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『セントパール魔術学園~学園ダンジョン編~』
第48話『セントパール魔術学園』⑩
しおりを挟む『風』の精霊の力を纏った狂槍がうなりを上げてエリーへと襲い掛かるが、自らの盾でその鋭い先端を弾き飛ばす。接地面が擦れることによって激しく火花が散らばった。
その流れでカウンター気味にエリーは手に持つ盾と対になっている漆黒に煌めく剣を振るうとランカは銀鎖が巻いてある狂槍の長い柄で防ぐ。すぐさま器用に両手で素早く回転させるとエリー目掛けて振り落とした。
ランカが『王武』を顕現させてからは魔術を発動しようとせず、彼女は近接戦闘ばかりに集中していた。身体能力は『風』の精霊の力を利用しているのかエリーの身体強化に勝るとも劣らない。
エリーは繰り広げられる剣戟の中でランカの表情に視線を向けるが、身体的にも苦しいのか序盤よりもつらそうに汗を滝のように流していた。
決闘の制限時間は十分だが、その時間にも満たない間にこれだけの汗を流すという事はやはり『王武』を顕現する際に大量の魔力を消費したのが主な原因だろうと考える。
彼女が未だ熾烈な攻撃を展開出来ているのはスタミナがあるからなのだろう。でなければ魔力をたくさん消耗した身体では武器を振り上げる事すらままならない。
しかし、エリーが視た限りそろそろ限界のようだ。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ………! っ、くぅ………!」
「ランカ、貴方もう限界なんじゃ………?」
「う、るさいですわ………っ! ほら、私に話しかけている暇はないのでは、なくて?」
「………………ッ!」
牽制するように勢い良く槍を突いてからランカが飛び退くと突如、彼女目掛けて大量の炎の槍が降り注ぐ。エリーはその驚異的な多さに思わず圧倒されるが、盾ですべて防ぐことは不可能と瞬時に判断し回避経路を探すと降り注ぐ炎槍をギリギリ縫うようにして回避する。
この火属性の上級魔術を発動したのは、離れた所に立っている赤髪の少年。
「あっひゃひゃひゃ!! さっきから逃げ足だけは速いんだなぁ!! だがよそ見してると痛い目見るぜぇ!!」
「――――――ッ!」
体を覆う魔力にて熱気などは遮断されているが、すべて激しい熱気が放たれているであろうソレらは地面に突き刺さると、ジリジリと発光して爆発した。
その余波で砂塵が発生し辺りが見えにくくなるが、現在のエリーには関係無い。エリーは自分の方へ接近してくる魔力を察知すると盾を構える。魔力は通ってはいないのだが、それでも初代から使用してきた盾。その頑丈さは精霊の力が宿った『王武』による攻撃をも防ぐほど。
「これで、終わりですわ………っ!」
「―――残念だけど、その動きは読んでいたわ!!」
エリーの見立て通り砂塵の中からランカが現れて刺突を繰り出すと、その一撃の風圧で一気に砂塵の膜が破けた。
不意を突いたとはいえ彼女渾身の一撃。『王武』の強力な殺傷性を考慮して右肩を狙うが、エリーの言葉と共に自らの一撃が防がれたことに対し驚きを隠せないランカ。
焦燥感を滲ませながらも咄嗟にランカがその場から飛び退くように後退すると、彼女は激しく呼吸を繰り返した。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、っごほ………! げほっ、げほっ………!」
「ねぇランカ、やっぱりこれ以上無理はしない方が良いんじゃ………魔力だって」
「―――黙りなさい、エリー! それ以上口にすれば、私は貴方を絶対に許さない!!」
エリーが言葉を紡ごうとするも激しくエリーを攻め立てるような口調で遮るランカ。ここまで怒りの表情を浮かべながら激昂した彼女の様子を見るのは初めてかもしれないと思うが、同時にやはり、とエリーはランカと武を競う内に気が付いた事がある。
魔力保持機能低下、つまりは彼女の魔力の総量が異様に減少しているのだ。
「はぁー、はぁー………今は、貴方との決闘中です。公爵家として、貴族として、その矜持を放り捨てるわけにはいかないんですの!」
「………っ、ランカ」
「今度こそ、次で終わり―――」
「―――なぁにちんたらやってんだよっ!!」
矛先を下に構えながら武器を手に持ちながらも、立っているのもやっとな状態のランカ。エリーは不安な目で彼女を見つめるが、そんな彼女の背後から荒々しい怒声が響き渡る。
直後、グレンはランカの脇腹目掛けて右足で回し蹴りを食らわせた。背後から攻撃されるとは考えていなかったランカはその蹴りの勢いのまま激しく転がる。巻き髪や制服といった身体中が砂に塗れるが、それ以降は呻くばかりで立ち上がる気配はない。
「がっ………! く、ぅ………」
「ランカ………! グレン、貴方ランカの仲間でしょう!? なんで攻撃なんてしたの………!?」
「仲間………? ハッ、こいつは決闘の中でテメェを痛めつけるために共闘していただけに過ぎねぇよ。ある意味、利害の一致とも言えるなぁ。どうせこいつもオレと同じ考えだぜ? 五大公爵家だけが使える『王武』まで出したから殺すつもりで戦ってんのかと思ったが、どうやらこいつはこいつで体力の限界らしい。テメェのスタミナ切れを狙ってスキあればランカを利用したが………期待外れ、時間の無駄だったぜ」
「連携してると思ったけど、貴方が放っていた魔術はランカも狙っていたのね。虎視眈々と、私に痛手を負わせる機会を窺うために―――最低ね、同じ公爵家を利用するなんて」
今すぐランカの元へ足を運びたいが、まだ決闘中だ。彼の放っているつもりの殺気とも呼べるちゃちな威圧など、それ以上のモノを知っているエリーにとっては軽すぎるのでなんとも思わないが、彼女の心中はランカが利用されたことへの怒りに満ちていた。
ランカは自分自身の身体の状態を良く把握していた筈だ。魔力保持量が少なくなっているなら尚更、戦うことで魔力を消費してしまう決闘など避けた方が良い事など明白。
それなのに、彼女は自らエリーへの決闘を申し出た。聡明な彼女のことだ、何か考えがあったに違いないのだろうと考える。自分の身を削りながらも大幅に魔力を消費する『王武』を顕現させてまで戦ったのがその証左。
それ故に、エリーはグレンに対し怒りを抱いていた。彼の自分勝手で、自己中心的な考えでランカの想いを踏みにじったから。
―――それを、少しだけ、グレンにぶつけてみた。
「―――――――――」
「な、なんだ………? 身体が震えて、腰も………っ!? なんで、どうなってやがる!?」
「今日は、ここまでにしてあげる。この続きは魔術舞闘技祭で決着を付けましょう」
「それまで! 決闘終了です。この決闘で、本来の目的であるエリーさんの実力は証明されました。ランカさんは………気絶しているようですね」
まるで極寒の地に放り込まれたように体を震わせながら腰が抜けたグレン。その様子をエリーが冷めた視線で射抜くと、その後すぐ決闘終了の言葉が学園長から述べられた。
地に膝を付けながら一足先にランカの状態を確認した学園長。未だ横たわる彼女の元へ介抱しに行こうとするエリーだったが、ランカを背負った学園長の言葉によって、それは叶う事は無かった。
「エリーさんは、今は何もしなくても良いです」
「え………? でも、ランカは………!」
「貴方が言おうとしている事はわかります。気付いたのですよね、ランカさんが万全の調子ではないことに。ですが、今はそっとしてあげた方が良いでしょう。この娘が………貴方をライバル視していたのならば尚更です」
「わかり、ました………」
不承不承ながらもエリーは細い声で返事を伝えるが、その様子を見た学園長はふっと優し気な笑みを浮かべる。エリーの傍まで歩み寄ると、耳打ちした。
「今は、と言った筈です。これから医務室へと運びますが、しばらく寮の自室で療養して貰います。私から安静にしているように伝えるので、時間を見つけてお見舞いをしてあげて下さい」
「………! はい、ありがとうございます」
フランシーヌ学園長の言葉にはっとすると、エリーは喜色を浮かべる。彼女の言葉に満足そうに頷くと学園長は、こちらを見ている者たちへと顔を向けて大声で今後の旨を伝える。
「みなさん、申し訳ありませんが、今日のダンジョンの探索は中止です。私の声掛けがあるまで普段通りの学園生活を送って下さい。私はこれからランカさんを医務室へと運んで様子を見ます」
「ぅーん、ウチは別に一人でぃってもぃぃんだけどぉ?」
「リフィアさんにはまた日を改めてエリーさんと行って貰います。今回発生したダンジョンへ行くには、全権限が委任されている私の同行が必須ですので。さて、魔術舞闘技祭もあと一か月、大勢の観客や各組織の実力者がいらっしゃるのですから日々研鑽を怠らないようにしましょう。それでは、解散です」
そう矢継ぎ早に口にすると、ランカを背負った学園長は闘技場の入り口の奥へ歩いて行った。リフィアの提案でダンジョンを見に行くこととなっていたが、学園長の言葉もあり従わざるを得ない。
何はともあれ、エリーの実力を測る決闘は幕を閉じたのだ。
「さぁて、僕たちも魔術舞闘技祭へ向けて特訓しないといけないなぁ! 五大公爵家の『光』を司る者として、大勢の見物人に誰かさんのような無様な姿は晒したくないからねぇ!」
「………面倒、だけど、頑張る…!」
「エリー! メチャクチャ凄かったけど身体の調子は大丈夫なの!?」
「フラっちなんかごーぃんだったねぇー。プっちーみたぃ。………ゃばぃ、そぅかんがぇたらなんかゥける☆」
ライオットとローエルは学園長と同じく闘技場から出て行く中、リーゼとリフィアはエリーの元へと足を運ぶ。
心配そうにぺたぺたとリーゼは制服姿のエリーの体を触っており、リフィアは彼女ら二人を見てにまにまと笑みを浮かべていた。
すると、
「クソ、クソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがっ!―――オレは、てめぇを認めない!!」
今まで震えながら腰が抜けていたグレンの咆哮が、彼女ら以外いなくなった闘技場に虚しく響き渡る。
今も若干身体の震えが見られたが、エリーを激しく睨み付けると舌打ちしながらよろよろと去って行った。
「なんなのアイツ………?」
「わからない、けど―――彼とは、しっかりと決着を付けないといけない気がするの」
エリーはグレンが去った方向へ紫紺の双眸を向けつつ、思いを馳せる。
彼の性格は非常に自己中心的で傲慢、気に入らない事があれば力や公爵家としての威光を利用しようとし優越感を得るために他者を見下す事も厭わない。むしろ頻繁に行なっていただろう。
エリーも嘗てはグレンの被害を受けていたのだ。彼の態度がエリーの前では露骨だったことから気付けたが、いじめや無視という形で他の生徒を先導し、魔術が使えない者はこの学園にとっては異物だと印象付けた。
それ故に、いつの間にかほとんどの生徒がエリーに対し無関心を貫くか、排除しようと率先して動くようになってしまった。おそらく、いや、今になって思えば確実に他の生徒も、違和感に目を向けようとしていなかっただけで、心の隅では『盾の守護者』候補の人間が魔術を使えない事への忌避感が募ってしまっていたのだろう。
以前行なったランカやライオットとの決闘もそれを増長させた。
グレンの過去の行為を表現するならば、たった一本のマッチに火を付けて放り投げたことだけ。それがたまたま燃料に燃え移り炎上してしまったのだ。
彼は短絡的ではあるが馬鹿ではない。エリーと同じ公爵家の人間ということもあり、意図的に他の生徒を焚き付ける事など造作も無いのだ。
だから―――、
(決着を付けた上で、何故私を追い込む必要があったのか本人から直接問いただす)
そう新たな決意を胸にした瞬間であった。
同時にグレンが悪態をついて去って行った様子を、じっとライトグリーンの瞳で見つめていた少女がいた。耳に掛かっていた艶やかな赤い髪を右手で搔き上げる。
(なぁーんか、ャな雰囲気がただょってるなぁ………メンドーにならなきゃぃぃけど☆)
リフィアはそのように頭の片隅で考えるが、若干諦めたかのように一つ小さな息を吐く。
―――リフィア・コーデックは天才である。『永遠の色調』の一員という事を除いては、高度な魔具作成技術を持つが故に帝国総魔具開発部門の主任に最年少で就任したという功績がある。
そうして帝国に多大な利益をもたらした彼女だが、感覚で物事を考え、行動する癖があるので理屈では説明できない、第六感が非常に優れているのだ。
故に、彼女の勘は大概当たる。
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