ひよっこ薬師の活用術

雨霧つゆは

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4話 銀晶薬

「ムルギ草は準備オーケー、お次は蒸留水っと」

 棚に置いてある蒸留装置に魔力を流して稼働させ、部屋の片隅から蒸留に用いる水を汲み取り蒸留装置へ流し込む。硝子で出来たフラスコ内ではボコボコと音を立てながら水が早くも沸騰し始め、数分後には別のフラスコ内へ蒸留された水が出来上がった。

 出来上がった蒸留水を調合釜へ注ぎ、先ほどすり潰したムルギ草の粉末も適量加えて掻き混ぜる。釜の中は蒸留水とムルギ草の粉末が程よく溶け合い、薄緑色をした液体で満たされた。木製の混ぜ棒で釜の中をかき混ぜる姿は、さながら薬師そのものだ。かき混ぜ方も洗練されている。

「えぇーっと、蒸留水を入れた後に石灰粉と結晶石を同量加えて透明になるまで掻き混ぜる、だったよね」

 あらかじめ分量器で小分けにしておいた石灰粉と結晶石の粉末の包みを開封して釜へ流し込む。再び掻き混ぜ半透明になるまでその作業は続く。

 暫く掻き混ぜていると先ほどまで薄緑色をしていた液体が次第に色褪せ半透明へと近づいてきた。半透明になった液体へ小瓶に入った低級魔石の粉末を小さじ二杯ほど加え、再度掻き混ぜる。

 試験課題であるこの銀晶薬ロマニーとは、見た目が薄っすら銀色を帯びているところからこの名前が付けられたとされている。効能は治癒力を高め、一般的に普及する回復薬より幅広い病状に効く優れものだ。一滴口に含めば軽傷であればすぐさま完治し、小瓶一つであらゆる病状を直すと言われている。
 だが実際に出回っている物と言えば回復薬と同等の低品質なものばかり。値段もお手頃なうえ庶民でも少しお金を出せば買える程だ。以前はかなり高級な部類に入る薬だったのだが、見習い薬師の卒業試験として扱われ始めてからは高品質な物は殆ど見かけなくなった。高品質なものとなると入手するのはなかなか骨が折れる現状だ。何故かというと腕のいい薬師が根本的に少ないからだ。
 一流の薬師が作る薬というのは、どんな薬であろうと階級によらず最高品質が保証され市場に出回ることはまずないと言っていいだろう。出回ったとしても恐ろしく高価だ。まず庶民では手に入らないだろう。恐らく手に入れることのできる者は貴族くらいのものだ。
 それ故、一部の者は商品を高品質と偽ったり、金儲けをするために薬師になろうという者が数多くいる。しかしながら、そう甘くないからこそ薬師は少なく貴重な存在なのだ。

 少し薬師について説明すると、薬師を目指すには専門機関である魔法学校へ入学する必要がある。そこでは、薬草学、錬金学、調合学を始めとした薬師としての一般教養に加え、魔法学、武術学などの護身術を学ぶ。
 魔法学校を卒業後、現役薬師に弟子入りして、各人の師匠が出題する卒業試験を合格すれば晴れて一人前の薬師になることができる。
 学校を卒業したからと言って直ぐに薬師に、とはならない。与えられるものがあるとすれば『見習い』の称号くらいのものだ。
 一人前の薬師として登録されるには、師弟関係を築き師匠の下で経験を積むことこそが必須なわけなのだが、実はこの師弟関係になる事こそが一番の難関と言えよう。
 理由としては現役の薬師が弟子を取るだけの余裕がないという尤もらしい内容で、多くはこの壁に躓いて薬師になることを諦める者が半数以上を占めるらしい。

 そんな狭き門を潜り抜け、今まさに見習い薬師を卒業するまでに辿り着いたティカは恐らく才能があるのだろう。師匠であるロマドもティカの物事を吸収する速さに暫し驚かされていた。釜を必死に掻き混ぜる姿は何とも頼りないが、才能はあるのだ才能は。

 調合も最終段階に突入しているようで、隠し薬に薬草採取で偶然見つけたテンニン結晶を粉末にした物を少量入れていた。
 その後もひたすら掻き混ぜる作業をすること一刻。釜の底が透き通って見えるほどの彩度と光沢のある液体へと変化していた。

 一端掻き混ぜるのを止めて棚から小瓶を一つ取り出し蓋を開け、銀晶薬を鉄製の掬いで瓶の中を満たしていく。満たされた小瓶は部屋の限られた明かりの中でも光を放ち、ティカが小瓶を左右に揺らして満足そうに頷いた。

 銀晶薬が完成した後は、せっせと小瓶に移し替える作業が続き小瓶8本と詰め替え用の大瓶2本がテーブルの上で綺麗に整列している。その内、小瓶を一本手に取り紫色の布で包むとポーチに仕舞い込む。

「完成したから師匠に見せに行きますか。あぁ~これで不合格だったらどうしよ」

 ポーチへ丁寧に仕舞った小瓶を見つめそんなことを口にするティカだったが、その表情は言葉とは裏腹に何だかとても嬉しそうだ。暫し机の薬たちを見つめた後、ポーチを身に付けロマドの下へ赴くため部屋を出ていった。

 部屋の外は真っ暗で日中から夜中まで夢中で作業をしていたようだ。
 いつも見慣れていた景色はなりを潜め、夜の深みを漂わせていた。ティカは薬が完成したという高揚感が残っている所為か、その足取りは至って軽やかだ。
 右手に持つランタンの光を頼りにロマドがいる建物へ到着した。扉を魔法で開錠した先は薄暗く、唯一二階から零れる光が一階を淡く照らしていた。

「お邪魔しまーす」

 後ろ手に扉を閉めるとガチャリと金属音が部屋に響く。

「師匠ぉー、起きてますかぁ~」

 ティカがか細い声を上げるがロマドからの返答はなかった。
 また日を改めようと体を反転させかけた時、頭上からいつも聞き慣れた声が降り注ぐ。

「……ティカ?」

 二階から移動する足音を立てながら顔を覗かせたのはティカの師匠でもあるロマドだ。手すりから見下ろすロマドは普段身に付けていない眼鏡を掛けていた。

「あっ! 師匠! 今お時間ありますか?」
「ないと言っても、夜分にわざわざ来たのだし要件を聞かないわけにも行かないでしょ?」
「まぁ、そうなんですが」
「まあいいわ、上がっていらっしゃい。要件は上で聞きましょう」
「はい!」

 二階の手すり越しに言葉を交わしたロマドが顔を引っ込めると、嬉々とした表情を見せるティカであった。
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