それ行け!! 派遣勇者(候補)。33歳フリーターは魔法も恋も超一流?

初老の妄想

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派遣勇者の進む道

132.洞窟の先には

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■北の洞窟
 ~第12次派遣2日目~

 タケルは立ち上がって、肩をグルグル回したが痛みは全く感じなかった。

「どうします?戻りますか?」
「いや、もう少し先まで行きたいけど、良いかな?」
「俺は大丈夫ですよ」

 コーヘイの同意に残りの二人も頷いた。炎の明かりを強くして、更に洞窟の奥へと進み始めた。洞窟は真っすぐに続いているが、どんどんと下へ下って行く。途中に魔獣が全然出てこないのが、却って不安をあおってくる。タケル達の足音と呼吸音が暗い壁と天井に吸い込まれていき、誰も口を利かなくなってきた。

「また、広くなっているみたいです」

 先頭のコーヘイが足を止めていた。壁際に背中をつけて暗闇を除くが、広い空間であること以外何も見えなかった。

 -ファイア。

 10メートル程先に大きな炎を出すと、ここも楕円形のホールのようになっている場所だった。広さは学校の教室ぐらいだが、天井は10メートルぐらいの高さが・・・。

 -ギィーッ!!

 はっきり見えないが天井の黒い影がこっちに飛び降りようとしていた。

「ファイアーウィンド!」

 炎の槍から火炎風を放って黒い影に叩きつけた。

 -ギャァウッ!

 炎の中で見えたそれは、大きな蝙蝠のようだった。だが、1匹目が火炎風で叩きつけられたのを見て、更に2匹が右と左から火炎風を避けて飛んできた。

「火炎刃!」

 それを見ていたコーヘイが炎の刀を下から振り上げて、炎の刃-火炎刃かえんじんを右から飛んでくる大蝙蝠に放った。大蝙蝠の開いた翼を炎の刃が直撃して、クルクルと周りながら地面に落ちて行く。

 左から来た大蝙蝠はアキラさんが踏み込んで風の拳を叩きこんでくれた。顔をのけ反らせて、上方に飛んで逃げようとするところをタケルは火炎風をぶつけて天井に叩きつけた。

 コーヘイはホールの中に走りこんで、地面で起き上がろうとしている蝙蝠の頭へ刃を上段から振り下ろした。

 -グィイッ!

 頭を叩き割られた大蝙蝠は絶命する吐息をだしながら動かなくなった。タケルが火炎風で天井に叩きつけた大蝙蝠たちは、2匹とも地面で動かなくなっている。蝙蝠・・・、形はそうだが、大きさが桁外れだ。翼長は3メートルを超えるだろう。翼と一体化した前足の爪は鋭く曲がり、口からは残忍さを感じる牙が出ている。

「やっぱり、タケルさんとは風の威力が違うんですよね・・・」

 コーヘイは自分の火炎刃では一撃で倒せなかったのが不満のようだ。

「コーヘイは魔法を使い初めて間がないからね、練習すれば離れたところの岩でも切れるようになれるよ」
「確かに、練習量は嘘を吐かない・・・のか?」

 茶化して言っているが、コーヘイはストイックな性格のようで、空いている時間はひたすら魔法剣の練習をしている。

「よし、じゃあ、ここにも何かないか探してみよう。さっきと同じように3人で頼むよ。俺は背後を警戒しておくから」

 三人はホールの壁を左回りに調べ始めた。ランプと炎の赤い光で照らし出される壁は黒いい岩と茶色い土で凸凹としている。ホールの床は硬い鍾乳石のような感触が革のブーツの底から伝わってきていた。見える範囲には奥に進む通路の入り口は見当たらない。ここが行き止まりなのだろうか?

「これがおかしいよね」

 不思議なことにいつも見つけてくれるのはアキラさんだ。アキラさんがおかしいと言っているのは少し大きめの岩だが、他の岩より大きいという以外には違いがあるように見えない。高さ3メートル、幅1メートルぐらいの台形に近い形の岩が壁の土の中に埋まっている。

「岩?・・・ですよね? 大きいけど何か違いますか?」
「触ってみてよ」

 タケルは言われるがままに、表面を触ってみると思ったよりも表面が滑らかで・・・、そういう事か。暗くてよく分からなかったが、真横から見ると岩の表面は平らになっている。どうも天然の岩では無いようだ。

 タケルは槍の穂先で岩のまわりの土を削ろうとしたが、少しだけ土が落ちてきたものの、深くまで掘ることが出来なかった。

「たぶん、他と同じじゃないかな?」
「アキラさんが言う同じってのは、これも砕かないとダメってことですか?」

 アキラさんは暗闇の中でニッコリと笑顔を見せている。岩を見れば自分が砕くと決めているのかもしれない。

「じゃあ、他に何もないかもう一回確認してからにしましょう」

 4人で手分けして、壁、床、天井をもう一度調べたが、新しい発見は無かった。

「それじゃあ、ゴッドブローは無しで、その岩を砕く程度でお願いします」

 タケルは実現する方法は判らないが、希望としてアキラさんに伝えると、返事はいつもの笑顔だった。

「タケルさん、アキラさんのパンチって、どういう感じなんですか?」
「基本的には風の魔法を応用している。グローブに入れた風の石は突き抜ける風を与えてもらうようにお祈りしてあるんだ。アキラさんはそれを自分の拳に乗せて、風だけを叩きつけたり、直接殴った時の強さを風で強化したりしている」

「突き抜ける風・・・」
「コーヘイの炎の刀にもつかの中に風の石を入れているからね。火炎刃はもっと強い刃で飛んで行くようになるよ」
「なるほどね・・・」

 アキラさんは岩の前に立って、いつものように左のジャブで距離を測りながら、リズムを取っていた。タケル達はホールの反対側まで避難して、アキラさんの両側に炎を放って明るくした。

「じゃあ、用意が出来たらお願いしますね」

 タケル達の方を振り向いて、アキラさんが頷いた。そのまま右足を半歩引いてから、一気に前に飛び出した。掛け声も無いが、気持ちのこもった右の拳が真っすぐに岩の中心に叩きつけられた!

 -バッガァアーーーン!!

「ウワッ!」

 ホールの空間を震わせる轟音とマユミの驚きの声を耳にしながら、砕け散る岩と舞い上がる砂埃を見ていた。だが、アキラさんの姿が・・・、いやその辺りが白っぽくかすんできた。

「アキラさん、大丈夫ですか!?」
「うん、大丈夫。怪我は無いけど・・・、霧かな?」

 霧? 確かにアキラさんの姿や岩があった場所は白い霧に包まれて何も見えなくなってきている。

「マユミ、俺の槍を掴んで、ついて来てよ。コーヘイはマユミのどこかを掴んで」
「何処かって、変なトコロはあきませんよ!」
「そうなの? せっかくチャンスだったのに。じゃあ、手ぐらいなら良いかな?」
「手ですか・・・、しゃあ無いですね。代金はツケにしときます」

 霧で殆ど見えなくなっているのに、マユミとコーヘイは余裕でじゃれていた。タケルよりも神経が図太いのだろう。タケルは槍でマユミを引き連れながら、右手を壁に着けてホールをアキラさんの方に近づいて行く。白い霧で阻まれて炎やランプの灯りでは3メートルぐらい先しか見えなかった。

「アキラさん、霧は岩を砕いたところから入って来たんですよね」
「うん、割れた岩の隙間からゆっくりと入って来た」

 ようやく、アキラさんの前までたどり着いたが、岩が割れた先も真っ白でどうなっているかが全く見えない。この先に何かが隠されているのか見に行きたいが・・・。

「じゃあ、アキラさんもコーヘイのどこかを掴んで、ついて来てよ」
「それやったら、アキラさんと私が手をつなぎます。コーヘイがアキラさんの後ろをついて来てよ」
「あれ?マユミはアキラさんの方がお気に入り?」
「ハイ! なんか可愛いでしょ!?」

 50過ぎで頭髪の薄くなったオジサンに向かって可愛い・・・、マユミはやっぱり変わっている。

 タケルはコーヘイに同情しながら、霧につつまれた狭い通路へ足を踏み入れた。
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