それ行け!! 派遣勇者(候補)。33歳フリーターは魔法も恋も超一流?

初老の妄想

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派遣勇者の進む道

115.神の指し示す道

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■スタートス聖教会 
 ~第10次派遣4日目~

 前の晩の食事はしんみりした感じで終了した。タケルは別にこの教会や現世に戻れない確立が高いと思っている訳ではなかった。しかし、ゼロでもないだろうから連れて行かないほうが良いと判断しただけだ。それでも、もし戻れなければ・・・、気になるのはマリンダと聖教石のことだった。昨日洞窟で取ってきた聖教石も含めるとかなりの量になっている。普通の人には価値が無いかもしれないが、タケルのように加工できる人間が居ると無限の価値があるだろうし、悪用されるとこの世界にも悪影響があるかもしれない。万一のことを考えて日が昇る前に、協会の裏と泉の畔の2箇所に分けて埋めておいた。外は暗かったが、久しぶりに見たシルバーがついて来てくれたので安心して作業を終えた。

 マリンダのことも気になるが、何か言ってから行くと却って良くないことになりそうな気がしたので、黙って行くことにした。あくまでも、戻れることが前提で行くのだと自分自身に言い聞かせておく。

 朝食のときも、全員口数が少なかった。アキラさんはいつもどおりだったが・・・

「みんな、俺達が戻れないことを前提に考えてるかもしれないけど、それは多分無いから安心して待っててよ。この世界の神が俺を見捨てるはずないし、その神が与えた神託なんだから少なくとも俺に危害を加えるようなものじゃないから、大丈夫だよ」

 タケルは自分がどう考えているのかを改めて伝えた。

「そうですよね、タケルさんへのメッセージなら悪い話じゃないですよね」

 ダイスケも自分を納得させるように笑顔を浮かべて同意してくれた。

「それに、俺たちだけがエルフに会って戻ってきても、後で恨まないでくれよ」

 冗談めかして、皆の気持ちが明るくなる方向へ話を誘導すると、コーヘイとマユミが乗っかってくれた。

「エルフかぁ~。本当に居るなら俺も見たいですね。やっぱり耳が長いんですかね?」

「それって、現世での伝説とか物語がごっちゃになった話でしょ?こっちのエルフは巨人族かもしれませんよ」

「巨人族か?それは想定外だけど、違った意味で会ってみたいね」

 確かにエルフというワードで同じように翻訳されていても、タケル達の妄想するエルフと異なる姿である可能性は十分にある。行ってからショックを受けないようにしないと。

 見送りをしたがった3人を食堂に留めて、大きなリュックを担いでアキラさんと一緒に食堂を出た。リュックにはパンと干し肉、念のための焼酎も入っている。水と氷は魔法で出せるから、焼酎水割りは問題ないはずだ。

 食堂を出るとシルバーが尻尾を振って待っていた。頭を撫でてから教会に入ろうとすると、珍しく付いて来る。

- 一緒に来るつもりなのだろうか?

「シルバー、お前も一緒に来てくれるのか?」

 耳の下の毛を触りながら聞いてみるが、もちろん返事は無い。だが、心持ち尻尾の振れ幅が大きくなったような気がした。教会の扉を開けて転移の間に入って行ったがそのまま後ろをついて来て、何も言わなくても聖教石の柱が並べてある中心部にオスワリした。やはり一緒に行く気のようだ、これは心強い仲間が出来た。

■聖教石の洞窟 奥

 転移魔法でタケルが設置した洞窟の中の転移ポイントに無事に飛んでくることが出来た。目の前にはこの前見つけた大きな聖教石の柱が今日も鈍く輝いている。
 問題はこれからだ、今までは行きたい場所をアシーネ様に伝えて、祈りを捧げることで転移することが出来ていたが、ここから行く先が何処なのかをタケルは具体的に知っている訳ではなかった。エルフの里と伝えるべきなのか? 結界の外と伝えるべきなのか?どちらも違うような気がする。神の思し召しなのだから、神に委ねてみることにしよう。

「アキラさん、用意は良いですか?そろそろ行きますよ」
「うん、いつでも大丈夫」

 シルバーを真ん中にして並んで聖教石の中心部に入った。右手に光の聖教石を掲げて、アシーネ様に祈りを捧げる。

-アシーネ様、この聖教石の導く先へ我らを転移させてください。

「ジャンプ!」

 周囲の景色が一瞬で変わった、というよりは周囲が真っ白で壁が見えなくなった。濃い霧に包まれている場所のようだ。足元はかろうじて見えるが周りに聖教石の柱があるようには見えない。

「アキラさん、聖教石の柱はその辺りに見えますか?」
「いいや、何も無いね。でも、ここは洞窟じゃあないみたいだよ」

 確かに霧に包まれているが上のほうは明るい屋外のようだ。しかし、前後左右が真っ白なので平衡感覚を失いそうになりそうだ、進むべき方向も全然判らない。どうしたものか悩んでいるとシルバーが歩き出した。3メートルほど進むと見え無くなりそうだが、振り返ってこっちを見ている。なるほど、リアンを森で見つけたときのように案内してくれるようだ。

「アキラさん、シルバーに付いて行きましょう」
「わかった」

 俺達が続いて歩き出すと、シルバーは前を向いてどんどん進んでいく。足元の地面は雑草も少なくて土が見えているが平坦で歩きやすかった。感覚的には30分ぐらい歩いただろうか?少し霧が薄くなって来たような気がする。遠くにおぼろげながら木が生えているような黒い影が見えはじめた。

 シルバーの尻尾を見ながら歩いていたタケルの頬に突然強い風が吹き付けたと思った途端に視界が開けた。背の高い木の茂った森の入り口だ。後ろを振り返ると霧が立ち込めて先が見えなくなっている。

- 迷いの森に入れたのだろうか?

 ここがどこかと言う心配はあるが、まずはスタートスに戻れるのかを試すべきだろう。光聖教石(転移用)を地面に5本刺して、いつもの手順で祈りを捧げる。

「ジャンプ!」

 ・・・周囲の景色は変わらない。

 もう一度同じように祈りを捧げる。

「ジャンプ!」

 懸念は現実となった、ここからはスタートスには戻ることができないのだ。
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