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第5羽 哀れな青年を救え!
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何でイタズラをしても俺の話でもちきりにならないんだ! こっちは昼食抜きで頑張っているのに。どうしたものか。そんな風に考え込んでいると、一人の子供が木に引っかかった風船を取ろうと必死にジャンプしているのが目に入った。なんてかわいそうなんだ。どれ、俺が取ってやるよ。
俺は風船についた紐をくわえると、子供が取れそうな高さにある枝に引っ掛ける。子供は俺を怖がっているようだが――カラスだから当たり前かもしれない――勇気を振り絞ってこちらに向かって歩いてくる。俺が電線に飛び移ると、サッと駆け寄り風船を大事そうに抱きかかえる。
子供はしばらく立ち尽くしていたが、「カラスさん、ありがとう」とつぶやくと母親のもとに走り去っていった。「ありがとう」か。なるほど、イタズラするだけでは話題にならない。そうなればすべきことは一つ。人の役に立つことをすればいいのだ。困った人を助ける。そして、悪い奴らを懲らしめる。これなら「カラス界の義賊」として名をはせるだろう。
おや、あそこに不良に絡まれている青年がいる。次はこいつだな。さて、頑張りますか。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
青年は明らかに困っていた。誰にも見えない路地裏に追い込まれて。青年を不良が囲い込み、とても逃げ出せそうにはない。さて、どうやって助けるかな。
辺りを観察していると、小石が転がっているのに気付いた。この大きさなら俺でも持ち運べる。これを不良の頭に落とせば? それでいこう。俺は精一杯の力で小石を持ち上げると――人間だったらこんなに苦労しないのに――不良の頭上に持っていく。すると、青年と不良たちの会話が聞こえてくる。
「俺たちから逃げられると思っているのか?」
「僕が何をしたって言うんだ!」
「それは――窃盗だ!」
不良はそう言うと、青年のバッグを奪い取る。チャックが開かれると、そこにはシールの貼られていないお菓子の数々が詰まっていた。なんてこった! 青年の方が悪事を働いていたとは。しかし、これをネタに不良がゆすれば喧嘩両成敗だ。さあ、どうする?
「さて、窃盗をしたんだ、相応しい罰を受けなきゃならねぇ」
お、これは青年を脅す流れか。小石一個じゃ足りなさそうだ。不良は携帯電話を取り出すとこう言った。
「おい店主。お前のコンビニで盗みを働いた野郎を捕まえた。警察を呼べ!」
警察ぅ!? こいつら単なる不良じゃなくて、めっちゃいいやつじゃないか! と、感動していると青年は不良たちのスキをついて逃げ出そうと試みる。いや、それは無駄だって。不良から逃げられるわけが――って、こいつらめっちゃヒョロヒョロじゃないか! 人間だったころの俺よりも。
青年は不良の一人を殴ると、素早く駆け出す。そうはさせるか! 俺は青年の頭上まで必死に羽ばたくと、小石を落とす。コツンと音を立てて落ちたそれは、青年の足止めをするには十分だった。
数分後、警察を連れた店主がやってくると、青年も観念したのか地面に座り込む。これで一件落着。
「お前だな、最近カラス界で話題なのは」
気づくと三羽のカラスが俺を取り囲んでいた。
「そして、お前は元人間だという噂が流れている」
「事実を確かめるためにもお前を尋問する必要がある」
三羽がまくし立てる。
「さあ、ついてこい。お前をあの方の前に連行するのが我々三羽ガラスの役目」
どうやら逃げることはできそうにない。……尋問か。果たしてうまく切り抜けることはできるのだろうか。俺、どうなっちゃうの?
「さあ、こっちに来い!」
「おい、あの方がいるのはこっちだ」
「お前ら何言っているんだ。あっちだろ」
どうやら、何とかなりそうだわ。
俺は風船についた紐をくわえると、子供が取れそうな高さにある枝に引っ掛ける。子供は俺を怖がっているようだが――カラスだから当たり前かもしれない――勇気を振り絞ってこちらに向かって歩いてくる。俺が電線に飛び移ると、サッと駆け寄り風船を大事そうに抱きかかえる。
子供はしばらく立ち尽くしていたが、「カラスさん、ありがとう」とつぶやくと母親のもとに走り去っていった。「ありがとう」か。なるほど、イタズラするだけでは話題にならない。そうなればすべきことは一つ。人の役に立つことをすればいいのだ。困った人を助ける。そして、悪い奴らを懲らしめる。これなら「カラス界の義賊」として名をはせるだろう。
おや、あそこに不良に絡まれている青年がいる。次はこいつだな。さて、頑張りますか。
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青年は明らかに困っていた。誰にも見えない路地裏に追い込まれて。青年を不良が囲い込み、とても逃げ出せそうにはない。さて、どうやって助けるかな。
辺りを観察していると、小石が転がっているのに気付いた。この大きさなら俺でも持ち運べる。これを不良の頭に落とせば? それでいこう。俺は精一杯の力で小石を持ち上げると――人間だったらこんなに苦労しないのに――不良の頭上に持っていく。すると、青年と不良たちの会話が聞こえてくる。
「俺たちから逃げられると思っているのか?」
「僕が何をしたって言うんだ!」
「それは――窃盗だ!」
不良はそう言うと、青年のバッグを奪い取る。チャックが開かれると、そこにはシールの貼られていないお菓子の数々が詰まっていた。なんてこった! 青年の方が悪事を働いていたとは。しかし、これをネタに不良がゆすれば喧嘩両成敗だ。さあ、どうする?
「さて、窃盗をしたんだ、相応しい罰を受けなきゃならねぇ」
お、これは青年を脅す流れか。小石一個じゃ足りなさそうだ。不良は携帯電話を取り出すとこう言った。
「おい店主。お前のコンビニで盗みを働いた野郎を捕まえた。警察を呼べ!」
警察ぅ!? こいつら単なる不良じゃなくて、めっちゃいいやつじゃないか! と、感動していると青年は不良たちのスキをついて逃げ出そうと試みる。いや、それは無駄だって。不良から逃げられるわけが――って、こいつらめっちゃヒョロヒョロじゃないか! 人間だったころの俺よりも。
青年は不良の一人を殴ると、素早く駆け出す。そうはさせるか! 俺は青年の頭上まで必死に羽ばたくと、小石を落とす。コツンと音を立てて落ちたそれは、青年の足止めをするには十分だった。
数分後、警察を連れた店主がやってくると、青年も観念したのか地面に座り込む。これで一件落着。
「お前だな、最近カラス界で話題なのは」
気づくと三羽のカラスが俺を取り囲んでいた。
「そして、お前は元人間だという噂が流れている」
「事実を確かめるためにもお前を尋問する必要がある」
三羽がまくし立てる。
「さあ、ついてこい。お前をあの方の前に連行するのが我々三羽ガラスの役目」
どうやら逃げることはできそうにない。……尋問か。果たしてうまく切り抜けることはできるのだろうか。俺、どうなっちゃうの?
「さあ、こっちに来い!」
「おい、あの方がいるのはこっちだ」
「お前ら何言っているんだ。あっちだろ」
どうやら、何とかなりそうだわ。
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