幼馴染み(♀)がプレイするMMORPGはどうしてか異世界に影響を与えている

坂森大我

文字の大きさ
210 / 226
最終章 勇者として

聖域にて

しおりを挟む
 ログアウトした先は聖域である。
 とりあえず世界間の道はまだ存在するらしい。

「勇者リョウ早かったのですね……」
 眼前にはセイクリッド神。本来なら用事などなかったけれど、彼女は諒太と同じく世界線の移行に左右されない存在だ。今ならば幾らでも話すことがあった。

「教えてくれ。セイクリッド世界も改変を受けたか?」
 まず間違いなく肯定されるはず。それだけは諒太にも分かる。
 セイクリッド神は少しも動揺することなく、淡々と答え始めた。

「大規模な変化が起きました。私が見ていた未来視も既になくなっております」
 ゴクリと唾を飲み込む。改変は予想していたけれど、セイクリッド神が見ていた未来までもが変わってしまったなんて。諒太は覚悟を持って、この先を聞かねばならない。

「それは良い方か? それとも悪い方に変わったのか?」
 まずは端的に聞く。世界の変化がセイクリッド神にとって都合の良いものであったかどうかを。

「私としましては悪くないと。ただ……」
 セイクリッド神の返答に少しばかり安堵する諒太だが、続けられたのはいい内容ばかりではない。

「貴方にとっては最悪の未来となっております――――」

 意味が分からない。セイクリッド神と諒太は一蓮托生であるはず。セイクリッド神にとって歓迎すべき事象であるのなら、諒太にとっても朗報であるはずなのに。

「過度な同質化が一度に図られました。貴方がセイクリッド世界で成し遂げた全てのこと。それらは過去に起きた出来事となっております」
 説明を受けても理解できなかった。過度な同質化がもたらせたのは情報の共有であろう。夏美がリナンシーを何度も見たと話していたことから、諒太の功績はアルカナの世界に同期したのだと思われる。

「過去の出来事って何だよ?」
 どうにも混乱している。だからこそ納得できるまで問いを投げるだけ。諒太は詳しい話を求めていた。

「妖精女王が向こう側へと顕現したこと。その要素は勇者リョウの足跡を過去とするしかなかったようです。今や勇者リョウは明確に過去の偉人でしかありません……」
「しかし、リナンシーは過去にもいるだろう?」

「もちろん存在しますが、世界の改変は最も適切な分岐が選ばれます。どうも貴方は向こう側の改変条件を満たしてしまったようです。不可能であったことを成し遂げた。それは改変事項に当たり、貴方が歩んだ軌跡を過去に当て嵌めることで収束を図っております。この世界で経験した全てを過去の功績とするしかなかったようですね……」

 残念妖精が飛び出しただけで、改変が起きるなんて異常事態だ。諒太だけでなくリナンシーもまた予想していなかった。

「妾は過去から現在まで婿殿にしか加護を与えていないぞ? 過去に加護を与えた者がいるなら矛盾が生じたかもしれないが……」
 リナンシーが口を挟む。責任を感じているのか、いつもの軽口はない。

「だからこそですよ。一連の変化の起点は貴方です。向こう側において貴方の加護は何らかの制約があったか、若しくは許可されていなかったのだと思われます。加えて向こう側は世界に存在する勇者の数を明確に一人と定めていました。それが覆って二人となったのです。引き金となったのは貴方の加護だとしか考えられません」

「ちょっと待て! 俺は世界の改変を受けないんじゃなかったのかよ!?」
 諒太もまた疑問をぶつけた。セイクリッド神から与えられた時空を歪めし者。それにより諒太は改変の影響を受けないはずなのだ。

「残念ながら、時空を歪めし者は向こう側において十分な効果を発揮できません。貴方が過去へと向かうなど想定外。向こう側で起きた強力な変化には抗えないようです」
 確かにセイクリッド神はアルカナの世界が管理下にないと話していた。彼女の加護はセイクリッド世界を飛び出した諒太にまで及ばなかったらしい。かといって、諒太は夏美たちのように完全な改変を受けていない。記憶を有したままであるのは少なからず加護が働いた結果だと思われる。

「マジか。どうしてこんなことに……」
 何度も頭を振る諒太だが、彼には思い当たる節があった。
 世界が整合性を保とうとする理由を一つだけ知っている。

『定義された理を超えるプレイヤーを待ち望んでいた――――』

 それは敷嶋奈緒子の言葉であった。ファーストフード店で彼女とあったとき。諒太はルイナーの討伐可能性について聞いたのだ。彼女が何かしらの手段を設けていることを。

「あれは勇者が二人になることだったのか……?」
 よく考えてみると違和感はない。勇者一人の神聖力では倒せない設定だと彼女は話していたのだ。単純に勇者が増えることで、討伐可能性をプレイヤーに与えたはず。また定義された理とは各サーバーに勇者が一人しか選定されないという話であろう。それを超えるのだから二人目の勇者がキーである可能性は高いように感じる。

「じゃあ、その方法って……」
 方法については考えるまでもなかった。何しろ改変を受けた夏美たちが話していたのだ。二人目の勇者となる条件にリナンシーの加護を受ける必要があるのだと。フェアリーティアをもらうまでに好感度を上げきるしかないことを。

「大半のトッププレイヤーは早々にフェアリーティアを手に入れている。敷嶋さんは死に戻りでも不可能だと話してた。フェアリーティアは一度しか手に入らないから……」
 考えるほど辻褄が合っているように思う。フェアリーティアは効率的に装備を強化できるアイテムだ。好感度を上げきれる魅力値に達するよりも早く、全プレイヤーが手に入れようとしただろう。

「妾のせいじゃ! どうしよう、婿殿!?」
「落ち着け。俺にとって最悪と聞いたけど、悪くない話だ。二度もルイナーと戦うよりも、三百年前で決着がつけられる。それにお前の加護は一因であって、他にも条件があったはず。それを俺が満たしていたから、経験の全てを同質化して勇者となった。どこの世界であろうと、俺はルイナーを倒すだけだ……」

 諒太は決意を語る。閉ざされた扉を開いてしまった彼であるけれど、実をいうと好意的に捉えていた。マヌカハニー戦闘狂旗団の実力は既に理解している。ロークアットたちをルイナー戦に連れ出すよりも、ずっと安心できた。

「それでこの世界のルイナーはどうなっているんだ? 過去において封印は既に選択肢から外れているんだろう?」
 諒太は質問を始める。改変が起きた今となっては振り返ったとして前へと進まない。ならば現状から最善の選択をするだけであると。

 セイクリッド神は小さく頷いてから、問いに答え始める。
「現状、ルイナーは黒い渦となっております。その存在はかなり希薄なもの。恐らく過去において貴方たちが討伐する可能性が高いのだと考えられます」
「だろうな。俺の仲間たちは信頼できる。必ず討伐すると誓おう……」
 笑みを浮かべるセイクリッド神であるが、その表情は直ぐさま失われている。

「勇者リョウ、私は貴方に謝らねばなりません。願いを叶えるどころか、現在における貴方は過去の存在となり、英雄として語り継がれることすらなくなっています」
 諒太の意気込みにセイクリッド神は謝罪を返した。諒太の献身に対する褒美すら与えられていないのだと。

「気にしなくていい。どうせ俺は異界人だ。それによりゲームに近付けるなんて最高だよ。俺は根っからのゲーマーなんだから……」
 言って諒太は聖域をあとにする。既に用事もなかったけれど、適切なログアウトをするにはセイクリッド世界に戻るべきだと。

 このとき諒太はセイクリッド神の謝罪を甘く考えていた。彼の想像よりも多大な変化が起きているなんて考えもしなかったのだ……。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

処理中です...