白と黒 5歳皇帝は白黒つけて容赦なく断罪する。

初老の妄想

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5歳児の評判

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■リーブル宮殿 皇帝執務室

国内の心配事はよそ者であるラインハルトの目も上手く活用せねばな。
ハンスからの情報だけでは、時期を逸する可能性もある。

「陛下。ノットランド皇国 オリバー公使のご到着です。」

「陛下、ご機嫌麗しく。本日はお招きいただき大変光栄に存じます。」
「貴殿こそ、いつぞやに続き、急な招待に応じていただき、感謝の念に耐えん。」

「もったいなきお言葉、いつでもお呼びください。わが君(きみ)からも、貴国ならびに陛下のご要望には身命を賭してお応えせよと命(めい)を受けております。」

-わが君か、確か王はまだ若かったな。

「さようであるか。時にノットランド王はご壮健か?余は即位式のときにお会いできるのを楽しみにしておる。」
「お心遣い感謝申し上げます、おかげさまで、わが君は壮健でございます。」

「しかるに、ノットランド王と言うのはどのような御仁(ごじん)であられるのか?」
「わが君でございますか・・・、聡明でそして楽しい王でございます。」

-楽しい? 自国の王を?

「楽しいとな? それはまた愉快な王であるな。」
「はい、わが君は即位されたときから、民や臣下のものに『わが国を楽しい国にせよ、そして皆が楽しく暮らせるようにするのだ。』そういい続けておられます。」

-皆が楽しく暮らすか・・・
-俺の国はどうするのだ?

「そうであるか、更にお会いできるのが楽しみとなった。よろしくお伝え願いたい。」
「もったいなきお言葉、ありがたくわが君へお伝え申し上げます。」

「時に、貴殿は公使に着任して3年と伺っておるが、他国の公使たちとも交流はおありであろう?」
「仰せの通りでございます、アメリア連邦の各国公使と貴国の外務卿を交えた会合が、月に1度開かれ、様々な情報交換をしております。」

-フム、聞いている通りだな。

「ならば、貴殿の率直なお人柄を見込んで、是非教えていただきたいことがあるのじゃ。」
「何なりとお申し付けください。」

「うむ、答えづらい問いだとは、承知の上で尋ねるが、余の評判や噂はどうであろうか?」
「陛下の評判でございますか・・・。」

「そうじゃ、できれば耳あたりのよいものでなく、悪い評判を聞かせて欲しいのじゃ。無論、どのようなことを聞いても、貴殿を咎めはせぬし、誰が言っておったかも興味は無い。」
「陛下の命とはいえ、中々に難しいご質問でございますね・・・」

「やはり、答えにくいか。であれば、良い評判があれば先にそれを聞かせてくれても良いぞ。無いなら無いで、構わぬが。」

-少し凹むが、仕方なかろう。

「良い評判でございますね。陛下とお会いしたことがある方々から、陛下の知識や思慮の深さに感銘を受けたと聞いておりました。私も実際にお目にかかれ、陛下のお姿とお言葉を耳にしてからは、畏敬の念に堪えません。」

-まあ、当然であろう。こんな5歳はほかに居ないからな。

「そうか、それは過分な評判じゃな。じゃが、やはり良い評判ばかりと言うのは絶対無いであろう。余を助けると思って、できれば酷い評判を教えてもらえんだろうか?」

-そろそろ、言ってほしいのだが。

「さようでございますね、噂といえば、やはり先の大臣方の件でしょうか・・・」
「うむ、どのように噂しておるのじゃ?」

「陛下は、気に入らぬことがあると、虎に喰わせると・・・」

-そうなのか、余は構わんが白虎が少し可哀そうだのう。
 ・・・お前も気にせぬか。 なら良い。

「なるほどのう、そのように噂するものがおるのじゃな。オリバー殿よ、言いにくいことを教えてくれて感謝する。」
「やはり、白虎は怖いのであろうか?」

「・・・怖いといえば間違いなく怖いのですが、私には神々しく見えております。」

「そうか! 白虎は神々しいか! そうであろうとも、もし望むなら触ってもよいのだぞ? 決して、噛んだりはせんのだ!」

「陛下、お慎みください。公使がお困りになります。」

-なんじゃ、ハンスはつまらん。
-わが親友を自慢するチャンスじゃのに。

「触っても、本当によろしいのでしょうか?」
「触ってみたいのか!?」

-ハンスめ、触りたいのではないか。

「陛下のお許しをいただけるのであれば。是非」
「もちろん許す! 白虎よ側へ行ってやれ。」

わが親友は少し面倒くさそうだが、ゆっくりと公使の元へ行って横になってくれる。
公使はびくつきながらも背を撫でておる。
うむ、怖がる必要はないのだ。
すごく良いやつなのだから。

「これは、すばらしい毛並みでございますね。絹よりもなめらかでございます。」
「そうであろう、白虎の毛並みに勝るものは無いと余も思っておる。」

「陛下、ありがとうございました。小国の公使ごときにこのような栄誉を与えていただき、心より感謝申し上げます。」
「気にするでない、余も貴殿の教えに深く感謝する。だが、もし今後同じような噂を聞けば、『白虎は人に牙を向けたことが無い。』 そのように、伝えてくれればありがたい。こやつの名誉に関わるでな。」
「ありがたく、承りました。」

うむ、白虎は前足しか使わん。
牙を使うのは、黒狼じゃからな。
しっかり訂正しておかねば。
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