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暖められた寝室に、間接照明の柔らかな光。
ベッドを前に緊張して立ちすくむ。
そんなわたしを米山部長は後ろから抱きしめて、落ち着かせようと肩を撫でてくれる。
シャンプーの匂いがふわりと香った。
結局あの後、泊まるために必要なものを一式自宅から持ってきて米山部長の車に戻った。あの時、本当に良いのかと最終確認されて、迷わず頷いていた。
(それなのに……)
こうなることを期待していたにも関わらず、わたしは思ったよりも度胸がなかった。
米山部長は美味しい晩御飯を作ってご馳走してくれたし、リラックスできる環境をと映画を流してくれた。色々と気を遣ってくれたのに、緊張は募る一方だった。
「怖くなってきた?」
「そんなことないです」
「声が震えてる。あんなこと言ったけど、君を泣かせるようなことはしたくない。だから、安心して」
優しい言葉なのに、とても不安になる。
「それはつまり」
首を巡らせて米山部長を見た。
「シてくれないってことですか?」
「っ……、はぁー……俺は君に試されてるのかな」
「え? ちょ、うわぁ!」
勢いのままベッドに押し倒され、ベッドが大きく弾む。ふわりと甘い香りが立つ。米山部長の優しい香りに包まれて、理性がどこかへ飛んでいった。
至近距離で見つめ合い、息を呑み込んだ。
「上目遣いでそんなこと言ったらダメだよ」
米山部長はわたしの頬に触れ、髪を梳き流し、頭を撫でながら言った。
「せっかく抑えていたのに、我慢ができなくなる」
熱を帯びた指先が肌に触れるたびに、胸がキュンとときめいた。
「我慢しなくていいです」
「一度始めたら、止めてあげられる自信がないんだ。……今この瞬間、すこしでも不安な気持ちがあるなら、俺に流されないで正直に教えて。今なら、止められるから」
会社では迷いなく指示を出し、仕事をこなす人が、こんなにも触れ合うことに躊躇している。
思えば家に着いてからも、「帰りたくなっていないか」とか「怖くなっていないか」とか訊かれた。
本当に大丈夫なのに。でも、不安にさせているのは、わたしが緊張し過ぎているせいだ。
安心させてあげたい。
わたしは米山部長の肩に腕をまわして、ギュッと抱きしめた。
「良くも悪くも素直なのがわたしって言ったのは部長じゃないですか。信じてくださいよ」
「そうだったね。うん、分かった……信じるよ」
米山部長の身じろぐ気配に抱擁を解く。
改めて見つめ合い、どちらからともなく唇を重ねた。それは、浅く控えめな触れ合いだった。
ゆっくりと触れる面積を増やして、ピタリと重なるように深めていく。
下唇を甘噛みされて、チュッと吸われる。
思わず開けた口に厚い舌が忍びこみ、優しく舌を絡め取られた。お互いの唇と舌の感触を確かめるように、ゆったりと深いキスを繰り返す。
「せっかくだから、バレンタインデーらしいことをしようか」
「バレンタインデーらしいことって?」
「すこし待っていて」
わたしの鼻先にチュッとキスをして、米山部長はベッドから降りた。
ダイニングルームからわたしがあげたチョコレートの箱を持ってくると、ベッドに腰掛けて箱を開けた。
「小さくて食べやすそうだね」
そう言って薄い花型のチョコレートを摘んで振り返ると、わたしの口元に寄せてきた。
「あーんして」
「わたしが食べるんですか?」
「違うよ。君は食べたらダメ。ほら、口開けて」
意味が分からない。でも、本人はものすごく楽しそうだから従うしかなかった。
「舌を伸ばして。うん、良いね」
舌の上にチョコレートを乗せられる。
米山部長はわたしに顔を近づけ、
「可愛くて、美味しそう」
と低く呟いて、わたしの舌ごとチョコレートを口に含んだ。
取られたチョコレートは、口移しで再びわたしの舌の上に戻ってきた。
じゅわ、とビターチョコレートが溶けていく。苦味が広がって、後から甘味が追いかけてくる。
チョコレートが完全になくなると、舌を何度も吸われて、しごかれた。
「美味しい。君の舌で食べさせてくれたら、皆からもらったチョコレート、全部食べ切れるかもしれない」
「それはちょっと……さすがに胸焼けしそうです」
「そう? なら、君からもらったのだけにしておくね」
また一つ摘んで差し出される。
わたしは米山部長を見つめながら舌を伸ばした。
葉っぱ型の小さなチョコレートが舌先に乗せられると、すぐに唇ごと奪われた。
ミルクチョコレートの香りが広がって、同じキスなのに甘くとろけるような心地がする。
お互い夢中になってキスを続けていると、激しく、より淫らなキスへと変わっていった。
息が苦しくなって口を離すと、米山部長は眉を下げて微笑んだ。
「自分から仕掛けておいてなんだけど、こんなキス、初めてした。なかなか、燃えるね」
「慣れているように思いましたけど」
「会社でも話したけど、菓子類は自分じゃ買わないんだ。だから、チョコレートを口移しで食べる機会なんて無かったよ」
ベッドを前に緊張して立ちすくむ。
そんなわたしを米山部長は後ろから抱きしめて、落ち着かせようと肩を撫でてくれる。
シャンプーの匂いがふわりと香った。
結局あの後、泊まるために必要なものを一式自宅から持ってきて米山部長の車に戻った。あの時、本当に良いのかと最終確認されて、迷わず頷いていた。
(それなのに……)
こうなることを期待していたにも関わらず、わたしは思ったよりも度胸がなかった。
米山部長は美味しい晩御飯を作ってご馳走してくれたし、リラックスできる環境をと映画を流してくれた。色々と気を遣ってくれたのに、緊張は募る一方だった。
「怖くなってきた?」
「そんなことないです」
「声が震えてる。あんなこと言ったけど、君を泣かせるようなことはしたくない。だから、安心して」
優しい言葉なのに、とても不安になる。
「それはつまり」
首を巡らせて米山部長を見た。
「シてくれないってことですか?」
「っ……、はぁー……俺は君に試されてるのかな」
「え? ちょ、うわぁ!」
勢いのままベッドに押し倒され、ベッドが大きく弾む。ふわりと甘い香りが立つ。米山部長の優しい香りに包まれて、理性がどこかへ飛んでいった。
至近距離で見つめ合い、息を呑み込んだ。
「上目遣いでそんなこと言ったらダメだよ」
米山部長はわたしの頬に触れ、髪を梳き流し、頭を撫でながら言った。
「せっかく抑えていたのに、我慢ができなくなる」
熱を帯びた指先が肌に触れるたびに、胸がキュンとときめいた。
「我慢しなくていいです」
「一度始めたら、止めてあげられる自信がないんだ。……今この瞬間、すこしでも不安な気持ちがあるなら、俺に流されないで正直に教えて。今なら、止められるから」
会社では迷いなく指示を出し、仕事をこなす人が、こんなにも触れ合うことに躊躇している。
思えば家に着いてからも、「帰りたくなっていないか」とか「怖くなっていないか」とか訊かれた。
本当に大丈夫なのに。でも、不安にさせているのは、わたしが緊張し過ぎているせいだ。
安心させてあげたい。
わたしは米山部長の肩に腕をまわして、ギュッと抱きしめた。
「良くも悪くも素直なのがわたしって言ったのは部長じゃないですか。信じてくださいよ」
「そうだったね。うん、分かった……信じるよ」
米山部長の身じろぐ気配に抱擁を解く。
改めて見つめ合い、どちらからともなく唇を重ねた。それは、浅く控えめな触れ合いだった。
ゆっくりと触れる面積を増やして、ピタリと重なるように深めていく。
下唇を甘噛みされて、チュッと吸われる。
思わず開けた口に厚い舌が忍びこみ、優しく舌を絡め取られた。お互いの唇と舌の感触を確かめるように、ゆったりと深いキスを繰り返す。
「せっかくだから、バレンタインデーらしいことをしようか」
「バレンタインデーらしいことって?」
「すこし待っていて」
わたしの鼻先にチュッとキスをして、米山部長はベッドから降りた。
ダイニングルームからわたしがあげたチョコレートの箱を持ってくると、ベッドに腰掛けて箱を開けた。
「小さくて食べやすそうだね」
そう言って薄い花型のチョコレートを摘んで振り返ると、わたしの口元に寄せてきた。
「あーんして」
「わたしが食べるんですか?」
「違うよ。君は食べたらダメ。ほら、口開けて」
意味が分からない。でも、本人はものすごく楽しそうだから従うしかなかった。
「舌を伸ばして。うん、良いね」
舌の上にチョコレートを乗せられる。
米山部長はわたしに顔を近づけ、
「可愛くて、美味しそう」
と低く呟いて、わたしの舌ごとチョコレートを口に含んだ。
取られたチョコレートは、口移しで再びわたしの舌の上に戻ってきた。
じゅわ、とビターチョコレートが溶けていく。苦味が広がって、後から甘味が追いかけてくる。
チョコレートが完全になくなると、舌を何度も吸われて、しごかれた。
「美味しい。君の舌で食べさせてくれたら、皆からもらったチョコレート、全部食べ切れるかもしれない」
「それはちょっと……さすがに胸焼けしそうです」
「そう? なら、君からもらったのだけにしておくね」
また一つ摘んで差し出される。
わたしは米山部長を見つめながら舌を伸ばした。
葉っぱ型の小さなチョコレートが舌先に乗せられると、すぐに唇ごと奪われた。
ミルクチョコレートの香りが広がって、同じキスなのに甘くとろけるような心地がする。
お互い夢中になってキスを続けていると、激しく、より淫らなキスへと変わっていった。
息が苦しくなって口を離すと、米山部長は眉を下げて微笑んだ。
「自分から仕掛けておいてなんだけど、こんなキス、初めてした。なかなか、燃えるね」
「慣れているように思いましたけど」
「会社でも話したけど、菓子類は自分じゃ買わないんだ。だから、チョコレートを口移しで食べる機会なんて無かったよ」
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