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誤解?
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やはり、自分はフランに冷たかったかもしれない。
と、レオナードは眠りにつく前にフランの悲し気な青い目を思い出し後悔の念を抱いていた。
同じ侍従として、少しは労わりの言葉をかけてあげるのも必要かもしれない。
フランさんのことは・・・嫌いではないのだから。
「フランさん、明日は一人で起きられるでしょうか」
そう呟いてレオナード眠りに落ちるために目を閉じた。
空はまだ白む前の闇に覆われている。レオナードはいつもの時間にいつものように起きて、身支度をしてから、今朝はフランを起こしに行かなくてもいいのだと、気づいた。
少し早く起き過ぎた。
部屋の片づけでもしようかと彼は思い、自分の部屋を見回したが、どこも整理されていて手を付けるところがない。では、本でも読もうと書架の戸を開けたものの、目の前にフランの顔がちらついて落ち着かない。
レオナードは自分の心配性を諫めながらも、抑えることができずに溜息をついた。
一人で起きろとは厳しく言ったけれど、フランには無理かもしれない、やはり様子を見に行こう、とレオナードは自室の扉を開けた。
「?」
レオナードは自分の部屋の扉の前にある物体に気づき、眉を寄せた。
「・・・」
その物体は侍従の制服を着ている。
「まさか・・・フランさん?」
廊下で熟睡している侍従に声をかけた。侍従は起きる気配もない。
「フランさん!」
強めの呼びかけをして、レオナードはフランを揺り動かした。
「なぜこんなところで寝ているんですか」
「あ、レオナードさん・・・おはようございます」
ぼんやりと焦点の定まらない目でフランは朝のあいさつをすると「僕、一人で起きれました」と自慢げに言った。
「廊下の行き倒れは『起きれた』とは言わないと思いますが?」
レオナードはこめかみを指で抑えて尋ねた。
「いつからそこにいるんですか」
「え・・・と・・・寝過ごしたらいけないと思って・・・夜中に着替えて、それからここで朝になるのを待ってました」
フランの寝とぼけた答えにレオナードの血管が切れそうになり、さらにこめかみを強く押さえた。
「フランさん・・・私は・・・私が言ったのは、朝、起きろと・・・」
「ふぁい・・・大丈夫です。僕、起きてます」
「黙りなさい」
レオナードはフランを抱き上げて、彼には珍しく乱暴に部屋の扉を開け、フランをベッドに放り込んだ。
「ふぇ!?なっ・・・なに?」
すっかり目が覚めたフランにレオナードが不機嫌そのものの声で
「ここで少しおやすみになってて下さい。寝不足で仕事して、女王陛下に粗相があってはいけませんから」
「だ、大丈夫です!僕は」
レオナードは息をつくと、起き上がりそうになったフランの華奢な身体を押さえて
「私が心配だと言ってるのですよ」
「はい?」
「いいから、寝ていてください。後で起こしにきますから」
声は穏やかだけれど、深い藍色の目で凄まれてフランは身を縮めて小さく頷いた。
フランの返答を確認すると、よろしい、とレオナードは身だしなみを整えて部屋を出ていった。
「きょうはフランはどうしたのかしら」
女王の部屋で女王のレーナにそう尋ねられて、レオナードは果物の皮を剥く手を止めた。
「そういえば朝から見えないな」
国王が朝食をたいらげ、食後のお茶を手にしてやはりレオナードを見る。
レオナードは皮を剥いた果物を切り分けて皿に盛り、優雅な手つきで女王の前に置くと
「フランなら私の部屋でまだ寝ています」
と、ありのままを伝えた。
「・・・・・・・・」
キリウスとレーナがその言葉の意味を色々と深読みしているように無言でレオナードを見ている。
「あ・・・レオナード。俺は偏見とか持ってるわけではないが、お前がそういう趣味だったなんて、今まで知らなかったぞ。いや・・・ま・・・人を好きになるのに性別は関係ない・・・が」
微妙に遠慮がちな口調でレオナードを直視しないでキリウスが言った。
レオナードは主君の下世話な誤解に気づき、不愉快さ隠さずに応えた。
「国王陛下。私はいたって普通ですが?」
レーナが笑いをかみ殺した顔で
「そうよ。キリウスったら、全然、問題ないわよ。だって、フランは女性だもの。ね?レオナード。ベッドを共にしたってことは、もう分かっているのでしょう?フランが女性だって」
「は?」
国王のキリウスと侍従のレオナードが同時に声を上げた。
レーナの口から気軽に投下された爆弾発言に男性2人はお互いに視線を交わして、それからレーナに向かった。
「どういうことだ?レーナ」
「えっとね。爵位を継ぐために男性の格好してるんだって言ってたわ。男性として育てられたのですって。声も、薬でつぶしちゃったらしいわ。だけど、本当は愛らしい女性よ。レオナードはちゃんと気づいていたのね。さすがだわ」
レオナードは穏やかな笑みを浮かべてレーナを見つめると
「女王陛下は私をいつも驚かせてくださいます。でも、フランが女性などという冗談は・・・」
いや、とレオナードは笑みを止めた。
あの繊細な金の髪。華奢な身体つき。潤んだ青い瞳。そして・・・あの柔らかくて甘い唇・・・
女性みたいだと思っていたけれど、本当に女性なら、合点がいく。
いや、いや、そんなことより、国王も女王も誤解している。
私がフランと夜を共に、などと。
「私は何もしていません!誤解です。ただ、フランを寝かせてるだけです!私とフランは何も・・・」
いや、いや、いや、誤解じゃない。確かに、口づけをした。フランに口で愛してもらった。
だけど、アレは女性とは思わずに・・・いや、いや、いや、いや、男だったらもっと悪いだろう。
レオナードのパニックは頂点を極めて、もう思考回路は停止寸前だった。
その時、すべての混乱を破るように部屋の扉が開いて、防衛担当大臣のガンドールが飛び込んできた。
「両陛下、また、例の妖物がイスラトルに現れました!」
ガンドールは国王と女王の前に直立すると叫ぶように言った。
と、レオナードは眠りにつく前にフランの悲し気な青い目を思い出し後悔の念を抱いていた。
同じ侍従として、少しは労わりの言葉をかけてあげるのも必要かもしれない。
フランさんのことは・・・嫌いではないのだから。
「フランさん、明日は一人で起きられるでしょうか」
そう呟いてレオナード眠りに落ちるために目を閉じた。
空はまだ白む前の闇に覆われている。レオナードはいつもの時間にいつものように起きて、身支度をしてから、今朝はフランを起こしに行かなくてもいいのだと、気づいた。
少し早く起き過ぎた。
部屋の片づけでもしようかと彼は思い、自分の部屋を見回したが、どこも整理されていて手を付けるところがない。では、本でも読もうと書架の戸を開けたものの、目の前にフランの顔がちらついて落ち着かない。
レオナードは自分の心配性を諫めながらも、抑えることができずに溜息をついた。
一人で起きろとは厳しく言ったけれど、フランには無理かもしれない、やはり様子を見に行こう、とレオナードは自室の扉を開けた。
「?」
レオナードは自分の部屋の扉の前にある物体に気づき、眉を寄せた。
「・・・」
その物体は侍従の制服を着ている。
「まさか・・・フランさん?」
廊下で熟睡している侍従に声をかけた。侍従は起きる気配もない。
「フランさん!」
強めの呼びかけをして、レオナードはフランを揺り動かした。
「なぜこんなところで寝ているんですか」
「あ、レオナードさん・・・おはようございます」
ぼんやりと焦点の定まらない目でフランは朝のあいさつをすると「僕、一人で起きれました」と自慢げに言った。
「廊下の行き倒れは『起きれた』とは言わないと思いますが?」
レオナードはこめかみを指で抑えて尋ねた。
「いつからそこにいるんですか」
「え・・・と・・・寝過ごしたらいけないと思って・・・夜中に着替えて、それからここで朝になるのを待ってました」
フランの寝とぼけた答えにレオナードの血管が切れそうになり、さらにこめかみを強く押さえた。
「フランさん・・・私は・・・私が言ったのは、朝、起きろと・・・」
「ふぁい・・・大丈夫です。僕、起きてます」
「黙りなさい」
レオナードはフランを抱き上げて、彼には珍しく乱暴に部屋の扉を開け、フランをベッドに放り込んだ。
「ふぇ!?なっ・・・なに?」
すっかり目が覚めたフランにレオナードが不機嫌そのものの声で
「ここで少しおやすみになってて下さい。寝不足で仕事して、女王陛下に粗相があってはいけませんから」
「だ、大丈夫です!僕は」
レオナードは息をつくと、起き上がりそうになったフランの華奢な身体を押さえて
「私が心配だと言ってるのですよ」
「はい?」
「いいから、寝ていてください。後で起こしにきますから」
声は穏やかだけれど、深い藍色の目で凄まれてフランは身を縮めて小さく頷いた。
フランの返答を確認すると、よろしい、とレオナードは身だしなみを整えて部屋を出ていった。
「きょうはフランはどうしたのかしら」
女王の部屋で女王のレーナにそう尋ねられて、レオナードは果物の皮を剥く手を止めた。
「そういえば朝から見えないな」
国王が朝食をたいらげ、食後のお茶を手にしてやはりレオナードを見る。
レオナードは皮を剥いた果物を切り分けて皿に盛り、優雅な手つきで女王の前に置くと
「フランなら私の部屋でまだ寝ています」
と、ありのままを伝えた。
「・・・・・・・・」
キリウスとレーナがその言葉の意味を色々と深読みしているように無言でレオナードを見ている。
「あ・・・レオナード。俺は偏見とか持ってるわけではないが、お前がそういう趣味だったなんて、今まで知らなかったぞ。いや・・・ま・・・人を好きになるのに性別は関係ない・・・が」
微妙に遠慮がちな口調でレオナードを直視しないでキリウスが言った。
レオナードは主君の下世話な誤解に気づき、不愉快さ隠さずに応えた。
「国王陛下。私はいたって普通ですが?」
レーナが笑いをかみ殺した顔で
「そうよ。キリウスったら、全然、問題ないわよ。だって、フランは女性だもの。ね?レオナード。ベッドを共にしたってことは、もう分かっているのでしょう?フランが女性だって」
「は?」
国王のキリウスと侍従のレオナードが同時に声を上げた。
レーナの口から気軽に投下された爆弾発言に男性2人はお互いに視線を交わして、それからレーナに向かった。
「どういうことだ?レーナ」
「えっとね。爵位を継ぐために男性の格好してるんだって言ってたわ。男性として育てられたのですって。声も、薬でつぶしちゃったらしいわ。だけど、本当は愛らしい女性よ。レオナードはちゃんと気づいていたのね。さすがだわ」
レオナードは穏やかな笑みを浮かべてレーナを見つめると
「女王陛下は私をいつも驚かせてくださいます。でも、フランが女性などという冗談は・・・」
いや、とレオナードは笑みを止めた。
あの繊細な金の髪。華奢な身体つき。潤んだ青い瞳。そして・・・あの柔らかくて甘い唇・・・
女性みたいだと思っていたけれど、本当に女性なら、合点がいく。
いや、いや、そんなことより、国王も女王も誤解している。
私がフランと夜を共に、などと。
「私は何もしていません!誤解です。ただ、フランを寝かせてるだけです!私とフランは何も・・・」
いや、いや、いや、誤解じゃない。確かに、口づけをした。フランに口で愛してもらった。
だけど、アレは女性とは思わずに・・・いや、いや、いや、いや、男だったらもっと悪いだろう。
レオナードのパニックは頂点を極めて、もう思考回路は停止寸前だった。
その時、すべての混乱を破るように部屋の扉が開いて、防衛担当大臣のガンドールが飛び込んできた。
「両陛下、また、例の妖物がイスラトルに現れました!」
ガンドールは国王と女王の前に直立すると叫ぶように言った。
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