それ行け!! 派遣勇者(候補)。33歳フリーターは魔法も恋も超一流?

初老の妄想

文字の大きさ
13 / 183
勇者を目指して

11.はじめての魔法

しおりを挟む
■スタートス聖教会裏

『ファイア』少し小さめの声でタケルがつぶやくと胸に小さな痛みが走った。
同時に「ボゥッ!」と言う音ともに、右手をあげたタケルの眼前に大きなオレンジ色の炎が吹き上がった!

「ワァッ!」っとナカジー達が声を上げ、後ずさりする。
マリンダさんは両手を口に当てて、目を見開いて炎を見つめている。
離れた場所で見ていたブラックモアは腰を落として剣の柄に手をかけた。

タケルの炎は手の上で1m以上の高さで揺らめいている。
見慣れているガスの炎ではなく、焚き火などで木が燃えるような色だ。

タケルは手をあげたまま、もう一度炎を見つめて心の中でつぶやく。
(ありがとう、グレン様。もう少し火を小さくしましょう。)
半分ぐらいの大きさを描いて神へ願った。

目の前の炎がイメージどおりに小さくなった。
手の上にはまだ勢いよく炎が揺らいでいる。
しばらくの間、タケルは炎をみつめ、もう一度神に感謝をささげた。

(ありがとうございました。グレン様 私はこの力をこの世界の人のために使います。魔竜を倒す日まで、お力をお貸しください。)
目をつぶり、手を下ろすと同時に炎は消えた。

「すげぇ。」ダイスケ達はその場で立ちすくんでいる。

マリンダとブラックモアが小走りにタケルに駆け寄って来た。
「お体に異常はありませんか!」マリンダが険しい顔で詰め寄る。
「チョット胸がピリっとしましたが、大丈夫ですよ。」
「胸ですか?・・・、勇者様、先ほどのペンダントをお見せください!」マリンダが興奮して、タケルの胸元を見つめている。

ペンダントを服の下から引っ張り出すと、聖教石が薄い青色に変わっていた。
「これは!」ブラックモアが眉を寄せて、タケルの聖教石を見ている。

マリンダは手を伸ばし、手のひらに載せた聖教石を見て、
「勇者様は神に大変愛されておいでです。」とタケルを見つめて微笑む。 

(アカン、惚れてまうやろー)と心の中で叫ぶタケルの心には気づかず、離れたマリンダは、ブラックモアに何かを耳打ちした。
ブラックモアは小さくうなずいて教会に戻っていった。

その後にダイスケとアキラさんが同じように魔法へ挑戦したが、何度やっても二人とも何も起こらなかった。

「タケルさん、どうやったんスか?」
「アタマの中で『火の神 グレン様』にお願いしてみた。『ファイア』って言うから、あの大きさの炎を出してください。ってね、それだけのはずなんだけど。」とダイスケにアドバイスを送ってみた。

ダイスケは、首をかしげながら少し離れて行き、ナカジーも含めて、もう一度3人で同じように挑戦し始めた。

ダイスケはタケルと同じように、一度目を閉じて間をとってから、右手を顔の高さまで上げた。
「ファイア!」と声を出したダイスケの手の上に炎が立ち上がった! 成功だ!
炎の大きさは10cmぐらいだが、ゆらゆらと揺れている。
「ヤッター!!」喜んでいるうちに炎が小さくなって消えた。
「タケルさんの言ったとおりに頭の中でやったら、イケました。思ったサイズよりだいぶ小さいですけど、スゲェや。本当にできるんだ!」満面に笑みを浮かべている。
(たぶん、信じる力が弱かったかな?)とタケルは想像していた。

タケルも現実の日本では、神や魔法や奇跡などはカケラも信じていない。
宗教的には無神論者といえるだろう。
ただ、タケル達がこの世界に来たと言うことは、少なくともこの世界には「魔法がある」と既に信じているし、ノックスやマリンダが「神が願いをかなえるのが魔法」と言うなら、それを疑う理由も全く無かった。
だから、自分なりに真摯(しんし)にグレン様にお願いしてみたつもりだ。
(ちゃんと、聞いてくれてるんだ)と素直にタケルは感謝している。

タケルは、あとの二人に目をやり、タケルなりの考えを伝えてみた。
「二人も、グレン様に頭の中でしっかりお願いして、それから炎をイメージしたらどうかな?」

うなずいた二人は、しばらく目を閉じてから、右手をゆっくり上げた。
「ファイア!」ナカジーが叫んだ。
ナカジーの手の上には、先ほどより大きな炎が揺れている。
「ヨッシャー」と左手でガッツポーズを作った。途端に炎が消えた。

ナカジーの横にいるアキラさんを見ると、ちゃんと炎が手の上にある!!
大きさはダイスケと同じぐらいだが、しっかりと炎が保たれている。

タケルは改めて3人を眺めた。
3人ともうれしそうだ、目がきらきらしている。
もちろんタケルもうれしい、人生の中でも一番うれしいかもしれない。
ここが、夢の世界であったとしても、夢の中で1番楽しいだろう。

みんなの近くで黙って見ていてくれたマリンダさんが、笑顔をうかべたままタケルに近づいてきた。
「皆様、すばらしいです。こんなに覚えが早いのは今までの勇者様でも初めてです。勇者様はお教えになるのも、お上手ですね。」とタケルの目を見つめる。
(だから、惚れてまうって)と照れたタケルは思わず目線を3人に戻した。

「ちゃんとグレン様にお願いした?」と3人を見ながら確認してみる。
「すっごくお願いした!頭の中でお辞儀もしてみた。」笑顔でナカジーの声が弾む。
他の二人も笑顔で頷いている。

盛り上がっているタケル達のところへ、ブラックモアがノックスを連れて小走りに戻ってきた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

処理中です...