ドクターダーリン【完結】

桃華れい

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第1部

フェーズ7-4

 手を繋いで木のぬくもりを感じる教会内に入った。大きな窓からは柔らかな光が降り注いでいる。
 卒業旅行として甲信地方に連れてきてもらった。高地にあるため夏でも涼しく過ごすことができる人気のリゾート地だ。こちらに到着して昼食を食べた商業施設の近くに教会があると知って、散歩がてら歩いて向かった。教会は緑の木々に囲まれた大自然の中に建っていた。空気が澄んでいるイメージがあるこの地域の中でも、特にここは清らかで神聖に感じる。
 都会のような喧騒はいっさいない。聞こえるのは風が木々を揺らす音と、鳥のさえずり、そして私たちの足音だけだった。
 祭壇の上の大きな三角形の窓を見上げていると、涼が言った。
「彩、お前のウェディングドレス姿、見たいんだけど」
「うーん」
 こんなところで挙式ができたらとても素敵だとは思うけど、あまり大人数で盛大にするのは気乗りしない。
「二人だけでするってのは?」
 悩む私に涼が提案した。
「絶対にきれい。天使」
 天使なんて言われて、私は吹き出してしまった。大げさなんだから。涼のタキシード姿だって、すごくかっこいいに決まってる。私も見てみたい気持ちはある。
「二人でなら、してもいいかも。そんなことできるの?」
「できるよ」
 なんで知ってるの。さては、乗り気でない私のために調べてくれた?
「二人きりだから披露宴もなし。それならいいだろ」
「うん、そうだね。じゃあ、帰ったら私も調べてみる」
 涼が顔をほころばせた。
 二人だけの挙式なら費用は抑えられるし、ゲストがいないから準備期間も短く済みそう。もしかして六月の挙式に間に合ったりするだろうか。やっぱりジューンブライドには憧れる。それに、涼にプロポーズしてもらったのが去年の六月なのだ。ちょうど一年後の六月に挙式できたら素敵だ。でも、今から六月の予約はさすがに無理かな。とにかく帰ったら調べてみよう。

 旅館には早めにチェックインした。車を運転したり歩いてばかりだと涼が疲れてしまうと思ったからだ。今回の旅行では涼にも日頃の疲れを癒してもらいたい。そのためにも、宿泊する客室は露天風呂つきの部屋を選んだ。宿泊予約サイトで見つけて涼に確認した際には、二つ返事で了承してくれた。「風呂でいちゃいちゃしたいの?」と不敵な笑みを浮かべていた。そういう理由で選んだわけではなくて、単に涼にゆっくりしてもらいたいからなんだけど。
 広々とした客室は、ソファセットと食事用テーブルが設置されたリビングダイニングスペースと、畳の小上がりの和室スペースに分かれている。ベッドはなく、和室スペースに敷かれた布団で休む。大きなガラス戸の外はウッドデッキになっていて、檜風呂とガーデンテーブルが見える。木や畳のぬくもりのおかげで、高級感はあるのに不思議と落ち着く。
 夕食まで時間があったので、せっかくだからと大浴場へ行った。部屋の露天風呂は人目を気にせずリラックスできるけど、大きいお風呂も気持ちがいい。外湯やサウナもあって楽しかった。
 部屋に戻り、浴衣姿で夕食を囲む。ダイニングテーブルに並んだのは、豪華な懐石料理だ。食材の種類もいろどりも豊かで、目でも楽しめる。涼と一緒なら何を食べてもおいしいのに、こんなに贅沢していいのだろうか。
 瓶ビールを手に取ってお酌をする。浴衣姿でお風呂上がりの涼は格別に色っぽい。
「お疲れさま。今日は安心して飲めるね」
「そうだな」
 旅行中は病院から呼び出しがかかることはない。
「いっぱい運転して疲れたでしょ。露天風呂のあとでマッサージしてあげる」
「どこを?」
 ビールを口に運びながら、涼が口元をにやけさせた。
「普通に肩とか腰とかです」
「一緒に入ってくれんの?」
「露天風呂のあとで、って言ったでしょ」
「風呂はまさか別々に入るわけじゃないだろ? せっかくこんな露天風呂つきのいい部屋に泊まってるのに」
 マッサージはお風呂のあとで、という意味で言っただけだ。お風呂は一緒に入るんだろうなとは思ってたけど、流れに任せるつもりだったから改めて訊かれると答えづらい。
「一緒に、入る」
 小声になって言った。涼が満足げな笑みを浮かべる。
「私が先に入るから、涼はあとからきてね」
「まだ恥ずかしがるか」
 広くて明るい露天風呂だから、余計に恥ずかしい。先に湯船に浸かってしまえば、見られる範囲は最小限で済む。
 夕食を堪能したあとは、隣のリビングでくつろいだ。旅館の人がテキパキと食事の後片づけをし、小上がりに布団を敷いてくれている間は、お茶を飲みながらソファで待った。
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