効能には個人差があります

暁基朋也

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青い薬は、静かに効く

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その薬は、カプセルだった。
青くて、つるりとしていて、拍子抜けするほど普通だった。

「病気をしない身体になる」

売り文句はそれだけ。
副作用なし。期限なし。一度飲めば一生もの。
怪しい? もちろん怪しい。でも、俺は買った。

理由は単純、俺は二十五歳にして「健康」を失う恐さを知っていたから。

胃潰瘍、偏頭痛、不整脈の疑い。
医者は「まだ若いから」と笑ったが、その笑顔が信用できなかった。

だから飲んだ。
水と一緒に、あっさりと。



翌日、体が軽かった。
熱も痛みも、だるさもない。
風邪をひいている同僚の横で、俺だけが平然としている。

一週間後、母が倒れた。
脳梗塞だった。

「ご家族にしては、随分落ち着いていますね」
病室で医者に言われて俺は気付いた。
母親が倒れたと聞いたら普通は泣くのではないか?手が震え、呼吸もできなくなるぐらい不安になるのではないか?
でも、心拍は一定のリズムを刻み、胃は痛まない。
俺は自分でも驚くほど落ち着いていた。

まるで身体が拒否しているかのように不安も恐怖も何もない。



母は助かった。
幸いにも命に別状はなかったが、後遺症が残り、言葉が少し不自由になった。

「……だいじょ、ぶ」

そう言って笑う母を見て、
俺は「悲しい」と思っているはずなのに、身体は何も反応しない。

涙も出なければ胸も締め付けられない。
いつも通りの安定した心音だけが俺の中で響く。

その夜、検索した。
“病気 しない 身体 感情”

出てきたのは、医学論文の端っこに書かれた一文だった。

強いストレス反応や感情の揺らぎは、
多くの場合「身体の異常反応」として現れる。

ここで俺は気付いた。
この薬は俺に病気にならない身体を与えてくれた。
しかし、俺の中にあった胸の痛み等の心のサインも同時に消し去ってしまった。



半年後、今度は父が倒れた。
残念ながら母のようにはいかず助からなかった。
医師からは心筋梗塞とだけ伝えられた。

葬式でも俺は結局最後まで泣かなかった……
いや、泣けなかったと言った方が正しいのだろうか。少し離れた場所で泣く叔母には「冷たい」と言われた。
でも違う。冷たくなったんじゃない。

何も感じられなかっただけだ。



今、俺は完璧に健康だ。
熱も出なければ身体の不調や痛みなんてものも何も無い。
死ぬその日までこの健康は維持されるだろう。

ただひとつ、確信していることがある。

この身体はもう、
「生きている」とは呼べない。
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