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派遣勇者の進む道
134.結界の外
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■???
~第12次派遣2日目~
目の前に見えているのは森だ・・・、だが、明らかにさっきまで泉があった森とは異なる。うねった低い木の下に先ほどは無かった下草がたくさん生えて地面は見えない。熱帯地方の密林のような感じだった。
「タケルさん、これは・・・」
コーヘイも絶句しているが、タケルにも状況がつかめなかった。神殿のような建物ごと転移したのだろうか?
「一度、扉を閉めてみようか」
アキラさんは言われた通りに扉を閉めて、もう一度開けた。
目の前には、先ほどの密林がやはり広がっている。タケルは後ろを振り返って誰も座っていない椅子に話しかけてみた。
「ここを旅しろと言う事でしょうか?」
「・・・」
耳からも頭の中にも返事は聞こえてこなかった・・・。
行くしかないのだろう。だが、その前に・・・
「とりあえず、転移で戻れないか試してみるよ」
いつもの手順で光聖教石(転移用)を埋めてみんなを集めた。
「ジャンプ!」
聖教石を握りしめて光の神へ祈りを捧げたが、周りの景色は変わらない。悪い予感は的中した。ここからは転移で戻ることが出来ないのだろう。
「やっぱり、ダメみたいだね。ここは結界の外だと思う」
「結界の外って、エルフの里みたいなことですか?」
「うん、エルフの里はドリーミアの中で結界に覆われていたけど、ここはドリーミアを覆う結界の外にある場所なんだと思う。俺の予想では獣人たちが住んでいるはずだ」
タケルは祠に合った神託と教皇から聞いた話を思い出していた。
『異なる種に慈しみを』
『精霊の加護は再び得られん』
教皇は結界の外に異なる種、獣の姿をした人がいると言っていた。エルフの里にたどり着いたのが神の導きなら、この場所も神の導き・・・、水の神の使いし者って水の精霊!?
「行くしかないみたいだね。どこに行くのかもわからないんだけど・・・」
「仕方がないですね。何度扉を開けてもこの場所から動かないですからね」
コーヘイは神殿に何度も出入りして試していたが、状況は変わらなかった。外から眺める石造りの神殿は密林の中で異様な白さを放っている。タケルは少し悩んだが、聖教石はその場所に埋めたままにすることにした。戻るとしても、この神殿がカギになるような気がしたからだ。いつも多めに聖教石を持って来ているが、転移用の聖教石は残り2セットになっている。
「とりあえず、建物の扉が向いている方向に進んでみよう」
薄弱な根拠を元に生い茂った下草を槍で払いながら、ゆっくりと密林の中を進み始めた。扉が向いているのはダイスケから借りたコンパスによると西の方角になる。密林の中は草の生えていないところが無いぐらい植物が密集していて、なかなか進めない。少し歩くと額から汗が出てきた。気温も湿度もさっきまでいた不思議な空間と全然違う。
なんの目標も無いまま、ひたすら草を踏み分けて西に進んでいると川にぶつかった。川幅は30メートルぐらいあるので、川沿いを下流に沿って歩いて行くことにした。
川沿いも密集した下草が多いのは変わりない、タケル達の進む速度は上がらない。既に日は傾き始めている。野営をするにしても、もう少し開けた場所で無いと休むことも出来ないだろう。
「何かいる!」
後ろを歩いていたアキラさんが声を出した。アキラさんが見ていた川と反対方向を見ると、密林の木の間に、何人もの人影が見えていた。知らない間に川を背にして囲まれていたようだ。
タケルはマユミをかばうように前に出ながら、槍を構えて近づいてくる人影を見ていた。相手も長い棒を手に持っている。草を払いながら近づいて来た男たちの顔は・・・虎!?
虎系の獣人なのだろう。二足歩行で人と同じように歩くが、顔は黄色い毛に覆われて頭の上に耳がついている。目鼻立ちは人のそれだが、口は大きく鋭い眼光でタケル達を睨んでいる。見える範囲に6人いるのだが、全員2メートル近い身長がある。
「お前たちは何者だ!」
5メートルぐらい離れた場所から半円形で囲んでいる真ん中の男が、タケルに向かって低い声で怒鳴った。
-言葉が通じて一安心。
「私はドリーミアのスタートスから来たタケルです」
「ドリーミア、それは何処の村だ?」
「ここでは無い国の名前です。皆さんはこの近くの村に住んでいるんですか?」
「お前たちは逃げ出してきた奴隷だな?槍や剣を持っているようだが、大人しく武器を渡せば、怪我をさせずに俺達の奴隷にしてやる」
「奴隷? 私たちは誰の奴隷でもないですよ。この国・・・、貴女の村には奴隷が居るんですか?」
「良いから、大人しくいう事を聞かないと・・・」
「ウィンド!」
「ウヮア!」
タケルは近寄って来た男を風で吹き飛ばした。男は5メートル程後ろに宙を飛び、背中から地面に着地した。荒っぽいことはしたくなかったが、距離を取っておいた方がお互いの怪我が少ないと思ったのだ。
「て、手前ぇ! 良くもやりやがったな!」
「ああ、近寄らないで下さいよ。近寄ると今度は本気でやりますよ。-ウィンド!-」
-ブンッ! バシィーン!!-
タケルの右手から突風が放たれ、飛ばされた男の横に立っていた木を叩き折った。
「な、何をしやがった!」
「魔法ですよ。皆さんは使わないんですね?」
「お前たちは、ま、魔法が使えるのか!?」
「ええ、魔法が使えます。皆さんの中にも使える人が居るんですね」
取り囲んでいた男はタケルの問いに答えることなく、囲んでいた男たちの中の一人を呼んで何かを耳打ちした。耳打ちされた男は密林の中を走り去っていった。
「わかった、俺達の村に案内してやるよ。大人しく付いて来い」
「ありがとうございます、そっちも余計なことはしないでくださいね。さっきの魔法も手加減していますから。森ごと皆さんを吹き飛ばすこともできますよ」
「・・・」
獣人の男たちは顔を見合わせていたが、黙ってタケル達の先を歩き始めた。
異なる種族に慈しみを・・・、タケルは旅のスタートが順調ではないような気がしていた。
~第12次派遣2日目~
目の前に見えているのは森だ・・・、だが、明らかにさっきまで泉があった森とは異なる。うねった低い木の下に先ほどは無かった下草がたくさん生えて地面は見えない。熱帯地方の密林のような感じだった。
「タケルさん、これは・・・」
コーヘイも絶句しているが、タケルにも状況がつかめなかった。神殿のような建物ごと転移したのだろうか?
「一度、扉を閉めてみようか」
アキラさんは言われた通りに扉を閉めて、もう一度開けた。
目の前には、先ほどの密林がやはり広がっている。タケルは後ろを振り返って誰も座っていない椅子に話しかけてみた。
「ここを旅しろと言う事でしょうか?」
「・・・」
耳からも頭の中にも返事は聞こえてこなかった・・・。
行くしかないのだろう。だが、その前に・・・
「とりあえず、転移で戻れないか試してみるよ」
いつもの手順で光聖教石(転移用)を埋めてみんなを集めた。
「ジャンプ!」
聖教石を握りしめて光の神へ祈りを捧げたが、周りの景色は変わらない。悪い予感は的中した。ここからは転移で戻ることが出来ないのだろう。
「やっぱり、ダメみたいだね。ここは結界の外だと思う」
「結界の外って、エルフの里みたいなことですか?」
「うん、エルフの里はドリーミアの中で結界に覆われていたけど、ここはドリーミアを覆う結界の外にある場所なんだと思う。俺の予想では獣人たちが住んでいるはずだ」
タケルは祠に合った神託と教皇から聞いた話を思い出していた。
『異なる種に慈しみを』
『精霊の加護は再び得られん』
教皇は結界の外に異なる種、獣の姿をした人がいると言っていた。エルフの里にたどり着いたのが神の導きなら、この場所も神の導き・・・、水の神の使いし者って水の精霊!?
「行くしかないみたいだね。どこに行くのかもわからないんだけど・・・」
「仕方がないですね。何度扉を開けてもこの場所から動かないですからね」
コーヘイは神殿に何度も出入りして試していたが、状況は変わらなかった。外から眺める石造りの神殿は密林の中で異様な白さを放っている。タケルは少し悩んだが、聖教石はその場所に埋めたままにすることにした。戻るとしても、この神殿がカギになるような気がしたからだ。いつも多めに聖教石を持って来ているが、転移用の聖教石は残り2セットになっている。
「とりあえず、建物の扉が向いている方向に進んでみよう」
薄弱な根拠を元に生い茂った下草を槍で払いながら、ゆっくりと密林の中を進み始めた。扉が向いているのはダイスケから借りたコンパスによると西の方角になる。密林の中は草の生えていないところが無いぐらい植物が密集していて、なかなか進めない。少し歩くと額から汗が出てきた。気温も湿度もさっきまでいた不思議な空間と全然違う。
なんの目標も無いまま、ひたすら草を踏み分けて西に進んでいると川にぶつかった。川幅は30メートルぐらいあるので、川沿いを下流に沿って歩いて行くことにした。
川沿いも密集した下草が多いのは変わりない、タケル達の進む速度は上がらない。既に日は傾き始めている。野営をするにしても、もう少し開けた場所で無いと休むことも出来ないだろう。
「何かいる!」
後ろを歩いていたアキラさんが声を出した。アキラさんが見ていた川と反対方向を見ると、密林の木の間に、何人もの人影が見えていた。知らない間に川を背にして囲まれていたようだ。
タケルはマユミをかばうように前に出ながら、槍を構えて近づいてくる人影を見ていた。相手も長い棒を手に持っている。草を払いながら近づいて来た男たちの顔は・・・虎!?
虎系の獣人なのだろう。二足歩行で人と同じように歩くが、顔は黄色い毛に覆われて頭の上に耳がついている。目鼻立ちは人のそれだが、口は大きく鋭い眼光でタケル達を睨んでいる。見える範囲に6人いるのだが、全員2メートル近い身長がある。
「お前たちは何者だ!」
5メートルぐらい離れた場所から半円形で囲んでいる真ん中の男が、タケルに向かって低い声で怒鳴った。
-言葉が通じて一安心。
「私はドリーミアのスタートスから来たタケルです」
「ドリーミア、それは何処の村だ?」
「ここでは無い国の名前です。皆さんはこの近くの村に住んでいるんですか?」
「お前たちは逃げ出してきた奴隷だな?槍や剣を持っているようだが、大人しく武器を渡せば、怪我をさせずに俺達の奴隷にしてやる」
「奴隷? 私たちは誰の奴隷でもないですよ。この国・・・、貴女の村には奴隷が居るんですか?」
「良いから、大人しくいう事を聞かないと・・・」
「ウィンド!」
「ウヮア!」
タケルは近寄って来た男を風で吹き飛ばした。男は5メートル程後ろに宙を飛び、背中から地面に着地した。荒っぽいことはしたくなかったが、距離を取っておいた方がお互いの怪我が少ないと思ったのだ。
「て、手前ぇ! 良くもやりやがったな!」
「ああ、近寄らないで下さいよ。近寄ると今度は本気でやりますよ。-ウィンド!-」
-ブンッ! バシィーン!!-
タケルの右手から突風が放たれ、飛ばされた男の横に立っていた木を叩き折った。
「な、何をしやがった!」
「魔法ですよ。皆さんは使わないんですね?」
「お前たちは、ま、魔法が使えるのか!?」
「ええ、魔法が使えます。皆さんの中にも使える人が居るんですね」
取り囲んでいた男はタケルの問いに答えることなく、囲んでいた男たちの中の一人を呼んで何かを耳打ちした。耳打ちされた男は密林の中を走り去っていった。
「わかった、俺達の村に案内してやるよ。大人しく付いて来い」
「ありがとうございます、そっちも余計なことはしないでくださいね。さっきの魔法も手加減していますから。森ごと皆さんを吹き飛ばすこともできますよ」
「・・・」
獣人の男たちは顔を見合わせていたが、黙ってタケル達の先を歩き始めた。
異なる種族に慈しみを・・・、タケルは旅のスタートが順調ではないような気がしていた。
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