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第14話 みりあにはみりあのプライドがあるのです。

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あの泣きのテストがあった数日後。つぼみと同じ事務所の御手洗みりあは仕事から10日ぶりに帰宅した両親と自宅での久しぶりの食事の席…。

「みりあ…聞いたぞ。数日前のレッスンでのこと…」
みりあの父、御手洗ヨシツグ42歳。元俳優で現在は映画監督。日本アカデミー賞監督賞などの数々の賞を受賞し、舞台の演出やドラマやアニメなどの脚本などもマルチに手掛ける。
「お父様…なぜそのことを…」
「マネージャーの田畑さんからよ…お母さん最初聞いた時みりあがあんな態度をとるなんて…悲しくなるどころか驚きのあまり全身が真っ青になりそうだったわ…」
みりあの母、御手洗ミヨコ41歳。元某関西歌劇団の男役で、現在も女優として活躍中。ヨシツグとは彼が監督を務めた映画への出演がきっかけで付き合い始めた。

「だってお母様言ってたじゃない…芸能界は弱肉強食の戦場だって…芸能界に出たら周りは全員敵と思えって…」
「…みりあ、お母さんはなにも”友達を作るな”とか‘‘他人を拒め”って意味で言ったわけじゃないのよ…芸能界においてトップの椅子の数は限られている…その椅子に座るために時には友達同士であっても争わなくてはならない。友達同士でも時には敵になることもあるって意味で言ったのよ…」
ヨシツグ「みりあよ、お父さんは小学生の頃に担任の先生から”友達とはお互いを高めあい、学びあい、お互いが人間として立派に成長していくために必要な存在だ。自分が人生の最期を迎えるときにこの人と出会ってよかったと思い返せるような友達を作りなさい”って言われてな、それから今日にいたるまでたくさんの友達を作り、大切にしているんだ。もちろん芸能界や映画界の友達と競い合ったこともある。お父さんも初めての監督作品が公開されたとき、同じ日に公開された友達の監督作品のほうが大きくヒットして正直悔しかったよ…でも同時に彼はすごいとも感じ取った!父さんは彼の作品を観て演出や表現など様々なことを学んでいった。彼と会った時もアイデアはどのようにひらめいたかなどを聞き出し、彼からたくさんのことを学んだんだ…その時学んだことが今、自分の血となり肉となり、多くのヒット作を生み出すことができたと思っている。友達ってのは人生の教科書なんだ!たくさんじゃなくてもいい。ひとりでもいいから大切な友達と言える友達は作るべきだ!」

ミヨコ「お母さんもね、一度歌劇団の音楽学校の入試に落ちてるの…その時一緒に受けた友達が合格しちゃって悔しかったわ…その時に”芸能界に出たら仲間だって敵になる時がある”ということを思い知ったわ。でもお母さんは友達の合格が決まった時”頑張ってね!私も1年後にはそっちに絶対行くから!”ってエールを送ったの。みりあみたいに冷たく当たることはなかったわ…
それからの1年間、お母さんはそのお友達と電話で毎日のようにやり取りをして、お互い歌やダンスのトレーニング法について情報交換したの。彼女がいたからこそお母さんはその1年後に悲願の音楽学校入学、そして歌劇団のトップスターになれたと思うの…時に助け合い、時にぶつかり合うことで高めあえる存在…時に敵になるけど、その時に自分一人の力で走ることのできないことを学べる存在…それが友達だとお母さんは考えるわ。弱肉強食の芸能界という戦場で生きるために必要なことのひとつ…それは相手から学ぶこと。友達とはそのために必要な存在よ…
だから友達を作ることを拒まず、もっとみんなと優しく接しなさい…」

みりあ「…わからないわ…もし私の行動で誰かが木津ついてしまったのなら謝るけど、私はこれまで頂点に立つために事務所の他の子役とつるむこともなく生きてきた…だから子役界のトップランカーのひとりと呼ばれるようになったと信じてきた…なのに…」
ミヨコ「…さすがにこの子には難しい話だったかしら…」
ヨシツグ「自分がずっと信じてきたことを否定されたから無理もないかもしれん…」

その翌日、御手洗ミヨコとみりあは菓子折りをもって石嶺家に謝罪に訪れた。
ミヨコ「先日はうちの娘が大変ご迷惑をおかけしました…」
ケイコ「いえいえ気になさらずに…つぼみ本人も突き飛ばされたことは気にしてないみたいですし…」
ミヨコ「ほら、あなたもつぼみちゃんに謝りなさい!」
みりあ「ごめんなさい…突き飛ばしちゃったことは謝るよ…これからはあなたを私のライバルとして認めてあげるわ!いい?友達じゃなくてライバルよ!私の役者人生で初めてライバルと認めてあげたのはあなたが初めてなんだからね!」
ミヨコ「(ライバル…あの子にはあの子のプライドがあるから友達という言葉は使わないのね…でもお母さんにはわかるわ…ライバルということは友達になりましょうって意味でしょ?)…またまたうちの子が高飛車で失礼しましたケイコさんにつぼみちゃん…ライバルってのはこの子なりの友情表現ですからして…」
つぼみ「ライバル…うん!負けないよみりあちゃん!今日から2人は同じ芸能界で戦うライバルよ!」
ケイコ「芸能界という過酷な洗浄だからこそ花開く友情…よっ!ライバル!お2人さんこれからも期待してるよ!」
御手洗みりあ…これからも矢澤つぼみの良き友達…もといライバルとして共に学び、ともに競い合い、芸能界という戦場で輝きを放っていくことだろう…
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