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11話 薬師組合
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生産ギルドへの登録はつつがなく終わった。多少ギルド員がざわついたがかねがね問題なかった。
続いてティカ向かう先は薬師組合だ。薬師関係の依頼や納品、材料の発注からレシピの取り寄せといったものまで薬師が薬師として活動しやすくするために組合は存在している。
その薬師組合だが生産ギルドから目と鼻の先にあった。生産ギルド同様、大きな建物で高級そうなウッドの木材を使った外装にフラスコのシンボルが掘られた看板が吊るされていた。
――チリンチリン。
ドアノブを引いて入った先、これまた大理石が敷き詰められた床に、シックなデザインの内装だ。白と黒を基調とした内装はどこかモダンな雰囲気で、二つの受付と大きな書棚が目に付く。しかし、受付に人は見かけない。
「すみませーん。どなたかいらっしゃいませんか?」
「はいはーい、ちょっとお待ちくださいねー」
組合の受付に誰もいないので声を掛けてみると奥の方から返事があった。誰かが居てホッとしたティカは待合椅子に座って待つことにした。待つこと数分。慌ただしく受付の人が現れた。
「すみません。お待たせいたしました。本日はどのようなご依頼ですか?」
「あっ薬師組合の名簿登録をお願いしに来ました。ええっと、これが証明書です」
「えっ、お若いのに薬師の方なんですか!? 証明書を拝見いたします…………えっ、え? えぇえええええ!!」
今日一番の驚きを見せた。受付嬢が驚くたび手入れの行き届いた茶色の髪がゆらゆら揺れる。身長はティカより頭一つ分くらい高く、スラッとした体形で顔も美人だ。見た目の割にどこかお転婆娘のような印象を受ける。
美人の受付嬢は暫く証明書とティカを行ったり来たり。余りの驚きっぷりに証明書を持つ手が震え始めた。
「ちょ、ちょちょちょっとお待ちください。証明書のか、鑑定を行って来ますので……」
そう言い慌てた様子で証明書を持って行ってしまった。その後、また遠くの方で悲鳴が聞こえた。
「おお、お待たせしました。証明書の確認ができましたのでお返しし、します」
プルプル震える手で証明書を手渡してきた受付嬢に不思議そうな顔をしながら受け取るティカ。クルクルと証明書を丸めてポーチに仕舞った。
「お、お手数ですが今から名簿登録をしますのでこちらの書類にご記入をお願いします!」
「はい、わかりました」
名簿登録用の書類に名前、履歴、師弟関係者、技能、その他諸々を記入し受付嬢に提出した。受付嬢は提出された書類を専用の端末へ打ち込み登録を済ませ、ピピィピピっと機械音を立て金属のプレートへ情報を書き込んでいく。
このように身分証などの登録は魔法で専用の道具に書き込むのが一般的だ。現在受付嬢が使用している登録用の端末も魔道具の一種で改ざんや不正を防ぐため国が貸し出しているものだ。
魔道具から紫色の光線が金属プレートへ当たると文字を彫りおこすように刻まれていく。物珍し気に脇から覗き込むティカ。魔道具を見るのはルイツに入る際に受けたチェックを含めて二度目だ。ロマドと居た時は薬師関係のことしか教えてもらっていないため、こうして魔道具が動いているところを目にする機会がなかったのでとても興味深いのだろう。
「手続きが完了しました。こちらが薬師組合の会員証になりますので無くさないようにお願いします」
「ありがとうございます」
「そ、それと少し伺いたいのですが……」
「はい、何でしょう?」
「ティカ様はこの後、どういったご予定なのでしょうか?」
「さ、さま? ……予定と言われましても、ポーションとかロマニーを作って販売しようかと」
「ぽ、ポーションを作られるのですか!!」
「は、はいその予定ですけど……」
途中、受付嬢のティカ様発言に困惑しつつも、今後の予定を聞かれポーションを作って売る予定を話した。すると食い気味に身を乗り出してきた受付嬢を前に少し後ずさる。
一先ずポーション製作と卒業課題で作成したロマニーを薄めて販売するようだ。ロマドから幾ばくかの軍資金を貰ったがそれで生活できるのはせいぜい一ヶ月が関の山。なんとか生計を立てるためにも薬を作って販売、ゆくゆくは店を持つのも面白いだろう。
「その、実は現在深刻なポーション不足でして。ポーションを作成してくださる方を探していたんです。とても深刻で薬師ではない私も駆り出される始末でして」
「そんなに深刻なんですか……なぜポーション不足に?」
「十日前、東の街道に強力な魔物が出現しまして、その遠征に冒険者の皆様が大量に駆り出されてしまいました。そして三日前に冒険者の方々が帰還したのですが……」
ポーション不足の主な原因は東の街道に出現した魔物の所為だった。討伐に向かった冒険者が相次いで負傷したことからポーション不足に陥ったのが事の発端のようだ。この町の薬師も数少なく人手不足も相まってこの受付嬢も駆り出されていると。
ポーション作成をしようにも数少ない薬師は他の町へ出払っていて、現在ルイツの町にいる薬師は一人しかいないらしい。二万人規模のこの町で一人しか薬師が居ないのは流石にかなり不味い状況だ。
「わかりました。僕もポーション作りを手伝いますよ」
「ホントですか!! 是非よろしくお願いします!!」
「作成したポーションはどこに持って行けばいいですか?」
「組合に直接お持ちいただければ。それより製作の方を優先して頂けるとありがたいので私が直接取りに伺います!」
「お願いします。あっ今、小鳥の宿という宿屋に泊まってますので」
「わかりました、小鳥の宿ですね。ポーション製作に必要な素材はこちらにあります」
そう言って受付嬢はティカを伴って薬師組合の裏側へと案内した。
続いてティカ向かう先は薬師組合だ。薬師関係の依頼や納品、材料の発注からレシピの取り寄せといったものまで薬師が薬師として活動しやすくするために組合は存在している。
その薬師組合だが生産ギルドから目と鼻の先にあった。生産ギルド同様、大きな建物で高級そうなウッドの木材を使った外装にフラスコのシンボルが掘られた看板が吊るされていた。
――チリンチリン。
ドアノブを引いて入った先、これまた大理石が敷き詰められた床に、シックなデザインの内装だ。白と黒を基調とした内装はどこかモダンな雰囲気で、二つの受付と大きな書棚が目に付く。しかし、受付に人は見かけない。
「すみませーん。どなたかいらっしゃいませんか?」
「はいはーい、ちょっとお待ちくださいねー」
組合の受付に誰もいないので声を掛けてみると奥の方から返事があった。誰かが居てホッとしたティカは待合椅子に座って待つことにした。待つこと数分。慌ただしく受付の人が現れた。
「すみません。お待たせいたしました。本日はどのようなご依頼ですか?」
「あっ薬師組合の名簿登録をお願いしに来ました。ええっと、これが証明書です」
「えっ、お若いのに薬師の方なんですか!? 証明書を拝見いたします…………えっ、え? えぇえええええ!!」
今日一番の驚きを見せた。受付嬢が驚くたび手入れの行き届いた茶色の髪がゆらゆら揺れる。身長はティカより頭一つ分くらい高く、スラッとした体形で顔も美人だ。見た目の割にどこかお転婆娘のような印象を受ける。
美人の受付嬢は暫く証明書とティカを行ったり来たり。余りの驚きっぷりに証明書を持つ手が震え始めた。
「ちょ、ちょちょちょっとお待ちください。証明書のか、鑑定を行って来ますので……」
そう言い慌てた様子で証明書を持って行ってしまった。その後、また遠くの方で悲鳴が聞こえた。
「おお、お待たせしました。証明書の確認ができましたのでお返しし、します」
プルプル震える手で証明書を手渡してきた受付嬢に不思議そうな顔をしながら受け取るティカ。クルクルと証明書を丸めてポーチに仕舞った。
「お、お手数ですが今から名簿登録をしますのでこちらの書類にご記入をお願いします!」
「はい、わかりました」
名簿登録用の書類に名前、履歴、師弟関係者、技能、その他諸々を記入し受付嬢に提出した。受付嬢は提出された書類を専用の端末へ打ち込み登録を済ませ、ピピィピピっと機械音を立て金属のプレートへ情報を書き込んでいく。
このように身分証などの登録は魔法で専用の道具に書き込むのが一般的だ。現在受付嬢が使用している登録用の端末も魔道具の一種で改ざんや不正を防ぐため国が貸し出しているものだ。
魔道具から紫色の光線が金属プレートへ当たると文字を彫りおこすように刻まれていく。物珍し気に脇から覗き込むティカ。魔道具を見るのはルイツに入る際に受けたチェックを含めて二度目だ。ロマドと居た時は薬師関係のことしか教えてもらっていないため、こうして魔道具が動いているところを目にする機会がなかったのでとても興味深いのだろう。
「手続きが完了しました。こちらが薬師組合の会員証になりますので無くさないようにお願いします」
「ありがとうございます」
「そ、それと少し伺いたいのですが……」
「はい、何でしょう?」
「ティカ様はこの後、どういったご予定なのでしょうか?」
「さ、さま? ……予定と言われましても、ポーションとかロマニーを作って販売しようかと」
「ぽ、ポーションを作られるのですか!!」
「は、はいその予定ですけど……」
途中、受付嬢のティカ様発言に困惑しつつも、今後の予定を聞かれポーションを作って売る予定を話した。すると食い気味に身を乗り出してきた受付嬢を前に少し後ずさる。
一先ずポーション製作と卒業課題で作成したロマニーを薄めて販売するようだ。ロマドから幾ばくかの軍資金を貰ったがそれで生活できるのはせいぜい一ヶ月が関の山。なんとか生計を立てるためにも薬を作って販売、ゆくゆくは店を持つのも面白いだろう。
「その、実は現在深刻なポーション不足でして。ポーションを作成してくださる方を探していたんです。とても深刻で薬師ではない私も駆り出される始末でして」
「そんなに深刻なんですか……なぜポーション不足に?」
「十日前、東の街道に強力な魔物が出現しまして、その遠征に冒険者の皆様が大量に駆り出されてしまいました。そして三日前に冒険者の方々が帰還したのですが……」
ポーション不足の主な原因は東の街道に出現した魔物の所為だった。討伐に向かった冒険者が相次いで負傷したことからポーション不足に陥ったのが事の発端のようだ。この町の薬師も数少なく人手不足も相まってこの受付嬢も駆り出されていると。
ポーション作成をしようにも数少ない薬師は他の町へ出払っていて、現在ルイツの町にいる薬師は一人しかいないらしい。二万人規模のこの町で一人しか薬師が居ないのは流石にかなり不味い状況だ。
「わかりました。僕もポーション作りを手伝いますよ」
「ホントですか!! 是非よろしくお願いします!!」
「作成したポーションはどこに持って行けばいいですか?」
「組合に直接お持ちいただければ。それより製作の方を優先して頂けるとありがたいので私が直接取りに伺います!」
「お願いします。あっ今、小鳥の宿という宿屋に泊まってますので」
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