食事はひとりで、もしくは君と

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5. 疑惑の手作りクッキー -1

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 替え玉まできっちり胃に収め、店を出た。ゴールデンウィーク直前にしては寒い日で、朝、薄手のセーターを着てこなかったことを後悔する。
 ジャケットの前ごろもを掻き合わせて肩をすくめていると、サキがのぞきこんできた。

「るたくん、寒い?」
「そっちは寒くないの?」
「鍛えてるから」

 得意げにニヤつく男の脛を蹴り飛ばしたくなる。社内SEに筋肉は不要だから、と強がってみても、寒いものは寒い。

「鍛えてるって、何してるの?」

 がちがち鳴る歯をなだめながら言葉を絞り出すと、サキはちょっと息を飲んで、それから気まずそうに視線を泳がせた。
 あ、踏み込み過ぎた。
 水たまりを踏んでしまったような後悔がじわじわ心に滲んでいく。こういう時のうまい挽回方法すら、自分は知らない。
 会話が途切れる。タクシーがすぐ脇を通り、遠ざかっていく。早く駅に着かないかな、と思って足を速めようとしたとき、腕を捕まれた。

「るたくん、ちょっといい?」

 連れ込まれたのは小さな公園だった。一本だけ刺さっている街灯が、うらびれたブランコと砂場をわびしく照らしている。
 入り口の車止めに尻を乗せると、サキはトートバックから袋を取り出して、めずらしく真面目な表情で佑を見た。

「突然で悪いんだけど」
「うん」
「これ、食べてみてくれない?」
「……うん?」

 包みを渡される。半透明なビニールの向こうに触れる、硬い感触。

「クッキー?」
「そう」

 青白い街灯の明かりでも分かるほど、そのクッキーの形は崩れていた。おそらくリボンとかツイストした何かとか、そういう立体的な形を目指したのだろうが、ねじくれ曲がりすぎて、途中で投げだした知恵の輪みたいになっている。

「作ったの?」
「そう。あ、手作りとかダメな人?」
「いや」

 そんなことはないけれど。というか、家族以外の手作り料理なんて、食べる機会すらなかったけど。
 手のひらサイズのそれを、袋から一つ摘まみだす。見た目は悪いが、取り出した瞬間ふわっと広がったバニラの香りは悪くなかった。

 実は睡眠薬とか、ヤバい薬が練り込まれてたりしないよな、と不安になる。

 だって、いきなり手作りを渡してくる意味がわからない。とはいえ、薬物を混ぜて自分をどうにかしようとする心当たりもない。金が欲しいならトイレに立ったときを狙えばいいだけだし、身代金を要求できるような実家でもないし、自分の持ち物で価値のありそうなものなんて臓器くらいしかないし、それだってわざわざ薬を使わなくても、この人なら体格差を武器に一瞬で押さえ込める。
 ちらっとサキを見ると、まるで合否発表を待つかのように、真剣な目をしていた。とてもじゃないけど、何かを隠していたり、騙していたりするようには見えない。まあいいか、という気になって、クッキーを口に入れた。
 咀嚼し、飲み込む。

「どう?」
「うん、おいしい」

 ちょっと驚くほど美味しかった。バターがふんだんに使われているのだろうか、歯触りよく崩れた生地は鼻に抜けるコクと控えめな甘みが絶妙に絡み合い、いくつでも食べたくなる味だった。あの見た目からはとても想像できない。
 褒めたつもりだったのだけど、サキは「よかった」と言いつつ、なぜか眉を下げた。

「ちなみに、これ、何の形だと思う?」

 訊ねられて考える。

「わかった、タツノオトシゴ」

 辰年だし。我ながら冴えてる、と思っていると、彼は黙ったまま立ち上がり、近くの自販機でホットの紅茶を買って差し出してくる。礼も言わずに受け取って飲み、ひと息ついてから口元を拭った。

「正解は?」
「花のつもりだったんだけど」
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