半グレ銀行マンの復讐と野望

愛国文恵

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令嬢 千賀子

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 その夜――
 千賀子は、立夫の胸に静かに抱かれていた。
 昼間の緊張が嘘のように、部屋は柔らかな沈黙に包まれている。

 千賀子は顔を胸に寄せたまま、小さく言った。

「ご主人さまは……私の思った通りの人やった。
 めっちゃ、うれしいです」

 立夫は、少しだけ苦笑した。

「そうかい?
 俺は普通のこと言うたまでや。違うか?」

 千賀子は顔を上げ、安心しきった表情で微笑んだ。

「ほんまに、その通りです」

 その目には、恐れも迷いもなかった。
 昼間、支店を震え上がらせた男と、いま目の前にいる男は同じはずなのに、彼女にとってはまったく違う存在に見えていた。

 支店では冷酷な裁定者。 だが、自分にとっては――守ってくれる人。

千賀子は、立夫の胸にそっと頬を押し当てた。

「みんな怖がってるけど……私は、大安心してる」

 立夫は何も言わず、彼女の髪を軽く撫でた。
 その仕草は愛しさがこもったものだった

「ご主人様に私はどこまでもついていきます 運命の出会いやったんやね」

「前から思ってたんやけど大阪弁、無理に使わんでええ 俺になじもうとしている気持ちはわかるけどさ(笑)
そう?私必死やねん 捨てられたらと・・」
そか・・立夫は黙って引き寄せ唇を重ねた 

しばらくして千賀子が遠慮がちに言った 「あの 引っ越ししたらと思うんですけど 」
「ん? 引っ越し?」

「引っ越し? ここからか?」

「はい。ここから私のマンションにです」

 立夫は思わず笑った。

「ん? お前のマンションってあったんかい」

「そらありますよ。(笑) 聞かれなかったら言わなかっただけです」

 そういえば、ここに住むと言ったら千賀子は身一つで来た。
 命じたから来た――それ以上の意味を考えたことはなかった。
 そもそも、彼女がどこに住んでいたのかすら興味がなかったのだ。

「で、住まいというのはここよりええのか?」

「はい、かなり……」

 “かなり”という言葉に引っかかりながらも、立夫はついていくことにした。

翌日

 案内された先は、三宮以西では最高層といわれるタワーマンションだった。
 三十二階建!。見上げても上が見えない。

「なんやお前、こんなとこに住んでたんか」

 部屋に入ると、まるで迎賓館だった。
 シャンデリア、厚い絨毯、高級調度品。4LDKの広さは、立夫のワンルームとは比較にならない。

「なんで黙ってたんや?」

「ひけらかすみたいで……ご主人さまが怒るかと思って」

 その言葉に、立夫は少しだけ黙った。
 千賀子の気遣いが、今さらながら分かったからだ。

「借りてんのか?」

「はい」

「家賃は?」

「五十万です」

 立夫は目を丸くした。
 だが本当に驚いたのは、その次だった。

「東京本部が払ってます」

 つまり銀行の経費だ。

「……まさに令嬢やな」

 さらに、光熱費も生活費も、出前代まですべて銀行払いで処理されるという。

「お前、暮らしのほうは仕送りとかあったんか?」

「はい。毎月百五十万ほど」

 立夫は思わず天井を見上げた。

「へーーーッ」

 銀行という組織の“見えない金の流れ”が、ここに凝縮されていた。
 支店ではコスト削減だの効率化だのを叫びながら、上では桁違いの金が静かに流れている。

「全部、銀行持ちか……」

 皮肉のように笑うしかなかった。

「わかった。引っ越そう。あんな汚い部屋に住んでる意味ないわ」

「ご主人様、ありがとうございます」

「俺が言うセリフやで、それ」



 
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