幼馴染み(♀)がプレイするMMORPGはどうしてか異世界に影響を与えている

坂森大我

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最終章 勇者として

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 ウルムに鎧の製作を依頼し終えた諒太。レベルマになったことで目標が一つ失われている。まだ九時すぎであり、眠るには早い。かといって、要職に就く彼女たちを夜中まで連れ出すのには躊躇いがあった。

「どうすっかな。ナツたちはどうしてんだろ?」
 確か彩葉のレベルが130になればアスモデウスに挑むと話していた。諒太は少しばかり廃人パーティーが羨ましく思う。

「クランに入ったとして俺には確認できないのか?」
 ステータスを開いてみる。過去からリアルタイムで確認できるというのなら、自身にも可能なのではないかと。

「クランメニュー……」
 クランに承認されたからか、ステータス画面の端にクランメニューが追加されている。
 選択すると、クラン員たちの状態が一目で分かった。レベルだけでなく、ジョブや現在地まで。

「まだレベリング中か。アアアアとナツがレベル144でイロハは129……」
 今にもレベル130に到達しようとしている。悪魔王アスモデウスは倒したばかりだが、諒太はパーティープレイに憧れていた。誘われなければ考えなかったけれど、今となっては参戦したくて仕方がなくなっている。

「俺もログインできたらなぁ……」
 そう漏らした直後、

『ログインに失敗しました。ネットワーク状態を確認してください』

 どうしてかクレセントムーンが反応。ログインと呟いたことに対する通知があった。

「どういうことだ? ネットワーク状態さえ良ければログインできるってことか?」
 諒太は深読みしてしまう。できないものに反応などしないはずだと。ネットワーク状態がどのようなことになっているのか不明であるが、可能性はあるように思えている。

「ひょっとして王国の石室なら……」
 セイクリッド世界とアルカナの道はそこにあるはず。早速と諒太は転移をし、再びログインを試みる。

『ログインに失敗しました。ネットワーク状態を確認してください』
 しかし、召喚陣ではログインできなかった。ここは諒太のクレセントムーンとセイクリッド世界を間違いなく繋いでいたというのに。

「召喚陣が駄目だとすると……」
 正直に無理かもしれない。ここ以外にクレセントムーンと接続するものは存在しないのだ。諦めようかと考えたところで、諒太はあと一つアルカナの世界を色濃く残した場所があることを思い出した。

「聖域なら――――」
 確かセイクリッド神は敷嶋奈緒子プロデューサーの姿をしていた。女神曰くアルカナの世界からの影響を強く受けているという。元がサポートセンターだというそこであれば、諒太はログインできるかもしれない。

「行ってみよう……」
 即座にリバレーション。レベリングという目的がなくなった諒太はゲームがしたい一心であった。仲間たちと一暴れしたくなっている。

 聖域前に転移すると、目の前には僧兵がいた。まあしかし、正教会は既に諒太のことを勇者であり、大賢者であると認めている。よって下手なことになるはずもない。

「勇者リョウ様、このような時間に何の御用でしょうか?」
 頭を下げる僧兵。彼は聖域の守衛であるらしく、扉の前に仁王立ちしたままだ。諒太を勇者と知っても、通すつもりはないようである。

「ミーナ枢機卿を呼んでくれないか? 大至急だ……」
「は、はい。承知しました」
 どうやら聖域への立ち入り以外は命令に従ってくれる感じだ。念話の魔道具を使用し、ミーナの付き人らしき者へと連絡を取ってくれる。

 待つこと数分。意外と早くミーナが現れた。一応は法衣を身に纏っていることから、まだ公務中であったのかもしれない。

「リョウさま、どうされたのですか? デートのお誘いでしたら謹んでお受けいたします」
「お前は少しくらい神官らしく振る舞えよ……。俗物すぎるだろ?」
 連日に亘るレベリングで距離が近くなっていた。既に諒太が失礼なことを口にしたとしても、僧兵に咎められることはない。

「俺は聖域に入りたい。ちいっとばかし用事ができたんだ」
「はぁ? セイクリッド神さまに用事ですか?」
 ミーナが僧兵にチラリと視線を向けると、彼は聖域の扉前から移動する。やはりミーナの権力は諒太の比ではないようだ。

「ミーナ、俺が直ぐに戻ってこなかったら、恐らく数時間は戻らない。もしかするとそのまま天界へ帰るかもしれないから、俺が戻らなくても心配しなくていいぞ」
「そんなこと可能なのですか? というより、セイクリッド神さまはそれほどお話好きなのでしょうかね?」

「いや、セイクリッド神に対する用事というより、大賢者としての仕事だ。三百年前へ行くのに聖域を使わせてもらいたいんだ」
 諒太は隠すことなく伝えている。この辺りは勇者であることを公表した恩恵であった。下手な嘘を考えなくても良くなったのだ。

「なるほどです。交代の僧兵には伝えておきますので、以降はご自由に聖域をご利用ください」
 ミーナは話が早い。諒太にとっては願ってもないことである。かといって、聖域とアルカナの世界が繋がっているのかは不明だ。自由に使用できる許可をもらったとして、セイクリッド神に会えるだけかもしれない。

「ありがとう。じゃあ、行ってくる」
「お気を付けて!」
 ミーナは少しも疑っていない。大賢者として三百年前に赴くという異常な話を。しかしながら、諒太自身も彼女の笑顔に実現しそうだと考えてしまう。

 扉を開き中へ入ると、以前と同じように天上から床下へと文字が流れていく。しばらくすると、眼前に敷嶋の姿をしたセイクリッド神が現れている。

「勇者リョウ、お久しぶり……」
 諒太的には二日前に会ったばかりだ。さりとてセイクリッド神は敷嶋の姿で顕現しているだけである。

「別に用事はないんだけど、せっかくだから報告でもさせてもらう。俺の準備は万端だ。レベルや装備だけでなく、心までも……」
「それは頼もしい。やはり貴方を選んで良かった。ようやく世界の悲願が成就するのですね……」
 セイクリッド神は微笑んでみせる。顕現している姿が美人の敷嶋であるから、流石に照れてしまう。けれど、諒太は鼻先を掻きながら、本題を切り出している。

「実は三百年前に行きたい。アルカナの世界にここから行けるだろうか?」
 別にそれは諒太の義務ではない。またゲーム世界に異変が起きたとして、セイクリッド神には関係のないことだ。

「どうでしょう。向こう側は私の管轄外ですからね。まあでも世界は繋がっております。どの場所もどのエリアも……」
 セイクリッド神の話は真実に違いない。何しろ諒太はアイテムであれば、送り届けることができる。これまで送付の行使に場所は関係なかったのだ。

「じゃあ、どうして俺は入り込めない? 召喚陣では無理だった。やっぱケーブルを使って召喚されるしか手がないのか?」
「そうとは限りません。ただ魂の転移は簡単な話ではないのですよ。情報や物品を送り込むのとは根本的に異なります。また召喚陣と色濃く繋がるのは貴方がいた世界。貴方が目指す世界は少しばかりややこしい場所にあります。簡単に言うと、二つの世界はこの世界から見てY字路的に分かれた先。あの召喚陣は貴方が元の世界へ戻れるように接続していますので、並列的な移動が難しくなっております……」
 セイクリッド神は世界間の繋がりを理解しているようだ。確かに召喚陣が行き着く先は諒太のログアウト先である。同じクレセントムーン内であったけれど、アルカナの世界は異なる道筋の先に存在しているらしい。

「じゃあ、俺は転移できないのか?」
「セイクリッド世界の全てが向こう側と繋がりを持っております。魂が行き来できるほどの強い繋がりがないだけ。よって最も深く繋がる聖域からの転移が不可能であれば、貴方がこの世界より向こう側へと直接転移することはできないはずです」
 納得したのか諒太は頷いている。聖域から転移できなければ、もうどうしようもない。決戦には夏美の家から参加するしかないだろう。

「いや、たぶん俺は向こう側に行ける……」
 考えるほど聖域からログインできるように思える。何しろ諒太は見ているのだ。
 ロークアットが描いた創作本。彼女が描いた封印作戦において、諒太は遅れて登場していた。もし仮に夏美の家から参加していたとすれば、諒太は夏美のプレイ中に部屋へと押し入り、召喚してもらったことになる。14日は土曜日であるし、もしも召喚されるというのなら、諒太は夏美がプレイを始める前から彼女の家にいるだろう。彼女の母親に捕まらないためにも。

 一つ頷いたあと、諒太は声を張る。悩むよりも実行してやろうと。
「ログイン!」
 セイクリッド神に説明することなく、諒太はログインと叫んでいる。アルカナの世界への転移を試みていた。
 一瞬のあと、視界がブラックアウトしていく。暗闇に響くセイクリッド神の声。それは旅立つ諒太にかけるべき決まり文句であった。

「大いなる旅路に幸あらんことを――――」
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