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揺れる迷い
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「分かった。すぐマグノリアに連絡する。今の被害状況は?取り込まれた人間がいるか?」
キリウスは立ち上がって足早に扉に向かいながらガンドールに尋ねた。
「は、やはり二人ほど、取り込まれております。すぐに警護団が人民を非難させたのですが・・・」
キリウスとガンドールの話が耳に入ったレーナは不安気に顔を曇らせると
「また二人も・・・ああ、レオナード・・・叔母様のことが心配でしょう?私たちのことはいいから、すぐにイスラトルに発ってもいいのよ?」
「お心遣いありがとうございます、女王陛下。ですが、明日の出立で構いません。イスラトルは広いので、叔母の家の近くに妖物が出たとは限りませんし」
侍従は女王に穏やかな笑みを向けると、気になっていることを尋ねた。
「それよりも、女王陛下・・・こういう時に申し訳ありません。先ほどの話ですが、フランが女性だというのは本当ですか?」
「え?・・・・・・え?・・・・ええっ?」
レーナの琥珀色の瞳が困惑で見開かれた。
「まさか、レオナード・・・知らなかったの!?」
「はい、先ほどまでは」
「あああああああっ」
レーナは頭を抱えると「やってしまったわ。私ったら、どうしましょう。フランに内緒にしてくれって頼まれていたのに」
「内緒に?どうしてでしょう」
レオナードはフランがなぜ内緒にして欲しいと言ったのか、理解できなかった。男であろうと女であろうと自分がフランに対する態度を変えるわけではないのに。
レーナはレオナードを凝視すると、困った表情になって
「フランは貴方のことが好きなのよ、レオナード。だから・・・女性だって言えなかったんだわ」
レーナの言葉はレオナードには理解不能だった。なぜ好きなら自分が女性だと言えないのだ。
レーナは切なげな瞳で深い溜息をつくと、
「貴方が自分を愛していないって思ってるからよ。女として愛されないなら女である意味はないもの」
「・・・申し訳ありません。女王陛下、私には陛下が何をおっしゃっているのか分かりません」
今まで生きてきた中で、こんな分かり辛い問題に直面したのは初めてだった。
「そうね・・・告白して振られて避けられるよりも、友だちとして側にいたほうがいい・・・って感じかしら」
「それは・・・つまり、私が女王陛下に好きだと告白して国王に殺されるよりも、黙ったまま侍従として側にお仕えしたほうがいいということですか?」
つい自分のことを例えにしてしまってからレオナードは
「あ、むろんこれは例え話しですが」と慌てて付け加えた。
「なんだか、ちょっと違う気がするわ。そうね・・・レオナード、貴方はフランをどう思っているの?」
「私は・・・」
嫌いではない、ただの仕事仲間。
男だと思っていたから・・・でも、女性なら・・・
「女王陛下・・・実は、よく分からないのです。嫌いではないし・・・好意を寄せてくれているのも、嫌だとは思っていません。ですが、私がフランをどう思っているかと、いうと・・・自分でもよく分からないのです。彼・・・いえ、彼女はいつも私を悩ませる存在で、イラつくのですが、無視ができなくて」
レオナードの答えを聞いて、レーナは「あら」と目を丸くして、それから薄く笑みを浮かべた。
「大丈夫よ、レオナード。ちゃんと、分かるときがくるから。それまで、待ったほうがいいと思うわ。そのときまで、フランが女性だということは知らないふりをしてあげてね」
そうよ、キリウスにも口止めしなくては、と女王は独り言をつぶやくとレオナードにお茶のおかわりを頼んだ。
レオナードは厨房に熱いお湯を取りに階段を降りながら、女王の意向を汲んでフランを今まで通り男として扱うことにした。
そして、まだ部屋で寝かせているのだったと気がついて
「そろそろ、フランさんを起こさなくてはいけませんね」
と、厨房に行く前に自分の部屋のほうに足を進めた。
気持ちよさそうに寝ている。
人の気も知らないで、とレオナードは自分のベッドを占領して安らかな寝息をたてているフランを見下ろした。
金色の髪が薄い紅を引いたような頬にかかって、その色合いに悩ましさを感じる。
無防備に男の前で寝顔を晒しているフランにレオナードは不可思議な苛立ちを感じた。
女王陛下が女性だとは知らないふりをしてくれと言うなら命令に従うけれど、意識するなと言うのは無理なことだ。
「フランさん、そろそろ起きてください」
「・・・・・・」
「フランさん・・・」
「・・・・・・」
聞こえるのは寝息ばかりで、まるで反応がない。女性だと分かった今はみだりに体に触れることも憚られて、レオナードは天を仰いだ。
そういえば、とレオナードは女王の言葉を思い出した。
フランさんが私のことを好きだとレーナ様はおっしゃった。あの時は深く考えなかったけれど、これは忌々しき問題かもしれない。
冷たくすると自分自身が後悔の念に苛まれるし、優しくすると誤解されるかもしれない。
「私が想っているのはレーナ様だけ・・・」
他の女性など眼中にないはずなのに、なぜこんなにフランに煩わされているのか、とレオナードはイラつき、そしてそんな自身を戒めた。
知性と理性を至上とした自分が女王への恋慕で心揺らめき、フランで心乱されている。
女性は魔物だと、レオナードは深い溜息をついて、起きる気配のないフランを置いて部屋を出た。
キリウスは立ち上がって足早に扉に向かいながらガンドールに尋ねた。
「は、やはり二人ほど、取り込まれております。すぐに警護団が人民を非難させたのですが・・・」
キリウスとガンドールの話が耳に入ったレーナは不安気に顔を曇らせると
「また二人も・・・ああ、レオナード・・・叔母様のことが心配でしょう?私たちのことはいいから、すぐにイスラトルに発ってもいいのよ?」
「お心遣いありがとうございます、女王陛下。ですが、明日の出立で構いません。イスラトルは広いので、叔母の家の近くに妖物が出たとは限りませんし」
侍従は女王に穏やかな笑みを向けると、気になっていることを尋ねた。
「それよりも、女王陛下・・・こういう時に申し訳ありません。先ほどの話ですが、フランが女性だというのは本当ですか?」
「え?・・・・・・え?・・・・ええっ?」
レーナの琥珀色の瞳が困惑で見開かれた。
「まさか、レオナード・・・知らなかったの!?」
「はい、先ほどまでは」
「あああああああっ」
レーナは頭を抱えると「やってしまったわ。私ったら、どうしましょう。フランに内緒にしてくれって頼まれていたのに」
「内緒に?どうしてでしょう」
レオナードはフランがなぜ内緒にして欲しいと言ったのか、理解できなかった。男であろうと女であろうと自分がフランに対する態度を変えるわけではないのに。
レーナはレオナードを凝視すると、困った表情になって
「フランは貴方のことが好きなのよ、レオナード。だから・・・女性だって言えなかったんだわ」
レーナの言葉はレオナードには理解不能だった。なぜ好きなら自分が女性だと言えないのだ。
レーナは切なげな瞳で深い溜息をつくと、
「貴方が自分を愛していないって思ってるからよ。女として愛されないなら女である意味はないもの」
「・・・申し訳ありません。女王陛下、私には陛下が何をおっしゃっているのか分かりません」
今まで生きてきた中で、こんな分かり辛い問題に直面したのは初めてだった。
「そうね・・・告白して振られて避けられるよりも、友だちとして側にいたほうがいい・・・って感じかしら」
「それは・・・つまり、私が女王陛下に好きだと告白して国王に殺されるよりも、黙ったまま侍従として側にお仕えしたほうがいいということですか?」
つい自分のことを例えにしてしまってからレオナードは
「あ、むろんこれは例え話しですが」と慌てて付け加えた。
「なんだか、ちょっと違う気がするわ。そうね・・・レオナード、貴方はフランをどう思っているの?」
「私は・・・」
嫌いではない、ただの仕事仲間。
男だと思っていたから・・・でも、女性なら・・・
「女王陛下・・・実は、よく分からないのです。嫌いではないし・・・好意を寄せてくれているのも、嫌だとは思っていません。ですが、私がフランをどう思っているかと、いうと・・・自分でもよく分からないのです。彼・・・いえ、彼女はいつも私を悩ませる存在で、イラつくのですが、無視ができなくて」
レオナードの答えを聞いて、レーナは「あら」と目を丸くして、それから薄く笑みを浮かべた。
「大丈夫よ、レオナード。ちゃんと、分かるときがくるから。それまで、待ったほうがいいと思うわ。そのときまで、フランが女性だということは知らないふりをしてあげてね」
そうよ、キリウスにも口止めしなくては、と女王は独り言をつぶやくとレオナードにお茶のおかわりを頼んだ。
レオナードは厨房に熱いお湯を取りに階段を降りながら、女王の意向を汲んでフランを今まで通り男として扱うことにした。
そして、まだ部屋で寝かせているのだったと気がついて
「そろそろ、フランさんを起こさなくてはいけませんね」
と、厨房に行く前に自分の部屋のほうに足を進めた。
気持ちよさそうに寝ている。
人の気も知らないで、とレオナードは自分のベッドを占領して安らかな寝息をたてているフランを見下ろした。
金色の髪が薄い紅を引いたような頬にかかって、その色合いに悩ましさを感じる。
無防備に男の前で寝顔を晒しているフランにレオナードは不可思議な苛立ちを感じた。
女王陛下が女性だとは知らないふりをしてくれと言うなら命令に従うけれど、意識するなと言うのは無理なことだ。
「フランさん、そろそろ起きてください」
「・・・・・・」
「フランさん・・・」
「・・・・・・」
聞こえるのは寝息ばかりで、まるで反応がない。女性だと分かった今はみだりに体に触れることも憚られて、レオナードは天を仰いだ。
そういえば、とレオナードは女王の言葉を思い出した。
フランさんが私のことを好きだとレーナ様はおっしゃった。あの時は深く考えなかったけれど、これは忌々しき問題かもしれない。
冷たくすると自分自身が後悔の念に苛まれるし、優しくすると誤解されるかもしれない。
「私が想っているのはレーナ様だけ・・・」
他の女性など眼中にないはずなのに、なぜこんなにフランに煩わされているのか、とレオナードはイラつき、そしてそんな自身を戒めた。
知性と理性を至上とした自分が女王への恋慕で心揺らめき、フランで心乱されている。
女性は魔物だと、レオナードは深い溜息をついて、起きる気配のないフランを置いて部屋を出た。
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