幼馴染み(♀)がプレイするMMORPGはどうしてか異世界に影響を与えている

坂森大我

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第三章 希望を抱いて

事後報告

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 諒太は夏美からの連絡を待っていた。もうかれこれ三十分は経っている。流石におかしいと思った諒太は大扉前を掘り返していた。
「あいつ……」
 そこには埋めたはずの無双の長剣と王者の盾。更には夏美のメモ書きが添えられている。

「いい加減、小魚より脳の容量をアップグレードしろよ……」
 嘆息しつつも諒太はメモを取り、内容を読んだ。

『リョウちん、サンキュー。おかげで楽勝だったよ。借りた装備は返すね。ちなみにドラゴンスレイヤーってハイレアリティ装備がドロップしたよ!』

 余計な文言まで書いてしまうのは夏美らしい。過度に苛っとした諒太だが、ドラゴンゾンビを討伐できたのなら問題はなかった。
「だから連絡しろっつーの!」
 夏美の用事は終わっただろうが、諒太にはまだ聞きたいことがある。そもそも金策に来たのであって、彼はミスリルの発掘に相応しい場所を探していたのだ。

 討伐したのならコールしても構わないだろうと、諒太は再びスナイパーメッセージを起動。直ぐさま夏美に通話していた。
『あ、リョウちん? 借りた武器は埋めといたよ!』
 立ち所に夏美が通話に出る。すっかり忘れていたのだろうと思わざるを得ない。

「連絡くらいしてこい。ずっとボス部屋で待ってたんだぞ?」
『ごめんごめん! イロハちゃんの解毒を急いでたし!』
 確かに優先順位は間違っていない。しかし、一つのことをすると、もう一方を忘れてしまう夏美には溜め息しかでなかった。

「それはまあいい。一つ教えてくれ。ミスリルを採掘したいんだが、どこで掘ればいい? まだ一つのミスリル鉱石も掘れないんだが……」
 諒太は本題に入った。とりあえず利子分の十万ナールを早く貯めないことには奴隷となってしまうからだ。

『一つも? リョウちん、幸運値は幾つ?』
 返答はどうしてか幸運値を問うものであった。こうなるとやはり幸運値がものを言う作業だと分かる。

「幸運値は9だ……」
『9!? レベル100超えで一桁はあり得ない!!』
「るせぇ。やっぱ関係してんのか? ボスドロップは割と引いてるんだが……」
『ああ、リョウちんもドラゴンスレイヤーをゲットしたんだ?』
 夏美は誤解している。諒太がドラゴンゾンビを倒し、同じようにドラゴンスレイヤーをドロップさせたのだと。

「俺の幸運値は9だぞ? 200超えのお前と一緒にすんな。ドロップは石ころだった」
『また石ころ? 未確定アイテムなの?』
「また彩葉に見てもらいたい。こっちじゃなかなかハイレアまで鑑定できる人がいなくてな……」
『了解。それで幸運値はハズレを引く度に内部的に補正が加わるんだよ。リョウちん、鉄鉱石ばかり採掘してて、かなり上乗せがあったんじゃないかな。だからボス戦でドロップさせたんだと思うよ』
 ここで思わぬ説明となった。諒太がここぞというときドロップを引き当てているのは、単に普段の彼が幸運から見放されているからだという。

「じゃあ、今の俺は?」
 だとすれば自ずと見えてくる。ドラゴンゾンビから宝箱を出現させた諒太は……。

『素の幸運値9だよ!』
「やっぱりか! じゃあミスリルを掘るのは不可能か?」
『不可能じゃないけど、金策として効率は悪いだろうね。鉄鉱石を集めつつ、幸運値補正を加えていく。そして超レア鉱石のアダマンタイトにかけるしかない!』
 ここで有益な情報を得る。アダマンタイトは金剛石。非常に固い物質であり、それがジャスミス大鉱山でも採掘可能らしい。

「アダマンタイト狙いってか?」
『狙うのは難しいよ。あたしでもアダマンタイトは三回しか採掘してないもん。もっともあたしは十回に一個はミスリルを掘れるけど……』
「自慢すんな。お前は補正がなくなっても200超えてんだろ?」
『まあね! でアダマンタイトなら、何と一つで五万ナール! アダマンタイトはどこでも同じ確率だけど、ミスリルが掘りやすいのは大扉の前だよ』
 聞けばアダマンタイトは狙って掘るような確率ではないらしい。よって夏美はミスリルの効率が良い大扉前を推奨している。

『あとさ、ミスリルは歩いてダンジョンを戻って、受付に売らなきゃ損するからね? ログアウトやリバレーションで一度外に出ちゃうと、買い取り価格は半値で一般と同じになる。受付で売ると一個千ナールだけど、一般買い取り金額は500ナールだから』
「マジで? 昼に一度ログアウトしちまった……」
『鉄鉱石しか掘ってないなら、元々ゴミだよ!』
「ゴミいうな……」
 どうしようかと思う。やはり鉄鉱石では金策に向かないようだ。かといってミスリルは未知なる鉱石。諒太はこのまま採掘するかどうかで悩んでいる。

「おいナツ、他に良い金策はないか? 俺はどうしても十万ナールを貯めなきゃいけない」
 手持ちの二万を含めると、あと八万ナールが不足している。ミスリルを鉱山価格で売ったとして一個千ナールだ。だとすれば、残りを貯めるには八十個が必要であった。

『んんー、そもそも幸運値が一桁とかあり得ないし。金策はどれも幸運値が必要だよ。ジャスミス大鉱山が今のところ一番効率が良い。あたしは一時間で二万稼げる。往復の一時間と採掘にかかる時間が一時間。二時間で二万を稼げるクエストなんてないし、他の金策は間違いなくそれ以下だよ。アダマンタイトが出やすいというダンジョンもあるんだけど、あたしは体感できなかったし、敵が強くなるからポーション代がかさんで意味ないね』
 現状で一番効率が良い金策はジャスミス大鉱山だという。確かにクエストは時間がかかるし、高難度クエストでも二千ナール程度しかもらえない。また夏美でも体感できないというアダマンタイト狙いは論外であった。

「じゃあ、ここを周回するっきゃねぇか……」
『そういうこと! 地道に周回してたら八万くらいは貯まると思うよ』
 夏美の言葉に理解する。簡単に稼げるような甘い話ではないのだと。現実世界と変わらぬ世知辛い話であるけれど、諒太は地道に稼いでいくしかないようだ。

「分かった。奴隷だけは回避すんよ……」
『頑張って! 大いなる旅路に幸あらんことを!』
 またもや決まり文句的に返されていた。ロークアットも口にしていたことから、それはセイクリッド世界でお決まりのエールなのかもしれない。

 諒太は頬を叩いて気合いを入れる。とりあえずはログアウトをし、休憩のあと再びログインするつもりだ。もう徹夜は避けられない。少しでも多くミスリルを採掘するために。

 勇者が奴隷になるなどあってはならないことなのだと……。
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