それ行け!! 派遣勇者(候補)。33歳フリーターは魔法も恋も超一流?

初老の妄想

文字の大きさ
84 / 183
勇者候補たちの想い

82.シベル大森林

しおりを挟む
■シベル大森林近郊
~第7次派遣2日目~

宴会による二日酔いも無く、タケルは朝の冷気で日の出前に目が覚めた。

立て付けの悪い木の扉を開けて外に出ると、遠くの山が明るくなっている。

井戸は村長の家の横に見つかった。
手桶に水を移して顔をあらう、冷たい水で一気に眠気が吹っ飛んだ。

昨晩から燃えている魔法石の炎を消して、納屋に入れた馬にも水を持って行ってやった。
魔獣に襲われることも無く、温かい納屋で過ごした馬は桶に注がれた水を上手そうに飲んでいる。

朝食はパンと干し肉で簡単に済ませ、早々に馬車で出発した。
ワグナーの小屋までは昼までには着くはずだ。

今日も御者席にロブと並んで座っている。
昨日の事もある。タケルは槍を持ち、ロブも炎の刀を差したままだ。
荷台の二人にも、常に備えるように伝えてある。

やはり、備えは必要だった。
村を出てシベル大森林の中の細い道に入ると、すぐに狼達が現れた。

まだ50メートルぐらい離れているが、右にも左にも何頭かいる。

「タケル殿、馬車を止めましょうか?」

「いえ、このまま進んでください」

全部戦っているとキリが無い。
タケルは右手に炎聖教石を握って、左の狼へ向ける。

「ファイア」「ファイア」「ファイア」

-キャン!- -キャン!- -キャン!-
炎に顔を包まれた狼達が、飛ぶように逃げていく。

御者台で立ち上がり、ロブの頭越しに右の狼も同じ要領で追っ払った。

-やはり、魔法だとやっつけた感が全然無い。

「タケル殿、あれ程遠くに炎を放たれて、お体には影響は無いのでしょうか?」

「大丈夫ですよ、神に愛されているので」

笑顔でロブに返事をしたが、確かに50メートル先は過去最長かもしれない。
だが、聖教石も使っているので、疲労感は全く無い。

追い払った狼と同じかは判らないが、遠い距離にいる狼を何度も見かける。

狼以外でも綺麗な鹿を見ることが出来た。
朝日のなかで氷獣化した鹿は怖さよりも気高い彫刻のように見えた。

もっとも、彫刻のようにはおとなしくしていなかったので、タケルは炎で追い払った。
今日は小屋に着くまでは無駄に戦わないと決めている。

森の中の細い道はしっかり踏み固められていて、馬車は背の高い木の間を滑らかに進んでいく。
ロブに聞いたところでは、シベル大森林の北にある山では良好な石材が産出されるそうだ。
この道は石材や木材等の運搬に使われていて、タケルが想像していたよりも多くの馬車が通っているらしい。

2時間ぐらい進んでから、馬と人を休憩させるために馬車を止めた。
太陽の位置はまだ低いが、木々の間から差し込む日差しが温かく感じられる。

ナカジーとアキラさんも荷台から降りて背伸びをしている。
風の無い森の中は静かだった、足元にある雪を踏む音が聞き取れる。
タケル達以外にはこの森には何も存在しないぐらいの静寂が支配していた。

だが、今回はアキラさんが最初に気づいた。

「タケル!」

アキラさんが見ている方向を見ると、日のあたらない森の奥から白い固まりが動き出している。

-大きい! 熊だ!

アキラさんは躊躇せずに熊の方へ走り出した。

「ナカジー、俺の後ろについて来て!」

熊は見る見る大きくなっていく、かなりの速度でこっちに突っ込んで来ている。

前を走っていたアキラさんが足を止めて、右拳を真っ直ぐに突き出した!

-バッキィーン!! - フグォーォー!!-

氷が割れる音と、熊の雄たけびが森の中に響き渡る。

5メートルの距離から風の拳でカウンターを熊の顔面に叩き込んだが、致命傷は与えられなかった。

熊は後ろ足で立ち上がり、前足でアキラさんへ跳びかかろうとする。
立ち上がった熊は3メートルぐらいの高さになった!

「ファイア!」「ファイア!」

タケルは1メートルぐらいの炎を顔と腹に放った!

-ジュゥー! - ググォーォー!!-

熊は顔の炎を嫌がって、後ずさりしながらまた四足になる。

タケルは槍を持ち直して、穂先に炎を灯した。

(でかい、距離感を間違えれば、こっちが死ぬな)

だが、恐れを感じていたタケルの横をロブが駆け抜けて行った!

「ハァァーッ!!」

一気に距離を詰めると、気合と共に炎の刀を袈裟切りで熊に振り下ろす。
炎に包まれた刃が大きく伸びた!!

-クハァ!‐

熊の左肩から入った炎は胴体から、頭と右半身を切り飛ばした!
熊の口からは絶命する呼吸音だけが聞こえた。

(さすが、教会武術士)

「タケル殿、この剣があれば恐れるものはありません。氷魔獣は私にお任せください」

「では、これからはお願いします」

そうは言ったものの、ロブはこの刀を返してくれるだろうか?
この切れ味なら、病み付きになるだろう・・・
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

世界一簡単にレベルアップ ~魔物を倒すだけでレベルが上がる能力を得た俺は、弱小の魔物を倒しまくって異世界でハーレム作る事にしました~

きよらかなこころ
ファンタジー
 シンゴはある日、事故で死んだ。  どうやら、神の手違いで間違って死んでしまったシンゴは異世界に転生することになる。  転生する際にオマケに『魔物を倒すだけでレベルが上がる』能力を貰ったシンゴ。  弱小の魔物を倒してレベルを上げ、異世界でハーレムを作る事を企むのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

処理中です...