28 / 64
28話 特訓の成果は。
しおりを挟む
それから私は何度も何度も呪文の練習をして、もう確実に瞬間移動の魔法だけは使えるようになった。
レーナ様の東屋にも現れてみたら、レーナ様は目を丸くして、そして、笑ってくれた。
「イリア、すっかり魔法使いみたいだわ」
「はい、リュシエール様の教え方がすごく上手なんです」
本心だった。どんなに学校の授業で習っても、全然うまくいかなかったのに。リュシエール様の教え方のほうがまるで魔法みたいだ。
「そうね。学校の先生より塾の先生のほうが教え方は上手いっていうものね」
レーナ様はそう言って、リュシエール様と私にいっしょに午後のおやつを食べるように勧めた。
そういえば、妙にお腹が空いて、甘いものが食べたくなった。
リュシエール様が魔力を使うと甘いものが欲しくなる、って言っていたのが私にも納得できた。
「レーナ、ずいぶんノンビリしてるけど、午後から国務はなかったの?」
リュシエール様がふんわりクリームをのっけたフルーツのゼリーを2,3人分、皿に盛ってスプーンで格闘しながらレーナ様に尋ねた。
「ええ。きょうは1日休みにしたの。それに・・・今ね、厚生担当大臣のアランフェットと『働き方改革』を話し合っているのよ」
「は・・・働き・・・かた?」
私とリュシエール様はふたりで、顔を見合わせた。
「そう。朝から晩まで休みなしで働くって古いって思うのよね」
レーナ様はチラッとフランさんを見たような気がした。フランさんはアリーシャ様をとろけそうな顔で見ててレーナ様の視線には気がつかなかったみたい。
レーナ様、何か考えてるんだろうな、って私は思ったけど、口にはしなかった。
リュシエール様がおやつを食ベ終わると、立ち上がって
「じゃ、イリア。魔法の練習しようか」
「えっ、もう?」
私はあわてて自分の分のおやつを口に詰め込んだ。
「あら、熱心なのはイリアよりリュシエールのほうみたいね?きょうは瞬間移動はできるようになったんでしょう?練習は明日にしたらいいいんじゃない。イリアだって疲れているだろうし」
のんびりとそう言ったレーナ様は言葉を続けた。
「ところで、魔法使いといっしょなら人間の私でも瞬間に移動できるのかしら?」
リュシエール様が「できるよ。僕が手をつないでいたら、僕といっしょに移動できるよ」と即答したけど、
「いけません!レーナ様。瞬間移動はダメです!!」
ものすごいイキオイでフランさんが止めた。
「レオナードが前にリュシエール様と瞬間移動したときに、吐き気と眩暈で死にそうになってましたから」
フランさんはリュシエール様を恨みがましそうな目で見ている。よほどレオナードさんが死にそうになってたんだろうな、って思ってフランさんに同情しちゃった。
「ま、そういうこともあるよね。人間にはちょっとキツイかもしんない」
ケロリとそう言ったリュシエール様だったけど、私は改めて、人間と魔法使いは別な生き物なんだって思った。
だから、人間の女性と魔法使いの男性の間に子が生まれるのは、本当に、かなり、確率の少ないことなんだって。
私はその数少ない、できそこないだ。
神様がなにか間違いをしてしまって、私をお母さんに与えてしまったんだ。
でも、それでもリュシエール様は普通に接してくれる・・・ううん、普通以上に優しくしてくれる。
それが『好き』とかいう感情からくるものじゃないことは分かってる。
リュシエール様は、レーナ様から託された私を大切に扱っているだけだ。
私がもし、ただの混血魔法使いならきっと歯牙にもかけてもらえなかっただろう。
そうしたら、私はただリュシエール様を遠くで見ている外級魔法使い・・・ううん、お姿さえ見れない立場だった。
こうして、リュシエール様の隣で、笑っている私は、いったい何かしら。
「イリア、どうしたの?怖い顔してる」
リュシエール様の美貌が目の前にあって、私は思わずのけぞった。
「な、な、なんでもないです。え・・・と。今頃、キリウス様とレオナードさんはどうしていらっしゃるのかな、って思って」
口からとっさにウソが出た。
「そうね・・・キリウス・・・ね。順調にいけば、今頃、王妃様の墓参りも終わっているころかしら。夕刻には帰路に着くはず・・・なんだけど、レオナードはまだしもキリウスが何のトラブルもなく普通に帰ってくるとは思えなくて・・・」
と、レーナ様が顔を曇らせたので「大丈夫ですよ。レオナードが付いてますから。無茶はさせないはずです。・・・たぶん・・・?」
フランさんの語尾が不安げになって、なんか励ましになってないな、って私は思った。
「イリア、どうする?もっと魔法の練習をするかい?もし疲れているなら、明日にしてもいいけど」
レーナ様に言われたのを気にしたのか、リュシエール様が私に優しい言葉をかけてくれた。
「ううん、大丈夫。私、もっと魔法の練習をしたいです!」
そう、特に下級魔法使い試験に出る魔法の呪文を練習したい。リュシエール様に教えてもらったら、きっとできる気がする。
と。
意気込んで練習に臨んだ私は、夕食の用意ができる時間までに、美しい庭園を三分の二ほど破壊した。
それでも呪文は上手くいかなくて。
落ち込んだ私にリュシエール様は遠くを見るような目で「明日にはきっとできるよ」と棒読みで言ってくれた。
明日にはこの庭は跡形もなくなくなっちゃうかもしれないと、私は奈落の底に落ちる気分で晩餐の席についたのだった。
レーナ様の東屋にも現れてみたら、レーナ様は目を丸くして、そして、笑ってくれた。
「イリア、すっかり魔法使いみたいだわ」
「はい、リュシエール様の教え方がすごく上手なんです」
本心だった。どんなに学校の授業で習っても、全然うまくいかなかったのに。リュシエール様の教え方のほうがまるで魔法みたいだ。
「そうね。学校の先生より塾の先生のほうが教え方は上手いっていうものね」
レーナ様はそう言って、リュシエール様と私にいっしょに午後のおやつを食べるように勧めた。
そういえば、妙にお腹が空いて、甘いものが食べたくなった。
リュシエール様が魔力を使うと甘いものが欲しくなる、って言っていたのが私にも納得できた。
「レーナ、ずいぶんノンビリしてるけど、午後から国務はなかったの?」
リュシエール様がふんわりクリームをのっけたフルーツのゼリーを2,3人分、皿に盛ってスプーンで格闘しながらレーナ様に尋ねた。
「ええ。きょうは1日休みにしたの。それに・・・今ね、厚生担当大臣のアランフェットと『働き方改革』を話し合っているのよ」
「は・・・働き・・・かた?」
私とリュシエール様はふたりで、顔を見合わせた。
「そう。朝から晩まで休みなしで働くって古いって思うのよね」
レーナ様はチラッとフランさんを見たような気がした。フランさんはアリーシャ様をとろけそうな顔で見ててレーナ様の視線には気がつかなかったみたい。
レーナ様、何か考えてるんだろうな、って私は思ったけど、口にはしなかった。
リュシエール様がおやつを食ベ終わると、立ち上がって
「じゃ、イリア。魔法の練習しようか」
「えっ、もう?」
私はあわてて自分の分のおやつを口に詰め込んだ。
「あら、熱心なのはイリアよりリュシエールのほうみたいね?きょうは瞬間移動はできるようになったんでしょう?練習は明日にしたらいいいんじゃない。イリアだって疲れているだろうし」
のんびりとそう言ったレーナ様は言葉を続けた。
「ところで、魔法使いといっしょなら人間の私でも瞬間に移動できるのかしら?」
リュシエール様が「できるよ。僕が手をつないでいたら、僕といっしょに移動できるよ」と即答したけど、
「いけません!レーナ様。瞬間移動はダメです!!」
ものすごいイキオイでフランさんが止めた。
「レオナードが前にリュシエール様と瞬間移動したときに、吐き気と眩暈で死にそうになってましたから」
フランさんはリュシエール様を恨みがましそうな目で見ている。よほどレオナードさんが死にそうになってたんだろうな、って思ってフランさんに同情しちゃった。
「ま、そういうこともあるよね。人間にはちょっとキツイかもしんない」
ケロリとそう言ったリュシエール様だったけど、私は改めて、人間と魔法使いは別な生き物なんだって思った。
だから、人間の女性と魔法使いの男性の間に子が生まれるのは、本当に、かなり、確率の少ないことなんだって。
私はその数少ない、できそこないだ。
神様がなにか間違いをしてしまって、私をお母さんに与えてしまったんだ。
でも、それでもリュシエール様は普通に接してくれる・・・ううん、普通以上に優しくしてくれる。
それが『好き』とかいう感情からくるものじゃないことは分かってる。
リュシエール様は、レーナ様から託された私を大切に扱っているだけだ。
私がもし、ただの混血魔法使いならきっと歯牙にもかけてもらえなかっただろう。
そうしたら、私はただリュシエール様を遠くで見ている外級魔法使い・・・ううん、お姿さえ見れない立場だった。
こうして、リュシエール様の隣で、笑っている私は、いったい何かしら。
「イリア、どうしたの?怖い顔してる」
リュシエール様の美貌が目の前にあって、私は思わずのけぞった。
「な、な、なんでもないです。え・・・と。今頃、キリウス様とレオナードさんはどうしていらっしゃるのかな、って思って」
口からとっさにウソが出た。
「そうね・・・キリウス・・・ね。順調にいけば、今頃、王妃様の墓参りも終わっているころかしら。夕刻には帰路に着くはず・・・なんだけど、レオナードはまだしもキリウスが何のトラブルもなく普通に帰ってくるとは思えなくて・・・」
と、レーナ様が顔を曇らせたので「大丈夫ですよ。レオナードが付いてますから。無茶はさせないはずです。・・・たぶん・・・?」
フランさんの語尾が不安げになって、なんか励ましになってないな、って私は思った。
「イリア、どうする?もっと魔法の練習をするかい?もし疲れているなら、明日にしてもいいけど」
レーナ様に言われたのを気にしたのか、リュシエール様が私に優しい言葉をかけてくれた。
「ううん、大丈夫。私、もっと魔法の練習をしたいです!」
そう、特に下級魔法使い試験に出る魔法の呪文を練習したい。リュシエール様に教えてもらったら、きっとできる気がする。
と。
意気込んで練習に臨んだ私は、夕食の用意ができる時間までに、美しい庭園を三分の二ほど破壊した。
それでも呪文は上手くいかなくて。
落ち込んだ私にリュシエール様は遠くを見るような目で「明日にはきっとできるよ」と棒読みで言ってくれた。
明日にはこの庭は跡形もなくなくなっちゃうかもしれないと、私は奈落の底に落ちる気分で晩餐の席についたのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
36
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる