83 / 98
第三幕 天使との距離
回想⑧ ~忘れ物~
しおりを挟む◇
あれは十月が過ぎた辺りのことだったな。
僕たちの学年全体が高校受験に向けて一丸となって頑張っているんだけど、勉強疲れや不安といったストレスを抱えているのか、どこかみんな鬱憤のはけ口を探しているように見えた。
全ての授業も終わって放課後、僕は勉強のために残っている光輝達に断って教室を出たんだ。僕は変わらず成績が良かったし、何よりライトノベル最新刊の発売日だったから急いで家に帰ろうとした。
不思議と、これまで抱いていたグループへの不安は消えていた。
それはきっと、初めて夢中になれる物や彼等以外の居場所を見つけたから。
『……あ、机の中にラノベ入れっぱなしだった』
急いでいたからか、ファンタジー系のラノベを机の中に入れっぱなしにしていたことを玄関で気が付いてね。僕は廊下を歩いて階段を昇って教室に再度向かったんだ。
元々サブカル系が嫌いな光輝たちに朝の時間や休憩時間にラノベを読んでいることがばれないように、僕は革製のハードカバーを付けて隠していた。
前に一度、光輝に何を読んでいるのか訊かれたけど、僕が本を仕舞いながら適当に誤魔化すと彼はすぐに別のクラスメイトのところへ行ってしまったくらいの関心の無さだったな。
だからそのとき僕は、まったく心配なんてせずに忘れ物を取りに戻る何気ない感覚で教室に足を運んだんだよね。
でも教室の扉の取手に手を掛けた瞬間、突然教室の中から聞き覚えのある声が僕の耳に大きく響いた。
『―――つーかさ、来人のヤツ最近俺らとの付き合い悪くね?』
『っ!?』
その大きな声は光輝のものだった。明るくて、人懐っこくて……でもどこか、強い同調が含まれている声音。
僕は咄嗟に身を屈ませてしゃがみ込んだよ。そして、教室の中を恐る恐る覗いた。
そこには光輝、紅羽さん、結衣さん、勲のいつものグループ四人が中心にある光輝の机の周りに固まっていたんだ。彼等以外のクラスメイトはもう全員教室から出たのかもう誰もいなかった。
そのまま言葉は続く。
『放課後の勉強会とか、折角俺らが限られた時間の合間を縫って作った土日の遊びの誘いだって断ってさぁ。べんきょーしなきゃって言ってっけど、俺らと一緒でも出来んじゃん』
『あーマジそれ。それにアイツ、光輝の誘い断るクセに最近ミョーに吹っ切れた顔するようになったし。あ、もしかしてカノジョでも出来ちゃったカンジ?』
『だっ、だとしたらそのこと私たちにも言ってくれるんじゃないかなー!? だって私たち―――』
『"親友"なんだから、だろ? 分かってるわかってる。結衣の前からの口癖だもんな、それ。オレも良く使ってっし』
『……だが、だと、したら、来人は、何故、断るのだろうか』
勲がそう言うと、少しだけ沈黙が続いたよ。次の瞬間、
『なぁ結衣』
『ん……? な、なぁに、光輝?』
『結衣は、あいつの本当のこと知ってるんじゃないのか? よく来人と話してるもんなぁ?』
『……確かにそうかもー。何か隠してるんだったら素直に話した方がイイんじゃない、結衣?』
『そ、れは……』
『…………』
『俺らにも話してくれよ、結衣。来人のこと俺らだけ知らないなんてなんか寂しいぜ。なぁ、だって俺ら―――"親友"だろ?』
『…………ッ』
結衣さんは、光輝のその言葉にハッとした表情になった。唇を引き締めながら、視線を揺らして悩んでいたよ。
……あぁ、もともと結衣さんには僕がライトノベルに嵌っていることは光輝達には話さないでって伝えてあったんだ。
前のこともあったし、何よりそれが原因で僕らの関係を拗らせたくは無かったから。
妹さんもライトノベル好きなこともあって事情を知っていた結衣さんも、それを快く了承してくれた。
正直、結衣さんには申し訳ないことをしたと思う。僕との"約束"をとるか、グループへの"信頼"をとるか……あの短い間に相当思い悩んだ筈だから。
……それに、当時僕は気付けなかったけど彼女は色々あって心が弱ってたみたい。
結果的に結衣さんは―――彼らを信じて話すことを選んだ。結衣さんは、"親友"っていう言葉には弱かったから。
『じっ、実はね……? らいくん、ある物に嵌ってるみたいなんだよね……!』
『ある物……?』
『う、うん。"ライトノベル"っていう本なんだけど……!』
『ライトノベル……? お前ら知ってる?』
『知らなーい』
『……すまん。俺も、知らない』
『ア、アニメ調のイラストが表紙や挿絵に使われている小説なんだけどね! 主に異世界ファンタジーとかラブコメなストーリーが描かれている……らしいんだ! あははー……!』
『…………ふーん』
結衣さんがそう言った途端、あの時のように場の空気が変わったのを感じたよ。
扉越しでも分かった。侮蔑、嘲笑、見下し……、光輝のその何気ない相槌にはそれらのとても嫌な感情が込められているって。
結衣さんに対してあの時だけは不思議と怒りは湧かなかった。
でも、光輝の言葉を訊いてから身体中の血液がサァっと引いたのは覚えている。
あれは紛れもない"恐怖"だった。
グループ内のリーダーである光輝が言ったにもかかわらず、マイナスイメージなサブカルチャーに僕があれからものめり込んでいたのだから。
学校での僕の居場所がなくなるかもしれないって、怖くなったんだ。
『…………』
『こ、光輝……? 何するの……?』
僕が怯えながらも彼らの様子を隠れて見ていると、光輝は急に自分の机から降りて、教室の後ろの窓側の方へ歩き出した。
その方向は、僕の机がある場所。
あいつは結衣さんの疑問の声に応えず僕の席のすぐ近くに立つと、いきなり机の中を漁り出した。
あの時は思わず目を見開いたよ。僕がいないと思って、あんなことをするのかって。……まぁ光輝は僕が何を読んでいるのか興味なくとも、本を学校に持って来ていたことは知っていたからね。
だからこその行動だったんだと思う。
『……おっ、これじゃね? ご丁寧にカバーまで付けやがって。さてさて、どんな中身なんかね~』
『ちょっ、こ、光輝! いくららいくんがいないからって勝手に見るのはダメだよ!』
結衣さんが制止の声を掛けたけど、光輝はそれを無視してパラパラとページをめくった。興味がなさそうに。馬鹿にするように。
やがてあっさりと本を閉じたあいつは、開口一番にこう言ったんだ。
『―――うっわ、あいつこんなの読んでんの? きっも』
0
あなたにおすすめの小説
元暗殺者の俺だけが、クラスの地味系美少女が地下アイドルなことを知っている
甘酢ニノ
恋愛
クラス一の美少女・強羅ひまりには、誰にも言えない秘密がある。
実は“売れない地下アイドル”として活動しているのだ。
偶然その正体を知ってしまったのは、無愛想で怖がられがちな同級生・兎山類。
けれど彼は、泣いていたひまりをそっと励ましたことも忘れていて……。
不器用な彼女の願いを胸に、類はひまりの“支え役”になっていく。
真面目で不器用なアイドルと、寡黙だけど優しい少年が紡ぐ、
少し切なくて甘い青春ラブコメ。
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
それは、ホントに不可抗力で。
樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。
「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」
その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。
恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。
まさにいま、開始のゴングが鳴った。
まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる