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思い出の少女
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「国王陛下は部屋においでか」
普段は冷徹とも見えるほど落ち着いた防衛担当大臣のリトルフ・ガンドールが焦燥の色を浮かべて忙しくレオナードに尋ねた。
「はい、しかし、今は・・・」
取り込み中で部屋に入れない、とレオナードが言う前に、ガンドールは王の部屋の扉をノックも無しに開けた。
まさかのとっさな行動に静止が出来なかったレオナードが慌ててガンドールを追って部屋に入ったときには遅かった。
ベッドの上で世界が滅亡するくらいに不機嫌オーラを発した国王のキリウスと恥ずかしげにシーツに埋もれてる女王のレーナの姿があった。
「で?レーナとの愛のひと時を邪魔するからには、それ相当の理由があるんだろうな、ガンドール」
キリウスの端正な顔から洩れた、獰猛な低い声を聞いた新米侍従のフランは全身が凍り付いた。
やっぱり殺される、と思ったのだ。
こうなったら自分では国王の機嫌を直すことなどできないと分かっているレオナードは、静かに成り行きを見守ることにした。
「国王陛下。無礼は承知しております。ですが、今は一刻を争います」
「何があったの?」国王の代わりに答えたのは女王のレーナだった。侍従のレオナードにも劣らないほどの沈着冷静な防衛担当大臣が顔色を変えるなんてよほどのことだと、レーナの声は緊張を含んでいた。
「イスラトルの町に妖物が出ました」
「イスラトル!?」
声を上げたのはレオナードだった。キリウスは侍従を薄青い目で一瞥するとガンドールに顔を向け
「被害の状況は?」
「町の者が二人ほど取り込まれております。国王陛下、早急に魔法使いへの妖物退治依頼をお願いします」
ガンドールの言葉に、全裸のままベッドを抜け出したキリウスは手早く服を着るとレーナに向かって優しく
「貴女は心配しなくていい。腹の子のためにゆっくり寝ててくれ」
そう言うとガンドールを伴って部屋を出ていった。
「フラン、私も着替えるわ。少女召使いたちを呼んでくれる?」
寝てろと言われても落ち着かないのか、レーナは着替えるために召使いを呼ぶようにフランに言うと、レオナードの方を見て、
「どうかしたの?レオナード。顔色が悪いわ」
フランも呼び鈴を鳴らしながら、いつも冷静なレオナードの表情が強張っているのを見て不思議そうな顔になった。
「気を使わせてしまい申し訳ありません、女王陛下。・・・実は、イスラトルは私の叔母が住んでる町なので・・・つい、取り乱してしまいました」
「まあ、それは大変だわ。すぐに叔母様の安否をキリウスに確認させるわ」
そう言ったレーナにレオナードは首を振って
「いけません。私ごときのことで国王陛下のお手を煩わすことはできません。どうか、お聞き捨てを願います。・・・ああ、少女召使いが来たようです。私とフランは廊下で待ちますので着替えが済みましたらお呼びください」
少女召使いたちが室内に入るとレオナードはフランを促して、二人で廊下に出た。
「叔母のところには子供の頃よく遊びに行きました」
レオナードはつぶやくように言った。フランに話しかけているようにも、独り言のようにも聞こえた。
「子供がいなかった叔母は私を可愛がってくれましたが、その頃の私は叔母の過干渉が煩わしくて、いつも、家を抜け出しては隣の家の同い年の少女と遊んでいました」
「少女?」
フランが聞き返す。自分のことを話すレオナードが珍しくて、つい見惚れていた。
「そう・・・少女です」
「好きだったんですか?初恋とか?」
初めてレオナードはフランの存在に気がついたように「あなたは何でも色恋にしてしまうのですね。そういうのではなかったと思いますよ。ただ、仲がよかっただけです」
フランの顔に浮かんでいるのはわずかの嫉妬だと、気づきもしないレオナードは思い出を語るように遠い目になった。
「その少女は、女王と同じ琥珀・・・金色の瞳をしていました。大人しい少女で・・・仲がいいと言っても、私が勝手に話すのを聞いてるだけだったような気もします」
「女王と同じ?やっぱりレオナードさんはその少女が好きだったのじゃないですか?だから、同じ瞳の女王に引かれたとか・・・」
レオナードはフランの青い目に映る自分を見ながら
「あなたの思考は私には理解できません。同じ色の瞳が人を好きになる理由になるのですか?」
フランは言葉を詰まらせて俯いた。
きっと少女が青い瞳をしていたとしても、レオナードが自分を好きになるわけじゃないと、フランは自分の思慮の欠けた質問を恥じた。
「ごめんなさい。僕は、ただ・・・なんだかその少女が羨ましくて。レオナードさんが気を許していたのだと思うと・・・」
「フランさん、あなたが羨ましいと思う気持ちがよく分かりません。それに幼い頃の話で、気を許すとかいう意識はなかったと思うのですが」
「羨ましいですよ。僕は、あなたに気を許してもらってないもの」
フランが拗ねたように口をとがらす。
レオナードは新米の侍従がまるで自分とは違う生き物のように感じた。
会話も噛み合っていないように思える。話してると違和感を覚える。
男と話している気がしない。男色家というものは皆こんなものなのかと、レオナードが戸惑っていると
「レオナードさん、フランさん、女王陛下のお着替えが終わりました」
部屋から少女召使いが顔を覗かせて、二人の会話を断ち切ったことにレオナードは心の奥で安堵した。
普段は冷徹とも見えるほど落ち着いた防衛担当大臣のリトルフ・ガンドールが焦燥の色を浮かべて忙しくレオナードに尋ねた。
「はい、しかし、今は・・・」
取り込み中で部屋に入れない、とレオナードが言う前に、ガンドールは王の部屋の扉をノックも無しに開けた。
まさかのとっさな行動に静止が出来なかったレオナードが慌ててガンドールを追って部屋に入ったときには遅かった。
ベッドの上で世界が滅亡するくらいに不機嫌オーラを発した国王のキリウスと恥ずかしげにシーツに埋もれてる女王のレーナの姿があった。
「で?レーナとの愛のひと時を邪魔するからには、それ相当の理由があるんだろうな、ガンドール」
キリウスの端正な顔から洩れた、獰猛な低い声を聞いた新米侍従のフランは全身が凍り付いた。
やっぱり殺される、と思ったのだ。
こうなったら自分では国王の機嫌を直すことなどできないと分かっているレオナードは、静かに成り行きを見守ることにした。
「国王陛下。無礼は承知しております。ですが、今は一刻を争います」
「何があったの?」国王の代わりに答えたのは女王のレーナだった。侍従のレオナードにも劣らないほどの沈着冷静な防衛担当大臣が顔色を変えるなんてよほどのことだと、レーナの声は緊張を含んでいた。
「イスラトルの町に妖物が出ました」
「イスラトル!?」
声を上げたのはレオナードだった。キリウスは侍従を薄青い目で一瞥するとガンドールに顔を向け
「被害の状況は?」
「町の者が二人ほど取り込まれております。国王陛下、早急に魔法使いへの妖物退治依頼をお願いします」
ガンドールの言葉に、全裸のままベッドを抜け出したキリウスは手早く服を着るとレーナに向かって優しく
「貴女は心配しなくていい。腹の子のためにゆっくり寝ててくれ」
そう言うとガンドールを伴って部屋を出ていった。
「フラン、私も着替えるわ。少女召使いたちを呼んでくれる?」
寝てろと言われても落ち着かないのか、レーナは着替えるために召使いを呼ぶようにフランに言うと、レオナードの方を見て、
「どうかしたの?レオナード。顔色が悪いわ」
フランも呼び鈴を鳴らしながら、いつも冷静なレオナードの表情が強張っているのを見て不思議そうな顔になった。
「気を使わせてしまい申し訳ありません、女王陛下。・・・実は、イスラトルは私の叔母が住んでる町なので・・・つい、取り乱してしまいました」
「まあ、それは大変だわ。すぐに叔母様の安否をキリウスに確認させるわ」
そう言ったレーナにレオナードは首を振って
「いけません。私ごときのことで国王陛下のお手を煩わすことはできません。どうか、お聞き捨てを願います。・・・ああ、少女召使いが来たようです。私とフランは廊下で待ちますので着替えが済みましたらお呼びください」
少女召使いたちが室内に入るとレオナードはフランを促して、二人で廊下に出た。
「叔母のところには子供の頃よく遊びに行きました」
レオナードはつぶやくように言った。フランに話しかけているようにも、独り言のようにも聞こえた。
「子供がいなかった叔母は私を可愛がってくれましたが、その頃の私は叔母の過干渉が煩わしくて、いつも、家を抜け出しては隣の家の同い年の少女と遊んでいました」
「少女?」
フランが聞き返す。自分のことを話すレオナードが珍しくて、つい見惚れていた。
「そう・・・少女です」
「好きだったんですか?初恋とか?」
初めてレオナードはフランの存在に気がついたように「あなたは何でも色恋にしてしまうのですね。そういうのではなかったと思いますよ。ただ、仲がよかっただけです」
フランの顔に浮かんでいるのはわずかの嫉妬だと、気づきもしないレオナードは思い出を語るように遠い目になった。
「その少女は、女王と同じ琥珀・・・金色の瞳をしていました。大人しい少女で・・・仲がいいと言っても、私が勝手に話すのを聞いてるだけだったような気もします」
「女王と同じ?やっぱりレオナードさんはその少女が好きだったのじゃないですか?だから、同じ瞳の女王に引かれたとか・・・」
レオナードはフランの青い目に映る自分を見ながら
「あなたの思考は私には理解できません。同じ色の瞳が人を好きになる理由になるのですか?」
フランは言葉を詰まらせて俯いた。
きっと少女が青い瞳をしていたとしても、レオナードが自分を好きになるわけじゃないと、フランは自分の思慮の欠けた質問を恥じた。
「ごめんなさい。僕は、ただ・・・なんだかその少女が羨ましくて。レオナードさんが気を許していたのだと思うと・・・」
「フランさん、あなたが羨ましいと思う気持ちがよく分かりません。それに幼い頃の話で、気を許すとかいう意識はなかったと思うのですが」
「羨ましいですよ。僕は、あなたに気を許してもらってないもの」
フランが拗ねたように口をとがらす。
レオナードは新米の侍従がまるで自分とは違う生き物のように感じた。
会話も噛み合っていないように思える。話してると違和感を覚える。
男と話している気がしない。男色家というものは皆こんなものなのかと、レオナードが戸惑っていると
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