それ行け!! 派遣勇者(候補)。33歳フリーターは魔法も恋も超一流?

初老の妄想

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派遣勇者の進む道

143. ヒメ

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■獣人の村 
 ~第12次派遣4日目~

 ハンザが一人で岩山を下って行くのを見送って、タケルは転移用の光聖教石を利用して謎の神殿がある場所まで転移した。転移ポイントも不思議な神殿もそのままの場所にあった。しかし神殿の扉は開くことが出来たが中には誰もいなかった。

 ひょっとすると神の使いが居るのではと期待していたタケルは、がっかりしながら中に入って、もう一度建物の中を調査したが、脱出できるボタンのような仕掛けがあるはずもなかった。

「あの水の神様はどこ行ったんでしょうね?いきなりチューして消えて行きましたけど」

 マユミの質問はタケルがまさに考えていたことだった。

 -どこにいるのか? あの時はタケルの旅に力を貸すと言ってくれたが・・・

 タケルは建物内唯一の設備である大きな椅子を調べてみたが、そこにも仕掛けは無いようだ。

「勝手に座ったら怒って出てくるかもね」

 -バーン!

 タケルが王座のような椅子に座った瞬間に入り口のドアが大きな音で閉まり、椅子に座った膝の上に女性が突然現れた。

「ウワァッ!」

 -お帰りなさいタケル。旅は上手く始まったのね。

 全裸で赤い髪の美女がタケルの口にキスをして・・・、宙に浮いている!

「タケルさん、大丈夫ですか!?」
「ああ、大丈夫だ。一体この人は・・・」

 -私は水の神の使い・・・、あなたの力になる存在よこれからもよろしくね。

 頭の中に声を残して浮いていた美女は突然消えた。

「また、チューしたぁ!マリンダさんに言うたろ!」
「いや、そう言われても突然現れるからどうしようもないよな」

 マユミはいたずらっぽい笑みを浮かべて冷やかしているが、タケルにとっては事故のようなものだ。

「それで、何か言うてたんですか?」
「ああ、来た時と同じだ。俺の力になってくれるって言ってた・・・、扉を開けてみようか?」

 アキラさんが神殿の扉を押すと抵抗を示さずに外に向かって開いた。そこに見えている景色はスタートスにある泉の畔だった。

■ファミリーセブン 札幌駅前店倉庫
 ~第12次派遣帰還~

 スタートスの泉に突如出現した神殿から出て、タケルは慌てて帰還の準備をした。まずはパパスの小屋に飛んで、お礼や挨拶もそこそこにノルドをエルフの里まで送り届けた。精霊の腕輪が出来上がっていたので、ゆっくりと話をしたいところだったが、時間が無かったので次回飲みながらと言うとノルドはニッコリと笑って一升瓶を持ってこいと仕草でリクエストされた。エルフの里ではリーシャもタケルと話たがっていたが、すべて先送りにしてスタートスの食堂まで戻ると、今度は強制転移でコンビニの倉庫に戻って来てしまった。タケルの荷物や服は食堂に散乱しているはずだが、ミレーヌが片付けてくれているだろう。

「じゃあ、結局その赤い髪の美女が何なのかは判らないままなんだね?」

 西條に一連の出来事を報告したが、タケルも何が起こったのかを理解できないまま説明したので、上手く伝えるのが難しかった。

「ええ、神の使いと言っていましたから精霊のようなものなんでしょうか?」
「うーん、僕の知っている知識では精霊と言うものは向こうには存在しないていない」
「ですけど、エルフの長老も精霊の声に耳を傾けろと言っていましたから・・・」
「“精霊”って言う呼び方が正しいかは判らないけど、神の使いであることは間違いないんじゃないかな。今回の神殿についても、ゲートのようなものを神の思し召しで開いてくれた・・・、そう考えるとしっくりくるよね」
「確かにそうです。俺もそんな風に考えていました。ですから次回の派遣では風の精霊と水の精霊と対話をしながら、エルフの里と獣人の村を訪問することにします」
「ああ、それでいいと思うよ。明日はゆっくり休んで次の遠征に備えて」
「ところで、ナカジ―から連絡はありましたか?」
「いや、明後日については連絡が無いね。今のところは来てもらうつもりだけど」
「わかりました。俺からも念のために連絡しておきます」

 家に帰ってからナカジ―のスマホに短いメッセージを入れておいた。

 -新しい友達が増えたから水曜日は元気出して来てね。恐竜の肉も意外とおいしいよ!

翌日になってもナカジ―からの返事は来なかった・・・。

■スタートス聖教会 食堂
 ~第13次派遣1日目~

 ナカジ―からは子供の調子が悪いので水曜日も休むと西條に連絡が入っていた。今回もタケル、アキラさん、マユミ、コーヘイの4人になった。今回の派遣では完成した風の腕輪をタケルが使いこなせるようになることと、獣人に物資を届けることの二つを目標にしていた。

「じゃあ、まずはこの間の神殿に4人で行ってみよう。武器庫から剣とか槍とか持ち出す許可はノックス司祭からもらったから、持って行けるだけ持って行くってことで」
「包丁とか調理用具も無いんでしょ?」
「それは武器を持って行くことが出来たら、皇都に買い出しに行って運ぶことにしよう」
「あの神殿は今度も連れて行ってくれるんですかね?」
「うーん、俺は信じてるんだけどね。具体的根拠はあんまりないな」

 タケルにも理由が判っているわけではないが、獣人の生活を豊かにしてやることが神の与えた試練だと信じていた。そして、信じていれば必ず獣人の村に神が連れて行ってくれる。論理的でないことは十分判っているが、この考え方で大きく裏切られたことは一度も無かった。

 鉄製品が大幅に不足しているから何度も往復する必要があるだろう。神殿がスタートスに突然現れたことをノックスやマリンダ達はとても驚いていたが、勇者への導きだというタケルの説明で深くなずき笑顔をみせてくれた。タケル達が勇者として正しい道を進んでいると思ってくれたのだろう。

 泉の畔まで重たい武器を持って神殿の扉を開けると今回は赤毛の美女は椅子で座って待っていてくれた。

「こんにちは、今日も獣人の村に行きたいのですが、連れて行ってもらえますか?」

 リュックと手に持った木箱に詰め込んだ武器を持って4人で神殿の中に入ると、ドアが自動的に閉められて美女は俺の前に瞬間移動してきた。今日はキスをされることは無かったが、10㎝ぐらいの距離からタケルの目をのぞき込んでいる。

-もちろんです。それがあなたの望みであれが私はいつでも力を貸します。

 頭の中に声が響いたと思った瞬間に赤毛の美女は空中へふわりと浮いた。

 -今回は我もついて行く。扉を開ければ、既にかの地の中だ。

「エッ! この神殿から出ても大丈夫なんですか?」

 -この建屋はあなたたちのためのもので、私には不要なものですから。

「そうですか、ご一緒してもらえるのは心強いですね。ところで、お名前があれば教えてもらえないですか?」

 -名を与えてください。そうすれば、いつでも呼び出しに応じることが出来ます。

 名付けってやつか・・・、女性っぽい名前が良いな・・・だったら!

「じゃあ、あなたの名前は『ヒメ』ってことでお願いします」

 -良い名ですね。いつもタケルの傍にいますから呼んでくださいね。

 浮いていたヒメはタケルの頭に話しかけて突然消えた。

「ヒメってなんですのん?」
「ああ、あの赤毛美女に名前を付けたんだ、ナカジ―の下の名前からもらって『ヒメ』って決めたから、みんなもこれからはその名前で呼んであげて」
「はーい!」
「それと、扉を開ければもう密林の中のはずだよ」

 コーヘイが開けた扉から見える景色は密林の中だった。神の使いにどんな力があるのかは判らないが、タケルの希望通りに連れて来てくれたのは間違いない。ヒメともこれから仲良くなって、どんな力があるのかを教えてもらおう。

 それに・・・、どうしてキスするのかも聞いとかないと・・・。
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