それ行け!! 派遣勇者(候補)。33歳フリーターは魔法も恋も超一流?

初老の妄想

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派遣勇者の進む道

119.霧の中で

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■精霊の谷?
 ~第10次派遣4日目~

 アキラさんは霧の中で立ちはだかっている大きな壁へ、左の拳を軽く当てて距離を測っていた。右で行くはずだが、左のリードブローで距離感をつかみたいようだ。

「お前達、一体何をするつもりなのだ?」

 リーシャがいらだちを交えて問いただしながら近寄ってきた。

「えーっと、結界を守るために昔の教皇が谷を塞いだと長老が言っていましたので、今から、この岩を取り除こうと思っています」
「この岩、いや、山のような物をどうやって取り除くと言うのだ!?」
「風の神の力を借ります。危ないので、私と一緒に下がってください」

 遮る壁を自分で触って、タケル達を更に厳しい目で見るようになったリーシャを連れて壁から離れて行く。20メートルほど離れるとアキラさんの姿がほとんど見えなくなった。

「アキラさん、用意ができたら教えてください。俺は軽めに風を送っておきますから」

 タケルは風の聖教石を握り締めて、緩やかな風をアキラさんの影に向けて送り始めた。同じ強さの風が送られることで、霧の中の影がはっきりと見えるようになってくる。アキラさんは風の神に祈りを捧げているようだったが、壁から半歩下がって右足を引いた。

「じゃあ、行くよ」
「どうぞ」

 アキラさんが集中した気配が伝わると同時に前に飛び込んで右拳を土壁に叩きつける。

「ゴッドブロー!!」

 風の力が宿った右拳が立ちはだかる壁を吹き飛ばし、大きな叫び声を掻き消す凄まじい破壊音が谷底の空気を震わせながら響き渡った。

「ウィンド!」

 タケルも叫んでアキラさんの上を狙って全力の風魔法をぶつけた。霧の中で崩れて行く土壁を右手からほとばしって行く暴風で吹き飛ばしていく。タケルは胸の聖教石から久しぶりに痺れる痛みを感じたが無視して風を送り続けた。

 しばらく風を送り続けてから右手を下ろすと頬に当たる風と土埃を感じた。アキラさんのところに歩み寄って行くと、向かい風の中で霧が薄くなって土壁がV字型に砕けたのが見えてきた。風は砕けた場所から吹き続けて来ている。振り返ると霧がどんどん薄くなっていくのが見えて、リーシャが目を見開いてこちらを見つめているのが見えた。これで結界は解けるだろう。

「アキラさん、大丈夫ですか」
「う、うん・・・大丈夫じゃない」

 いつもは"大丈夫"と言う返事しかしないアキラさんの"大丈夫じゃない"を聞いて、慌てて近寄ると右手が大変なことになっていた。二の腕が折れ曲がっている。これは神に祈るだけでは治療できないかも知れない。

「アキラさん、治療魔法をかけますから、我慢して左手で右手が真っ直ぐになるように引っ張ってください」
「わかった」

 タケルは光のロッドを取り出して、アキラさんの右手に向けて祈りを捧げる。

 -アシーネ様、大切な仲間の右手を元通りに戻してください。

「癒しの光を!」

 大声で叫んで、祈り続ける。アキラさんは目の前で無造作に右手首を左手で握って、右手を少しずつ真っ直ぐにしていく。タケルは祈り続けた・・・

「うん、もう大丈夫。痛くないし動くようになった」
「そうですか! 良かった~、安心しました」
「うん、ありがとう。上から落ちてくる壁もなかったから、右手だけで済んだしね」
「なんとか、タイミングが合って良かったです」
「そうだね、これで結界は解けたのかな?」
「そうだと思いますよ、霧も消えたし・・・、それに寒くなってきましたよね?」
「うん、かなり冷えてきたと思う」

 タケルはここが本来はシベル大森林の中にあることを思い出した。北にある森林地帯は魔の力によって、季節はずれの異常な寒さと氷獣が溢れる場所になっている。だが、それ以外にもタケルには心配ごとがあった。

「アキラさん、とりあえずここに転移ポイントを作りますので、石を埋めるのを手伝ってください」

 リュックから、5本の光聖教石(転移用)を取り出して、手分けして地面に埋めた。作業が終ると呆然と立っているリーシャの元へ行って話しかける。

「リーシャさん。結界が解かれたので、皆さんの森はシベル大森林と繋がりました。ですけど、森林は魔の力によって冬の寒さになっていますから、戻って長老に冬の支度をするように伝えてください」

「冬? そうなのか・・・、我らの森は常春が続いていたのだが・・・、しかし、これは・・・」

 リーシャは目の前の光景を見ていながらも、現実のこととして対応できないようだ。

「それと、氷に覆われた魔獣が沢山出てくるかもしれませんから、できるだけ火を使って追い払うように長老に伝えてください」
「氷? 氷の魔獣? よく判らんが・・・、お前達は長老のところに戻らないのか?」
「私達は5日したらまた来ますが、もうすぐこの場所から消えてしまいます」
「消える、何を・・・」

 タケルはリーシャの言葉を最後まで聞くことが出来なかった。16時になったのだろう、周りの景色がいきなりコンビニの倉庫内にある転移の間に変わっていた。なんとか強制転移の時間までに霧の結界を解くことができたのだ。

「タケルさん! アキラさん!」
「無事やったんですね!?」

 同時にスタートスから戻って来たダイスケとマユミが駆け寄ってくる。

「ああ、何とか無事に帰って来られたね」
「それで、エルフの森にはたどり着いたんですか?」
「ああ、たどり着いたよ・・・」

 タケルは二人から矢継ぎ早に飛んでくる質問に答えながら、エルフ達のことを考えていた。
 結界を解いたことは彼らにとって良いことだったのだろうか?
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