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欲望の怨嗟
side02 贄の悲鳴
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僕が食事を振舞ってもらって、しばらくしてから家を出た。
当然のことだが、犯罪率の特に低いこの国ではそうすぐに暴漢が現れることもない。まあ、僕が―――男がいる状況では出るに出れないのかもしれないが。
正直、出てきたところでどうなるとも思えないのだが。
「それ人しても夜になっても暑い日が増えてきたね」
「そうなのか?夏というものはそれほどなのか……」
「な、夏を知らないの?―――ギャグ?」
僕はいたって真面目なのだが、彼女はそう言う。
確かに僕はこの世界の常識に疎いところもある。知らないこともあるし、その逆もある。
彼女がそういったつもりで言ったのではないのだろうが、少し嫌な気分だ。
そんな僕のムッとした空気が出てしまっていたのだろう。
彼女は慌てたように訂正する。
「あ、馬鹿にするつもりはなかったんだよ?でも、零蘭君って頭いいのに、結構知らないこと多いみたいだから……」
「僕が頭いいのかは知らないけど、そうだな―――世界史は結構苦手だよ。君に教えている教科じゃないから知らないのかもしれないけど。それに国語も苦手だ。物語の人物の感情なんてわかるはずがない」
「て、典型的な理系だね……でも、夏を詳しく知らないって、零蘭君もしかしてと思ってたけど外国から来たの?」
「うーん、そんなところかな。まあ、僕の過去を知ってもいいことなんてないよ」
「あ、あはは……」
僕の言葉に彼女は微妙な笑いをする。
(零蘭君、こういうところあるんだよなあ……こういう言い方されると、むしろ気になっちゃうっていうか、なんというか……)
そんなことを考えていたのだが、その時の僕はまだ知らない。
「零蘭君の昔のこととか昔の友達とか知りたいことはあるけど―――」
「僕に友人はいない。だから、そこを気にする必要はない。それどころか親もいないからね。君が気にすることなんて一つもないよ」
「え、ええっ!?」
「君が気にする必要は―――」
「気にするよ!私、零蘭君とどう接すればいいかわからなく……」
「僕はその過去を気にしない。前にも言った気がするが、今は君が隣にいてくれる。かなうなら、これからもそうしてくれればうれしいよ」
「っ……!?」
突然彼女は歩みを止めて両手で顔を覆い始めた。
どうした、と思うものの、いつもの発作かと気にしないようにする。
しばらくすると、さすがに彼女も歩き始める。
だが、今度は違う理由で歩みを止めることになった。
「痛っ!?」
突然何かにぶつかったように頭をかばいながら彼女が後ろによろめいた。
ゴンと言った鈍い音はしないながらも、さすがにその様はかわいそうそのものだった。
しかし、彼女の顔面をぶつけたであろうばしょで、僕はなんともなかった。
彼女との間は50センチも空いていなかった。
だというのに、僕には影響がない。
そんな僕にはお構いなしに彼女は見えない壁に対して手を当てる。
「なんだい、パントマイムのつもりかい?」
「違うよ!えぇ……なんで零蘭君には何の影響もないの?」
「……そうか、僕に対して効果が出ていないのか―――少し野暮用ができた。ここで待っていてくれるかい?」
「え、待つって―――ここで?」
「すまない。だが、大事な用なんだ」
「うん……まあいいけど、早く戻ってきてね?」
「ああ、約束する」
彼女と約束をし、僕は力の作用している場所に向かっていく。
今は気づかなかったが、ある程度近く、ある程度集中すればその場所はわかる。
だが、こういったものは初めてだ。やはり、僕を警戒しているのかな?
少し歩いて、路地裏のほうに入っていくと、先日のような光景が広がっていた。
白目をむいて舌を出しながら息絶えている男と、陰に隠れるようにたたずむ者の姿がだ。
「僕は警告したはずだ。その力を使わないほうがいい、と」
「お前、なんでここに来れた。周囲には通れないように壁を作っていたはずだが……」
「それも前に言ったはずだ。僕にそれは通用しない。だからやめておけ、とも」
「なんなんだお前は!この力は人を超人に―――」
「違う。その力は人を神に近づけるものだ」
「それならなおのこと……!」
「人が皆、神になれると思うのかい?その力には段階がある。君たちの大好きなゲームと同じ―――使えば使うほどレベルが上がるように強くなる。だが、それを耐えられる器か、君たち次第だ」
「な、なんでお前がそんなこと……」
僕の指摘に相手は怯えを見せた。だからこその質問だったのかもしれないが、僕はそれに答えない。
「今重要なのは僕じゃない。君の体だ。心当たりはあるんじゃないか?ずいぶんが気が立つのが早いとか疲労感がすごいとか。まあ、気付かないか。ある種の薬物のようなものだからね。感覚という感覚がマヒし始める」
「そんなわけないな。俺の生活は一つも変わっていない」
「おかしいね、君は自身を神代と名乗った。死んだ人間に生活なんてあるのかい?」
「あるさ、俺は蘇る前に地獄を見てきた。狂ったような苦しみも、冷たいような痛みも。なにもかも……」
「それも前に言ったはずだ。苦しみを苦しみだと、痛みを痛みだと感じられるのは幸せだ。君は一体誰なんだい?」
「それこそ前に言ったじゃないか!俺は神代―――」
「神代という男の存在は確認できなかった。つまり、死亡している。君は神代ではない」
「俺の力は死者蘇生だとしてもか……!」
苦し紛れにそんなこと言うが、あまりにも状況証拠が芳しくない。
「君の能力はサイコキネシス。それに死者蘇生の能力―――仮にネクロマンスとでもしよう。そんな能力に該当する項目は存在しない。つまり、死んだ人間がよみがえることはないんだよ。神の力であっても」
「お前、本当になんなんだ。まさか、お前も―――」
「違うよ。僕はリアクトじゃない」
「リアクト?」
「君の名前さ。だからもう一度警告しておく、その力を使うのはやめたまえ。君の家族が、友人が涙を流す前に」
「……余計なお世話だ」
話の分からないやつ、と言いたいが、彼に宿っている感情が純粋な怒りとどす黒い殺意だ。
むしろ、それで止まるほうが難しいのかもしれない。人は時に、感情で動く。それを踏みとどまれるかが、人かどうかを分けることになるのだ。
「きゃああああああ!?」
「「っ!?」」
やり取りの中、遠くから響いた。
聞きなれた大事な人の悲鳴が。
当然のことだが、犯罪率の特に低いこの国ではそうすぐに暴漢が現れることもない。まあ、僕が―――男がいる状況では出るに出れないのかもしれないが。
正直、出てきたところでどうなるとも思えないのだが。
「それ人しても夜になっても暑い日が増えてきたね」
「そうなのか?夏というものはそれほどなのか……」
「な、夏を知らないの?―――ギャグ?」
僕はいたって真面目なのだが、彼女はそう言う。
確かに僕はこの世界の常識に疎いところもある。知らないこともあるし、その逆もある。
彼女がそういったつもりで言ったのではないのだろうが、少し嫌な気分だ。
そんな僕のムッとした空気が出てしまっていたのだろう。
彼女は慌てたように訂正する。
「あ、馬鹿にするつもりはなかったんだよ?でも、零蘭君って頭いいのに、結構知らないこと多いみたいだから……」
「僕が頭いいのかは知らないけど、そうだな―――世界史は結構苦手だよ。君に教えている教科じゃないから知らないのかもしれないけど。それに国語も苦手だ。物語の人物の感情なんてわかるはずがない」
「て、典型的な理系だね……でも、夏を詳しく知らないって、零蘭君もしかしてと思ってたけど外国から来たの?」
「うーん、そんなところかな。まあ、僕の過去を知ってもいいことなんてないよ」
「あ、あはは……」
僕の言葉に彼女は微妙な笑いをする。
(零蘭君、こういうところあるんだよなあ……こういう言い方されると、むしろ気になっちゃうっていうか、なんというか……)
そんなことを考えていたのだが、その時の僕はまだ知らない。
「零蘭君の昔のこととか昔の友達とか知りたいことはあるけど―――」
「僕に友人はいない。だから、そこを気にする必要はない。それどころか親もいないからね。君が気にすることなんて一つもないよ」
「え、ええっ!?」
「君が気にする必要は―――」
「気にするよ!私、零蘭君とどう接すればいいかわからなく……」
「僕はその過去を気にしない。前にも言った気がするが、今は君が隣にいてくれる。かなうなら、これからもそうしてくれればうれしいよ」
「っ……!?」
突然彼女は歩みを止めて両手で顔を覆い始めた。
どうした、と思うものの、いつもの発作かと気にしないようにする。
しばらくすると、さすがに彼女も歩き始める。
だが、今度は違う理由で歩みを止めることになった。
「痛っ!?」
突然何かにぶつかったように頭をかばいながら彼女が後ろによろめいた。
ゴンと言った鈍い音はしないながらも、さすがにその様はかわいそうそのものだった。
しかし、彼女の顔面をぶつけたであろうばしょで、僕はなんともなかった。
彼女との間は50センチも空いていなかった。
だというのに、僕には影響がない。
そんな僕にはお構いなしに彼女は見えない壁に対して手を当てる。
「なんだい、パントマイムのつもりかい?」
「違うよ!えぇ……なんで零蘭君には何の影響もないの?」
「……そうか、僕に対して効果が出ていないのか―――少し野暮用ができた。ここで待っていてくれるかい?」
「え、待つって―――ここで?」
「すまない。だが、大事な用なんだ」
「うん……まあいいけど、早く戻ってきてね?」
「ああ、約束する」
彼女と約束をし、僕は力の作用している場所に向かっていく。
今は気づかなかったが、ある程度近く、ある程度集中すればその場所はわかる。
だが、こういったものは初めてだ。やはり、僕を警戒しているのかな?
少し歩いて、路地裏のほうに入っていくと、先日のような光景が広がっていた。
白目をむいて舌を出しながら息絶えている男と、陰に隠れるようにたたずむ者の姿がだ。
「僕は警告したはずだ。その力を使わないほうがいい、と」
「お前、なんでここに来れた。周囲には通れないように壁を作っていたはずだが……」
「それも前に言ったはずだ。僕にそれは通用しない。だからやめておけ、とも」
「なんなんだお前は!この力は人を超人に―――」
「違う。その力は人を神に近づけるものだ」
「それならなおのこと……!」
「人が皆、神になれると思うのかい?その力には段階がある。君たちの大好きなゲームと同じ―――使えば使うほどレベルが上がるように強くなる。だが、それを耐えられる器か、君たち次第だ」
「な、なんでお前がそんなこと……」
僕の指摘に相手は怯えを見せた。だからこその質問だったのかもしれないが、僕はそれに答えない。
「今重要なのは僕じゃない。君の体だ。心当たりはあるんじゃないか?ずいぶんが気が立つのが早いとか疲労感がすごいとか。まあ、気付かないか。ある種の薬物のようなものだからね。感覚という感覚がマヒし始める」
「そんなわけないな。俺の生活は一つも変わっていない」
「おかしいね、君は自身を神代と名乗った。死んだ人間に生活なんてあるのかい?」
「あるさ、俺は蘇る前に地獄を見てきた。狂ったような苦しみも、冷たいような痛みも。なにもかも……」
「それも前に言ったはずだ。苦しみを苦しみだと、痛みを痛みだと感じられるのは幸せだ。君は一体誰なんだい?」
「それこそ前に言ったじゃないか!俺は神代―――」
「神代という男の存在は確認できなかった。つまり、死亡している。君は神代ではない」
「俺の力は死者蘇生だとしてもか……!」
苦し紛れにそんなこと言うが、あまりにも状況証拠が芳しくない。
「君の能力はサイコキネシス。それに死者蘇生の能力―――仮にネクロマンスとでもしよう。そんな能力に該当する項目は存在しない。つまり、死んだ人間がよみがえることはないんだよ。神の力であっても」
「お前、本当になんなんだ。まさか、お前も―――」
「違うよ。僕はリアクトじゃない」
「リアクト?」
「君の名前さ。だからもう一度警告しておく、その力を使うのはやめたまえ。君の家族が、友人が涙を流す前に」
「……余計なお世話だ」
話の分からないやつ、と言いたいが、彼に宿っている感情が純粋な怒りとどす黒い殺意だ。
むしろ、それで止まるほうが難しいのかもしれない。人は時に、感情で動く。それを踏みとどまれるかが、人かどうかを分けることになるのだ。
「きゃああああああ!?」
「「っ!?」」
やり取りの中、遠くから響いた。
聞きなれた大事な人の悲鳴が。
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