊薬をドロップさせる方が現実的だった。よって二人には猛毒を解除する手段など何もない。

 不死王の霊薬も劣化霊薬も持たぬ二人。回復手段は教会で浄化魔法を施してもらうしかなかった。ただ、二人が準備を怠ったのかというとそうではない。猛毒を放つ魔物は非常に少なく、ボスクラスが猛毒を使ったという報告は今までにないことであったからだ。

 猛毒は体力を削り続けていく。ようやく夏美たちは折り返しまで到達したというのに、彩葉が生き残るのは困難な状況となってしまう。
 今になって引退したプレイヤーの愚痴にも似た話を理解できている。彼が理不尽だと話していたのはまさに猛毒のことだったのだろうと。ソロで挑んだ彼が猛毒を治療できるはずもなく、どれほど上手く立ち回ったとしても、ポーションが尽きれば死に戻るしかなかったのだ。

「イロハちゃん、これ……」
 夏美は回復ポーション百個を彩葉に手渡した。彼女の手持ちは十個となってしまうけれど、親友が再び失われないようにと。
「ナツ、あんたはどうすんのよ!?」
「まだ十個ある。それで何とかする!」
 続けて夏美はもう一つアイテムを手渡している。それはとても小さな石ころ。輝きを放つ透明の丸い石であった。

「こんなの受け取れない! 精霊石はナツが持っときなよ!?」
 流石に首を振る彩葉。猛毒を受けたのは自身が集中力を欠いたせいなのだ。張り付いて戦う夏美にこそ精霊石が必要だった。

「やだ! それはイロハちゃんが持ってて。あたしは別に死ぬつもりなんてないし、何よりイロハちゃんが……」
 夏美が続ける。本心をそのまま彼女は口にしていた。

「もう死に戻って欲しくないの……」

 言って夏美は駆け出した。絶対に勝つんだと固く決意をして。既に疲れは吹き飛んでいた。新たな目標を掲げた夏美は勢いよくドラゴンゾンビに斬り掛かっている。

「あたしたち二人で倒すんだ!――――」
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