ひよっこ薬師の活用術

雨霧つゆは

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16話 材料集め

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 雑多なものが集まる区画へやってきたティカは早速露店を見て回った。解毒薬に必要な毒草関係から手始めに探して見ることにしたようだ。

 この区画では様々なものが集まる。ガラクタから珍品までそれこそ曰く付きの品なんかも時たま売られていたりする。なのでハーブ類や毒草関係だけないってことはないはずだ。
 一つ一つ露店を覗き込み、解毒薬の素材がないか確かめて回る。六つ目でやっと毒草が売られている露店を発見した。ポールに束になって吊るされている毒草の種類は一般的に知られているココル草とベニル草の二種類だった。
 植物由来のアルカロイド系の毒素を含む植物で、誤食すると吐き気、眩暈、痙攣、頭痛、悪寒、などの中毒症状が現れる。毒性に関してはそこまで強くなく、正直解毒薬の材料として使うには不向きだ。アルカロイド系の毒も様々だがだいたい似たような毒性で、今回蛇の魔物が使う毒素と系統が異なるため素材として使うか判断に困るところだ。製作しても汎用性に欠けた解毒薬ができるので無駄とは言わないが、あまり需要のない物になるのは間違いないだろう。
 ちなみにココル草、ベニル草の値段はそれぞれ一束銅貨4枚だ。普通に森で採取できるので妥当な値段だろう。

「うーん、ココル草とベニル草かぁ。…………ん? あれはドクテングダケか。あっ、あっちにはシグサレダケだ」

 二つ隣の露店でも素材を発見した。今度のは毒茸だ。
 毒草に比べ毒茸は毒性もかなり強く、誤食する頻度も高い。そのため菌糸類の解毒薬の需要もそこそこあるので練習がてら買って作ってみるのもいいかもしれない。
 店先に並んでいる茸は全部で五種類。ドクテングダケ、ドクアリダケ、ドクベニタケ、シグサレダケ、セイウンダケの五つ。このうちセイウンダケだけ毒茸類の類ではなく滋養強壮効果を持つ茸だ。主に精力剤の素材として使われ、セイウンと呼ばれるだあって薄青い色をした綺麗な見た目だ。
 ドクテングダケは紫色で中毒症状を起こす茸。ドクアリダケは青紫色の中程度の毒性を持つ。ドクベニダケはベニとつくだけあって紅色をした茸で、四つの中で一番毒性が強く誤食するとほぼほぼ助からない。というのも症状が現れ始めて五分以内に解毒薬を飲まないと死に至る。なんでもドクベニダケの持つキシベリンという毒素が体内へ入るとタンパク質を分解・破壊していく性質を持つかららしい。
 最後のシグサレダケは見た目、白色をした毒茸だ。変わった神経毒を持つ茸で、誤食後早期の解毒薬服用が求められる。十分経つと五十%以上の確率で後遺症が残り、後遺症の症状として手足の痺れ、半身麻痺、散発的痙攣など神経障害の症状が特徴だ。

「すみません、ここにある茸をそれぞれ下さい。ドクベニダケとセイウンダケは在庫がある分だけ買いたいんですが」
「はいよ。ドクベニダケとセイウンダケは全部で……他のはどのくらい欲しいんだ?」
「半分くらいで」
「あいよ。ドクテングダケとドクアリダケ、シグサレダケが各大銅貨1枚と銅貨2枚。ドクベニダケは大銅貨四枚。セイウンダケは銀貨1枚と大銅貨2枚だ。合計で銀貨1枚と大銅貨9枚銅貨6枚になるよ」
「銀貨が1枚、大銅貨が9枚で銅貨が6枚っと……はいこれで」
「まいどあり」

 セイウンダケの在庫は露店に並べられたものだけしかなく、一つ銀貨一枚と大銅貨二枚する。ティカがよく食べる麺料理が銅貨三枚なのでかなり高価な部類に入る。まあそれだけ珍しい素材なわけで、そもそも精力剤の需要が高いことも一因だ。特に貴族の需要が高く、子孫繁栄やら夜のお供に使ったりと幅広く買い占めを行ったりする。精力剤も消耗品とあって需要は絶えない。

 各種毒茸を買いまだまだ露店を回っていく。いくつか面白い素材や珍しいセイウンダケをちらほら見かける度に買い漁っていった。解毒薬に必要な材料の大半を買うことができたがこのままだとせいぜい下級の解毒薬にしかならない。せめて中級以上の解毒薬を作りたいと思っているティカだったが、肝心の材料が露店に売っていなかった。

 解毒薬に限った話じゃないが薬はその効能によって下級・中級・上級の階級に分けられる。もちろん上級の更に上、最上級と呼ばれる至高の領域とか神級とか一部の者が大仰な名前で呼んでいたりするが、そういった階級も存在する。まあ、最上級と呼ばれる薬を作れる薬師など殆どいないし、出回る量も極稀だからそう呼ぶのかもしれない。
 それで下級と中級とでは何が違うのか、それは単に効能の違いが上げられる。下級薬は治療したい対象の病気にのみ効果がある。対して中級は治療できる病気が一つだけでなく複数に作用する。この点が最大の違いだろう。それ故、階級が上げればその分良質な材料や調合工程も比例して複雑になっていく。
 薬によっては手の付けようがないくらい難しいものもあるが、今回作成するのは解毒薬だからそこまで複雑じゃない。しかし、下級から中級へ品質を上げるとなると解毒薬だとしても調合工程はごちゃごちゃしてくる。そこで手っ取り早く下級から中級の品質へ押し上げてくれる便利な素材が存在する。汎用性はなく使える薬にも限りがあるが解毒薬程度の薬なら十分効果を発揮することができる。その素材の名は、増剤だったり樹蜜液と呼ばれるものだ。正式名は樹蜜糖ツリーミード。薬樹と呼ばれる樹の樹液が原料だ。
 一般人に馴染みのないものなので、こういった露店販売に置いてあるような品物でもない。大都市の方だと薬の材料を専門で扱う販売所もあるがここルイツはそこまで規模が大きくないのでそう言った専門店はないだろう。地方都市の悲しい定めってやつかもしれない。

 なのでここは一旦薬師組合に行ってみて手に入らないか聞いてみるのが最良だろう。ティカもこれだけ露店を回って見つけることができなかったので組合に行けば……、という考えに自然に行きつく。現にティカが歩みを進めた先は組合のある方向だ。

 商業区を進み中央通りを抜け組合へ到着した。扉を開けドアベルの音に受付嬢のシルビアが反応した。午前中はアンナが受付をしていたが午後はシルビアが担当している。交代制なのだろうか。

「こんにちはティカさん」
「こんにちはシルビアさん。午後はシルビアさんが受付の担当ですか?」
「はい、午後は私が受付の担当をしてます。それとポーションの件ですがありがとうございます。お陰様でポーションの供給が安定してきました。品質も良く冒険者の方から好評ですよ。もう少し味を何とかできないか、と要望まで来るようになりました。……それで、どういったご用件で?」

 蛇の魔物による被害でポーション不足が問題だったがティカが四百本も大量に納品したお陰でポーション自体の供給も安定してきたようだ。品質も中級なので冒険者の評判も上々なのは頷ける。しかも味を何とかしてくれと要望するまでに改善できたことは素直に喜ばしい限りだ。

「実は樹蜜糖ツリーミードを仕入れられないか相談に来たんですよ」
「樹蜜糖ですか……少しお待ち下さいね、今在庫を確認してきますので」
「はい、お願いします」

 樹蜜糖の在庫を確認しにシルビアは奥の部屋へ姿を消した。その間、手持ち無沙汰なので受付横にある掲示板を眺めることにした。

 掲示板に張り出されている殆どが依頼書の類だ。依頼書以外は薬や素材の需要、大都市で需要のある物、求人募集といった広告だった。掲示板のを眺めていると依頼書の張り方に規則性を発見した。一番左が広告類、左から順に簡単な依頼で右側に行くにつれ難易度が高い依頼となっているようだ。試しに一番難しそうな依頼書を見ると『【A】〈霊薬及び秘薬求む〉高難易度討伐に先だって必要なものを下記の価格にて大量買取します。期日も下記に記載してますのでご確認を。』各種霊薬・秘薬の買取依頼だった。
 募集理由の欄には高難易度の魔物討伐を討伐するためと記載されてある。その下に各種霊薬の買取金額が一覧で載っていた。一番金額が高いのは高等級の霊薬丸で一つ金貨二十枚という金額だった。一般市民の約一年分もの給料に相当する。中等級の霊薬丸で金貨十枚、下等級でも金貨五枚とかなり高額な買取だ。

 依頼書を眺めていく中で面白いまたは商売の種になりそうな物も張り出されていた。
 『【C】〈聖なる薬剤求〉近頃、体の活力が心配になり夜もままならない。活力漲る薬を常時募集します。等級により金額が変動・金額は以下の通り。高等級金貨40枚、準高等級金貨30枚、中等級金貨20枚、下等級金貨10枚。』

 聖なる薬剤。所謂、精力剤のことだ。案の定、募集しているのは貴族だった。一番難しい依頼で最高買取金貨二十枚に対して倍の四十枚。破格の値段だ。だがしかし、実際のところ高等級の精力剤となるとかなり難しい。現役の薬師の中でも作れるものは一握りだろう。だいたい出回るのは下等級が九割、中等級が一割といったところだろう。
 密かに精力剤の販売で大儲けできないか画策しているティカは、まじまじとその依頼書を見つめていた。

「高等級で金貨40枚。今の僕の実力でも準高等級が精一杯だよなぁ、んー」
「お待たせしました、ティカさん」
「わっ!」
「すみません! 驚かせてしまいましたか」
「え、いやその」
「ん? 聖なる薬剤、ですか……貴族の方に人気の品ですね。興味がおありで?」
「あはは、すみません。お金になるかなと……少しばかり興味があります」

 ティカも年頃の男だ。商売を抜きにしても興味があるのは仕方のないことだ。色々と察した様子のシルビアだったが、深くは踏み込まないようにしたようだ。

「それで樹蜜糖の在庫なのですが、在庫がない状態でして。お取り寄せしますと数日から場合によっては10日以上掛かるかもしれません」
「そう、ですか」

 色々と見られたくないところを見られて気まずい思いのティカ。若干、顔が赤い。シルビアの返事にも上ずった声が出てしまっていた。
 しかしながら、当初の目的である樹蜜糖の在庫がないと来た。さて、どうしたものか。
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