121 / 183
派遣勇者の進む道
119.霧の中で
しおりを挟む
■精霊の谷?
~第10次派遣4日目~
アキラさんは霧の中で立ちはだかっている大きな壁へ、左の拳を軽く当てて距離を測っていた。右で行くはずだが、左のリードブローで距離感をつかみたいようだ。
「お前達、一体何をするつもりなのだ?」
リーシャがいらだちを交えて問いただしながら近寄ってきた。
「えーっと、結界を守るために昔の教皇が谷を塞いだと長老が言っていましたので、今から、この岩を取り除こうと思っています」
「この岩、いや、山のような物をどうやって取り除くと言うのだ!?」
「風の神の力を借ります。危ないので、私と一緒に下がってください」
遮る壁を自分で触って、タケル達を更に厳しい目で見るようになったリーシャを連れて壁から離れて行く。20メートルほど離れるとアキラさんの姿がほとんど見えなくなった。
「アキラさん、用意ができたら教えてください。俺は軽めに風を送っておきますから」
タケルは風の聖教石を握り締めて、緩やかな風をアキラさんの影に向けて送り始めた。同じ強さの風が送られることで、霧の中の影がはっきりと見えるようになってくる。アキラさんは風の神に祈りを捧げているようだったが、壁から半歩下がって右足を引いた。
「じゃあ、行くよ」
「どうぞ」
アキラさんが集中した気配が伝わると同時に前に飛び込んで右拳を土壁に叩きつける。
「ゴッドブロー!!」
風の力が宿った右拳が立ちはだかる壁を吹き飛ばし、大きな叫び声を掻き消す凄まじい破壊音が谷底の空気を震わせながら響き渡った。
「ウィンド!」
タケルも叫んでアキラさんの上を狙って全力の風魔法をぶつけた。霧の中で崩れて行く土壁を右手からほとばしって行く暴風で吹き飛ばしていく。タケルは胸の聖教石から久しぶりに痺れる痛みを感じたが無視して風を送り続けた。
しばらく風を送り続けてから右手を下ろすと頬に当たる風と土埃を感じた。アキラさんのところに歩み寄って行くと、向かい風の中で霧が薄くなって土壁がV字型に砕けたのが見えてきた。風は砕けた場所から吹き続けて来ている。振り返ると霧がどんどん薄くなっていくのが見えて、リーシャが目を見開いてこちらを見つめているのが見えた。これで結界は解けるだろう。
「アキラさん、大丈夫ですか」
「う、うん・・・大丈夫じゃない」
いつもは"大丈夫"と言う返事しかしないアキラさんの"大丈夫じゃない"を聞いて、慌てて近寄ると右手が大変なことになっていた。二の腕が折れ曲がっている。これは神に祈るだけでは治療できないかも知れない。
「アキラさん、治療魔法をかけますから、我慢して左手で右手が真っ直ぐになるように引っ張ってください」
「わかった」
タケルは光のロッドを取り出して、アキラさんの右手に向けて祈りを捧げる。
-アシーネ様、大切な仲間の右手を元通りに戻してください。
「癒しの光を!」
大声で叫んで、祈り続ける。アキラさんは目の前で無造作に右手首を左手で握って、右手を少しずつ真っ直ぐにしていく。タケルは祈り続けた・・・
「うん、もう大丈夫。痛くないし動くようになった」
「そうですか! 良かった~、安心しました」
「うん、ありがとう。上から落ちてくる壁もなかったから、右手だけで済んだしね」
「なんとか、タイミングが合って良かったです」
「そうだね、これで結界は解けたのかな?」
「そうだと思いますよ、霧も消えたし・・・、それに寒くなってきましたよね?」
「うん、かなり冷えてきたと思う」
タケルはここが本来はシベル大森林の中にあることを思い出した。北にある森林地帯は魔の力によって、季節はずれの異常な寒さと氷獣が溢れる場所になっている。だが、それ以外にもタケルには心配ごとがあった。
「アキラさん、とりあえずここに転移ポイントを作りますので、石を埋めるのを手伝ってください」
リュックから、5本の光聖教石(転移用)を取り出して、手分けして地面に埋めた。作業が終ると呆然と立っているリーシャの元へ行って話しかける。
「リーシャさん。結界が解かれたので、皆さんの森はシベル大森林と繋がりました。ですけど、森林は魔の力によって冬の寒さになっていますから、戻って長老に冬の支度をするように伝えてください」
「冬? そうなのか・・・、我らの森は常春が続いていたのだが・・・、しかし、これは・・・」
リーシャは目の前の光景を見ていながらも、現実のこととして対応できないようだ。
「それと、氷に覆われた魔獣が沢山出てくるかもしれませんから、できるだけ火を使って追い払うように長老に伝えてください」
「氷? 氷の魔獣? よく判らんが・・・、お前達は長老のところに戻らないのか?」
「私達は5日したらまた来ますが、もうすぐこの場所から消えてしまいます」
「消える、何を・・・」
タケルはリーシャの言葉を最後まで聞くことが出来なかった。16時になったのだろう、周りの景色がいきなりコンビニの倉庫内にある転移の間に変わっていた。なんとか強制転移の時間までに霧の結界を解くことができたのだ。
「タケルさん! アキラさん!」
「無事やったんですね!?」
同時にスタートスから戻って来たダイスケとマユミが駆け寄ってくる。
「ああ、何とか無事に帰って来られたね」
「それで、エルフの森にはたどり着いたんですか?」
「ああ、たどり着いたよ・・・」
タケルは二人から矢継ぎ早に飛んでくる質問に答えながら、エルフ達のことを考えていた。
結界を解いたことは彼らにとって良いことだったのだろうか?
~第10次派遣4日目~
アキラさんは霧の中で立ちはだかっている大きな壁へ、左の拳を軽く当てて距離を測っていた。右で行くはずだが、左のリードブローで距離感をつかみたいようだ。
「お前達、一体何をするつもりなのだ?」
リーシャがいらだちを交えて問いただしながら近寄ってきた。
「えーっと、結界を守るために昔の教皇が谷を塞いだと長老が言っていましたので、今から、この岩を取り除こうと思っています」
「この岩、いや、山のような物をどうやって取り除くと言うのだ!?」
「風の神の力を借ります。危ないので、私と一緒に下がってください」
遮る壁を自分で触って、タケル達を更に厳しい目で見るようになったリーシャを連れて壁から離れて行く。20メートルほど離れるとアキラさんの姿がほとんど見えなくなった。
「アキラさん、用意ができたら教えてください。俺は軽めに風を送っておきますから」
タケルは風の聖教石を握り締めて、緩やかな風をアキラさんの影に向けて送り始めた。同じ強さの風が送られることで、霧の中の影がはっきりと見えるようになってくる。アキラさんは風の神に祈りを捧げているようだったが、壁から半歩下がって右足を引いた。
「じゃあ、行くよ」
「どうぞ」
アキラさんが集中した気配が伝わると同時に前に飛び込んで右拳を土壁に叩きつける。
「ゴッドブロー!!」
風の力が宿った右拳が立ちはだかる壁を吹き飛ばし、大きな叫び声を掻き消す凄まじい破壊音が谷底の空気を震わせながら響き渡った。
「ウィンド!」
タケルも叫んでアキラさんの上を狙って全力の風魔法をぶつけた。霧の中で崩れて行く土壁を右手からほとばしって行く暴風で吹き飛ばしていく。タケルは胸の聖教石から久しぶりに痺れる痛みを感じたが無視して風を送り続けた。
しばらく風を送り続けてから右手を下ろすと頬に当たる風と土埃を感じた。アキラさんのところに歩み寄って行くと、向かい風の中で霧が薄くなって土壁がV字型に砕けたのが見えてきた。風は砕けた場所から吹き続けて来ている。振り返ると霧がどんどん薄くなっていくのが見えて、リーシャが目を見開いてこちらを見つめているのが見えた。これで結界は解けるだろう。
「アキラさん、大丈夫ですか」
「う、うん・・・大丈夫じゃない」
いつもは"大丈夫"と言う返事しかしないアキラさんの"大丈夫じゃない"を聞いて、慌てて近寄ると右手が大変なことになっていた。二の腕が折れ曲がっている。これは神に祈るだけでは治療できないかも知れない。
「アキラさん、治療魔法をかけますから、我慢して左手で右手が真っ直ぐになるように引っ張ってください」
「わかった」
タケルは光のロッドを取り出して、アキラさんの右手に向けて祈りを捧げる。
-アシーネ様、大切な仲間の右手を元通りに戻してください。
「癒しの光を!」
大声で叫んで、祈り続ける。アキラさんは目の前で無造作に右手首を左手で握って、右手を少しずつ真っ直ぐにしていく。タケルは祈り続けた・・・
「うん、もう大丈夫。痛くないし動くようになった」
「そうですか! 良かった~、安心しました」
「うん、ありがとう。上から落ちてくる壁もなかったから、右手だけで済んだしね」
「なんとか、タイミングが合って良かったです」
「そうだね、これで結界は解けたのかな?」
「そうだと思いますよ、霧も消えたし・・・、それに寒くなってきましたよね?」
「うん、かなり冷えてきたと思う」
タケルはここが本来はシベル大森林の中にあることを思い出した。北にある森林地帯は魔の力によって、季節はずれの異常な寒さと氷獣が溢れる場所になっている。だが、それ以外にもタケルには心配ごとがあった。
「アキラさん、とりあえずここに転移ポイントを作りますので、石を埋めるのを手伝ってください」
リュックから、5本の光聖教石(転移用)を取り出して、手分けして地面に埋めた。作業が終ると呆然と立っているリーシャの元へ行って話しかける。
「リーシャさん。結界が解かれたので、皆さんの森はシベル大森林と繋がりました。ですけど、森林は魔の力によって冬の寒さになっていますから、戻って長老に冬の支度をするように伝えてください」
「冬? そうなのか・・・、我らの森は常春が続いていたのだが・・・、しかし、これは・・・」
リーシャは目の前の光景を見ていながらも、現実のこととして対応できないようだ。
「それと、氷に覆われた魔獣が沢山出てくるかもしれませんから、できるだけ火を使って追い払うように長老に伝えてください」
「氷? 氷の魔獣? よく判らんが・・・、お前達は長老のところに戻らないのか?」
「私達は5日したらまた来ますが、もうすぐこの場所から消えてしまいます」
「消える、何を・・・」
タケルはリーシャの言葉を最後まで聞くことが出来なかった。16時になったのだろう、周りの景色がいきなりコンビニの倉庫内にある転移の間に変わっていた。なんとか強制転移の時間までに霧の結界を解くことができたのだ。
「タケルさん! アキラさん!」
「無事やったんですね!?」
同時にスタートスから戻って来たダイスケとマユミが駆け寄ってくる。
「ああ、何とか無事に帰って来られたね」
「それで、エルフの森にはたどり着いたんですか?」
「ああ、たどり着いたよ・・・」
タケルは二人から矢継ぎ早に飛んでくる質問に答えながら、エルフ達のことを考えていた。
結界を解いたことは彼らにとって良いことだったのだろうか?
0
あなたにおすすめの小説
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~
北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。
実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。
そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。
グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・
しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。
これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
世界一簡単にレベルアップ ~魔物を倒すだけでレベルが上がる能力を得た俺は、弱小の魔物を倒しまくって異世界でハーレム作る事にしました~
きよらかなこころ
ファンタジー
シンゴはある日、事故で死んだ。
どうやら、神の手違いで間違って死んでしまったシンゴは異世界に転生することになる。
転生する際にオマケに『魔物を倒すだけでレベルが上がる』能力を貰ったシンゴ。
弱小の魔物を倒してレベルを上げ、異世界でハーレムを作る事を企むのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる