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Ⅱ-145 エルフレンジャー

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■エルフの里

 エルフレンジャーへのユニホーム支給はサリナとリンネに採寸を手伝ってもらった。服も靴も試着してサイズが合えば、そのまま着用して帰って行く。渡したアサルトライフルも銃弾無しでも大事そうに抱えている。宝物を手にしたようにみんな喜んでいるのが不思議だが、なぜか俺もうれしくなった。

 夜には出陣式を兼ねた大宴会を開催して、盛り上がり過ぎるぐらい盛り上がっていた。ショーチュウを機嫌よく飲んでいるノルドの横で俺もサリナが焼いてくれた肉を味わいながら、気になっていたことをノルドに質問した。

「いろんなものを渡しても大丈夫でしょうか?この世界に無い物を渡すと、皆さんの暮らしに影響が出るんじゃないですか?」
「うむ、そうじゃな。良いことも悪いこともあるじゃろうな」
「新しい物を使う事に反対ですか?だったら・・・」
「いや、反対はせぬよ。お主がしたいようにすれば良い。お主は勇者じゃからな。だが、使い方で気になることがあるのなら、里の者には注意しておいた方が良いかもしれんな。いつか、お主がおらんようになった時に困るかもしれんからな」
「俺が居なくなったとき・・・、そうですね」

 現代の道具を与えることに慎重だったのにはいくつか理由がある。一つには俺自身のアドバンテージを確保しておきたかったからだ。武器を持っていると言う事が最大の強みであることは間違いない。それと敵に俺の情報を伝えないことも重視していた。もう一つの大きな理由はこの世界への影響の大きさだ。銃や火薬等はこの世界の歴史に影響を与えるほどの道具だ。地球でも火薬が出来る前と後では歴史が・・・、特に戦争での死者数は大きく変わった。現代兵器をこの世界に持ち込むとはそういう事だ。

 だが、いずれの懸念も今となってはあまり意味が無くなっている。それは俺自身がこの世界を動かす中心になりつつあるからだ。勇者であるかどうかは別にしても、既に国家間の戦争に関与して、大規模犯罪組織の殲滅せんめつも行おうとしている。そして邪教であるネフロス教・・・。信教は自由だと思うが、人を殺して生贄にするのは自由では無い。あいつらと戦っている中で相手も俺を敵として認識しているし、俺の力も既に漏れ伝わっているだろう。ミーシャやサリナが襲われたのはそのためだろうから、こちらもそれに備えて戦力は増強しておく・・・、そのためのエルフに力を貸してもらうのだが・・・。

「そうですね、俺が居なくなれば、銃弾等の道具は出て来なくなります。そうなれば銃も単なる鉄の棒にすぎませんからね。ずっとあるものじゃないと思ってもらわないといけないですね」
「うむ。そうじゃな。それにお主らとわしらは歳の取り方が違うからの」

 ノルドはそう言ってニッコリ笑っている。数千年の時を生きてきたエルフの長老のセリフには実感がこもっていた。

「そうですね。間違いなく俺の方が先に死にますからね。それも意識しないと」
「わしらが里の外と付き合いをせんのは、それも理由の一つなんじゃよ。親しくなってもな・・・」
「なるほど・・・」

 確かに親しくなった人間は全員先に死ぬと判れば・・・やはり寂しいのかもしれない。盛り上がるエルフの大宴会を眺めながら、自分が死ぬということについて少し考えさせられた。

 §

 昨夜の宴会のときもミーシャは参加しなかったので、今朝もサリナと様子を見に行ったが、まだ本調子では無いようだ。それでも、日に日に血色が良くなっているから、もう少しで元の状態になりそうだった。

「じゃあ、行ってくるから。ゆっくり休んでいてくれよ」
「うん、すまんな。一緒に行けなくて」
「大丈夫だよ。今回は里のみんなにも助けてもらうからね」
「あ、ああ、そうだな。うん、気をつけてな・・・」

 ミーシャはベッドから複雑な表情で俺達を送り出してくれた。自分が参加できないことがふがいないのだろう。一旦広場に戻って参加いただくエルフ様達に銃弾を装填済みのマガジンを渡した。里から転移する火の国にはラプトルが溢れている可能性が高い。

「何度も言いますが、歩くときは銃口を地面に向けてください。決して人には向けない。矢をつがえた状態と同じですよ」

 暴発自己だけは避けたかった俺は何度も同じことを説明した。実戦では常に撃てる状態にしておく必要がある。安全装置も外しているし、初弾も装填してもらっている。全員を引き連れてママさんの中心に集まってから転移すると、エルフ達から驚きの声が漏れたが、それに構っている余裕は無かった。

「撃てる人は撃ってください。サリナ達は魔法で!」

 俺は人垣を押しのけて前に出ると、こちらへ向かって集まり始めたラプトルに向かって素早く連射を浴びせた。サリナとママさんも俺とは違う方向から来るラプトルへ魔法を放っているようだ。俺が構えた方向からは5匹ぐらいが走って来ていたが、俺が2匹を倒すとエルフレンジャーもすぐに撃ち始めて、あっという間に見える範囲のラプトルを殲滅した。俺には見えない場所に居るのもどんどん撃っている。みんなで騒ぎながら盛り上がりだした。

 -すごいぞ! 全然違う場所にいるな!
 -それに、この銃と言うのは信じられん! 飛んで行く矢がほとんど見えないが、真っすぐだ!
 -ああ、狙った通りの所にいくな!
 -これなら、何匹でも狩ることが出来るぞ!
 -あの二人の魔法も恐ろしいな、あの魔獣が吹き飛んで行ったぞ・・・。

 弓矢での狩りに慣れているエルフ達は銃に慣れるのも早かった。細かい理屈は判っていないのだが、構えてトリガーを引けば狙った方向に見えない矢が正確に飛んで行くことを体で感じている。転移魔法と初めて銃を撃つ興奮で顔が紅潮しているが、狙った的は外さなかったようだ。

 -やっぱり、こんなに大勢で来てもらう必要無かったな。

「サリナ、そこいらの木を全部倒してくれるか?」
「うん、良いよ。どのぐらいの強さかな・・・?」
「ああ、大き目の船をだすから、半分ぐらいでやってくれよ」
「判った! 半分ね・・・じぇっと!」

 ロッドを伸ばして軽く叫ぶと2~300メートル四方の林が空地へと変わった。

 -ウォー、凄いぞ!
 -ああ、あんなに小さいのにな。
 -うん、小さいのに凄い力だ!

「小さい小さいって言わないで!」

 ちびっ娘は頬を膨らませて外野の声に抗議しているが、エルフ達はむしろ尊敬のまなざしでサリナを見ていた。

「みんなお前の魔法に感心しているんだよ。いつもありがとうな」
「そ、そうかな!」

 俺の感謝の言葉でご機嫌になったちびっ娘は少し照れながらも、嬉しそうに飛びはねた。俺も笑顔を見せながら、皆が乗るための船をストレージから呼び出した。

 -ウワーッ! 大きい!

 取り出したのは後部甲板で作業が出来る全長60メートル程ある外洋作業船というものだった。船でなくても良いのだが、50名程度が自由に動ける空間があるものでイメージしやすかったのがこれだった。エルフ達が騒ぐのも仕方ないだろう、俺がストレージから取り出した中では過去最大のものだ。おそらくタンカーでも出せるだろうが、デカすぎて邪魔なだけだ。出した船でさえ地面に置くと乗り込むのが面倒だった。低い舷側でも地上からは10メートルぐらいある。ショーイに手伝ってもらって、アルミのスライドするはしごを使ってよじ登ることにした。

 平らな後部甲板はテニスコートぐらいの広さがある。ここからなら、左右と後ろを撃つのに不自由は無いだろう。前方も操舵室の前に狭いデッキがあるから、5人ぐらいは高い場所に立つことが出来るはずだった。

 -それにしても48人は多いな・・・。

 多すぎると判断して2班に分けて撃ってもらうことにした。みんなを甲板の中央に集めてチーム分けを行い、15分で交替することを説明した。

「時間が来たら合図するから、撃ってない人はマガジンに弾を込めて待機してください。飲み物もあるからゆっくり休みながらで良いから。銃弾の装填はサリナガ教えてくれるから、判らないことはサリナに聞いてくれ。・・・サリナ、お前が先生だからな」
「サリナが先生!? うん、先生ね!」
「よし、じゃあ、船を飛ばすから。あんまり船の端の方には行かないようにね」

 エルフ達は全員頷いていたが、飛ぶと言う事の意味は伝わっていなかったようだ。こんな大きなものが飛ぶのか? 俺自身も不思議だったが、ブーンが言った通り大きさは問題では無かった。飛ぶようにイメージした瞬間に風が舞う音がして、数十トンの重量を感じさせずにふわりと舞い上がった。

-さて、では上空からジュラシックハント・・・いや、虐殺を始めるか。
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