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Ⅱ-101 迷子探し6
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■炎の国 カインの町近郊の森
ショーイは3人の子供を見守りながら、町の男達が持っている│松明《たいまつ》の明かりが見えてくるのを待っていた。子供たちは震えているが身を寄せ合って、泣くのを我慢しているようだ。ショーイが思っていたよりも町の男達を引き離してしまっていたようで、10分近くその場で待つと、ようやく遠くに赤い火がちらりと見えた。
「おーい! ここだ! ここにいるぞ!」
「子供が3人いる! 無事だぞ!」
森の中に響く声で松明の方向に声を掛けると、横に並んでいた火が集まり始めた。ショーイは子供たちを立ち上がらせて、3人で手をつながせて明かりの方向へとゆっくり歩き始めた。向こうから来る男達もショーイのライトに気が付いたのか、何人かの男達がこちらに走り出してきて、5つの松明の明かりが先に近寄って来た。
「ああ、見つけてくれたのか!ソーイ! 無事だったか!良かった!」
「父ちゃん! 怖かった、く、熊が!」
「もう大丈夫だ! 安心しろ! 良かった、怪我は無いか?」
「うん、でも、サボとエマが・・・」
ソーイと呼ばれた男の子を背の低い男がしゃがみながら抱きしめている。それ以外にも走って来た男達は行方不明の親たちなのだろう。残りの二人の親もそれぞれ子供を抱きしめながら安心していたが、サボとエマの親は顔を引きつらせてソーイの目の前に飛び出した。
「おい、うちの子は! サボとエマは何処に居るんだ!?」
「まだ、川の向こう・・・」
ソーイの返事を聞くや否やすぐに森の奥に向かって、何人かの男達が進み始めた。
「俺も先に行った仲間の所に行くよ、この子たちの面倒は頼んだぜ」
「ああ、勿論だ。すまない、本当にありがとう」
「いや、俺は別に・・・」
ショーイは子供たちを親達に預けてすぐに奥へ向かった男達を追いかけ、そして追い越した。暗い森の中を走り続けると子供たちが言っていた川にぶつかり、思ったより川幅があることに驚いた。しばらく川沿いを上流に歩いて行くと、飛び越えられる幅の場所を見つけた。10メートル程後退して助走をつけてから、一気に飛び越え・・・ようとしたが、思った以上に幅があったようで向こう岸の浅瀬に突っ込んでしまった。
「チィッ! ったくよー!」
結局、膝ぐらいまでが水の中に入りサトルが支給したコンバットブーツの上の部分がずぶ濡れになっていた。ショーイは知らなかったが、飛び越えようとした場所はミーシャが軽々と飛び越えた場所と同じ場所だったのだが。
川を渡ったところであたりの気配を探ったが人間の気配は感じられなかった。先に行ったミーシャも子供たちの気配も無い。獣たちが離れた場所にいる感じはするが、かなり距離があるはずだ。
「ミーシャの奴、どこまで行ったのやら・・・」
仕方なく、そのまま渡った場所からさらに森の奥に向かって進んで行くと、嗅ぎ慣れた血の匂いが風上から漂って来て、ショーイはその方角に駆けだした。
-まさかとは思うが・・・
ショーイが走り出してすぐに木の間から横に走る白い線が見えた。そこまで一気に走ると、巨大な熊の向こうからライトの明かりが動かずに横を照らしているのが分った。
「おい! ミーシャ! 大丈夫か!?」
熊の横には血だらけの子供が横たわり、更にその向こうに力なく地面にうつ伏せになったミーシャの体が・・・。
「おい!? ミーシャ! おい!」
ショーイは手早く仰向けにして、首筋に手を当てて脈があることを確認した。生きている・・・、だが、以上に脈が遅い。それに呼吸も通常とは違うようだ。頬を軽く叩きながら、何度も呼びかけるが、まったく反応が無かった。怪我が無いかを上から下まで確認したが、手に巻いた手当の跡以外に怪我らしい怪我は見当たらない。
「一体、どうなってんだ?」
生きているのは間違いないが、まったく意識が無い上に呼吸や心拍が異常に遅くなっている。まるで獣が冬眠しているときのような状態だった。途方に暮れたショーイの声と明かりを頼りに町の男達が追いついて来て、声を掛けながら地面の子供を見つけた。
「あ、あんた! うちの子・・・、 ああ! サ、サボ・・・。 なんてことだ・・・」
「残念だったな。間に合わなかったようだ。その子はそこの熊にやられたんだろうよ」
「あ、ああー、サボ・・・」
サボの父親は血まみれの子供の横に膝をついて大粒の涙をこぼしている。少し離れた場所にはもう一人の子供―胴体と頭が切り離されたーが転がっている。
「・・・、もう一人の方・・・、そっちはエマなのかい?」
「ウワッ! ・・・違う。見た事の無い子だ。え、エマはどこだ? 無事なのか?」
地面に転がった生首に驚きながらも、わが子では無かったことに安どを覚えたようだ。
「俺が来た時にはこの状態だった。他に子供はいないぞ」
「じゃあ、まだ無事かも知れねえ! おい、探すぞ!」
涙を拭いて立ち上がった男は松明を持ってエマの名を叫びながら仲間と森の奥に向かって歩き始めた。残されたショーイは“見た事の無い子”の頭に近づいて、ライトの光を当てた。光の中で見ると、首は綺麗に切り取られている上に、一滴の血も出ていないことが判った。
「こいつの仕業か・・・、マズったな」
ショーイも子供が死人であることに気が付き、ミーシャが倒れている原因がこの子供にあったのだろうと察しをつけた。だが、具体的な方法やどういう呪法なのかは見当もつかない。もちろん、ミーシャの意識を戻す方法もだ。いずれにせよ、ミーシャを此処から運び出さなければならないことだけははっきりしている。もう一人のエマと言う子供のことは町の奴らに任せるしかなかった。
だが、ショーイはミーシャを運ぶ前に死人の首をベストの内側に突っ込んで持って帰ることにした。気持ち悪い気がしないでもないが、血も出ておらずサイズも小さかったのでベストの胸が出っ張るぐらいでしっかりと収まった。その後は地面に落ちている銃をストラップで背中にかけてからミーシャを抱き上げ、その軽さに驚きながら町のある方向へ戻り始めた。途中の川は腰近くまである流れの中を歩き、その先に居た松明を持った町長たちと合流して町を目指した。町長は抱きかかえられているミーシャを見て驚き、歩きながらショーイに尋ねた。
「お連れの方は怪我をされたのでしょうか?」
「わからねぇ、何者かに襲われたのは間違いないがな」
「襲われた? 魔獣でしょうか?」
「いや、こいつは人間の仕業だ」
「ま、まさか、そんな・・・、一体誰が?」
「その話は後だ。まずは、こいつを寝かせるベッドを用意してくれ」
「もちろんです、私の家にお越しください」
案内された町長の家の客間にミーシャを寝かせて、もう一度脈をとったが、先ほどと同じように異常に心拍数と呼吸が少ない状態だった。町長がすぐに町の医者を呼んで診察させたが、手の怪我以外に異常は何処にも見当たらないと言う。
―まずいなぁ、こいつが居ないとサトルの車は動かないしな・・・。置いて行くわけにも・・・。
「町長よ。ここから早馬で王都まで手紙を出したいんだが」
「早馬ですか・・・、承知しましたが。早くても王都までですと、2日はかかります。それに、いずれにせよ、この時間では馬は走れませんので、明朝となります」
「そうか、わかった。とりあえず、書くものを用意してくれ」
「はい、わかりました」
「そうだ、その前にこの子供に見覚え・・・」
「ひぃっ! その首は!?」
「ああ、熊の横に転がっていたんだ。こいつは村の子供じゃないんだな?」
「・・・え、ええ。見た事の無い子です。この町にいる子供は全員知っていますが、初めて見る顔です・・・。では、失礼します」
子供の生首を見て怯えた町長は逃げるように部屋から出て行った。部屋に残されたショーイは生首を蝋燭の明かりの近くに持って行き、切り取られた首の断面をじっくり見た。刃渡りの短い物でぐるりと切っているが、手際よく鋭利な刃物を使ったようだ。
―ミーシャのナイフだな。という事はやはり、こいつが襲って来たんだろう。だが、こいつの首を切ったのがミーシャなら・・・、なぜ目が覚めない?毒か? 呪いか?
ショーイはしばらく考えたが、結局何もわからないと言う結論になり。町長の持って来たペンで紙に短い手紙を書いて封をした。この手紙がサトルに届けば間違いなくすぐに来てくれるだろうが、問題は届くまでの日数だった。おそらく3日後になるその日までにミーシャは無事でいるかが判らない。
ショーイが険しい顔でベッドの上のミーシャを見ている時に、客間に町長の妻がお湯とたらいを持って入って来た。
「ご心配ですね。目が覚めないとか・・・。もしよかったら、お湯で顔を拭きましょう」
「ああ、ありがとう。頼むよ」
町長の妻はたらいのお湯に入れた布を絞ってからベッドサイドに膝をついて、ミーシャの顔をゆっくりと拭いてやった。少し汚れていた頬が本来の白い肌の色を取り戻したが、意識が戻る気配は全くない。
-これなら、大丈夫。首領の呪詛は確実に効いている。
森の中にいた死人の子は首領から預かった│傀儡《くぐつ》だった。│傀儡《くぐつ》は難しいことは出来ないが、あらかじめ決めた相手にだけ、噛みつくようになっている。今回はエルフの娘を標的にしておいたが、その役目を忠実に果たしたのだろう。町長の妻と黒い死人達の手下は昼から森に入り、町の子供たちを森の奥に誘い込んだ。子供たちは覚えていないはずだが、森で遊んでいるときに心を操る声で誘いをかけると、子供たちは無意識のうちに奥へ奥へと進んで行き、もう自分達だけでは戻れない場所まで入り込んでくれた。手下がそのうちの二人を拉致して始末して、一人の死体と│傀儡《くぐつ》を並べて地面に置いて罠を仕掛けておいたのだが、町長から聞いた話ではエルフは疑うことなく、子供を助けようとしたのだろう。
-思った以上に上手くいった。後は3日後にヤツが此処へ来れば・・・。
町長の妻に化けている魔法士アイリスはミーシャの顔を綺麗にし終わると、ショーイに軽く会釈をしてから客間を出て、今日の成果を首領に報告するために家の外へと向かった。
ショーイは3人の子供を見守りながら、町の男達が持っている│松明《たいまつ》の明かりが見えてくるのを待っていた。子供たちは震えているが身を寄せ合って、泣くのを我慢しているようだ。ショーイが思っていたよりも町の男達を引き離してしまっていたようで、10分近くその場で待つと、ようやく遠くに赤い火がちらりと見えた。
「おーい! ここだ! ここにいるぞ!」
「子供が3人いる! 無事だぞ!」
森の中に響く声で松明の方向に声を掛けると、横に並んでいた火が集まり始めた。ショーイは子供たちを立ち上がらせて、3人で手をつながせて明かりの方向へとゆっくり歩き始めた。向こうから来る男達もショーイのライトに気が付いたのか、何人かの男達がこちらに走り出してきて、5つの松明の明かりが先に近寄って来た。
「ああ、見つけてくれたのか!ソーイ! 無事だったか!良かった!」
「父ちゃん! 怖かった、く、熊が!」
「もう大丈夫だ! 安心しろ! 良かった、怪我は無いか?」
「うん、でも、サボとエマが・・・」
ソーイと呼ばれた男の子を背の低い男がしゃがみながら抱きしめている。それ以外にも走って来た男達は行方不明の親たちなのだろう。残りの二人の親もそれぞれ子供を抱きしめながら安心していたが、サボとエマの親は顔を引きつらせてソーイの目の前に飛び出した。
「おい、うちの子は! サボとエマは何処に居るんだ!?」
「まだ、川の向こう・・・」
ソーイの返事を聞くや否やすぐに森の奥に向かって、何人かの男達が進み始めた。
「俺も先に行った仲間の所に行くよ、この子たちの面倒は頼んだぜ」
「ああ、勿論だ。すまない、本当にありがとう」
「いや、俺は別に・・・」
ショーイは子供たちを親達に預けてすぐに奥へ向かった男達を追いかけ、そして追い越した。暗い森の中を走り続けると子供たちが言っていた川にぶつかり、思ったより川幅があることに驚いた。しばらく川沿いを上流に歩いて行くと、飛び越えられる幅の場所を見つけた。10メートル程後退して助走をつけてから、一気に飛び越え・・・ようとしたが、思った以上に幅があったようで向こう岸の浅瀬に突っ込んでしまった。
「チィッ! ったくよー!」
結局、膝ぐらいまでが水の中に入りサトルが支給したコンバットブーツの上の部分がずぶ濡れになっていた。ショーイは知らなかったが、飛び越えようとした場所はミーシャが軽々と飛び越えた場所と同じ場所だったのだが。
川を渡ったところであたりの気配を探ったが人間の気配は感じられなかった。先に行ったミーシャも子供たちの気配も無い。獣たちが離れた場所にいる感じはするが、かなり距離があるはずだ。
「ミーシャの奴、どこまで行ったのやら・・・」
仕方なく、そのまま渡った場所からさらに森の奥に向かって進んで行くと、嗅ぎ慣れた血の匂いが風上から漂って来て、ショーイはその方角に駆けだした。
-まさかとは思うが・・・
ショーイが走り出してすぐに木の間から横に走る白い線が見えた。そこまで一気に走ると、巨大な熊の向こうからライトの明かりが動かずに横を照らしているのが分った。
「おい! ミーシャ! 大丈夫か!?」
熊の横には血だらけの子供が横たわり、更にその向こうに力なく地面にうつ伏せになったミーシャの体が・・・。
「おい!? ミーシャ! おい!」
ショーイは手早く仰向けにして、首筋に手を当てて脈があることを確認した。生きている・・・、だが、以上に脈が遅い。それに呼吸も通常とは違うようだ。頬を軽く叩きながら、何度も呼びかけるが、まったく反応が無かった。怪我が無いかを上から下まで確認したが、手に巻いた手当の跡以外に怪我らしい怪我は見当たらない。
「一体、どうなってんだ?」
生きているのは間違いないが、まったく意識が無い上に呼吸や心拍が異常に遅くなっている。まるで獣が冬眠しているときのような状態だった。途方に暮れたショーイの声と明かりを頼りに町の男達が追いついて来て、声を掛けながら地面の子供を見つけた。
「あ、あんた! うちの子・・・、 ああ! サ、サボ・・・。 なんてことだ・・・」
「残念だったな。間に合わなかったようだ。その子はそこの熊にやられたんだろうよ」
「あ、ああー、サボ・・・」
サボの父親は血まみれの子供の横に膝をついて大粒の涙をこぼしている。少し離れた場所にはもう一人の子供―胴体と頭が切り離されたーが転がっている。
「・・・、もう一人の方・・・、そっちはエマなのかい?」
「ウワッ! ・・・違う。見た事の無い子だ。え、エマはどこだ? 無事なのか?」
地面に転がった生首に驚きながらも、わが子では無かったことに安どを覚えたようだ。
「俺が来た時にはこの状態だった。他に子供はいないぞ」
「じゃあ、まだ無事かも知れねえ! おい、探すぞ!」
涙を拭いて立ち上がった男は松明を持ってエマの名を叫びながら仲間と森の奥に向かって歩き始めた。残されたショーイは“見た事の無い子”の頭に近づいて、ライトの光を当てた。光の中で見ると、首は綺麗に切り取られている上に、一滴の血も出ていないことが判った。
「こいつの仕業か・・・、マズったな」
ショーイも子供が死人であることに気が付き、ミーシャが倒れている原因がこの子供にあったのだろうと察しをつけた。だが、具体的な方法やどういう呪法なのかは見当もつかない。もちろん、ミーシャの意識を戻す方法もだ。いずれにせよ、ミーシャを此処から運び出さなければならないことだけははっきりしている。もう一人のエマと言う子供のことは町の奴らに任せるしかなかった。
だが、ショーイはミーシャを運ぶ前に死人の首をベストの内側に突っ込んで持って帰ることにした。気持ち悪い気がしないでもないが、血も出ておらずサイズも小さかったのでベストの胸が出っ張るぐらいでしっかりと収まった。その後は地面に落ちている銃をストラップで背中にかけてからミーシャを抱き上げ、その軽さに驚きながら町のある方向へ戻り始めた。途中の川は腰近くまである流れの中を歩き、その先に居た松明を持った町長たちと合流して町を目指した。町長は抱きかかえられているミーシャを見て驚き、歩きながらショーイに尋ねた。
「お連れの方は怪我をされたのでしょうか?」
「わからねぇ、何者かに襲われたのは間違いないがな」
「襲われた? 魔獣でしょうか?」
「いや、こいつは人間の仕業だ」
「ま、まさか、そんな・・・、一体誰が?」
「その話は後だ。まずは、こいつを寝かせるベッドを用意してくれ」
「もちろんです、私の家にお越しください」
案内された町長の家の客間にミーシャを寝かせて、もう一度脈をとったが、先ほどと同じように異常に心拍数と呼吸が少ない状態だった。町長がすぐに町の医者を呼んで診察させたが、手の怪我以外に異常は何処にも見当たらないと言う。
―まずいなぁ、こいつが居ないとサトルの車は動かないしな・・・。置いて行くわけにも・・・。
「町長よ。ここから早馬で王都まで手紙を出したいんだが」
「早馬ですか・・・、承知しましたが。早くても王都までですと、2日はかかります。それに、いずれにせよ、この時間では馬は走れませんので、明朝となります」
「そうか、わかった。とりあえず、書くものを用意してくれ」
「はい、わかりました」
「そうだ、その前にこの子供に見覚え・・・」
「ひぃっ! その首は!?」
「ああ、熊の横に転がっていたんだ。こいつは村の子供じゃないんだな?」
「・・・え、ええ。見た事の無い子です。この町にいる子供は全員知っていますが、初めて見る顔です・・・。では、失礼します」
子供の生首を見て怯えた町長は逃げるように部屋から出て行った。部屋に残されたショーイは生首を蝋燭の明かりの近くに持って行き、切り取られた首の断面をじっくり見た。刃渡りの短い物でぐるりと切っているが、手際よく鋭利な刃物を使ったようだ。
―ミーシャのナイフだな。という事はやはり、こいつが襲って来たんだろう。だが、こいつの首を切ったのがミーシャなら・・・、なぜ目が覚めない?毒か? 呪いか?
ショーイはしばらく考えたが、結局何もわからないと言う結論になり。町長の持って来たペンで紙に短い手紙を書いて封をした。この手紙がサトルに届けば間違いなくすぐに来てくれるだろうが、問題は届くまでの日数だった。おそらく3日後になるその日までにミーシャは無事でいるかが判らない。
ショーイが険しい顔でベッドの上のミーシャを見ている時に、客間に町長の妻がお湯とたらいを持って入って来た。
「ご心配ですね。目が覚めないとか・・・。もしよかったら、お湯で顔を拭きましょう」
「ああ、ありがとう。頼むよ」
町長の妻はたらいのお湯に入れた布を絞ってからベッドサイドに膝をついて、ミーシャの顔をゆっくりと拭いてやった。少し汚れていた頬が本来の白い肌の色を取り戻したが、意識が戻る気配は全くない。
-これなら、大丈夫。首領の呪詛は確実に効いている。
森の中にいた死人の子は首領から預かった│傀儡《くぐつ》だった。│傀儡《くぐつ》は難しいことは出来ないが、あらかじめ決めた相手にだけ、噛みつくようになっている。今回はエルフの娘を標的にしておいたが、その役目を忠実に果たしたのだろう。町長の妻と黒い死人達の手下は昼から森に入り、町の子供たちを森の奥に誘い込んだ。子供たちは覚えていないはずだが、森で遊んでいるときに心を操る声で誘いをかけると、子供たちは無意識のうちに奥へ奥へと進んで行き、もう自分達だけでは戻れない場所まで入り込んでくれた。手下がそのうちの二人を拉致して始末して、一人の死体と│傀儡《くぐつ》を並べて地面に置いて罠を仕掛けておいたのだが、町長から聞いた話ではエルフは疑うことなく、子供を助けようとしたのだろう。
-思った以上に上手くいった。後は3日後にヤツが此処へ来れば・・・。
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