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第10話 ヴァイスの秩序、感情の咆哮
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『純律の天使』を打ち破り、激戦の舞台となったホールには、再び静寂が訪れた。リオスは荒い息をつきながら、変貌した大剣を地面に突き刺す。その右腕に宿る異晶(イショウ)は、まるで力を使い果たしたかのように微かな光を放つばかりだった。ミオは膝をつき、全身の疲労と異晶の反動に耐えていたが、その顔には確かな達成感が浮かんでいる。ソラは駆け寄り、すぐに優しくリオスに触れ、治癒魔法(ヒール)を施し始めた。
「やった……勝ったんだね……!」
ソラは安堵と喜びに声を震わせる。
「ははっ、ほんとギリギリだったけどね! でも、勝ったんだから結果オーライ!」
ミオが屈託なく笑った。
アデルは眼鏡の奥の瞳を光らせ、演算補助(アシスト)スキル『真理の導器(ロゴス・デバイス)』のモニターからノイズが完全に消え去ったのを確認すると、静かに息を吐いた。
「……計算通りだ。ヴァイスは、感情を否定するあまり、その根源的なエネルギーを消し去ることはできなかった。むしろ、自身の『完璧』なシステムの中に『歪み』として内包させていた。それが、天使の唯一の脆弱性だったのだ」
彼の瞳には、深い洞察と、そして仲間たちへの確かな信頼が宿っていた。
その時、ホールの巨大モニターに映るヴァイスの顔が再び現れた。しかし、その表情はこれまでの無感情で冷徹なものとは明らかに異なる。瞳の奥には微かな「動揺」の光、口元には「困惑」と「苛立ち」の色が帯びていた。それは、彼が何よりも嫌悪するはずの「感情」の片鱗だった。
「……馬鹿な。ありえない……私の計算に、このような『エラー』は存在しないはずだ」
ヴァイスの声は静かだったが、その奥には彼が最も忌み嫌うはずの「感情」──予測不能な苛立ちが滲み出ていた。彼の「完璧」な秩序が、リオスたちの「歪み」によって、初めて揺らいだ瞬間だった。
モニターに映し出されたヴァイスの背後で、これまで閉ざされていた巨大な扉が、ゆっくりと、しかし重々しい音を立てて開き始めた。その奥からは、これまで感じたことのない、極めて整然とした、しかし冷たい「歪み」の波動が押し寄せる。それは、ヴァイス自身の支配領域へと通じる、システム的な結界の扉だった。
リオスは仲間たちと顔を見合わせた。疲労の色は濃いものの、彼らの瞳には確かな決意と、未来への希望が宿っていた。ヴァイスの動揺は、彼らが正しい道を歩んでいる証だった。
「行くぞ、みんな……。あいつに、決着をつけるんだ」
リオスは、最後の力を振り絞り、大剣を握り直した。開かれた扉の奥に、ヴァイスの真の姿、そして彼の支配の核心があると確信していた。
開かれた扉の向こうに広がっていたのは、幾何学的な光の格子で構成された、無限にも見えるデータ空間だった。ヴァイスのシステム介入によって計算され尽くした「完璧な秩序」が隅々まで張り巡らされている。空気さえも、データで構築されたプログラムの一部であるかのように淀みなく、冷たく感じられた。
ヴァイスは、シャープな輪郭と鋭い眼光を持つ冷徹なイケメンの姿で、その空間の中心に立っていた。サイバネティックな装飾が施された強化スーツを身に纏い、胸元の青白いコアが彼の非人間的な美しさを際立たせる。彼は無駄のない動作で腕を組み、傲岸不遜な視線でリオスたちを見下ろした。
「よくぞここまで辿り着いた、イレギュラーなバグ共め。だが、これが貴様らの終着点だ。この空間は、私が築き上げた『闇を視る者』の最終管理領域。私が貴様らに見せるは、この世界の真の理、そして私が成す『完璧』だ」
ヴァイスの声はデータ空間に吸い込まれていくかのように静かだったが、その絶対的な自信と傲慢さが、リオスたちの心に重くのしかかる。彼にとって、感情的に行動するリオスたちは、自身の「理想」を理解できない劣等な存在でしかなかった。
「貴様らは、知らぬだろう。このエーテルニアが、創造主《オプティマス》の限界により、すでに避けられぬ崩壊へと向かっているという『真実』を。感情の過剰な飽和が招いた現実世界の破滅、そしてこの仮想世界すら、その歪みを内包し、いずれは破滅する運命にある」
ヴァイスは淡々と語る。その瞳には、彼だけが見通した「真実」への確信と、それを受け入れない者への憐憫が宿っていた。
「だからこそ、我々『闇を視る者』は、不完全なシステムを一度完全にリセットし、一切の『歪み』なき、純粋な論理で構築された『完璧な世界』を再構築することを使命とする。それが、この私、ヴァイスの美学であり、絶対的な目的だ。貴様らの無価値な『感情』など、この計画には何の意味もなさない」
「お前の言う完璧ってのは、ただの押し付けだ! 俺たちの感情は、弱さなんかじゃない! この世界の真実を掴むための、力なんだ!」
リオスが大剣を構え、右腕の異晶が再び強く輝き始めた。
「愚かめ」
ヴァイスは冷笑すると、彼の胸元のコアが眩い青白い光を放つ。
システム改変(リビルド・ワールド)
ヴァイスがゆっくりと両手を広げた瞬間、データ空間全体が彼の意のままに歪み始めた。彼の理想とする「完璧な法則」が、戦場を書き換えていく。足元の大地は幾何学的な光の格子へと変貌し、空気が圧縮され見えない壁となり、光の屈折が操られ、リオスたちの視覚情報が錯綜する。音は完全に消え失せ、絶対的な静寂が空間を支配した。ヴァイスが作り出したのは、感情的な予測不能性を許さない、完全に計算され尽くした論理の戦場だった。
「これは……! 認識そのものが書き換えられてる!?」
ミオが叫び、剣を振るうが、距離感が狂い、空を斬る。彼女の視界には、《位置情報:エラー》《空間認識:異常》といった警告が点滅していた。
「私の『完璧な秩序』の前では、貴様らの感情的な直感など無力だ。無駄な動きを排除し、最適化されたこの世界で、貴様らに逃げ場はない」
ヴァイスの声が、直接彼らの脳内に響く。声帯を介さない、システムからの直接的な情報だ。
リオスは、視界の歪みと耳鳴りにも似たノイズに耐えながら、大剣を構え、ヴァイスへと突進した。だが、ヴァイスは一歩も動かず、リオスの剣は彼をすり抜ける。空間が歪められたのだ。《攻撃:無効》の表示がリオスの視界に現れる。
「リオスさん、危ない!」
ソラが叫び、間一髪でリオスの背後に現れた光の刃を防御結界で防ぐ。しかし、結界は瞬時にヒビが入り、砕け散った。《防御結界:破壊》
「くそっ、見えない壁がある!」
ミオが光の格子に阻まれ、身動きが取れない。足元を固定され、身動きが取れなくなる。
アデルの演算補助スキル『真理の導器(ロゴス・デバイス)』が激しく点滅し、エラーメッセージを吐き出す。
「……重力、視覚、思考、全てがヴァイスの計算下に置かれている! これは、プログラムの書き換えだ! 空間の位相を操っている!」
ヴァイスは冷徹な眼差しでリオスを見据える。
「貴様の『歪み』は、私が求めるデータの糧となる。絶望せよ、バグよ」
データ融合(データ・フュージョン)
ヴァイスの胸元のコアが眩い光を放ち、その光が彼の両手へと収束していく。それは、これまでヴァイスが吸収してきた、システムブレイカーたちの持つ『歪み』のデータが合成され、巨大なエネルギーの塊へと変貌しているのだ。ヴァイスが持つ、あらゆるデータを完璧に制御するその能力が、あたかも『異晶』の力を操るかのように、今、最大の攻撃として解放されようとしていた。
「ヴァイス、てめえ!」
リオスが叫び、再び突撃するが、ヴァイスの足元から無数の光のワイヤーが噴出し、リオスの両腕と足を絡め取った。それは、リオスの抵抗を許さないほど強固だった。
「無駄な足掻きだ」
ヴァイスは感情を込めずに言い放つと、合成された異晶エネルギーをリオス目掛けて放った。それは、エーテルニアのシステムを根源から揺るがしかねない、圧倒的な破壊力を持っていた。
「リオスさん!」
ソラの悲鳴が響く。
その瞬間、アデルが叫んだ。
「ソラ! ミオ! リオスを信じろ! 奴の感情の『乱れ』は今だ! ヴァイスの思考に、ごく微細な『エラー』が確認できる! それが唯一の勝機だ!」
アデルの目は、ヴァイスが『純律の天使』を倒された時と同じ、微かな「苛立ち」のデータを見抜いていた。完璧主義者であるヴァイスにとって、リオスたちの予測不能な行動そのものが、最大の「バグ」であり、微細な「感情」の揺らぎを生むのだ。彼の計算ではあり得ない『エラー』の発生こそが、唯一の隙だった。
ソラは迷わず自身の異晶『魂の共鳴(ソウル・レゾナンス)』を最大に発動させた。彼女の全身から温かい光が放たれ、ヴァイスが作り出した静寂と視覚の歪みを一時的に打ち消し、リオスの意識を研ぎ澄ませる。《感覚リンク:最大化》《状態異常:知覚ノイズ解除》
ミオは、ソラの光によって視界がクリアになった瞬間、自らを拘束する光のワイヤーの最も脆弱なポイントを見抜き、双剣で一閃! ワイヤーは切れ、ミオは自由になる。彼女の瞳には、怒りと共に確かな勝機が宿っていた。
「いけええええええええええ!」
ミオが叫ぶ。
リオスは、ソラの共鳴がもたらした一瞬のシステム干渉の中で、ヴァイスが作り出した「完璧な法則」の隙間を見出した。それは、彼の「感情」が、論理の壁を打ち破る瞬間だった。右腕の「剣術熟練度ERROR」の異晶が、これまで以上に激しく輝き、青白い「歪み」のオーラが全身を包み込む。《剣術熟練度ERROR:活性化》《スキル:崩壊剣(デストロイ・ブレード)発動可能》
「ヴァイス! お前の完璧は、俺たちの『本物』の前では、脆い!」
リオスは、合成された異晶エネルギーの光弾が迫る中、ワイヤーを力ずくで引きちぎり、限界を超えた速度でヴァイスの懐へと飛び込んだ。彼は、ヴァイスが作り出した「世界」の法則を、己の「歪み」で強引に書き換えるかのように突破したのだ。その動きは、ヴァイスの絶対的な合理性をもってしても、全く予測できない軌道を描いた。
ヴァイスの表情に、明確な驚愕と、そして屈辱の色が浮かんだ。彼の瞳の奥の「苛立ち」が、予測不能な怒りへと変質していく。
「馬鹿な……! この私が……! なぜ…!?」
リオスは大剣を渾身の力で振り下ろした。変貌した青白い刃が、ヴァイスの胸元のコアを直接貫く。
キィィィィィィィンッ!
エーテルニア全体に響き渡るかのような、巨大なシステム****エラーの音が鳴り響いた。ヴァイスの全身から激しい光が噴出し、サイバネティックな装甲が音を立てて崩壊していく。彼の体は、無数のデータ粒子となって空間に散り、やがて完全に消滅した。最後に残ったのは、彼の完璧な計画が「バグ」によって崩壊したという、歪んだ「絶望」のデータが残滓として漂うのみだった。《ヴァイスを討伐しました!》のメッセージが、リオスの視界に大きく表示された。
ヴァイスの消滅と共に、システム改変(リビルド・ワールド)の力が解除され、データ空間は元の光の格子へと戻っていく。重圧が消え、視覚の歪みが収まる。
リオスは膝に手をつき、全身の力を使い果たし、その場に崩れ落ちた。ソラが駆け寄り、ミオも安堵の表情を浮かべる。アデルは、ヴァイスのコアが完全に消滅したことを確認し、静かに『真理の導器』を仕舞った。
「やった……倒したんだね……!」
ソラの瞳には、歓喜の涙が浮かんでいた。
「ははっ、ほんとギリギリだったけどね! でも、勝った!」
ミオが屈託なく笑う。
リオスは仲間たちを見回す。彼らの瞳に宿る絆の輝きこそが、この「偽りの世界」で得た、かけがえのない「本物」だった。彼らは、ヴァイスの「完璧な秩序」を、その「感情」によって打ち破ったのだ。
激戦の舞台となったデータ空間は、ヴァイスの消滅と共に徐々に崩壊し始めていた。このままでは、彼らも巻き込まれてしまう。
「急いで戻るぞ! この空間も維持できなくなる!」
アデルの声に、一行は足早に、帝都グリムヴァルトのホールへと繋がる扉へと引き返した。
数時間後、傷つき疲弊しきったリオスたちは、帝都グリムヴァルトを後にし、エテルナ・セントラルへと帰還した。王都の安全な隠れ家で、ソラの治癒魔法と休息によって、ようやく深い疲労から解放される。
彼らは知っていた。ヴァイスの支配は終わったが、エーテルニアのシステムにはまだ根本的な問題が残されていること、そしてヴァイスが口にした「この世界の崩壊」という「真実」が、まだ解決されていないことを。そして何より、ヴァイスを統括者として操っていた『闇を視る者(シャドウ・ゲイザー)』の真の目的が、まだ闇の中に隠されていることを。
リオスは、静かに右腕の異晶を見つめる。戦いは終わらない。この世界の、そして自分たちの真の「本物」を見つける旅は、これからも続いていく。
「やった……勝ったんだね……!」
ソラは安堵と喜びに声を震わせる。
「ははっ、ほんとギリギリだったけどね! でも、勝ったんだから結果オーライ!」
ミオが屈託なく笑った。
アデルは眼鏡の奥の瞳を光らせ、演算補助(アシスト)スキル『真理の導器(ロゴス・デバイス)』のモニターからノイズが完全に消え去ったのを確認すると、静かに息を吐いた。
「……計算通りだ。ヴァイスは、感情を否定するあまり、その根源的なエネルギーを消し去ることはできなかった。むしろ、自身の『完璧』なシステムの中に『歪み』として内包させていた。それが、天使の唯一の脆弱性だったのだ」
彼の瞳には、深い洞察と、そして仲間たちへの確かな信頼が宿っていた。
その時、ホールの巨大モニターに映るヴァイスの顔が再び現れた。しかし、その表情はこれまでの無感情で冷徹なものとは明らかに異なる。瞳の奥には微かな「動揺」の光、口元には「困惑」と「苛立ち」の色が帯びていた。それは、彼が何よりも嫌悪するはずの「感情」の片鱗だった。
「……馬鹿な。ありえない……私の計算に、このような『エラー』は存在しないはずだ」
ヴァイスの声は静かだったが、その奥には彼が最も忌み嫌うはずの「感情」──予測不能な苛立ちが滲み出ていた。彼の「完璧」な秩序が、リオスたちの「歪み」によって、初めて揺らいだ瞬間だった。
モニターに映し出されたヴァイスの背後で、これまで閉ざされていた巨大な扉が、ゆっくりと、しかし重々しい音を立てて開き始めた。その奥からは、これまで感じたことのない、極めて整然とした、しかし冷たい「歪み」の波動が押し寄せる。それは、ヴァイス自身の支配領域へと通じる、システム的な結界の扉だった。
リオスは仲間たちと顔を見合わせた。疲労の色は濃いものの、彼らの瞳には確かな決意と、未来への希望が宿っていた。ヴァイスの動揺は、彼らが正しい道を歩んでいる証だった。
「行くぞ、みんな……。あいつに、決着をつけるんだ」
リオスは、最後の力を振り絞り、大剣を握り直した。開かれた扉の奥に、ヴァイスの真の姿、そして彼の支配の核心があると確信していた。
開かれた扉の向こうに広がっていたのは、幾何学的な光の格子で構成された、無限にも見えるデータ空間だった。ヴァイスのシステム介入によって計算され尽くした「完璧な秩序」が隅々まで張り巡らされている。空気さえも、データで構築されたプログラムの一部であるかのように淀みなく、冷たく感じられた。
ヴァイスは、シャープな輪郭と鋭い眼光を持つ冷徹なイケメンの姿で、その空間の中心に立っていた。サイバネティックな装飾が施された強化スーツを身に纏い、胸元の青白いコアが彼の非人間的な美しさを際立たせる。彼は無駄のない動作で腕を組み、傲岸不遜な視線でリオスたちを見下ろした。
「よくぞここまで辿り着いた、イレギュラーなバグ共め。だが、これが貴様らの終着点だ。この空間は、私が築き上げた『闇を視る者』の最終管理領域。私が貴様らに見せるは、この世界の真の理、そして私が成す『完璧』だ」
ヴァイスの声はデータ空間に吸い込まれていくかのように静かだったが、その絶対的な自信と傲慢さが、リオスたちの心に重くのしかかる。彼にとって、感情的に行動するリオスたちは、自身の「理想」を理解できない劣等な存在でしかなかった。
「貴様らは、知らぬだろう。このエーテルニアが、創造主《オプティマス》の限界により、すでに避けられぬ崩壊へと向かっているという『真実』を。感情の過剰な飽和が招いた現実世界の破滅、そしてこの仮想世界すら、その歪みを内包し、いずれは破滅する運命にある」
ヴァイスは淡々と語る。その瞳には、彼だけが見通した「真実」への確信と、それを受け入れない者への憐憫が宿っていた。
「だからこそ、我々『闇を視る者』は、不完全なシステムを一度完全にリセットし、一切の『歪み』なき、純粋な論理で構築された『完璧な世界』を再構築することを使命とする。それが、この私、ヴァイスの美学であり、絶対的な目的だ。貴様らの無価値な『感情』など、この計画には何の意味もなさない」
「お前の言う完璧ってのは、ただの押し付けだ! 俺たちの感情は、弱さなんかじゃない! この世界の真実を掴むための、力なんだ!」
リオスが大剣を構え、右腕の異晶が再び強く輝き始めた。
「愚かめ」
ヴァイスは冷笑すると、彼の胸元のコアが眩い青白い光を放つ。
システム改変(リビルド・ワールド)
ヴァイスがゆっくりと両手を広げた瞬間、データ空間全体が彼の意のままに歪み始めた。彼の理想とする「完璧な法則」が、戦場を書き換えていく。足元の大地は幾何学的な光の格子へと変貌し、空気が圧縮され見えない壁となり、光の屈折が操られ、リオスたちの視覚情報が錯綜する。音は完全に消え失せ、絶対的な静寂が空間を支配した。ヴァイスが作り出したのは、感情的な予測不能性を許さない、完全に計算され尽くした論理の戦場だった。
「これは……! 認識そのものが書き換えられてる!?」
ミオが叫び、剣を振るうが、距離感が狂い、空を斬る。彼女の視界には、《位置情報:エラー》《空間認識:異常》といった警告が点滅していた。
「私の『完璧な秩序』の前では、貴様らの感情的な直感など無力だ。無駄な動きを排除し、最適化されたこの世界で、貴様らに逃げ場はない」
ヴァイスの声が、直接彼らの脳内に響く。声帯を介さない、システムからの直接的な情報だ。
リオスは、視界の歪みと耳鳴りにも似たノイズに耐えながら、大剣を構え、ヴァイスへと突進した。だが、ヴァイスは一歩も動かず、リオスの剣は彼をすり抜ける。空間が歪められたのだ。《攻撃:無効》の表示がリオスの視界に現れる。
「リオスさん、危ない!」
ソラが叫び、間一髪でリオスの背後に現れた光の刃を防御結界で防ぐ。しかし、結界は瞬時にヒビが入り、砕け散った。《防御結界:破壊》
「くそっ、見えない壁がある!」
ミオが光の格子に阻まれ、身動きが取れない。足元を固定され、身動きが取れなくなる。
アデルの演算補助スキル『真理の導器(ロゴス・デバイス)』が激しく点滅し、エラーメッセージを吐き出す。
「……重力、視覚、思考、全てがヴァイスの計算下に置かれている! これは、プログラムの書き換えだ! 空間の位相を操っている!」
ヴァイスは冷徹な眼差しでリオスを見据える。
「貴様の『歪み』は、私が求めるデータの糧となる。絶望せよ、バグよ」
データ融合(データ・フュージョン)
ヴァイスの胸元のコアが眩い光を放ち、その光が彼の両手へと収束していく。それは、これまでヴァイスが吸収してきた、システムブレイカーたちの持つ『歪み』のデータが合成され、巨大なエネルギーの塊へと変貌しているのだ。ヴァイスが持つ、あらゆるデータを完璧に制御するその能力が、あたかも『異晶』の力を操るかのように、今、最大の攻撃として解放されようとしていた。
「ヴァイス、てめえ!」
リオスが叫び、再び突撃するが、ヴァイスの足元から無数の光のワイヤーが噴出し、リオスの両腕と足を絡め取った。それは、リオスの抵抗を許さないほど強固だった。
「無駄な足掻きだ」
ヴァイスは感情を込めずに言い放つと、合成された異晶エネルギーをリオス目掛けて放った。それは、エーテルニアのシステムを根源から揺るがしかねない、圧倒的な破壊力を持っていた。
「リオスさん!」
ソラの悲鳴が響く。
その瞬間、アデルが叫んだ。
「ソラ! ミオ! リオスを信じろ! 奴の感情の『乱れ』は今だ! ヴァイスの思考に、ごく微細な『エラー』が確認できる! それが唯一の勝機だ!」
アデルの目は、ヴァイスが『純律の天使』を倒された時と同じ、微かな「苛立ち」のデータを見抜いていた。完璧主義者であるヴァイスにとって、リオスたちの予測不能な行動そのものが、最大の「バグ」であり、微細な「感情」の揺らぎを生むのだ。彼の計算ではあり得ない『エラー』の発生こそが、唯一の隙だった。
ソラは迷わず自身の異晶『魂の共鳴(ソウル・レゾナンス)』を最大に発動させた。彼女の全身から温かい光が放たれ、ヴァイスが作り出した静寂と視覚の歪みを一時的に打ち消し、リオスの意識を研ぎ澄ませる。《感覚リンク:最大化》《状態異常:知覚ノイズ解除》
ミオは、ソラの光によって視界がクリアになった瞬間、自らを拘束する光のワイヤーの最も脆弱なポイントを見抜き、双剣で一閃! ワイヤーは切れ、ミオは自由になる。彼女の瞳には、怒りと共に確かな勝機が宿っていた。
「いけええええええええええ!」
ミオが叫ぶ。
リオスは、ソラの共鳴がもたらした一瞬のシステム干渉の中で、ヴァイスが作り出した「完璧な法則」の隙間を見出した。それは、彼の「感情」が、論理の壁を打ち破る瞬間だった。右腕の「剣術熟練度ERROR」の異晶が、これまで以上に激しく輝き、青白い「歪み」のオーラが全身を包み込む。《剣術熟練度ERROR:活性化》《スキル:崩壊剣(デストロイ・ブレード)発動可能》
「ヴァイス! お前の完璧は、俺たちの『本物』の前では、脆い!」
リオスは、合成された異晶エネルギーの光弾が迫る中、ワイヤーを力ずくで引きちぎり、限界を超えた速度でヴァイスの懐へと飛び込んだ。彼は、ヴァイスが作り出した「世界」の法則を、己の「歪み」で強引に書き換えるかのように突破したのだ。その動きは、ヴァイスの絶対的な合理性をもってしても、全く予測できない軌道を描いた。
ヴァイスの表情に、明確な驚愕と、そして屈辱の色が浮かんだ。彼の瞳の奥の「苛立ち」が、予測不能な怒りへと変質していく。
「馬鹿な……! この私が……! なぜ…!?」
リオスは大剣を渾身の力で振り下ろした。変貌した青白い刃が、ヴァイスの胸元のコアを直接貫く。
キィィィィィィィンッ!
エーテルニア全体に響き渡るかのような、巨大なシステム****エラーの音が鳴り響いた。ヴァイスの全身から激しい光が噴出し、サイバネティックな装甲が音を立てて崩壊していく。彼の体は、無数のデータ粒子となって空間に散り、やがて完全に消滅した。最後に残ったのは、彼の完璧な計画が「バグ」によって崩壊したという、歪んだ「絶望」のデータが残滓として漂うのみだった。《ヴァイスを討伐しました!》のメッセージが、リオスの視界に大きく表示された。
ヴァイスの消滅と共に、システム改変(リビルド・ワールド)の力が解除され、データ空間は元の光の格子へと戻っていく。重圧が消え、視覚の歪みが収まる。
リオスは膝に手をつき、全身の力を使い果たし、その場に崩れ落ちた。ソラが駆け寄り、ミオも安堵の表情を浮かべる。アデルは、ヴァイスのコアが完全に消滅したことを確認し、静かに『真理の導器』を仕舞った。
「やった……倒したんだね……!」
ソラの瞳には、歓喜の涙が浮かんでいた。
「ははっ、ほんとギリギリだったけどね! でも、勝った!」
ミオが屈託なく笑う。
リオスは仲間たちを見回す。彼らの瞳に宿る絆の輝きこそが、この「偽りの世界」で得た、かけがえのない「本物」だった。彼らは、ヴァイスの「完璧な秩序」を、その「感情」によって打ち破ったのだ。
激戦の舞台となったデータ空間は、ヴァイスの消滅と共に徐々に崩壊し始めていた。このままでは、彼らも巻き込まれてしまう。
「急いで戻るぞ! この空間も維持できなくなる!」
アデルの声に、一行は足早に、帝都グリムヴァルトのホールへと繋がる扉へと引き返した。
数時間後、傷つき疲弊しきったリオスたちは、帝都グリムヴァルトを後にし、エテルナ・セントラルへと帰還した。王都の安全な隠れ家で、ソラの治癒魔法と休息によって、ようやく深い疲労から解放される。
彼らは知っていた。ヴァイスの支配は終わったが、エーテルニアのシステムにはまだ根本的な問題が残されていること、そしてヴァイスが口にした「この世界の崩壊」という「真実」が、まだ解決されていないことを。そして何より、ヴァイスを統括者として操っていた『闇を視る者(シャドウ・ゲイザー)』の真の目的が、まだ闇の中に隠されていることを。
リオスは、静かに右腕の異晶を見つめる。戦いは終わらない。この世界の、そして自分たちの真の「本物」を見つける旅は、これからも続いていく。
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04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
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