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海棠常務と対峙
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その夜、立夫はダチの村木と酒を飲んでいた。
「すげえな……千賀子さんをそこまで動かしたんか」
村木が半ば呆れ、半ば感心したように言う。
立夫はグラスを傾け、淡々と言った。
「俺はな、やっぱり銀行なしでは生きられん。この道で行く」
「千賀子は俺のために尽くすって決めた」
「鬱? あんなもん、役割が決まれば治る。人間て不思議なもんや」
村木は苦笑しながら頷いた。
「正念場やぞ。完全に喧嘩売った形や」
「でも……お前なら、ほんまにやるかもしれんな」
そのときだった。
立夫のスマートフォンが震えた。
画面には、海棠常務秘書の名前。
「前島様。常務が、お会いしたいと申しております。東京まで来ていただけませんか」
立夫は、ゆっくりと口角を上げた。
――来たな。
ここからが、本当の勝負や。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
一方、千賀子は父親と話をしていた
「前島立夫という男を調べさせた」
海棠常務は、低く言った。書斎の空気が一段重くなる。
「……とんでもない食わせ者だな。はっきり言ってな」
千賀子の肩がわずかに強張った。
「お父さん、それは言い過ぎです」
「言い過ぎ?」
「ええ。だって、知らないくせに……何を言うのよ」
声が少し上ずった。だが目は逸らさない。
「立夫さんは、良い人よ」
海棠は鼻で笑った。
「ほう。すっかり擁護に回るじゃないか」
「……」
「洗脳されたか?」
千賀子は思わず一歩前に出た。
「違います。私は、自分で判断してます」
その必死さに、海棠は一瞬だけ言葉を失った。
「だがな」
と、すぐに声を整える。
「人事部長に啖呵を切ったそうじゃないか。あれは行内で評判になってるぞ」
「……」
「正直言ってな、前島のことなんてどうでもいい」
千賀子の胸が、ひくりと鳴った。
「わしはな、お前を見直した」
海棠は椅子にもたれ、腕を組んだ。
「鬱だ何だと言って、姫路にやったときは……正直、再起できるのか心配した」
「……」
「だが、どうだ。見違えたじゃないか」
その言葉に、千賀子の目が潤んだ。
父に認められた記憶は、いつ以来だろうか。
「なあ、千賀子」
海棠の声が、少しだけ柔らいだ。
「前島の野郎を、連れてこい」
「……え?」
「話をしようじゃないか」
目を細め、ゆっくりと言う。
「逃げも隠れもできん場所でな」
千賀子は、息を呑んだ。
それが試練なのか、裁きなのか、あるいは――。
「分かりました」
彼女は、静かに答えた。
「立夫さんに、伝えます」
部屋を出たあと、廊下で深く息を吐いた。
震える指でスマートフォンを取り出す。
――東京。
――父が、会いたいと言っている。
送信ボタンを押す直前、彼女は一瞬だけ立ち止まった。
この一言で、すべてが動く。
運命も、覚悟も、そして――男の真価も。
千賀子は画面を見つめ、決意を固めた。
(逃げないで。あなたなら、きっと……)
そして、送信した。
「すげえな……千賀子さんをそこまで動かしたんか」
村木が半ば呆れ、半ば感心したように言う。
立夫はグラスを傾け、淡々と言った。
「俺はな、やっぱり銀行なしでは生きられん。この道で行く」
「千賀子は俺のために尽くすって決めた」
「鬱? あんなもん、役割が決まれば治る。人間て不思議なもんや」
村木は苦笑しながら頷いた。
「正念場やぞ。完全に喧嘩売った形や」
「でも……お前なら、ほんまにやるかもしれんな」
そのときだった。
立夫のスマートフォンが震えた。
画面には、海棠常務秘書の名前。
「前島様。常務が、お会いしたいと申しております。東京まで来ていただけませんか」
立夫は、ゆっくりと口角を上げた。
――来たな。
ここからが、本当の勝負や。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
一方、千賀子は父親と話をしていた
「前島立夫という男を調べさせた」
海棠常務は、低く言った。書斎の空気が一段重くなる。
「……とんでもない食わせ者だな。はっきり言ってな」
千賀子の肩がわずかに強張った。
「お父さん、それは言い過ぎです」
「言い過ぎ?」
「ええ。だって、知らないくせに……何を言うのよ」
声が少し上ずった。だが目は逸らさない。
「立夫さんは、良い人よ」
海棠は鼻で笑った。
「ほう。すっかり擁護に回るじゃないか」
「……」
「洗脳されたか?」
千賀子は思わず一歩前に出た。
「違います。私は、自分で判断してます」
その必死さに、海棠は一瞬だけ言葉を失った。
「だがな」
と、すぐに声を整える。
「人事部長に啖呵を切ったそうじゃないか。あれは行内で評判になってるぞ」
「……」
「正直言ってな、前島のことなんてどうでもいい」
千賀子の胸が、ひくりと鳴った。
「わしはな、お前を見直した」
海棠は椅子にもたれ、腕を組んだ。
「鬱だ何だと言って、姫路にやったときは……正直、再起できるのか心配した」
「……」
「だが、どうだ。見違えたじゃないか」
その言葉に、千賀子の目が潤んだ。
父に認められた記憶は、いつ以来だろうか。
「なあ、千賀子」
海棠の声が、少しだけ柔らいだ。
「前島の野郎を、連れてこい」
「……え?」
「話をしようじゃないか」
目を細め、ゆっくりと言う。
「逃げも隠れもできん場所でな」
千賀子は、息を呑んだ。
それが試練なのか、裁きなのか、あるいは――。
「分かりました」
彼女は、静かに答えた。
「立夫さんに、伝えます」
部屋を出たあと、廊下で深く息を吐いた。
震える指でスマートフォンを取り出す。
――東京。
――父が、会いたいと言っている。
送信ボタンを押す直前、彼女は一瞬だけ立ち止まった。
この一言で、すべてが動く。
運命も、覚悟も、そして――男の真価も。
千賀子は画面を見つめ、決意を固めた。
(逃げないで。あなたなら、きっと……)
そして、送信した。
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