8 / 35
鉄のナイフ② 『郷に入っては郷に従え』
しおりを挟む「………………………」
「「………………………」」
聖梨華は思っていた現象が起こらなかったことで動揺したように叫んだあと、しばらく互いに見つめ合う。それから交互に手元にある鈍色に輝くナイフにも目を落とすと、しばらく同じ仕草を繰り返した。
正直言って、現在の彼女の表情は今にも泣きそうなほど口元をあわあわと震わせていた。
聖梨華の口ぶりからして、自分の管理する世界の強力なあらゆるものを召喚できるほどに力が溜まっていたのであろう。しかし、結果として実現には至らなかった。
そんな彼女の様子は見ているこちらも思わず不憫に感じてしまう程。
潤んだ瞳に見つめられると庇護欲を抱いてしまう暮人だが、彼女はそのナイフの切っ先をこちらに向けると―――、
「しっ、死んで下さい如月さん~~!!」
「あ、この状況でも殺そうとするんだ!?」
ナイフを構えて突進してきた彼女から逃れるようにひょい、横へ回避する暮人。その後もブンブンとナイフを振り回す聖梨華だが、今まで暮人を殺しにかかってきた時と比べてその精度は低い。現に余裕を持って躱せるのがその証拠。
表情からでも読み取れる通り、相当パニックに陥っているのであろう。しばらくして息が切れたのかハァハァと膝をつきながら動きを止めた。
「あぁもうなんでうまくいかないんですかっ!? 『回避』の特性を持っているからって悉く回避、回避、回避! 私の気持ちも考えないで何避けてばっかりいるんですか! 少しくらいは掠ってあげても良いかなとか思って下さいよバーカ!!」
「俺を殺せないからって八つ当たりしないで!?」
今までの鬱憤が溜まっていたのだろうかまさかの八つ当たり。刃物が掠っただけでも当然痛いので、というか血が出るので躱していたのだが、死なずとも怪我はして欲しいという事なのだろうか。
無論、回避していく事に変わりないのだが。
「大体如月さんは………! ってあれ?」
「誰かからの連絡みたいだねぇ………でないの?」
彼女は言葉を続けようとしたのだが、次の瞬間、聖梨華の懐からリズムの良い音が鳴る。どうやらその音源はスマホからのようで、美雪が彼女へと問い掛けた。
「ぐぬぬ………もう誰ですかこんなタイミングの悪い! わかりましたでますよっ! ………って天照ちゃん!?」
聖梨華は急いでスマホを操作すると耳元に充てた。
「はいもしもし………はい、はいそうですが………え、どういうことですかそれ!? 流石に異世界のモノを地球に持ち出すのは止めて欲しいと………いや、まぁ確かにそうですが、でも―――ひゃいっ!」
驚いたり、しょんぼりとしたり忙しないがどうやら神様である天照様と会話しているようだ。そもそも神様が形態やスマホの類を使って連絡手段としている事が驚きだが、神様だから何でもありなのだろう。気にしないことにした。
「あぁ、はい………はい、わかりました………すみませんでした……じゃあ、また今度です………ばいばい………」
彼女はどこか諦めたかのように通話を終えると、今まで静かにしていた二人へと顔を向ける。その表情は、彼女の美貌を台無しにしてしまう程、絶望に満ちありふれていた。心なしか、綺麗な水色の髪質まで悪くなっている。
「……しょ……………な……………です」
「え、ごめん良く聞こえなかった」
「召喚、出来なく、なったんです」
死んだ魚のような眼をした彼女は力なく言葉を続ける。
「なんか、天界にいる天照ちゃんによると、地球とは異なる世界のモノを、持ちこむと、世界の均衡が、崩れる、危険性がある、ようなんです。はい。今回の召喚では、強力で尚且つ、影響力の少ない人物か武器を指定していたのですが、『いずれにせよ、私の管理する地球にある問題ないモノを手元に呼び出すならまだしも異世界からヤバいモノを召喚しようとするのは止めて下さい。代わりに百均のナイフを送りました』とのことでした………あんなに静かにガチギレする天照ちゃんは初めてです………ようはこの世界で云う『郷に入っては郷に従え』というやつですね。ははは………」
「あ、あぁ………」
彼女の気分や声の沈みようから結構きつい言葉を電話越しから言われたのだろう。普段静かで大人しい人物ほど怒ると怖いものだ。
尚更彼女と仲の良い神友から怒られたのだからそのショックは相当な物だろう。現に普段自分たちにしか見せることの無いテンションの高い様子も今は鳴りを潜めている。
せっかく溜めた力を使ったのに召喚するのにも失敗し、暮人を殺す事にも失敗し、さらに仲の良い神にまでしこたま怒られる。
怒涛の三コンボを喰らった聖梨華のライフはもう既にセロを振り切っていた。
暮人はそんな地面に手を付いて項垂れている彼女の肩に手を置くと、優し気な笑みをフッと浮かべた。
「これからコンビニに行くけど、何か買ってあげるよ」
「………あの、それじゃあ、抹茶の一番高いアイスが良いです」
「じゃー今日はこれで暮人の命を狙おうとするのは終わり! 三人で仲良く行こっか!」
はい、と銀鈴のような声で返事する聖梨華の頬には一筋の涙が流れていたが、その力無く浮かべた笑みは暮人が今まで見た彼女の表情の中でも一番儚げだった。
0
あなたにおすすめの小説
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について
のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。
だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。
「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」
ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。
だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。
その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!?
仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、
「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」
「中の人、彼氏か?」
視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!?
しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して――
同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!?
「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」
代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!
俺をフッた幼馴染が、トップアイドルになって「もう一度やり直したい」と言ってきた
夏見ナイ
恋愛
平凡な大学生・藤堂蓮には忘れられない過去がある。高校時代、告白した幼馴染の星宮瑠奈に「アイドルになるから」とこっ酷くフラれたことだ。
数年後、瑠奈は国民的アイドル『LUNA』として輝いていた。遠い世界の住人になった彼女との再会なんて、あるはずもなかった――そう、変装した彼女が俺の前に現れ、「もう一度やり直したい」と泣きつくまでは。
トップアイドルの立場を使い強引に迫る元幼馴染と、過去の傷。揺れ動く俺の日常を照らしてくれたのは、俺の才能を信じてくれる後輩・朝霧陽葵の存在だった。
俺をフッた幼馴染か、俺を支える後輩か。過去の清算と未来の選択を描く、ほろ苦くも甘い、逆転ラブコメディ、開幕。
SSS級の絶世の超絶美少女達がやたらと俺にだけ見え見えな好意を寄せてくる件について。〜絶対に俺を攻略したいSSS級の美少女たちの攻防戦〜
沢田美
恋愛
「ごめんね、八杉くん」
中学三年の夏祭り。一途な初恋は、花火と共に儚く散った。
それ以来、八杉裕一(やすぎ・ゆういち)は誓った。「高校では恋愛なんて面倒なものとは無縁の、平穏なオタク生活を送る」と。
だが、入学した紫水高校には《楽園の世代》と呼ばれる四人のSSS級美少女――通称《四皇》が君臨していた。
• 距離感バグり気味の金髪幼馴染・神行胱。
• 圧倒的カリスマで「恋の沼」に突き落とす銀髪美少女・銀咲明日香。
• 無自覚に男たちの初恋を奪う、おっとりした「女神」・足立模。
• オタクにも優しい一万年に一人の最高ギャル・川瀬優里。
恋愛から距離を置きたい裕一の願いも虚しく、彼女たちはなぜか彼にだけ、見え見えな好意を寄せ始める。
教室での「あーん」に、放課後のアニメイトでの遭遇、さらには女神からの「一緒にホラー漫画を買いに行かない?」というお誘いまで。
「俺の身にもなれ! 荷が重すぎるんだよ!」
鋼の意志でスルーしようとする裕一だが、彼女たちの純粋で猛烈なアプローチは止まらない。
恋愛拒否気味な少年と、彼を絶対に攻略したい最強美少女たちの、ちょっと面倒で、でも最高に心地よい「激推し」ラブコメ、開幕!
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる