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第1部
フェーズ2-8
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お風呂を済ませて自分の部屋に戻り、涼に電話をかけて話を聞いた。
「午前中に院長室に呼び出されたんだ。院長と記者がいて、記事の原稿と隠し撮りされた写真が何枚かあった。未成年淫行って言うから、彼女は婚約者だと説明した。信じなかったけどな。『そういうことにしてるだけでしょう。入籍と違って証明できる書類はないですしねえ』って」
確かに、婚姻届のように役所に届けているわけではないから証明することはできない。婚約指輪もまだ手元にない。
「婚約指輪でもあれば別だって言うから、仕方なく指輪の領収書を見せたよ」
「あ、領収書」
その手があったかと感心する。
「見せたら見せたで、なぜだか相手は鷹宮先生だと疑われた。ただの同僚と言っても信じなくて、この場で本人に確認したいからとあいつを院長室に呼び出す始末だよ」
「麗子さんを?」
あの写真のせいだろう。私も見せられた、涼が麗子さんの肩を抱きながらマンションに入っていく場面の。記者いわく、麗子さんが涼の本命らしいから。
「あいつも忙しいから、『なんの冗談です?』って鼻で笑いながら否定してさっさと戻っていったよ。あとでくだらないことで呼び出すなって怒られたけど」
強い。そしてちょっとかっこいい。
「それでも記者は認めようとしなかった。『他にも女が大勢いるはずだ。その中の誰かとの婚約指輪だ』と決めつけてた。その誰かを探すよりもお前との婚約が嘘だとはっきりさせたほうが手っ取り早いと考えたんだろう。『彼女の両親に確認を取らせてもらう』って言い出した」
「それであの電話……」
「俺としては彩の両親を巻き込みたくなかったから露骨に不快な顔をしてやったら、それを両親に確認されちゃ不都合があると解釈したみたいで、勝ち誇った様子で出ていったよ」
勝利を確信していたんだろう。そのあとはうちにきて母と花に完敗することになるのだけど。花がスカッとしたのもわかる気がする。
大変だったんだな。指輪の領収書に、麗子さんまで呼び出されて。無理もない。簡単に信じてくれるわけないよね。若く実力のある現役医師が高校生の患者と婚約なんて。
「病院長のほうは?」
「記者が出ていったあとに、付き合い始めた時期と婚約の事実について念入りに確認されたよ。医者が治療中の患者と恋愛関係になるのは、倫理的に好ましくないとチクリと言われた。まあ、手術はもう済んでて、あとは経過観察のための外来だけだし、婚約もしてるってことで最終的には納得してくれたが」
「記事は、どんな内容だったの?」
「よくある下世話な内容」
正木さんが言ってた通り、きっとあることないこと書かれてるんだろう。
「婚約のことを伏せて記事を流したりなんてことは……」
「そんなことをすれば俺からも病院からも訴えられる恐れがあるから、しないだろう。嘘の記事で評判を落とされれば、病院も黙っちゃいないだろうから」
病院長まで巻き込んで話をしたのが逆によかったということかな。何はともあれ、これで解決したんだ。大ごとにならなくて本当によかった。病院長には知られてしまったものの、それだけで済んだのは幸いだ。
最初に学校近くの公園で突撃されたときに、私が婚約してることを話していたら、ここまで面倒なことにはならなかったかもしれない。でも、私から言っても信じてもらえなかったかな。あのときは、涼と付き合ってること自体が許されない気がして、婚約してるなんて口に出せなかった。動転してて頭の中が真っ白で、隠すことしか考えていなかった。
「あのチャラい男とまだ会ってるのか。お前と一緒にいる写真があった」
チャラい男とは正木さんのことよね。私が見せられた写真以外にも、あのあとに撮られた写真があるんだ。きっと護衛してもらって一緒に帰ってるところを撮られたんだろう。正木さんのことを私の本命の彼氏だと思ってたようだし、そのことを記事に書くために撮ったんだ。正木さんまで巻き込んでしまうところだった。
「守ってもらってたの。愛音には彼氏の瀬谷さんが、私には正木さんがついててくれて、登下校で私が一人にならないように、バイクでいつも送り迎えしてもらってたの」
会話が途切れた。気まずい。涼にとって正木さんは、私にキスしようとした要注意人物のはずだ。私にとっての麗子さんのように。
「怒った?」
「いや、あいつのおかげで記者を避けられたんだからな」
よかった。誤解されずに済んだ。
「また日曜日に話そう」
「うん、おやすみなさい」
婚約していたことで難を逃れた。もし婚約していなかったらどうなってたんだろう。真剣に付き合ってると説明したところで、信じてもらえたのだろうか。婚約の話がなければ、涼は私の両親と会っていなかった。母から証言してもらうこともできない。そのまま記事を発表されていたかもしれない。随分と涼に危ない橋を渡らせてしまった。
「午前中に院長室に呼び出されたんだ。院長と記者がいて、記事の原稿と隠し撮りされた写真が何枚かあった。未成年淫行って言うから、彼女は婚約者だと説明した。信じなかったけどな。『そういうことにしてるだけでしょう。入籍と違って証明できる書類はないですしねえ』って」
確かに、婚姻届のように役所に届けているわけではないから証明することはできない。婚約指輪もまだ手元にない。
「婚約指輪でもあれば別だって言うから、仕方なく指輪の領収書を見せたよ」
「あ、領収書」
その手があったかと感心する。
「見せたら見せたで、なぜだか相手は鷹宮先生だと疑われた。ただの同僚と言っても信じなくて、この場で本人に確認したいからとあいつを院長室に呼び出す始末だよ」
「麗子さんを?」
あの写真のせいだろう。私も見せられた、涼が麗子さんの肩を抱きながらマンションに入っていく場面の。記者いわく、麗子さんが涼の本命らしいから。
「あいつも忙しいから、『なんの冗談です?』って鼻で笑いながら否定してさっさと戻っていったよ。あとでくだらないことで呼び出すなって怒られたけど」
強い。そしてちょっとかっこいい。
「それでも記者は認めようとしなかった。『他にも女が大勢いるはずだ。その中の誰かとの婚約指輪だ』と決めつけてた。その誰かを探すよりもお前との婚約が嘘だとはっきりさせたほうが手っ取り早いと考えたんだろう。『彼女の両親に確認を取らせてもらう』って言い出した」
「それであの電話……」
「俺としては彩の両親を巻き込みたくなかったから露骨に不快な顔をしてやったら、それを両親に確認されちゃ不都合があると解釈したみたいで、勝ち誇った様子で出ていったよ」
勝利を確信していたんだろう。そのあとはうちにきて母と花に完敗することになるのだけど。花がスカッとしたのもわかる気がする。
大変だったんだな。指輪の領収書に、麗子さんまで呼び出されて。無理もない。簡単に信じてくれるわけないよね。若く実力のある現役医師が高校生の患者と婚約なんて。
「病院長のほうは?」
「記者が出ていったあとに、付き合い始めた時期と婚約の事実について念入りに確認されたよ。医者が治療中の患者と恋愛関係になるのは、倫理的に好ましくないとチクリと言われた。まあ、手術はもう済んでて、あとは経過観察のための外来だけだし、婚約もしてるってことで最終的には納得してくれたが」
「記事は、どんな内容だったの?」
「よくある下世話な内容」
正木さんが言ってた通り、きっとあることないこと書かれてるんだろう。
「婚約のことを伏せて記事を流したりなんてことは……」
「そんなことをすれば俺からも病院からも訴えられる恐れがあるから、しないだろう。嘘の記事で評判を落とされれば、病院も黙っちゃいないだろうから」
病院長まで巻き込んで話をしたのが逆によかったということかな。何はともあれ、これで解決したんだ。大ごとにならなくて本当によかった。病院長には知られてしまったものの、それだけで済んだのは幸いだ。
最初に学校近くの公園で突撃されたときに、私が婚約してることを話していたら、ここまで面倒なことにはならなかったかもしれない。でも、私から言っても信じてもらえなかったかな。あのときは、涼と付き合ってること自体が許されない気がして、婚約してるなんて口に出せなかった。動転してて頭の中が真っ白で、隠すことしか考えていなかった。
「あのチャラい男とまだ会ってるのか。お前と一緒にいる写真があった」
チャラい男とは正木さんのことよね。私が見せられた写真以外にも、あのあとに撮られた写真があるんだ。きっと護衛してもらって一緒に帰ってるところを撮られたんだろう。正木さんのことを私の本命の彼氏だと思ってたようだし、そのことを記事に書くために撮ったんだ。正木さんまで巻き込んでしまうところだった。
「守ってもらってたの。愛音には彼氏の瀬谷さんが、私には正木さんがついててくれて、登下校で私が一人にならないように、バイクでいつも送り迎えしてもらってたの」
会話が途切れた。気まずい。涼にとって正木さんは、私にキスしようとした要注意人物のはずだ。私にとっての麗子さんのように。
「怒った?」
「いや、あいつのおかげで記者を避けられたんだからな」
よかった。誤解されずに済んだ。
「また日曜日に話そう」
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婚約していたことで難を逃れた。もし婚約していなかったらどうなってたんだろう。真剣に付き合ってると説明したところで、信じてもらえたのだろうか。婚約の話がなければ、涼は私の両親と会っていなかった。母から証言してもらうこともできない。そのまま記事を発表されていたかもしれない。随分と涼に危ない橋を渡らせてしまった。
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