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『終わりから始まる物語』
第18話『出会い、ある少年は』
しおりを挟むあれから大勢のソニックウルフを倒したエーヤ達はその亡骸から魔物にとって生命線ともいえる"魔核"を取り出していた。高ランクになるにつれて魔核の大きさも比例するが、Cランクと云えども魔核は魔核。やはりというべきかそれなりの大きさを誇っていた。
魔核は全ての魔物に存在し、魔力の動力発生器官及び心臓の役割を果たしているとも言われている。王国で流通している魔具などは、生活用品、武器体系、防具といったように種類が豊富だが、それらのほとんどに研磨し不純なものを取り除いた魔核が使われているといっても過言ではないのだ。
武器や防具には多種多様な能力を付与し、生活用品では火力の調節を行なえるコンロ、辺りを照らす公衆街灯といったエネルギー発生源としての利用目的が主にされている。しかし魔核が存在しても魔力を通さなければ機能を果たさず、その逆も然り。
王国で日常的に使われている公衆街灯等の光源があるのだが、それにも勿論の事魔核が用いられている。今までは公共用を中心とした大型の電灯の開発が推し進められていたが小型化の研究も進められており、現在では一般住民層の家庭でも多く部屋を照らす電灯が普及し住民からは王国の開発課へ称賛の声が上がっている。大量の魔力を効率良くエネルギーへ変換、出力する仕組みが完成したのは研究員の絶え間ない涙と汗と努力の結果だろう。しかしまだまだ改善する余地は残されており、もっと手軽に使用する事を目的に軽量化・携帯化が研究課題とされているのだが、その開発の進捗状況は現時点では平行線だとの事(ルーク談)。
閑話休題。
ソニックウルフの亡骸から魔核を取り出す作業が完了したのか、エーヤは木の根元で休んでいるエリーに向けて声を掛ける。
「よし、あらかた取り終わったか。あとエリー、ソニックウルフの毛皮を剥ぐから手伝ってくれないか? 但し、表面の損傷が最小限の個体だけを剥いでくれ。細かい傷がたくさん付いてるヤツは売物にはならないからな」
「うっ………分かったわ。でも二十匹近くの毛皮を剥ぐのは正直面倒ね。全身筋肉痛で、鈍い痛みが走るっていうのもあるけど………」
「じゃあ半分だけ皮を剥いでから残りの死体は穴を掘って埋めようか。時間が掛かり過ぎると血の匂いを嗅ぎ付けて他の魔物が寄ってくるかもしんないし」
貴族でもあるエリーに血生臭い事を頼むのも気が引けたが冒険者でもあるので我慢してもらう。二人で手際良く毛皮を剥いでいると、近くの茂みから「ふぎゃっ!」という男女の叫びが聞こえた。どれも若い年代の声である。
叫び声が響いた瞬間、エーヤは鋭くその方向へと振り向く。
「誰だ!?」
「エーヤ、私なんだよー。エーヤを見つけたと思ったら、怪しい三人組が茂みからエーヤ達を見ていたから脅かしてやったんだよ。驚きすぎて比喩じゃなく心臓が飛び跳ねるくらいにね☆」
そう言いつつ姿を現したのはリル。その背後には三人の男女が三者三様の態度をしつつ激しく息をついている。
エーヤとエリーがその様子を訝しげに見ていると、三人組の内一人で地面に手をついていた男性が化け物を見るかのような目でリルを凝視し、震えた声で叫ぶ。
「寿命が軽く五年は縮んだわ! もう何このチビッコ、隠れて彼らの様子を見ていただけなのにいきなりすげぇ殺気を首筋に当ててくるしもう死んだかと思った!!」
続いてぺたんと座りながら、胸に手を置いて息を整えている同じく冒険者らしい女性と、あどけなさの残る童顔の少年は続きの言葉を引き継ぐ。
「あ、貴方、もしかしなくてもその娘の保護者? せっかく可愛くてまだ幼いんだから品行方正に育ててあげないとダメよ…………?」
「僕、戦闘はからっきしですが少なくとも自分よりも年下の女の子に初めて恐怖を覚えました………!」
それぞれ異なる感想を並びたてながらもリルに向ける視線は皆同じだった。彼らには同情はするが、こちらの様子を見ていたという言葉に少しだけ引っかかりを感じるエーヤ。警戒の意を微量に含めて彼らに尋ねる。
「そりゃ災難だったな………でもどうして隠れていたんだ? いや、そもそもいつから見ていた?」
「なはは、そこのお嬢ちゃんが三匹のソニックウルフと戦闘をしている時からだな。いくら相手がCランクでも最近じゃ何故か手強くなってる。二人はパーティを組んでいるのかとも思ったがどうやら違うようだし、様子をしばらく見ていたら大勢のソニックウルフに囲まれたじゃねえか。助太刀しようかと行動に移そうとしたんだが、兄ちゃんがあっという間に倒しちまった。俺らは呆然、そのまま出るタイミングを見失って今に至るってわけだ」
「成程な。見たところ俺と同じく冒険者で、多分………Bランクってところか?」
「正解だ! まー最近ランクが上がったばかりのぺーぺーで、エリディアル王国に来たばかりのパーティだがな。…………おっと、名乗るのが遅れたな。俺はアンドレ・ディルートっていうんだ。で、こいつはミミカ・バージェスト。これも何かの縁だ、よろしくな!」
「ミミカ・バージェストよ。同じ魔術師として参考にしたい程、さっきは凄かったわ」
アンドレとミミカが手を差し伸べてくる。アンドレの手は大きくゴツゴツとしており、いくつものたこが出来ている。初対面なので実力がどうなのかは不明だが背に両手剣を背負っている様子から彼は剣士。相当な努力を積んでいるのが分かる。
ミミカは等身大の杖を手にしており外見的には魔術師。瑞瑞しい青色の髪をしているので主に水属性を操るのだろう。視た限り魔力量は一般魔術師の倍ほどで、これからの伸びしろはまだまだあるので期待大だ。
彼らの紹介が終わったところでエーヤもそれに応える。
「ありがとう、俺はエーヤ。エーヤ・クリアノート。よろしくな。で、こっちの彼女はエリー・セイヴフィール、そしてアンドレ達を驚かせたのは俺の契約精霊であるリルだ」
「エリー・セイヴフィールよ。初めまして」
「超絶美幼女精霊リルなんだよっ☆ 言っとくけどさっきのことは謝らないからね! だって不審な行動をしていたあなたたちが悪いんだもの」
そうやって悪びれもせずにけろりと笑顔で言い切る幼女。だが実際まさにその通りなので一概に彼女を言葉を否定出来ない。するとある言葉に反応する少年が一人。
「精、霊…………? 彼女は精霊なのですか!?」
「あぁ、そうだが……………それがどうかしたのか?」
驚いた様子で突如大声を上げた少年に視線を向けるとハッとした表情で姿勢を正す。
「こ、これは失礼しました。僕の名前はマスト・ディンブルと申します! 突然興奮してしまってすみません。何しろ、人間の姿をした精霊と今の今まで出会ったことが無かったのでびっくりしてしまったのです!」
「ふふ、彼はなんと十三歳という若さで行商人をしているのよ。アンドレと私はパーティを組んで【ヴェルダレア帝国】で活動していたんだけど、どうも実力が伸びなくて。で、気分転換を兼ねてエリディアル王国へ行く道のりでばったり出会ったの。話を聞いたらたった一人で旅をしているっていうじゃない。だから私たちは行くついでに、護衛もしているという訳」
「へぇ………ヴェルダレア帝国で、な………。しかし行商人か、いったい何を売っているんだ?」
ヴェルダレア帝国という国名を聞いて少しだけ懐かしい気持ちになるエーヤ。だが郷愁の念に浸る気持ちをぐっと抑え、気になった事をマストに尋ねる。どうも見た限り、商人という割には彼が現在持っている荷物は多く見当たらない。精々両肩に収まる程度のリュックを背負っているくらいだ。
頭部に身に付けているターバンを両手で触る仕草をしながら答える。
「いやぁ、僕の扱う商品は少し特別でして。……………驚かないで下さいよ?」
「………? あぁ、分かった」
それほどに仰天する代物なのだろうかと考えていると、マストは瞼を閉じながら一言呟く。
「レイン、四匹出して」
『………………』
エーヤ達の目の前に眩い濃い菫色の光が発生する。思わず目を細めるが次の瞬間にはそれぞれ種類の異なる計四匹の幼い魔物が鎮座していた。
右から順番に、プライマルフォックス、タイニーカーバンクル、チックバード、リンクマウスといった複数の魔物が可愛い声を上げながら各々自由な体制で過ごしている。目の前に人間がいるというにも拘らずリラックスした様子を崩さないのは警戒心が薄いからなのか。
「へぇ………!」
「…………どうですか、この魔物達は今まで僕が手塩に掛けて育てたんです! 可愛くて大人しいでしょう? 魔物というと駆逐対象であり近寄ると危ないというイメージを持たれがちですが、それは野生の魔物の話です。このように幼い頃から人の手で育ててあげれば人間に対しての警戒心が薄くなって親しみやすくなりますし、何より私たちの魔物に対しての意識も変わります。……………今は残念ながら、魔物と人間が共存するという選択肢をとっている方は少ない。ですがこのように愛玩用、もしくは魔物使い《テイマー》用に育成していけば、いずれは魔物を愛でる文化が世界全体に広まるか、魔物使いの需要が高まると思うんです!」
エーヤ達の反応を伺いながら最初こそおずおずとした口調だったが徐々に饒舌になっていくマスト。余程魔物が好きなのか、語る度にその瞳はキラキラと輝いている。
魔物使いというのは使役する魔物で戦う者の名称である。その使役する魔物の数に制限はなく、魔力さえあれば魔術を使えなくとも契約を簡単に結べるのだが、高位、更には知能がある魔物に対し契約を持ちかける場合には手順が複雑になる場合がある。そしてマストの言う通り、現在魔物使いの数は少ない。エーヤも様々旅をしてきて出会ったのが数名ほどという具合だ。
口を開こうとするエーヤだったが、直前に黄色い声が遮る。
「きゃ~~っ!! もうすっごく可愛いんだよ!!! ほら、抱っこしても抵抗しないで大人しい!」
「この子なんてとてもフワフワな毛並みね。ずっと撫でてても飽きないくらい気持ち良いわ!」
「これが、これこそが、モフみ………!」
リルはタイニーカーバンクルを頭上に掲げるように持ち上げるとクルクル回りながら言い、エリーは女の子座りをして主にプライマルフォックスを撫でている。彼女らはチックバード、リンクマウスに囲まれながら、はしゃいだり目を細めながらほっこりしたりと様々な表情をして癒しを受けていた。
「どうやら基本的に可愛い魔物は女性に受けがいいですね。見ているこちらも目の保養になります」
「はは、今まで結構戦闘の訓練をしていたからな。ストレス発散の意味合いもあるんだろうさ。………でも驚いたぜ、マストも精霊使いだったとはな」
「――――――ッ! えぇ、気付いていましたか」
水色の目を見開いてびっくりしたような様子を伺わせるマスト。
「そりゃ、精霊って言った時の反応を見ればな。純粋にリルの姿に驚くか、もしくは自分と同類を見たときのモノだ。確信したのはマストの背後の違和感、後の魔物を出現させた行動で分かった。お前の側にいるんだろ?」
「………はい、名前をレインと言います! 彼女は恥ずかしがり屋なので滅多に僕以外の人間の前には姿を現しませんが、能力はあらゆる生物を『収納』出来ることで―――小さい頃から支え合ってきた大切な、大切な僕のパートナーですよ」
瞳を薄く細めながら、そう笑うマスト。『収納』能力を持つ精霊というのは驚きだが、その表情の奥底にはナニかが秘められているような気がして。だがエーヤはそれに深く言及せずに発言する。
「―――そうか、俺もだ。ここに初めて来て、不安だったときにはいつもあいつがいた。周りをも笑顔にするその明るい性格に何度も助けられた。こんなこと、リルの前じゃ絶対に言えないけどな?」
エーヤはそういって朗らかに笑う。つられてマストも笑うと口を開く。
「ふふっ。どうしてでしょう、エーヤさんとはなんとなく気が合う気がします。様子を見ると魔物に対しても理解があって、あまり偏見は持ってらっしゃらないようですし!」
「………言っとくが、魔物から襲ってきたり目的がある場合は別だぞ? 死ぬつもりはないし、身に降りかかる火の粉は全力で振り払う。それは生者が持つ当然の権利だからな」
「それもそうですが、僕が言いたいのはエーヤさんは魔物に対して礼儀があるということですよ。魔物とて命を持つ生物。そこらの冒険者なんかは魔物を倒せばすぐに素材の方へと目が向きギルドで換金、もしくはクエスト達成で報酬をもらったりと自分の為ばかりで魔物の後処理すらしない。素材が目的だとしても魔物がいるからこそその素材は生まれるんです。でもその分エーヤさんはしっかりと魔物に向き合っていた。勝者の権利でもある素材を剥ぎ取り、死体は地中に埋めて配慮をした姿を見て、正直感動したんですよ! …………………冒険者の中でもそのような人物はいるんだと」
マストはエーヤにも伝わる怒りを含ませながら力強く語る。どうやら話を聞く限り、魔物を倒したら存在を蔑ろにする冒険者を嫌う様子が見てとれる。魔物に対する執着は並々ならぬようだが、何がそこまで彼を魔物に夢中にさせるのか。
この様子だと、幼い魔物の売買を営む行商人がきっかけではないような気がするが…………。と、ここまで考えたところでその思考を打ち切る。
「ま、お前もしばらくはエリディアル王国に滞在するんだろ? その間にマストの相棒の姿を見られると良いな。リルとエリーもあんなに笑って楽しそうだし、その礼も実際に会ってしたい」
「――――――――ええ。近いうちに、見れると思いますよ!」
そう言ってマストは表情をくしゃっとしながら、無垢に笑った。
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