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Ⅱ-163 ネフロス国7
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■ネフロス国 鉱山
鉱山にいた鉱夫たちを解放し、怪我をした猿人を手当てしてからシンディと5人の猿人だけを連れて神殿まで2㎞の地点へと移動した。メイとストックには鉱山に残って鉱夫たちと猿人の面倒を見るように頼んである。
神殿に向かったのは攻撃を仕掛けるための偵察が目的だった。ドローンを飛ばして上空から確認すると、神殿入り口付近には赤頭ラプトル達が肉片となって散乱しているのが判った。俺の命令を忠実に実行して動けけなくなるまで頑張ってくれたのだろう。こいつらの頑張りは無駄にしない。ラプトルを駆逐したのは神殿前にいる黒いゴーレム兵だと思うが、今までのゴーレムよりも完成度が高い気がする。何といっても剣を持っているのが今までと違うし、表面も光沢がある金属的な輝きを持っていた。
-どのぐらいの強度なんだろう?
35mm機関砲は1000メートルなら80㎜程度の鉄板を貫通する能力があるらしいが、あのゴーレム全体が金属だとしたら表面を削るぐらいの効果しかないだろう。
-試してみることにしよう。
「サリナ、迫撃砲を使うから弾薬の用意を頼むよ。ミーシャは周囲の警戒をよろしく、シンディ達も敵が来たら大声を出してくれ」
「はーい♪」
「了解だ」
-キィッ!
装甲戦闘車から降りて81㎜迫撃砲をセットして、おおよその距離感で1発目を発射管に落とす。羽根の付いた迫撃砲弾が甲高い金属音と共に上空へ打ち上げられて行った。
-ゴォーン!
3秒ほどで轟音が聞えてきた。ドローンのカメラで着弾地点を上空から確認したが、距離が200メートル程手前で、方向も右に大きく外れていた。砲身をセットし直して、ダイヤルレバーで方向と距離を微調整してもう一発発射する。今度はかなりいい所に行ったが、目標の50メートル手前だった。それでも、神殿前にいた兵士とゴーレムは慌てているのがドローンからの映像ではっきりと判った。
兵士達は爆音と吹き飛んでくる瓦礫に対してゴーレムの陰に隠れるように後退して、ゴーレムを前方へ進めたようだ。更にハンドルで微調整して、サリナが渡してくれた砲弾を立て続けに砲身へと落とし込む。餅つきのコンビネーションのように息の合った作業で3発の迫撃砲弾を打ち上げた。空気を切り裂いて飛んで行く音の後に爆発音が3連続で鳴り響く。やはりドローンで着弾点を見ているのは効果的なようだった。3発ともゴーレム周辺に着弾して1発はゴーレムを直撃している。ドローンの高度を下げてダメージを確認すると・・・、十分な破壊力があったようだ。1体のゴーレムは片足を粉砕されて両手を地面についている。周辺にいた死人兵も吹き飛んで立っている兵士は一人もいない。
ゴーレムの足の断面を見る限り表面だけが金属のようになっているが、体の芯は土製のようだ。これなら、現在の火力で十分倒すことが出来ることが判って安心した。
「よし、後20発ほど撃ったら帰ろうか」
「あれ? 神殿には行かないの?」
「ああ、今日は行かない。しばらく様子を見よう」
「じゃあ、なんで“はくげきほう”を撃つの?」
「うん? 嫌がらせみたいな物かな」
「嫌がらせ?」
俺の狙いはゴーレム自体では無く、ゴーレムを操る魔法士だった。ゴーレムを作り、動かすには魔法力が必要なはずだ。サリナのような化け物は別にして魔法力を使えば疲れるし、そのうち力が枯渇するだろう。何処から攻撃してくるか判らない状態で敵に警戒させておけば、相手の魔法士が疲弊する。
-慌てる必要は無い、慎重に外堀から埋めて行こう。
■ネフロス神殿
神殿の魔法士達はサトルの予想通り多忙を極めていた。ゴーレムを操るために二人が常時張り付き、他の魔法士はボロボロになった兵士達の体を修復する魔法を長時間かけ続けなければならなかった。それ以外にも外の動きを監視するために水晶球を見ている魔法士も必要だった。
神官長も兵士長も敵はすぐに攻めてくると思って準備をしていた。だが、奴らがこの世界に来てから既に4日が経過しているが、鉱山の鉱夫を解放した後は魔法でゴーレムを攻撃する以外は直接神殿へ侵入しようとする者はいなかった。
-こちらから攻めるべきだったか・・・。
神官長が用意していたのは祭壇周辺で異世界と接続して魔獣に襲わせる新たな結界だった。だが、相手が神殿と祭壇に近づかなければ、発動させても効果が発揮できない。
神官長が使っている魔法はネフロスの神が支配するすべての異なる世界をつなげる時空魔法の一種だった。それ以外にも土魔法を使う事が出来るが、今の敵を追い払うには力不足だろう。もともとこの森には人が立ち入れない数の死神竜が溢れていた。それをドリーミアに放ってしまったために、神殿の守りが薄くなっているために敵に自由に動かれてしまっている。だが、死神竜が居たとしても相手はゴーレムを簡単に破壊する魔法を使えるのだから、あまり効果が無かったかもしれない。兵士達も魔亀や弓では歯が立たないことが判り戦意を喪失している。
-不本意だが、もっと強い魔獣を使うしかない。
神官長は上神殿の奥にある暗闇の間を通り抜けて黒い死人の首領が居る部屋へと移動した。
「どうした? やはり、手こずっておるのか?」
「うむ。やはり、勇者の魔法は手ごわい。我らの武装ゴーレムでも歯が立たんようだ」
「どうするのだ?」
「鬼人を放つことにする。鬼人の血を分けてくれ」
「ふむ・・・、それは構わんが。一旦鬼人化させるとあいつ等は元に戻せんぞ?」
「もちろんわかっておる。用が済めば、この世界の端に放ってやるさ」
「なるほどな、それは面白いかもしれんな・・・」
首領は暗い洞窟の奥からガラス瓶に入った黒い液体を持って来て、神官長に手渡した。
「これで3体は作ることが出来るだろう。出来るだけ力のある兵から選べ。その方が鬼人化した時の力が強くなる」
「ふん。そんなことは知っておる。それで、こちらの世界はどうなっておる?」
「ムーアの結界は予定通り進んでおるさ、勇者がそっちに行ってくれて助かったぞ」
首領は薄暗い洞窟の中で薄ら笑いを浮かべたが、神官長は何も返事をせずに暗闇の間を通って上神殿へと戻った。
「兵士長、強い兵を3名集めて鉱山の近くへ向かわせるのだ」
「承知しました。それで、物見をさせるのでしょうか?」
「ああ・・・、着いたらこれを飲むように言っておけ、遠くまで見通せる血だ。3人とも必ず飲むようにな。それと、そいつらが出たら、神殿の入り口は閉ざしておけ」
「はい・・・」
兵士長は最後の指示について意味が判らなかった。物見を出すのは攻勢に転じるつもりと思ったが、中に閉じこもると言うのは・・・。それでも、この神殿の中では神官長の言う事は絶対だった。すぐに信頼できる兵士を3名呼び寄せて神官長から受け取った“神の水”を渡して、敵の様子を伺わせるために鉱山へと向かわせた。
鉱山にいた鉱夫たちを解放し、怪我をした猿人を手当てしてからシンディと5人の猿人だけを連れて神殿まで2㎞の地点へと移動した。メイとストックには鉱山に残って鉱夫たちと猿人の面倒を見るように頼んである。
神殿に向かったのは攻撃を仕掛けるための偵察が目的だった。ドローンを飛ばして上空から確認すると、神殿入り口付近には赤頭ラプトル達が肉片となって散乱しているのが判った。俺の命令を忠実に実行して動けけなくなるまで頑張ってくれたのだろう。こいつらの頑張りは無駄にしない。ラプトルを駆逐したのは神殿前にいる黒いゴーレム兵だと思うが、今までのゴーレムよりも完成度が高い気がする。何といっても剣を持っているのが今までと違うし、表面も光沢がある金属的な輝きを持っていた。
-どのぐらいの強度なんだろう?
35mm機関砲は1000メートルなら80㎜程度の鉄板を貫通する能力があるらしいが、あのゴーレム全体が金属だとしたら表面を削るぐらいの効果しかないだろう。
-試してみることにしよう。
「サリナ、迫撃砲を使うから弾薬の用意を頼むよ。ミーシャは周囲の警戒をよろしく、シンディ達も敵が来たら大声を出してくれ」
「はーい♪」
「了解だ」
-キィッ!
装甲戦闘車から降りて81㎜迫撃砲をセットして、おおよその距離感で1発目を発射管に落とす。羽根の付いた迫撃砲弾が甲高い金属音と共に上空へ打ち上げられて行った。
-ゴォーン!
3秒ほどで轟音が聞えてきた。ドローンのカメラで着弾地点を上空から確認したが、距離が200メートル程手前で、方向も右に大きく外れていた。砲身をセットし直して、ダイヤルレバーで方向と距離を微調整してもう一発発射する。今度はかなりいい所に行ったが、目標の50メートル手前だった。それでも、神殿前にいた兵士とゴーレムは慌てているのがドローンからの映像ではっきりと判った。
兵士達は爆音と吹き飛んでくる瓦礫に対してゴーレムの陰に隠れるように後退して、ゴーレムを前方へ進めたようだ。更にハンドルで微調整して、サリナが渡してくれた砲弾を立て続けに砲身へと落とし込む。餅つきのコンビネーションのように息の合った作業で3発の迫撃砲弾を打ち上げた。空気を切り裂いて飛んで行く音の後に爆発音が3連続で鳴り響く。やはりドローンで着弾点を見ているのは効果的なようだった。3発ともゴーレム周辺に着弾して1発はゴーレムを直撃している。ドローンの高度を下げてダメージを確認すると・・・、十分な破壊力があったようだ。1体のゴーレムは片足を粉砕されて両手を地面についている。周辺にいた死人兵も吹き飛んで立っている兵士は一人もいない。
ゴーレムの足の断面を見る限り表面だけが金属のようになっているが、体の芯は土製のようだ。これなら、現在の火力で十分倒すことが出来ることが判って安心した。
「よし、後20発ほど撃ったら帰ろうか」
「あれ? 神殿には行かないの?」
「ああ、今日は行かない。しばらく様子を見よう」
「じゃあ、なんで“はくげきほう”を撃つの?」
「うん? 嫌がらせみたいな物かな」
「嫌がらせ?」
俺の狙いはゴーレム自体では無く、ゴーレムを操る魔法士だった。ゴーレムを作り、動かすには魔法力が必要なはずだ。サリナのような化け物は別にして魔法力を使えば疲れるし、そのうち力が枯渇するだろう。何処から攻撃してくるか判らない状態で敵に警戒させておけば、相手の魔法士が疲弊する。
-慌てる必要は無い、慎重に外堀から埋めて行こう。
■ネフロス神殿
神殿の魔法士達はサトルの予想通り多忙を極めていた。ゴーレムを操るために二人が常時張り付き、他の魔法士はボロボロになった兵士達の体を修復する魔法を長時間かけ続けなければならなかった。それ以外にも外の動きを監視するために水晶球を見ている魔法士も必要だった。
神官長も兵士長も敵はすぐに攻めてくると思って準備をしていた。だが、奴らがこの世界に来てから既に4日が経過しているが、鉱山の鉱夫を解放した後は魔法でゴーレムを攻撃する以外は直接神殿へ侵入しようとする者はいなかった。
-こちらから攻めるべきだったか・・・。
神官長が用意していたのは祭壇周辺で異世界と接続して魔獣に襲わせる新たな結界だった。だが、相手が神殿と祭壇に近づかなければ、発動させても効果が発揮できない。
神官長が使っている魔法はネフロスの神が支配するすべての異なる世界をつなげる時空魔法の一種だった。それ以外にも土魔法を使う事が出来るが、今の敵を追い払うには力不足だろう。もともとこの森には人が立ち入れない数の死神竜が溢れていた。それをドリーミアに放ってしまったために、神殿の守りが薄くなっているために敵に自由に動かれてしまっている。だが、死神竜が居たとしても相手はゴーレムを簡単に破壊する魔法を使えるのだから、あまり効果が無かったかもしれない。兵士達も魔亀や弓では歯が立たないことが判り戦意を喪失している。
-不本意だが、もっと強い魔獣を使うしかない。
神官長は上神殿の奥にある暗闇の間を通り抜けて黒い死人の首領が居る部屋へと移動した。
「どうした? やはり、手こずっておるのか?」
「うむ。やはり、勇者の魔法は手ごわい。我らの武装ゴーレムでも歯が立たんようだ」
「どうするのだ?」
「鬼人を放つことにする。鬼人の血を分けてくれ」
「ふむ・・・、それは構わんが。一旦鬼人化させるとあいつ等は元に戻せんぞ?」
「もちろんわかっておる。用が済めば、この世界の端に放ってやるさ」
「なるほどな、それは面白いかもしれんな・・・」
首領は暗い洞窟の奥からガラス瓶に入った黒い液体を持って来て、神官長に手渡した。
「これで3体は作ることが出来るだろう。出来るだけ力のある兵から選べ。その方が鬼人化した時の力が強くなる」
「ふん。そんなことは知っておる。それで、こちらの世界はどうなっておる?」
「ムーアの結界は予定通り進んでおるさ、勇者がそっちに行ってくれて助かったぞ」
首領は薄暗い洞窟の中で薄ら笑いを浮かべたが、神官長は何も返事をせずに暗闇の間を通って上神殿へと戻った。
「兵士長、強い兵を3名集めて鉱山の近くへ向かわせるのだ」
「承知しました。それで、物見をさせるのでしょうか?」
「ああ・・・、着いたらこれを飲むように言っておけ、遠くまで見通せる血だ。3人とも必ず飲むようにな。それと、そいつらが出たら、神殿の入り口は閉ざしておけ」
「はい・・・」
兵士長は最後の指示について意味が判らなかった。物見を出すのは攻勢に転じるつもりと思ったが、中に閉じこもると言うのは・・・。それでも、この神殿の中では神官長の言う事は絶対だった。すぐに信頼できる兵士を3名呼び寄せて神官長から受け取った“神の水”を渡して、敵の様子を伺わせるために鉱山へと向かわせた。
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