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Ⅰ-90 未開地 その4
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■未開地
二人の映画鑑賞の後は、シェルターの室内ぎりぎりに収まったキングサイズのベッドで3人並んで寝ることにした。残念ながら、ちびっ娘を真ん中に挟んでだったが・・・、サリナは俺とミーシャの手を握ると、1分も経たないうちに眠りに着いた。ミーシャは起きているのかもしれないが、仰向けで目を閉じているようだ。シェルターの中はカンテラを1台だけ部屋の隅に点けているので、ぼんやりとサリナやミーシャの輪郭が見えている。
俺は横向きで二人を眺めながら、サリナが15歳と言う年齢の割に甘えたがるのは、怯えの所為《せい》なのかもしれないと考えていた。母親とどんな生活をしてきたのかがいまだに判らないが、今も母親は火の国で軟禁されていて、子供の頃に閉じ込められていた部屋から朝起きると居なくなっていた・・・、色々あったのは間違いない。俺が突然消えると不安になるのは仕方ないだろうし、今考えれば俺だけストレージで寝ていたのは無神経だったのかもしれないと思う。それに、ミーシャもそうだがこの世界には義務教育も学校もない、ましてやスマホもなければネットもない、だから知識や情報は少ない範囲しか入ってこないのだ。要は育った環境で精神的な成長には大きなバラつきがあるのだろう。
それでも、ハンスのおかげなのだろうか、サリナは素直で親と暮らせなかった暗さみたいなものはあまり無い。親は無くとも子は育つ・・・、 だが、本当にそうだろうか? 母親か・・・、会わせてやりたい気がするな。
§
翌朝は外から伝わってくる振動で目が覚めた、大きいやつが周りにいるようだ。そいつも豚しゃぶが食いたかったのだろうか?シェルターにぶつかるのではなく、周りを歩く振動が伝わってくる、一定間隔で振動が伝わり、止り、また伝わってくる。
ミーシャは既に目覚めていたようだったので、部屋中に並べたLEDカンテラのスイッチを付けていき、朝食を食べることにする。外のやつは待っていればどこかへ行くかも知れないし、そうでなくともシェルターは3トン近い重量になっているから、咥えて行くやつはいないと信じている。
贅沢ではないが美味しいトースト、ソーセージ、スクランブルエッグ、サラダをテーブルに並べて、二人が愛してやまないカフェオレも出してやる。
「サトル?外にいるのはどうするの?」
「そうだなぁ・・・」
頭の中にでは2つの選択肢を考えていた。手榴弾で足を吹っ飛ばすか、いったん後退させてから、ロケットランチャーでトドメを刺す。もしくは、サリナの火炎ロッドで吹っ飛ばす。ここは、サリナの景気づけのためにも、後者で行くことにしよう。
「お前の火の風で吹き飛ばしてくれ、加減は一切無しで良いからな」
「本当に!? 思いっきりで良いの!? やったー!」
ちびっ娘はロッドを持って、壁に向けてイメトレをはじめた。こいつのMAXなら間違いないだろうが、外した場合は俺がロケットランチャーでトドメを刺すつもりだ。
朝食を片付けてから戦闘の用意を整える。三人とも迷彩の戦闘服にコンバットブーツ、イヤーマフ付ヘルメット、サングラスとフェースマスクを装着して、タクティカルベストを着込む。
ベストには、攻撃用手榴弾を中心に手榴弾を20発入れてある。ミーシャには7.62mmNATO弾が撃てるアサルトライフルを持たせる。
「サリナ、用意はいいか? ドアを開けて獲物が見えたら胴体を狙って思いっきりぶちかませ」
「うん、わかった! 任せて!」
サリナは俺の後ろでロッドを右手に持って臨戦態勢を取っていた。外からの振動は不規則に続いているから、まだ近くに居るはずだ。鋼鉄製のドアロックを外すと、ドアの隙間から外の空気が入ってきた。そのまま外開きのドアをゆっくり押し開け・・・、いきなりドアが外に引っ張られた!ドアハンドルを持っていた俺は思わずたたらを踏んでドアの外まで顔が飛び出して・・・、そいつとご対面した。知恵なのか本能なのか、そいつはドアが開くのを待っていたかのようにドアを前足の鍵爪で引っ掛けて開けたのだ。巨大なティラノ系だ、ドアに掛かった爪だけも30cmぐらいある。シェルターの右上から巨大な頭部についている真っ黒な目が俺を見つめたが、すぐに前足で掴んだドアを更に引っ張りながら、ドアの正面に回りこもうとしてきた。
「サリナ! 右上だ!」
俺は叫びながら、シェルターの中に戻ってサリナの射線を空けた。
「ふぁいあー!!」
サリナの叫びとドアの向こうから大ティラノの顔が登場するのがドア枠の中で行われる紙芝居のように見えた。ロッドから真っ直ぐ走った細い炎が大ティラノの顔面へ直撃すると、大きな頭はノーガードでアッパーカットを受けたボクサーのように跳ね上がりながら、体全体が頭に引きづられるように、後ろへ20メートルほど飛んでいった。
ロッドの炎は襲い掛かる方向を倒れた下半身部分に変えて、そのまま大ティラノ全体を炎で包んで行く。だが、ティラノは既にピクリとも動かなかった。
「サリナ、もういいぞ」
「いいの?まだ、全部焼けてないよ?」
「大丈夫だ、これ以上焼いたら固くて食べられなくなる」
「これのお肉も美味しいの?今日は焼肉かな?」
「・・・冗談だ」
「そっか。冗談か・・・」
「焼肉は迷宮でお宝が見つかればご褒美に食わせてやるよ」
「本当!? やったー!」
おそらく大ティラノは焼肉娘の最初の一撃で即死したのだろう。恐竜でもあそこまでは首が後ろには折れ曲がらないはずだ。そう思うぐらいの角度で頭が上に跳ね上がっていた。俺達は荒野でのトレーニングで手加減の練習もしたが、MAXパワーの魔法も練習していた。近距離であればサリナは風だけで2メートルぐらいある大きさの岩を砕けるようになっていた。炎と一緒に出すと更に威力が増すようで、大きな岩が細かい石になるほどの威力だ。今は10メートルもない位置から放ったMAXパワーだから顔面の骨も粉々に砕けたと思う。ワンパンKOってやつだな。
シェルターの外を慎重に確認してから出て行く、見える範囲には他の恐竜は居なかった。もっとも、目の前にいるやつのお友達以外は近寄ってこないから、居なくて当然だと思う。近くにあった足跡は映画と同じように前後4本の指で足を支える形だ。サイズは前後で1メートル程度だろう。
仰向けでKOされた大ティラノは体の腹側をサリナの炎であぶられ、体表が焦げて鼻を突く異臭があたりに広がっている。尻尾側から頭に向かって見て行くが、尻尾が長いので全長25メートル程に思えた。事前に調べた現世のティラノサウルスよりも一回り大きいはずだ。大きさが際立つのが頭部、特に口なのだろう。ワニの口を縦に分厚くして、大きくしたように見えるが、口から覗いている鋭利な歯は50cmぐらいで不ぞろいに並んでいるから、甘噛みされても人間は即死だな。顔面は歪んで、体表焦げているが記念にストレージに入れて置くことにしよう。
現世ならこいつが最強種のひとつだろう。サリナだけで倒せるなら、2、3匹出てきても何とかなる気がする。
10匹以上なら? その時は、もちろん逃げるしかない。
二人の映画鑑賞の後は、シェルターの室内ぎりぎりに収まったキングサイズのベッドで3人並んで寝ることにした。残念ながら、ちびっ娘を真ん中に挟んでだったが・・・、サリナは俺とミーシャの手を握ると、1分も経たないうちに眠りに着いた。ミーシャは起きているのかもしれないが、仰向けで目を閉じているようだ。シェルターの中はカンテラを1台だけ部屋の隅に点けているので、ぼんやりとサリナやミーシャの輪郭が見えている。
俺は横向きで二人を眺めながら、サリナが15歳と言う年齢の割に甘えたがるのは、怯えの所為《せい》なのかもしれないと考えていた。母親とどんな生活をしてきたのかがいまだに判らないが、今も母親は火の国で軟禁されていて、子供の頃に閉じ込められていた部屋から朝起きると居なくなっていた・・・、色々あったのは間違いない。俺が突然消えると不安になるのは仕方ないだろうし、今考えれば俺だけストレージで寝ていたのは無神経だったのかもしれないと思う。それに、ミーシャもそうだがこの世界には義務教育も学校もない、ましてやスマホもなければネットもない、だから知識や情報は少ない範囲しか入ってこないのだ。要は育った環境で精神的な成長には大きなバラつきがあるのだろう。
それでも、ハンスのおかげなのだろうか、サリナは素直で親と暮らせなかった暗さみたいなものはあまり無い。親は無くとも子は育つ・・・、 だが、本当にそうだろうか? 母親か・・・、会わせてやりたい気がするな。
§
翌朝は外から伝わってくる振動で目が覚めた、大きいやつが周りにいるようだ。そいつも豚しゃぶが食いたかったのだろうか?シェルターにぶつかるのではなく、周りを歩く振動が伝わってくる、一定間隔で振動が伝わり、止り、また伝わってくる。
ミーシャは既に目覚めていたようだったので、部屋中に並べたLEDカンテラのスイッチを付けていき、朝食を食べることにする。外のやつは待っていればどこかへ行くかも知れないし、そうでなくともシェルターは3トン近い重量になっているから、咥えて行くやつはいないと信じている。
贅沢ではないが美味しいトースト、ソーセージ、スクランブルエッグ、サラダをテーブルに並べて、二人が愛してやまないカフェオレも出してやる。
「サトル?外にいるのはどうするの?」
「そうだなぁ・・・」
頭の中にでは2つの選択肢を考えていた。手榴弾で足を吹っ飛ばすか、いったん後退させてから、ロケットランチャーでトドメを刺す。もしくは、サリナの火炎ロッドで吹っ飛ばす。ここは、サリナの景気づけのためにも、後者で行くことにしよう。
「お前の火の風で吹き飛ばしてくれ、加減は一切無しで良いからな」
「本当に!? 思いっきりで良いの!? やったー!」
ちびっ娘はロッドを持って、壁に向けてイメトレをはじめた。こいつのMAXなら間違いないだろうが、外した場合は俺がロケットランチャーでトドメを刺すつもりだ。
朝食を片付けてから戦闘の用意を整える。三人とも迷彩の戦闘服にコンバットブーツ、イヤーマフ付ヘルメット、サングラスとフェースマスクを装着して、タクティカルベストを着込む。
ベストには、攻撃用手榴弾を中心に手榴弾を20発入れてある。ミーシャには7.62mmNATO弾が撃てるアサルトライフルを持たせる。
「サリナ、用意はいいか? ドアを開けて獲物が見えたら胴体を狙って思いっきりぶちかませ」
「うん、わかった! 任せて!」
サリナは俺の後ろでロッドを右手に持って臨戦態勢を取っていた。外からの振動は不規則に続いているから、まだ近くに居るはずだ。鋼鉄製のドアロックを外すと、ドアの隙間から外の空気が入ってきた。そのまま外開きのドアをゆっくり押し開け・・・、いきなりドアが外に引っ張られた!ドアハンドルを持っていた俺は思わずたたらを踏んでドアの外まで顔が飛び出して・・・、そいつとご対面した。知恵なのか本能なのか、そいつはドアが開くのを待っていたかのようにドアを前足の鍵爪で引っ掛けて開けたのだ。巨大なティラノ系だ、ドアに掛かった爪だけも30cmぐらいある。シェルターの右上から巨大な頭部についている真っ黒な目が俺を見つめたが、すぐに前足で掴んだドアを更に引っ張りながら、ドアの正面に回りこもうとしてきた。
「サリナ! 右上だ!」
俺は叫びながら、シェルターの中に戻ってサリナの射線を空けた。
「ふぁいあー!!」
サリナの叫びとドアの向こうから大ティラノの顔が登場するのがドア枠の中で行われる紙芝居のように見えた。ロッドから真っ直ぐ走った細い炎が大ティラノの顔面へ直撃すると、大きな頭はノーガードでアッパーカットを受けたボクサーのように跳ね上がりながら、体全体が頭に引きづられるように、後ろへ20メートルほど飛んでいった。
ロッドの炎は襲い掛かる方向を倒れた下半身部分に変えて、そのまま大ティラノ全体を炎で包んで行く。だが、ティラノは既にピクリとも動かなかった。
「サリナ、もういいぞ」
「いいの?まだ、全部焼けてないよ?」
「大丈夫だ、これ以上焼いたら固くて食べられなくなる」
「これのお肉も美味しいの?今日は焼肉かな?」
「・・・冗談だ」
「そっか。冗談か・・・」
「焼肉は迷宮でお宝が見つかればご褒美に食わせてやるよ」
「本当!? やったー!」
おそらく大ティラノは焼肉娘の最初の一撃で即死したのだろう。恐竜でもあそこまでは首が後ろには折れ曲がらないはずだ。そう思うぐらいの角度で頭が上に跳ね上がっていた。俺達は荒野でのトレーニングで手加減の練習もしたが、MAXパワーの魔法も練習していた。近距離であればサリナは風だけで2メートルぐらいある大きさの岩を砕けるようになっていた。炎と一緒に出すと更に威力が増すようで、大きな岩が細かい石になるほどの威力だ。今は10メートルもない位置から放ったMAXパワーだから顔面の骨も粉々に砕けたと思う。ワンパンKOってやつだな。
シェルターの外を慎重に確認してから出て行く、見える範囲には他の恐竜は居なかった。もっとも、目の前にいるやつのお友達以外は近寄ってこないから、居なくて当然だと思う。近くにあった足跡は映画と同じように前後4本の指で足を支える形だ。サイズは前後で1メートル程度だろう。
仰向けでKOされた大ティラノは体の腹側をサリナの炎であぶられ、体表が焦げて鼻を突く異臭があたりに広がっている。尻尾側から頭に向かって見て行くが、尻尾が長いので全長25メートル程に思えた。事前に調べた現世のティラノサウルスよりも一回り大きいはずだ。大きさが際立つのが頭部、特に口なのだろう。ワニの口を縦に分厚くして、大きくしたように見えるが、口から覗いている鋭利な歯は50cmぐらいで不ぞろいに並んでいるから、甘噛みされても人間は即死だな。顔面は歪んで、体表焦げているが記念にストレージに入れて置くことにしよう。
現世ならこいつが最強種のひとつだろう。サリナだけで倒せるなら、2、3匹出てきても何とかなる気がする。
10匹以上なら? その時は、もちろん逃げるしかない。
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