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『終わりから始まる物語』
第12話『セイヴフィール公爵邸』
しおりを挟む「そんなこんなでやってきたんだよセイヴフィール邸!」
「さっすが公爵家、階級が高けりゃ屋敷もでかいか」
喫茶店『ティアーズ』でセイヴフィール家へと招待されたエーヤとリル。いきなり訪ねて来てその日に招待という訳にはいかなかったので次の日、つまり今日にセイヴフィール家を訪ねることとなった。
現在は晴天。雲一つないくらいの空で、日向ぼっこには最適な日だろう。場所が分からなかったのでルークに聞いてみると、セイヴフィール家の邸宅はエリディアル王国都市の南西側に位置するという。基本的にエリディアル王国は広大な国でその首都には周りに巨大な壁を立てているのだが、どうやらセイヴフィール邸は王城や商業区、住宅街から遠く離れた都市内のなだらかな高台に存在するという事が分かった。
実際に行って門の前に立ってみるとその奥にそびえ立つ屋敷の大きさが際立つ。その様相は見るからに豪邸で、まるで図書館を改築したようなシックな外観である。
その邸宅の周りには丁寧に剪定され整理された庭園が広がっており、裕福な暮らしぶりが伺える。
「でだ、門の前に立っている訳だが勝手に入って良い…………筈ないよなぁ」
「―――勿論で御座います。許可なく立ち入ると不法侵入とみなし屋敷内に警報が鳴り響きますよ?」
「そうだよなー………ってうわぁ!」
エーヤのすぐ後ろから丁寧に話す女性の声が聞こえて、思わず驚いたような声を上げながらビクッと肩を震わせる。
後ろを振り向き女性をよく見てみると顔立ちは可愛いというよりも綺麗の割合の方が強く、とても整った造形だという事がすぐに分かる。髪型は前髪がアシンメトリー、後ろは肩を少し過ぎたぐらいのストレートで手入れされており、ヘアカラーはパープルに近い菖蒲色だ。忠告をしながらもにっこりとした表情が崩れることはない。綺麗な黄緑色の双眸がエーヤを捉えていた。
そして全体的に目を引くのはその容姿。
なんと、メイド服なのだ。
タイプとしては素足が見えないロングスカート型。衣装の細かい端々にフリルが施されており、機能性だけではなく、デザイン性も重視している事が読み取れる。黒を基調とした衣装に真っ白なエプロンを掛けるというシンプルな部類なのだが、胸元の程よい大きさのピンクリボンが綺麗さだけではなく可愛さも引き出している。
なんといっても豊かな胸元の膨らみがあらゆる全てを包み込むような母性を象徴しており、思わずエーヤはそこを少しの間ガン見してしまう。その秒数約三秒にも満たなかったのだが、
「おや、何とも刺激的で熱い視線が私の胸へと集中していますね」
「すみませんでした反省しています」
やはり女性は邪な男性の視線に敏感なのか直ぐにばれてしまった。思わず条件反射の要領で即座に謝罪するエーヤ。隣のリルはその様子を白けた目で見ている。
目の前の女性は然程気にしてはいないのか、柔らかく微笑み穏やかな口調でホワイトブリムを手直ししながら答える。
「いえいえお気に為さらず。年頃の殿方ならば、胸の一つや二つを凝視しても何ら不思議ではありませんよ。私は気にしませんが、まぁ人によっては不快な感情を抱くので街を歩く際にはご注意を」
「……はぁ、まぁ…………はい。気を付けます」
歩く度、そこら中の女性の胸に見入る人間だと思われた気がしてなんだか釈然としない青年《エーヤ》。実際に先程の前科がある為強くでられず、複雑な顔をしながら渋々と受け止める。
「コホンッ、前置きはこれぐらいにして。無作法ながら申し上げるのが遅れました。私、こちらに在るセイヴフィール家の炊事掃除洗濯などの家事全般、お世話、またこの邸宅の管理を一任されております、メイドの『メア』と申します。エリーお嬢様から噂はかねがね。本日は精一杯お持て成しさせていただきます。それでは屋敷の方へご案内致します」
「では付いて来て下さい」と彼女は言うと門へと掌を向ける。どうやら門は特定の魔力認証で開くようで、セイヴフィール家の関係者でないと自由に出入りは出来ないようだ。
門がゆっくりと開き、メアは屋敷に向かって歩いてゆく。エーヤ達も続くがやはりその敷地に踏み込んでみると手入れが行き届いている庭園、そして屋敷の豪奢さといった存在感に圧倒される。
メアの後ろを付いて来ているエーヤはやや緊張の面持ちを浮かべながら歩く(リルは手を広げてクルクル回っており楽しそう)。立場が上の人間からこういったに場所に誘われるのは実を言うと初めてではないのだが、性格上緊張してしまうのは仕方がない。何せエーヤは一般魔術師、どこまでいっても庶民という壁を越えられないのだった。
「……………今更ながら俺らって場違いなんじゃねぇの?」
「ちょっとー、そこは『俺』でしょ? 私は高貴な雰囲気が漂ってるからお嬢様っぽいけどエーヤは………ねぇ?」
「何さりげなく俺だけ貶しながら残念そうな目で見てんの!?」
綺麗な銀髪を靡かせながら純白なワンピースを身に纏うリル。片や白シャツの上に黒コートを羽織りながらボトムス、黒のブーツを履いているエーヤ。
エーヤにとってこれは自慢の一張羅なのだが、長い間着ているせいか所々くたびれているのは否定出来なかった。
「ご安心をエーヤ様、私の目から見ても貴方は十分に魅力的な男性ですよ」
「メアさん……………!」
「弄り甲斐のある方は大好物です」
「……………………」
持ち上げたメアに一瞬だけ「天使か……!」と思うエーヤだったがその後の急降下にずーんと沈黙する。どうやらメアはその様子が面白いのかクスクスと小さく笑いながら謝罪を行なう。
「ふふふっ、申し訳ありません。エーヤ様の反応がついツボにはまりまして」
「何処がですか………」
「そういうところに、です。でも、私の発言に嘘偽りはございませんよ?」
その言葉の意味を暫し探る。理解が追いついた時には、エーヤの顔には嬉しいような気恥ずかしいような、なんともいえない表情が広がっていた。
漆塗りされたような見目好い木製の扉を開けると豪華な宿のロビーのような空間がエーヤの視界に大きく広がる。上方にはいくつものシャンデリア、階層を支える為の巨大な石柱《せきちゅう》、そして様々なインテリアやオブジェなど、来客した者を歓迎するように多くの物が配置されていた。
メアが応接間へ案内するということでメアに続いて廊下を歩いていると壁には数点の絵画が飾られており、ある一つを注視してみるとそこには三人の人物が描かれている。真ん中にはにっこりと笑った幼少期のエリーが、その両脇にはエリーの両親であろうスーツを着た赤髪の男性、そして金髪の女性がドレスを身に纏い微笑んでいた。
仲睦まじい家族の団欒風景といったような感じで自然とエーヤの表情も柔らかくなる。穏やかな眼差しをしつつ心中で思わず呟く。
(家族、か………)
それから歩を進めると応接間へと着く。内装は落ち着いたシックな雰囲気に包まれており、絨毯が敷かれた上にテーブルや椅子といった家具が並べられている。さらに暖炉までもあり、十分に寛げられる空間だ。
「それではエリーお嬢様を呼んで参りますのでここで少々お待ちください。そうだ、宜しければこちらをご覧なさってて下さいな」
「………今どうやって取り出したんだ!? あとこれは?」
メアが手を背中へと回すとどうやら何か分厚い冊子のようなものを手渡される。サッと取り出しサッと渡されたので何が起こったのか分からず一瞬固まったエーヤだがなんとかして持ち直す。
「これはエリーお嬢様の幼い頃から現在まで、普段のお嬢様の様子をしれっと撮影した私個人の秘蔵アルバムで御座います。勿論、コッソリと♡」
「うっわ最後の言葉で一気に犯罪臭がするんだよ」
「うん、何となくメアさんの発言的に怪しいと思ってた。この人絶対人を弄り倒して楽しんでいる敵に回しちゃヤバい人だ!」
「あら………出会って十数分、随分と警戒されたものですねぇ。私は純然たる好意でお嬢様の可愛らしい成長過程の様子をセイヴフィール家の後世に残そうとしただけなのですが」
「あらあら」と頬に手を当てながら呟くメア。少し眉を寄せ困ったような表情で、エリーが聞いたら驚きと怒りで卒倒しそうなことを平然と彼女は口にする。
「何か恨みでもあるのかと突っ込みたくなるが……で、さっきのはどうやって取り出したんだ?」
「メイドパワーです」
「……………………メイドパワー?」
「メイドパワーとは! メイドのみ持つことが許された特殊な力。基本的にお嬢様のことを想えば想うほど『あれ、これ普通の人だったら絶対に不可能だけどあの方の為ならばたった一人でも戦争に勝てるんじゃない?』と感じてしまう位に力が沸きあがり具現化された、メイドの中でも選ばれた者のみが身に付ける事が出来る力なのです!」
「「寧ろメイドの範疇超えてない!?」」
自信満々に説明口調で力説しニコニコとしながらも少しだけドヤァとした表情を滲ませるメア。まさかのスーパーメイドだった事に思わず突っ込んでしまうが、どうやら二人の反応に満足したようでメアは改めて声の調子を整える。
「んっんん…………では、お嬢様を呼んで参りますね。失礼します」
そう言うや否や、メアは優雅にお辞儀をして退出する。残されたエーヤとリルはその間手持ち無沙汰になるので、渡されたアルバムを観賞する。
そうして時間を潰していると外からバタバタした音が聞こえてきた。勢いよくドアが開くと―――
「エーヤさん、リルちゃんアルバム見ないで―――!! ―――きゃっ!」
「ちょっ…………いっっ! うおぉっ!」
綺麗に身支度を整えた昨日と同じような服装のエリーが扉を開けるなりそう言い放つと、テーブルの上に載せてあるアルバムを急いで引っ手繰ろうとしたのかこちらに威勢よく走ってきた。しかも何故か焦ったような表情をしながら、だ。すると激しく勢いをつけすぎたのか、エーヤの座っている椅子の直前で足を取られて覆い被さるように転倒する。
「いったた……………」
「ううぅ…………ご、ごめんなさいエーヤさん。怪我はな―――」
絨毯が敷かれていたおかげか、倒れた衝撃がある程度分散されほとんど痛みが無かったエーヤ。だがそこである事にふと気付く。
(あれ、なんでこんなに顔全体が柔らかいものに包まれているんだろ? しかもなんか甘くて落ち着くような匂いがする)
押し付けられていため顔を動かすことが出来ず、呼吸をし辛かったエーヤはそれを押し退けようと手に力を入れる。すると―――
ふにょん
何か小さなスライムのような弾力性の高い感触が伝わってきた。まるで手に吸い付くほど柔らかいので取りあえず数回揉んでみる。
モミモミ、モミ、モミ
(あぁ―――)
ここまですると次第にエーヤも現在自分が何を触っているのかわかってくる。同時に、これから起こる出来事を身構えた。
「――――イ」
「イ?」
「イヤャァァァァァァァァァァァ!!!」
エーヤの視界に光が飛び込んできた瞬間、渇いた音を響かせながら頬に衝撃が走った。
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