幼馴染み(♀)がプレイするMMORPGはどうしてか異世界に影響を与えている

坂森大我

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第四章 穏やかな生活の先に

サンセットヒル

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 チカの奢りにてワイバーンを手配したマヌカハニー戦闘狂旗団。サンセットヒルを探すべく飛び立っていた。

 攻略掲示板を見るも情報の一つもない。それどころか、運営への文句が並んでいるだけである。

「タルト、どうすんだ? 当てもなく飛んでるわけではないだろう?」
「攻略掲示板を見る限り、一通り探索は済んだと考えるべきだろう。丘らしき場所は探し尽くされた感じだ……」
 タルトは見解を述べる。ヒルという名称から丘という丘が調査されたはずだと。
 まだ実装されて数日であるのだが、全てのサーバーが同じような状態であるのだから、新ダンジョンは探すところから始めなくてはならないようだ。

「じゃあ、どうすんの? 丘じゃないってこと?」
「まあ、そうなる。言葉通りのダンジョンではないだろうな。恐らく名称にあるサンセットの方が重要なのだろう」
 ヒルが該当しないのであれば、残る情報はそれだけだ。運営はスバウメシア聖王国にあるとしか伝えていないのだから。

「はいはい! 名探偵イロハは分かっちゃったかも!」
 ワイバーンの速度を上げ、イロハが言った。自信満々の様子だが、彼女は何を閃いたというのだろう。

「サンセットってサンテクトに似てない!?」
「アホか。駄洒落にもなってねぇよ。やっぱJKに期待しちゃ駄目だな……」
「JKで括んな! 世の中には賢いJKもたくさんいるんだからさ!」

「大学にも行かず、朝からゲームしてる人も大概なんよ……」
「今日は休みだ! それに俺は緊急クエストを取りこぼしたことがある!」
 チカの話にアアアアは反論。緊急クエストに参加出来なかったことがあるのだと。

「あれってバイトが抜けられへんかったからやんね? 確かそんな話を聞いたんよ」
「ぐぅ……、よく覚えてんな……」
 雑談が続いていたものの、ワイバーンは西へと飛び続けている。全てはタルトが向かうままである。

「タルトさん、目的があって進んでるの?」
 夏美が聞いた。目的地があるのかどうかと。ただひたすら西へと向かうだけなのだ。目的地など教えてもらっていない。

「うむ。サンセットといえば夕暮れ。夕日が落ちるのは西。よって我らは聖王国の西端を目指しておる」
 確かにと思う夏美だが、あまり期待はできないと思う。サンセットの意味くらい自分でも分かるのだ。西側の探索なんて今更だと考えてしまう。

「勇者ナツよ、そんな顔はするな! 一応は考えておるのだ。目星をつけている場所がある……」
 どうやら闇雲に探すのではないらしい。タルトは明確な目的地があって進んでいるという。

「聖王国の北西。氷に覆われた大地があるだろう?」
「ああ、稀にレアモンスターのペン子が現れるとこだね? まさかタルトさんアイスクリーム食べたくなっちゃったの!?」
 スバウメシア聖王国の西の端。大陸の北西部には氷に覆われた大地がある。

 夏美がいうところのペン子とはそのフィールドのみに現れるペンギンのような魔物であり、交渉によってはアイスクリームをプレゼントしてくれるのだ。

「馬鹿者! アイスクリームは人生に必須! 食べたくなるとかいう軽い事象ではない!」
 どうしてか怒られる夏美。流石に頬を膨らませていた。
 一方でアアアアは視線をグルリと動かして思い出すようにしている。

「タルト、あそこには丘なんてなかっただろ? 辺り一面平らな氷だったはずだぞ?」
 本気でアイスクリームを貰おうとしている。そんな疑念がアアアアにはあった。

「うむ、確かに丘などない。しかし、暇があればアイスクリームを貰いに行く我だからこそ分かることもある。氷の大地から見える海に流氷が浮かんでいただろう?」
 そういえば荒れ狂う海に大きな氷が浮かんでいた。しかし、ワイバーンで降り立っても、何もない流氷である。レアな魔物がいるわけでも、アイテムが手に入るわけでもない。

「あの流氷には何もねぇぞ? 丘というほど大きいわけでもないし」
「アイスクリームは偉大である。次期王配に推薦したいくらいだ……」
 タルトの返答は意味不明である。今のところ彼がアイスクリームを食べたいと考えていることしか分からなかった。

「実をいうとな、あの流氷はおかしなことになる」
「おかしなこと? 俺も上陸したことがあるけど、何もなかったぞ?」
「これだから素人は困る。あの流氷には何もない! 見れば分かるだろう? あれは無味無臭の氷であり、甘さがない無能だ!」
 食ったのかよとアアアア。漏れ出すのはため息だけである。

 無意味にも思えたけれど、タルトの話が続く。
「ある日、我は急にアイスクリームが食べたくなってな。ワイバーンを借りて氷の大地へと向かった……」
「そこまでする!?」
 その話にはアイスクリームを食べる未来しか思い描けない。タルトの甘味要求に付き合っているとしか思えなかった。

「ちょうど夕暮れ時であった。沈みゆく太陽を背に我は愛人の到着を待っておったのだ」
 ペン子はレアモンスターである。従って氷の大地に来たからといって会えるわけではない。

「そのとき我は見たのだよ……」
 全員が薄い目をして聞いていたけれど、どうやら本当にタルトはアイスクリーム以外の情報を持っているようだ。ようやくとこの雑談がアイスクリームとは異なるルートに入ったのだと全員が理解している。

「あの流氷は夕陽を浴びて輝いておった……」
 だが、期待外れの話となる。別におかしなところはない。夕陽に輝く氷など、まるで普通の出来事である。
 けれども、このあと全員が知らされていた。明らかにおかしな事象について。

「流氷の輝きは氷の大地に影を落とした――――」

 ゴクリと唾を飲み込むアアアア。そんな話は初めて聞く。あの流氷に意味があるだなんてと。

「プリズムのような影だった。我は驚いた。背後に巨大な氷山が突如として現れたのだから……」
「まじか! そこがダンジョンになっているのか!?」
「分からん。そのとき近寄ってみたが、入れる感じはなかった。しかもそれは一分程度で消えてしまうのだ。スクリーンショットを撮る暇もなかった……」
 とんでもない発見のように思う。狩場もなければ、近くにポータルもない。定期的にアイスクリームを貰うタルトにしか発見できなかったはず。

「大発見じゃねぇかよ! それが今になってダンジョンとなったんじゃねぇか? サンセットヒルは確か前回のアップデートに含まれていたんだろ?」
 前回の大型アップデートには幾つかのダンジョンが含まれており、順次解放されている。サンセットヒルが解放されたのは昨日であったけれど、ダンジョンへと繋がるヒントは先んじて実装されていたのかもしれない。

「なぜ今まで黙ってたんだ? クソ重大そうな異変じゃねぇか……」
「囓っても甘くなかったからな。無能だと判断した……」
「判断基準がおかしすぎんだけど!?」
 囓ったのかと嘆息する。しかし、その発見こそが重要である。僅か1分という出現時間は甘味魔王である彼にしか見つけられなかったことだろう。

「さっすがタルトさん! それ間違いないよ!」
「よっしゃ、新ダンジョン一番乗り!」

 夏美と彩葉も疑わない。もうすぐ夕暮れだ。急いで向かわねばと、ワイバーンのスピードを上げていく。

 新たなダンジョン。ワクワクを詰め込んだ冒険が始まろうとしていた……。
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