無属性魔術師、最強パーティの一員でしたが去りました。

ぽてさら

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『セントパール魔術学園~学園ダンジョン編~』

第44話『セントパール魔術学園』⑥

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◇◆◇

「なっ………!」


 エリーは思わず耳を疑ったが、鋭敏さが増した聴覚は間違いなく己の耳朶に聞き届けていた。目を見開くと学園長に詰め寄る。


「―――それは、確かな事実なんですか!? 学生の安全の確保はどうなっているんですか!?」
「それは問題ありません。しかし夢なら是非とも覚めて欲しいのですが、残念ながら現実です。現在は学生が立ち入らないように厳重に封鎖しており、既にこのことは王国の上層部にも報告済みです」


 彼女の言葉に驚いてしまうのは無理はない。これまでエリディアル王国の都市内で、尚且つ建物の内部でダンジョンが発生したという異常事態を聞いたことが無い。
 エリーは以前迷宮を探索したが、長時間の探索により身体の負担が大きかったのが印象的だ。いくらフランシーヌの問題ないという言葉があってもその性質の危険性を身を持って経験しているエリー。額面通りに受け止めるのは到底無理な話だろう。

 迷宮探索した日を思い出しながら取り乱してしまった心を落ち着かせる。リーゼへ振り向くと、


「リーゼ、いえ、ここにいるみんなは既に知っていたのね?」
「うぅ~、ご、ごめんねエリー………。ママ……が、学園長がっ、私たちや一部の教員以外に絶対に口外しないように念押ししてて、それで秘密にしてたんだ。そしたら今日になってエリーにダンジョンの事を伝えるって言い出して………わ、私は反対したんだよ? 折角エリーが学園に来てくれたのに厄介ごとに巻き込むのは気が引けたし、私たちでも問題なくダンジョンには潜れたから」
「フランシーヌ学園長はともかく、私と違ってみんなは平気だったんだ。普通なら、長時間潜ると倦怠感があったり体調を崩すのに………」
「待って下さい、その言い方ですとエリーさんは既に他のダンジョンを探索して………!?」


 リーゼとの会話に驚愕の表情を浮かべながら割り込むフランシーヌだったが、それは周りにいた五大公爵家の面々も同様。
 エリーは内心しまった、と後悔する。ダンジョンを探索したといっても一回きりで、さらに内部の魔物の強さは地上とは異なる。中盤の魔物には防戦一方に追い込まれ、無属性魔術師の青年らに助けられたという、新たな出会いがありつつも、いささか苦い思い出なのでエリーにとってこの話の詳細は避けたい。
 空中に忙しなく視線を彷徨わせると、


「あぅ、はい、たった一回ですが」
「そ、うですか………ひとまずその件は置いておきましょう」


 若干声が上擦うわずってしまったことは否めないが、フランシーヌは何か納得した様子でエリーの言葉に神妙に頷いた。エリーはその表情にどのような意味が込められていたのかは分からないのだが、まずはダンジョンでの出来事に対する追及を躱す事が出来たので小さくほっと一息つく。


「先程のエリーさんの質問ですが、リーゼが話していた通りです。ここにいる五大公爵家の御子息御令嬢はいずれエリディアル王国の将来を支え、担う存在。是非とも貴重な経験を積ませたいと思いまして私が同行してダンジョンへ行きました。原因は不明ですが、通常のダンジョンと違い体調不良もありません。付け足すのならば魔物も出現しなかった」
「………それは、異常ですね」


 そう、それは一言で言うならば"異常"だった。ダンジョンとは"生きる箱庭"。一定の期間を以って内部の形状、経路や罠の位置などは変化するのだが、その原因はダンジョンの空気中に含まれる魔素にある。
 しかし今回学園内地下で発見されたダンジョンは体調不良を感じたり魔物の出現は無いという。それはつまり、
 

「普通ある筈の魔素がそのダンジョンには無い―――そもそも、いつ、発見されたのですか?」
「つい最近、一月にも満たないほど前辺りでしょうか。闘技場アリーナの数ある内の広い用具室の一室を事務員が点検していたら床には一部の瓦礫が散らばっており迷宮に繋がる階段が出現していたそうです」
「階段、ですか。魔術陣型の転移装置ポータルではない、という事はダンジョンと地上が直接つながっている状態ですね」
「えぇ、発見した職員から直ぐに報告を聞き、私がそれを実際に確認して奥下を進んでいくと気になるものがあったのです」
「………………?」
「それは―――」
「―――八つの石碑せきひ、だょねぇ?」


 フランシーヌ学園長は口を開こうとするが、次の瞬間、明らかにこの場にいる者ではない声が何故か学長室に響いた。ふとエリーはその声を聞いて少しだけ違和感を覚える。この声は、昨日出会った少女の声に酷似していて―――。リーゼ達を見るとエリー同様に驚いており、辺りを見渡していた。
 そうして、学園長が座る斜め後ろの扉からその少女は姿を現した。


「ぃや~、話がチョー長かったから割り込んじゃったよぅ。ごめごめ☆」
「リ、リフィアちゃん………!?」
「おっ、エリっち昨日ぶり~! ぁの時はマジごめぇ、激ぉこプンプンムカ着火ファイヤーぁ状態だったからぁ帰るときホントブスだったでしょぉ~? でもウチは約束は必ず守るたぃぷだし、ぁんぜん保証付きだよぉ!!」


 サムズアップしながら周囲など気にせずに元気いっぱいエリーへ声を掛ける少女。たくさんのアクセサリーを身に付けた姿は昨日と比べて変わってはおらず、ボブカットの赤髪は一段と艶やか。
 リフィアが去る際『あっちでもヨロシク』と言っていた意味をようやく理解するが、同時に何故学園にいるのかという疑問が頭の中を巡る。


「リフィアさん、説明し終えるまで奥で待機してて下さいと伝えたではないですか。しかもエリーさんと知り合いだとは、それならそうと先に言って下さい………」
「別にぃぅ必要なんてなぃじゃんフラっち~。どぅせ後からわっかる事だったんだからぁ、問題ナッシング!」


 溜息を吐くフランシーヌにソファへ移動し座りながらへらへらとした言葉と笑みを向けるリフィアだったが、そんな態度に反感を覚える人物がいた。
 彼は鋭い目つきでリフィアに詰め寄る。


「てめぇ、学園長に向けてその馴れ馴れしい態度はなんだぁ? そもそも見ねぇ顔だが誰だよ?」
「ぇぇ~? まず相手に何かを尋ねる場合ってぇ、ジブンから名乗るのがれーぎって教わったんですけどぉー」
「チッ、オレ様を誰だと思ってんだ! エリディアル王国が誇る五大公爵家、『火』属性を司るバーナード家の次期当主だぞ!!」
「――――――」


 グレンは意気揚々と自慢げに己の家柄をリフィアに語るが、当の彼女は目を見開きながらきょとんとした表情をしている。そんな様子を見て僅かながら溜飲が下がったのか、


「ハッ、この場にいる人間がどういう立場だか理解してないようだがなぁ、お前が考えているよりもオレらは王国内で―――」
「だからなに?」


 権力がある、と続けようとしたのだろうが、リフィアの言葉に先程までの勢いが止まった。グランの表情には、目の前の少女が何を言っているのかまるで理解できないといわんばかりの困惑が広がる。
 リフィアは軽薄な笑みを隠そうともせずに、しかしその双眸には彼を射抜くように捉えていた。


「次期当主がどぅとかぁ、ァンタらの立場がどぅとかウチにはこれっっっぽっちもカンケ―なぃしぃ。つーかそれくらぃしか誇る所がなぃならソコが知れるってゆーかぁー、―――うーん、ザコ?」
「てめぇ………!」


 容赦ないリフィアの言葉に激昂したグレンが胸倉を掴みかかろうとするが、鋭い制止の声が掛かる。


「やめなさいグレン!」
「っでも、コイツは………!」
「貴方では何もかもが及びませんし、自国の恥をこれ以上晒さないで下さい。彼女がここにいるのは王国にしてみれば願っても無い事なのです。この方は―――」
「ぃぃよぃぃよフラっち、名乗ればぃぃんでしょー?」


 彼女がソファから立ち上がると黒地のコートが靡く。腰に下げた赤色のチェーンが軽やかに揺れると爽やかな金属が擦れる音が広がった。
 エリーはその様子にある青年の姿を重ねていると、赤髪の少女はそれに構わず名乗る。


「ウチはリフィア・コーデック。ヴェルダレア帝国で活動してぃるパーティ『永遠の色調カラーズネスト』の一人だよん。『爆拳紅星スカーレット・スター』ってぃぇば、わかるかにゃーん?☆」
「なっ………!」


 驚愕の声を上げたのは誰だったのだろうか。フランシーヌとエリー以外の全員が有り得ないというような表情を浮かべているであろう事が容易に想像できる。
 彼らのそんな反応は慣れているのか、構わずに言葉を続ける。


「ウチ的にホントは学園に用事は無かったんだけどぉ、王国がそのダンジョンの情報を帝国に伝ぇたら依頼としてコッチに回ってきちゃったんだよねぇ………。みんなは忙しぃし、ウチは丁度魔具の設計が終わったトコだったから来たんだぁ☆ まぁ、ぶっちゃけぃぇばこの依頼はつぃで?」
『………………』


 リフィアの身も蓋もない言いようにこの場にいる全員が唖然とした顔をしているが、エリーは同時に納得もしていた。
 彼女の本来の目的は恐らくエリディアル王国にエーヤに会う事だった。エーヤが扱う武器のメンテナンスを行なうという事だったが、多分それが一番の目的。偶然にもこのダンジョンの依頼が重なってしまった部分もあるのだろうが、『永遠の色調カラーズネスト』の一員である彼女の実力ならば信頼できる。

 この空気を払拭するべくフランシーヌが咳払いすると、改めて説明し始める。


「みなさんの反応も当然でしょうが、これは王国上層部の決定事項です。当初は王国内の冒険者に調査依頼を要請しようとしていたのですが、何しろこんなケースは初めての事。現在は安全ですが今後どう変化するのか見当もつきません。なら、ダンジョンに関する情報に詳しく、中でも危険度が高い『七大迷宮』を専門に探索しているパーティ、『永遠の色調カラーズネスト』を保有するヴェルダレア帝国に情報を提供するべきだという意見が多数出たので現在彼女に来て貰っています。………流石に、かのパーティの一人が調査に来るとは思いもしませんでしたが」
「普通はそぅだねん。ウチも魔物や罠、迷宮内の変動がまったく無ぃダンジョンなんて、ぃままで聞ぃたことが無ぃ。だからこそウチらに依頼が来たんだろぅけどねぇ」


 リフィアが再度ソファにすとんと座りながら若干気だるげに言う。


「なので彼女への失礼は無いようにお願いします。彼女はヴェルダレア帝国を代表して王国に来ていただいているので」
「べっつに気にしなぃけどねぇー。ま、しばらくよろよろ☆」
「………しばらく?」
「ぁ、そうぃぇばぃってなかったね」


 大したことのないように彼女は口を開く。その言葉はエリーたちにとってとても衝撃で―――、


「ウチ、しばらく学園生活するし。ぁと学園内で開催する『魔術舞闘技祭まじゅつぶとうぎさい』にも出るから、改めてヨロシクぅ☆」
「………は?」


 フランシーヌを除く五大公爵家はリフィアの発言に呆然とし、エリーは二重の意味で驚愕したように首を傾げた。


 
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