幼馴染み(♀)がプレイするMMORPGはどうしてか異世界に影響を与えている

坂森大我

文字の大きさ
124 / 226
第三章 希望を抱いて

過去もまた……

しおりを挟む
 諒太からの通話は夏美に笑顔を与えていた。
 今も時間がない状況であり、苦戦を強いられていたけれど、竜種特効の武器とロックブラスターならば負ける方が難しいと思う。

 ドラゴンゾンビを横目で確認しつつ、大扉の前を掘り返す。彩葉が引き付けてくれている隙に諒太からの届け物を見つけていた。
「リョウちん……」
 掘り返したそこには確かに無双の長剣と王者の盾。更にはメッセージが添えられていた。

『この装備をナツに貸してやる。必ず返せよ? だから必ず勝て!』

 一応は通話で確認済みであるが、念のため添えられた手紙。悪落ちをして勇者補正がなくなることを危惧しての配慮だが、夏美が受け取ったのはそれ以上の意味を持つ。
 どうしてか力が溢れ出していた。必ず勝てとのエールは何よりも心の支えとなる。

「よっしゃ! 夏美ちゃんの華麗なプレイを報告するからね!」
 直ぐさま無双の長剣と王者の盾を装備。彩葉は過度に驚いていたけれど、今は説明している場合ではない。
 この状況における全ての原因となったドラゴンゾンビを討伐するだけだ。

「やっつける!」
 彩葉のポーションがなくなる前に倒さねばならない。既にドラゴンゾンビの体力は半分を切っているはず。無双の長剣は元々の効果が物理攻撃1.5倍である。それに竜種特効が二倍も乗るのだ。弱点である火属性攻撃は付与されていないが、物理だけでも十分な威力であった。

 最初の一撃は見事に逆鱗の位置を捕らえている。斬った感触は悪くない。またこれまでとは異なり、大袈裟に反応しているところも効果を実感させていた。
「パワースティング!」
 ドラゴンゾンビが怯んだ瞬間を見逃さない。夏美は威力のあるスキルを繰り出している。狙い通りに首元を突き刺していた。

「カウンター入った!」
 その攻撃はカウンター判定となり、ドラゴンゾンビは更なる怯みを見せた。こうなると怒涛の攻めが始まる。スキルの硬化が治まるや、夏美は再びパワースティングを浴びせている。
「いける!!」
 この一瞬でコツを掴んだ。カウンター狙いはシビアなタイミングであったけれど、このあと夏実は三度連続でヒットさせている。

「イロハちゃん、まだ大丈夫!?」
 こうなると彩葉のポーションが気になる。あとどれくらい持ちそうなのかと。
「あと十個! それよりナツ、その装備……」
 考えていたよりも消費は激しかった。だが、彩葉は自身の危機よりも、夏美が掘り出した剣と盾が気になっている。

「それはあとで! 今はさっさと倒すだけだよ! 残りが二つになったら声をかけてね!」
 帰路はリバレーションがあったけれど、念のためポーションは残しておくべきだ。夏美はその時までできるだけドラゴンゾンビにダメージを与え続けるだけ。

 夏美の猛攻が続く。最初のカウンター判定さえ入れば、彼女はそれを繋げられた。パターンも頭に入っていたし、時間さえ許されるのなら夏美の勝利は確定的である。
「早く! もっと強い攻撃を!」
 メテオバスターの使用も考えていた夏美だが、今は平静を取り戻している。自暴自棄となる場面ではなくなったのだ。諒太からのプレゼントによって精神面までもを強化できていた。

「パワースティング!!」
 ドラゴンゾンビの喉元に長剣が突き刺さる。それはいつもより確実に深く刺さっていた。
 素早く引き抜き、夏美は着地。するとドラゴンゾンビは怯むよりも激しく頭を振るのだった。
「あっ……?」
 刹那に察知する。このあと咆哮に繋がるはず。ならばドラゴンゾンビは最後の猛攻撃を繰り出すはずだと。

 即座に後退した夏美は盾を構える。それは諒太に聞いたまま。猛攻撃よりも前に決着をつける場面に他ならない。
「ロックブラスタァァァァッ!!」
 激しく地面が揺れ、果てには亀裂が走った。無数の岩石が舞い上がっては一つに固まっていく。
 このエフェクトには不安を覚えてしまうけれど、地面のひび割れは演出である。きっと技の発動後には消えているはずだ。

 眼前ではドラゴンゾンビが大きく咆哮していた。だが、夏美は先んじてスキルを実行しているのだ。従って発動が遅れるなんて少しも考えていない。
 程なく夏美の眼前には巨大な岩の塊が生み出されていた。あとはその巨岩を解き放つだけ。ドラゴンゾンビへと命中させるだけだ。

「撃ち抜けぇぇえええっ!!」
 夏美は高揚していた。再び見る威圧的な巨岩に。グレートサンドワーム亜種をも撃ち抜いた巨岩が撃ち出されていく様子に……。

 巨岩は一瞬にして着弾し、単体攻撃とは思えぬ大爆発を起こした。
 それは記憶にあるままだ。ならば結果は明らか。残り僅かな体力のドラゴンゾンビが生き残るはずもない。
 勝利を確信する夏美。粉塵が収まるのを静かに見守るだけだ。薄っすらと浮かび上がる巨大な影を見つめるだけである。

「倒した……」
 横たわる影は二つ。なぜならドラゴンゾンビは頭部と胴体が完全に分断されていたからだ。ロックブラスターによって、胸の一部分が粉砕されてしまったらしい。

 刹那にレベルアップの通知が届く。それは目視以上に勝利を確信させるものだ。
「イロハちゃん!?」
「ナツ、今のって……」
 彩葉はレベルアップよりも、先ほど見た全てが気になった。彼女は一度に13もレベルが上がったというのに。

「とりあえず治療しよう。話はそれからだよ」
「うん。全部教えて欲しい。リョウちん君の話を……」
 どうやら彩葉も気付いたらしい。明らかにおかしなことになっていること。諒太の装備をどうして夏美が手にしているのかと。

「それはそうと宝箱きたよ。流石に拾う時間くらいあるっしょ?」
「それは十分だけど……」
 困惑する彩葉を余所に夏美が宝箱を改めている。何が飛び出すのかと考えるよりも、彩葉は先ほどの光景を何度も頭の中に思い浮かべていた。

【ドラゴンスレイヤー】
【長剣】
【ATK+99】
【レアリティ】★★★★★
【竜種特効100%】

 何とハイレアリティの長剣であった。皮肉なことにドラゴンを倒してからの報酬である。
「イロハちゃん、これ……?」
「あーはいはい。ナツのでいいよ。私は何もしてないしさ」
 呆れたような顔をして彩葉がいう。そもそもドロップは一つだけだ。ドラゴンスレイヤーは夏美がドロップさせたに違いない。

 歓喜したあと、夏美は大扉の前に剣と盾を埋めている。明らかにおかしい行動であるけれど、彩葉はそれを眺めているだけだ。
 彩葉には聞きたいことが山ほどあったけれど、今は治療を急ぐとき。随分と迷惑をかけたのは明らかであったし、今もポーションが手放せない状態なのだから。

 二人は共に考え事をしながら、シャスミス大鉱山を後にしていく……。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

処理中です...