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派遣勇者の進む道
116.迷いの森
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■??? 森の中
~第10次派遣4日目~
転移が出来ない理由は判らないが考えていても仕方ない。ここが神の指し示す場所なら何か手がかりがあるだろう。
「アキラさん、とりあえず進んでみますか。森の中に入ろうと思うんで、念のため警戒して置いてください」
「わかった、大丈夫」
アキラさんはニッコリ笑って、両手にメリケンサックをはめた。タケルは破壊力を知っているだけに、引き攣った笑みを返すことになった。
ここが迷いの森なら、シベル大森林のどこかになるはずなのだが、あまり寒さを感じない。むしろ、スタートスと同じぐらいの気温だろう。厚着をしてきたタケル達は歩き出すとすぐに上着を脱いで、リュックの中に入れて森の奥へと進んで行った。森の中は背の低い木が多くて、太陽の光も差し込んでいる。そのせいで下草も沢山生えていて少し歩き難いが、傾斜のない平坦な地面が続いているので、息が切れるような斜面は無かった。
1時間程歩くと飛び越えられないぐらいの小川が流れていたので、川沿いに歩くことにした。タケル達がたどり着いた方向の逆に向かって流れているので、着いた場所は山に近い場所なのかもしれない。
森の中には鳥のさえずりが聞こえているが、魔獣はおろか生き物を眼にすることも無かった。無口なアキラさんとシルバーを引き連れて、ただただ歩き続ける・・・
「止まれ!」
突然、上のほうからタケル達へ命令する声がした。声がした方を見上げると、逆光の中で木の上に二人の人間が居ることがわかった。言われた通りに止まりながらも、タケルは槍を両手で持って半歩右足を引いた。
「お前たちは・・・、何者だ? 何処から来たんだ?それに、その後ろの狼は・・・」
声は女性のようだが、30メートル程離れた木の上にいる顔がはっきりと見えなかった。
「私はスタートスの町から来たタケルです。一緒に居るのは仲間のアキラさんとシルバーです。貴方たちはエルフなのですか?」
「・・・シルバー!? 伝説のオールドシルバーなのか!?」
タケルの問いかけには答えが無かったが、シルバーのことは知っているようだ。
「そんな風に呼ばれていると聞いています」
木の上の二人は何かを話し合って、一人が隣の木に飛び移りながら地面に下りて走っていった。
「それで、どうやってこの森に入ってきたのだ?」
「どうやって・・・、神様、アシーネ様の導きですね。精霊の加護を得た民がこの森に住んでいるので、その力を借りようと思っています」
「アシーネ?聞いたことがない神の名だ。お前達の素性がわからぬ以上はこれより先に進ませるわけには行かない。今、長老のところへ使いを出したから、しばらくそこで待っていろ」
「それで、貴方はエルフなんですか?」
「エルフ?我らは森の民だ」
会話がかみ合っていないような気がするが、ここが迷いの森の中ならばタケル達が会いに来たのはこの人たちのはずだ。敵対しても仕方が無いから言う通りにすることにしよう。ちょうど疲れてきたところだったので、濡れていない地面に座って休憩することにした。敷き革を敷いて、リュックからパンと干し肉を取り出して、マヨネーズをつけた簡単なサンドイッチを作った。アキラさんと二人で食べながらしばらく待っていると、さっき走っていった片割れが戻って来た。木の上にいる方を下に呼んで何か話し合っている。
「タケルと言ったな。長老がお前達に会いたいと言っている、私達についてこい」
地面に立っている二人を見ると、タケルが想像していたエルフのイメージ通りのスタイルをしている。背は高くないが、ほっそりとして白い肌に緑色の目、そして耳が少しだけ長いようだ。背中に弓と矢筒を背負い、腰には短刀を差している。性別がはっきりしないが女性、美少女に見える。本人たちがなんと言おうとエルフで確定だ。
「聞こえなかったのか?」
「ああ、失礼しました。ありがとうございます、お二人について行きますよ」
タケルは見とれてしまった自分にどぎまぎしながら、エルフ達の進む方向へ付いて行った。
タケル達が連れて行かれたのはエルフの集落だった、足の速いエルフについて行くと息が切れてきたが、30分程で森の中に沢山の小屋があるのが見えてきた。小屋はお世辞にも立派な物とは言えない。窓も無いし、とびらも無い入り口がついているだけの簡素な建物だ。集落の中に入ると、タケル達を見つけたエルフ達が少し離れた距離でぞろぞろとついてくる。噂が広まるのが早いのか、珍しそうに見ているが不思議と敵意があるようには感じなかった。
「チョット待ってろ」
案内してくれた一人が集落の中心にあった大きな建物の前でタケル達を待たせてから中に入って行った。待たされている場所は広場のような空き地で、真ん中には焚き火ができるように大きな石組みが作ってある。
「入っていいぞ、長老が会う。その槍は持って入ってもいいが、長老に向けたら背中を射抜くからな」
中から出て来たエルフは物騒なセリフをはきながらも、タケル達を大きな建物に通してくれた。建物の中には地面の上に大きな木のテーブルが置いてあり、周りには背もたれの無い丸いすが沢山並んでいる。奥のいすには二人の老人が座っていた。
「こんにちは、スタートスから来たタケルと言います。アシーネ神の神託にしたがって、皆さんのところに会いに来ました」
二人の長老はタケルを黙って見ている。一人はさっき見たエルフが綺麗に年老いた感じだが、もう一人はタケルの知識ではドワーフという種類になるが、どう言うことなのだろうか?
~第10次派遣4日目~
転移が出来ない理由は判らないが考えていても仕方ない。ここが神の指し示す場所なら何か手がかりがあるだろう。
「アキラさん、とりあえず進んでみますか。森の中に入ろうと思うんで、念のため警戒して置いてください」
「わかった、大丈夫」
アキラさんはニッコリ笑って、両手にメリケンサックをはめた。タケルは破壊力を知っているだけに、引き攣った笑みを返すことになった。
ここが迷いの森なら、シベル大森林のどこかになるはずなのだが、あまり寒さを感じない。むしろ、スタートスと同じぐらいの気温だろう。厚着をしてきたタケル達は歩き出すとすぐに上着を脱いで、リュックの中に入れて森の奥へと進んで行った。森の中は背の低い木が多くて、太陽の光も差し込んでいる。そのせいで下草も沢山生えていて少し歩き難いが、傾斜のない平坦な地面が続いているので、息が切れるような斜面は無かった。
1時間程歩くと飛び越えられないぐらいの小川が流れていたので、川沿いに歩くことにした。タケル達がたどり着いた方向の逆に向かって流れているので、着いた場所は山に近い場所なのかもしれない。
森の中には鳥のさえずりが聞こえているが、魔獣はおろか生き物を眼にすることも無かった。無口なアキラさんとシルバーを引き連れて、ただただ歩き続ける・・・
「止まれ!」
突然、上のほうからタケル達へ命令する声がした。声がした方を見上げると、逆光の中で木の上に二人の人間が居ることがわかった。言われた通りに止まりながらも、タケルは槍を両手で持って半歩右足を引いた。
「お前たちは・・・、何者だ? 何処から来たんだ?それに、その後ろの狼は・・・」
声は女性のようだが、30メートル程離れた木の上にいる顔がはっきりと見えなかった。
「私はスタートスの町から来たタケルです。一緒に居るのは仲間のアキラさんとシルバーです。貴方たちはエルフなのですか?」
「・・・シルバー!? 伝説のオールドシルバーなのか!?」
タケルの問いかけには答えが無かったが、シルバーのことは知っているようだ。
「そんな風に呼ばれていると聞いています」
木の上の二人は何かを話し合って、一人が隣の木に飛び移りながら地面に下りて走っていった。
「それで、どうやってこの森に入ってきたのだ?」
「どうやって・・・、神様、アシーネ様の導きですね。精霊の加護を得た民がこの森に住んでいるので、その力を借りようと思っています」
「アシーネ?聞いたことがない神の名だ。お前達の素性がわからぬ以上はこれより先に進ませるわけには行かない。今、長老のところへ使いを出したから、しばらくそこで待っていろ」
「それで、貴方はエルフなんですか?」
「エルフ?我らは森の民だ」
会話がかみ合っていないような気がするが、ここが迷いの森の中ならばタケル達が会いに来たのはこの人たちのはずだ。敵対しても仕方が無いから言う通りにすることにしよう。ちょうど疲れてきたところだったので、濡れていない地面に座って休憩することにした。敷き革を敷いて、リュックからパンと干し肉を取り出して、マヨネーズをつけた簡単なサンドイッチを作った。アキラさんと二人で食べながらしばらく待っていると、さっき走っていった片割れが戻って来た。木の上にいる方を下に呼んで何か話し合っている。
「タケルと言ったな。長老がお前達に会いたいと言っている、私達についてこい」
地面に立っている二人を見ると、タケルが想像していたエルフのイメージ通りのスタイルをしている。背は高くないが、ほっそりとして白い肌に緑色の目、そして耳が少しだけ長いようだ。背中に弓と矢筒を背負い、腰には短刀を差している。性別がはっきりしないが女性、美少女に見える。本人たちがなんと言おうとエルフで確定だ。
「聞こえなかったのか?」
「ああ、失礼しました。ありがとうございます、お二人について行きますよ」
タケルは見とれてしまった自分にどぎまぎしながら、エルフ達の進む方向へ付いて行った。
タケル達が連れて行かれたのはエルフの集落だった、足の速いエルフについて行くと息が切れてきたが、30分程で森の中に沢山の小屋があるのが見えてきた。小屋はお世辞にも立派な物とは言えない。窓も無いし、とびらも無い入り口がついているだけの簡素な建物だ。集落の中に入ると、タケル達を見つけたエルフ達が少し離れた距離でぞろぞろとついてくる。噂が広まるのが早いのか、珍しそうに見ているが不思議と敵意があるようには感じなかった。
「チョット待ってろ」
案内してくれた一人が集落の中心にあった大きな建物の前でタケル達を待たせてから中に入って行った。待たされている場所は広場のような空き地で、真ん中には焚き火ができるように大きな石組みが作ってある。
「入っていいぞ、長老が会う。その槍は持って入ってもいいが、長老に向けたら背中を射抜くからな」
中から出て来たエルフは物騒なセリフをはきながらも、タケル達を大きな建物に通してくれた。建物の中には地面の上に大きな木のテーブルが置いてあり、周りには背もたれの無い丸いすが沢山並んでいる。奥のいすには二人の老人が座っていた。
「こんにちは、スタートスから来たタケルと言います。アシーネ神の神託にしたがって、皆さんのところに会いに来ました」
二人の長老はタケルを黙って見ている。一人はさっき見たエルフが綺麗に年老いた感じだが、もう一人はタケルの知識ではドワーフという種類になるが、どう言うことなのだろうか?
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