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暴走トラック② 勇者ってなに?
しおりを挟むその後、何事の無かったかのように帰路についていた二人は、ある一人の少女を間に挟んで歩いていた。
そう、あの暴走トラックに乗って運転していた少女だ。
「むぅ、悔しいです。今度こそ絶対にぶっ殺して差し上げます」
「頬を可愛く膨らませながら言っても物騒なのは変わりないからね!?」
「あはは、氷石さんは相変わらずだよねぇ。これまで何回仕掛けたんだっけ?」
「今回のでちょうど百回目ですね。キリが良いので折角『如月さんブッ殺記念日』としてラノベの定番である暴走トラックで轢いて差し上げようとしたのにあっさりと躱すんですもの。思春期真っ盛りの男の子なら異世界転生してオレtueeeしてハーレム築きたいでしょう?」
先程と変わらぬ表情でプンプンとしている聖梨華はくりりっとした瞳を暮人に向けている。
両手を前にして鞄を持ちながら憤慨。雰囲気は怒っている感じなのだが、彼女の容姿は圧倒的美少女。綺麗な水色の髪を揺らしながら頬を膨らませている姿は例え怒っていたとしても可愛いと暮人は思ってしまう。
彼の本名は如月暮人。これまで普通の男子高校生だったのだが、聖梨華からの接触により何度も彼女に殺されかかっている。
何故かというと―――、
「―――ですがまぁ、流石は『回避の勇者』様なだけはあります。自身の特性を活かした素晴らしい反応でしたわ!」
「いや殺そうとした本人から言われても!」
「そういえば氷石さんって異世界を管理している女神なんだっけ? どうしても暮人を殺さないといけないの?」
「はい、そうなのです!」
美雪に訊かれると、ふんす、鼻息を荒くしながら目を輝かせるとこれまで何度も説明している内容を語り出す。
「私の管理する世界では『剛腕の勇者』『駿足の勇者』『治癒の勇者』『守護の勇者』といった具合に計四人の勇者がいるんですけど、今までの歴史の中では本当は五人なんですよ。協力して世界を支配しようとしている魔王を倒して貰いたいのですが………」
「んー。確か、今のままじゃダメなんだよね?」
口元に指を当ててそう返事する美雪に対し、再びプンスカとした表情で話を続ける。
「そうなんですー! 普通勇者は自分の持つ特性の影響を自分の指定する人にも与える事が出来るのですが、彼らったらそれぞれ特性を持っているだけでそれが全く出来なかったんですよねぇ。そしたら実は勇者が五人で、全員が揃ったときにその特性を周りに与えるっていうことが判明したんですよ! それで必死にその五人目の勇者を探してたら、この日本の神友である天照ちゃんから貴方の事を教えて貰って、彼女にブッ殺の許可を得てからこの私自ら地上に降り立って今現在に至るってーわけですよ!」
「え、天照様って俺のことだいぶ嫌ってない?」
許可を得たというのは暮人にとって今まで聞いたことが無く初耳だ。神は善良な市民を見捨てるのかと内心ショックを受けていると、その表情を見て彼女は言葉を付け足す。
「あ、でもその原因の一端は暮人さん自身にもあるんですよ? 人にはそれぞれ運命というものがあって、勿論それには死も含まれます。如月さんは異世界に必要である『回避』という勇者の特性を持っているので、異世界に転生する為にこの世界で生きる運命が途切れていた筈なんです! 実際に如月さんのこれまでの人生の中で何度か死の危機が迫ったときがあったのでは?」
「うーん? あったっけなぁ………?」
「………………あっ」
聖梨華の問いに暮人は首を傾げるが、全く思い浮かばない。そんな風に思っていたが、美雪から声が上がる。
「あるよ暮人! 暮人は自覚ないだろうけど一回風邪で死にかけたし、駅の階段前で落ちそうになったときもあった。あとは………小梅ちゃんの手料理?」
「あぁごめん小梅………すぐに否定できないのが辛い」
「え、あの可愛らしい妹ちゃんですか? そんな殺人的な料理を作るんですか?」
「シチューを作ろうとしたらいつの間にかショッキングピンクになってたからねぇ………私は暮人に押し付けてなんとか事なきを得たけど」
「確かに三途の川が見えたことは否定しないな………」
若干声が沈みながら我が妹の笑みを想像する暮人。兄の暮人から見ても彼女の外見の容姿は滅茶苦茶可愛く、勉強や運動能力も抜群で天使のような優しい性格。両親が幼い頃に亡くなってしまったにも拘らず、良くここまで純粋な娘に育ってくれたと兄として心の底からほっと安心している。
ただ唯一の不安は美雪からの話でもあった通り料理の腕について。
「やっぱり、何度かそういう死の運命が迫っていたのにも拘らず、『回避』の特性を持っているが故に全部回避してしまったのでしょうね。神女子会の時も天照ちゃんも『なかなか死んでくれない………』って何度も嘆いてましたもん」
「神様まで嘆くほど!?」
それにしても神も女子会的なの開くんだ………と思わず天照の会話の一部を頭の隅に追いやると、美雪はゆっくりと言葉を口にする。
「でもさ、その四人の勇者は同時に転生してるんでしょ? いくら暮人が『回避』の特性があったとしても氷石さんはそもそも勇者が五人いるって知らなかったんだから………今まで黙ってたけどそれって氷石さんの女神としての怠慢なのでは………?」
「ぎくぅ」
冷や汗をだらだらと流しながら目をきょどらせるが、彼女はギギギと壊れたブリキ人形のように美雪の方へ顔を向ける。
「か、『回避』! そう、『回避』の特性のせいです! なので私の思考からも『回避』してしまったんでしょうね! そうに違いないです!」
「僕の特性優秀過ぎない………?」
「と、とにかく! 私は諦めませんから! 絶対に如月さんをぶっ殺して差し上げますから!! ではまた明日、学校で会いましょう!!」
「あっ、行っちゃったね………」
言うや否やすぐさま走り去っていった彼女。残された二人は顔を見合わせると何処からともなく溜息が出た。
「じゃ、これから買い物に行くけど美雪はどうする?」
「ホワイトチョコが食べたい………」
「いいよ、買ってあげる。迷惑かけたお詫び」
「ありがと………」
そうして二人は近くのスーパーへと歩き出した。
この物語は幼馴染と一緒に登下校する暮人と彼を狙ってあらゆる手を使い殺そうとしてくる女神との決死の攻防戦である。
―――そしていつしか彼と関わっていく内に、殺意増し増しからデレデレになって幼馴染との恋のライバルになる話。
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